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◆第20話◆

 金曜日は暑かった。

 街には半袖姿も多く、中にはタンクトップ姿もいる。

 僕は学校帰り、聡史と一緒に池袋のLOFTの中をぶらついていた。

 階段を下りて、PARCOに入る通路の所で、後ろから声が聞こえた。

「万引きだ」

 振り返ると一人の少年が物凄い勢いでこちらに向かって走って来た。

 僕は思わず身体を避けたが、聡史は横から思い切りその少年に飛びついた。

 二人は床に倒れて、Pタイルの上を滑った。

「有難う御座います」

 後ろから走って来た中年の男が、息を切らしながら言った。

 聡史が掴みかかった少年は、それでも暴れて逃げようとする。

 見かねた僕も少年を抑えようとしたが、がむしゃらに振り回す少年の拳が僕の顔面をヒットした。

「痛ってぇ」

 中年の店員が加わって、三人でようやく少年を押さえ込んだ。

 間も無く警備が来て、少年を確保する。

 僕は唇を切って、デパートの保安室に一緒に連れて行かれた。

「ありがとう御座いました」

 中年の店員は再び僕と聡史に礼を言うと、冷たいコーラを出してくれた。

「いやあ、助かりました。最近万引きが多くて、会社から言われてるんですよ」

 その中年店員は、テナントにはい入っている大手画材ショップの店長だと言う。

 僕と聡史は何となく顔を見合わせて、同時に肩をすくめた。

「あの人は、どうするんですか?」

 聡史が訊いた。

「彼は、可愛そうだけど、一応警察に来てもらうよ」

 僕は、再び聡史と顔を見合わせた。

 中年店長は僕にバンソウコウをくれたが、唇には貼りにくい……

「本当に有難うございました」

 保安室を出るとき、再び中年の男は言った。

 僕たちが通路に出たその時、女性がエレベーターを降りてやって来るのが見えた。

 店内フロアと違って、少し暗い通路だったが、松葉杖を着いて歩く女性が榛菜だと言う事は直ぐに判った。

「ハル、どうしたんだ?」

「あ、ハルくん。何でいるの?」

「いや、ちょっと。ハルは?」

「うん……ちょっと。夜、店に行けたら話す」

 榛菜はそう言って、保安室のドアを開けると

「七倉秋夫の姉ですけど」

 声が聞こえて来た。

「おい、さっきのガキって、彼女の弟じゃねの」

 聡史の言葉に、僕は閉められたドアを見つめたまま

「ああ、そうらしい」




 その夜、榛菜は何時もより二時間遅れて店に入った。

 マスターは僕と祐介に、彼女が遅れる事だけ伝えたが、僕にはその理由が判っていた。

 あの時、彼女がどうしてあんなに早く秋夫を迎えに来れたのか。それは簡単な事で、彼女は学校帰りの山手線の駅で、母親に連絡を貰ったのだ。

 そして、自分が行けば早いからと彼女が秋夫の保護者として迎えに来たのだ。

 最初は彼女が未成年だから保護者としては認められないと、あの中年店長は言った。

 そこで僕たちはドアを開けて再び保安室へ入ったのだ。

 榛菜が僕の知り合いだと言うと、特別に寛大な処置と言う事で、警察への連絡も取り止めにしてくれたのだ。



「また、怪我でもしたのかな」

 仕事中、祐介のそんな言葉にも僕は「さあ?」とだけ応えた。




 榛菜の弟秋夫は、彼女が脚をなくして以来、彼女中心にまわる七倉家の中で常にストレスを感じながら育ってしまったそうだ。

「でも、ストレスはハルにだってあったろう。一番苦悩したのはお前だろ」

 店が終わると、榛菜は迎えに来る予定の母親に電話を掛けて、僕と話す時間を作った。

 僕たちは大通りのファミレスに入って、ドリンクバーを片手に話した。

「でも、秋夫はまだ幼稚園だったから……」

 僕は彼女がどうして足を無くしてしまったのか訊こうと思ったが、どうしても訊き出せなかった。

 しかし、彼女はしばらくすると自分から話し出した。

「あたし、秋夫を死なせるところだったの」

「えっ」

「死なないまでも、秋夫が今のあたしみたいになってたかもしれないの」




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