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◆第2話◆

 東上線で池袋へ出ると、バイトの無い日は陽が暮れるまでぶらつく。

 サンシャイン通りのゲーセンに入るとたいてい誰かしら顔見知りがいるが、誰も見つからない時は、ハンズの中をぶらつく。

 公園にたむろする連中も多いが、僕はあまり好きではない。

 ハンズの階段のベンチの方がましだ。

 まあ、大勢でいると、それはそれでかなり迷惑だが……

 西武池袋線に乗ろうとホームを歩いていると、目の前に橘恭子の姿を見つけた。

 以前にも何度か見かけた事があるが、彼女は僕と同じ方向に家が在るというだけではなく、同じ駅で降りるのだ。

 僕は以前もそうしたように、彼女に気づかれないうちにさっさと手短なドアから車両に乗り込んだ。

 彼女は確か文化部のはずだから、どうしてこんな時間に帰るのか僕にはわからない。

 練馬の駅で降りて、豊島園行きに乗り換える。

「あっ、陽彦」

 ……ちっ、見つかった。

「おお、何だ一緒の電車だったのか」

 僕は、白々しくそう言って笑った。

「今、帰り?」

「ああ、お前は? 何でこんな遅いの?」

 僕はとりあえず、どうでもいい事を訊いていた。

「塾よ」

 恭子はそう言って、少し笑みを見せると

「来月には予備校へ替わるけど」

「大学行くの?」

「うん。陽彦は?」

 そうだ、もう3年だ。みんな来年から先の事も考えているのだろうか。

「いや、俺は行かないと思う」

「そう」

 静かに笑う恭子の顔は、駅の街灯に照らされて、教室で見るのとは違う優しいものだった。

 到着した電車に乗り込むと、隣合わせに座ったものの、豊島園の駅へ着くまで僕達は言葉を交わさなかった。

「じゃあ、バイバイ」

 駅を出て通りを渡る時、恭子は見たことも無い無邪気な笑顔で僕に手を振った。

「ああ」

 僕は何だか恥ずかしくて、はにかみながら軽く手を上げた。

 緩い下り坂の歩道を歩く彼女の背中を見つめながら、僕は住宅街に足を踏み出した。




 僕は、練馬駅近くの線路沿いに在るベルリネッタと言うイタリア風カフェレストランで、夕方からバイトをしている。

 週に一度の定休日意外は、殆ど毎日、夕方六時から夜の十時まで入っていて、週末の忙しい時には十二時までいる場合もある。

 個人オーナーが経営する小じんまりとした所だが、レンガ作りの小さな洋風の建物が僕は気に入っている。

 お客はみんな酒を飲みながらパスタやラザニアなどを食べたりする。

 カウンター席の奥には、アップライトピアノが置いて在るが、今は引く者がいない。

 アップライトピアノとは、グランドピアノと違って縦に長いタイプのもので、小さなスペースにも置く事が出来るのが特徴だ。

 以前ここで弾き語りをしていた女性は、突然ロサンゼルスへ行くと言って消えてしまった。

 ちょうど去年の暮れの事だ。

 お客のオーダーを取って厨房へ伝え、出来上がった料理をテーブルへ運ぶ。そして、厨房では食器を洗う。

 つまり、僕はウエイター兼皿洗いと言うわけだ。

 大学生のバイトがもう一人いるのだが、何だかんだと用事の多い奴で、一週間に三度くらいしか入らない。

「明日から、弾き語りの娘来るから」

「えっ、マジですか?」

 皿を洗う僕にマスターが行ったので、一応驚いて見せる。

 僕にとって、ピアノを弾く人がいようがいまいが、実際あまり関係ないのだ。




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