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第7章-赤壁編・第1話~月下に咲く~

 窮地を脱した桃香達は、現在、漢水を下る船の上にいた。もちろん、船は孫策軍の物である。同盟に関しての話を詰めるため、荊州の東端にある江夏を目指しての船旅だった。


 桃香の護衛のため、ほとんどの者が乗船していたが、紫苑だけはこの場にいなかった。長坂橋で別れた彼女は生き残ったわずかな兵と共に、水鏡とその生徒を護衛しながら武陵を目指して陸路を南下しているのである。


 もうそろそろ、江陵に到達した頃かな。船室から甲板へと出た一刀は、大きく伸びをしながらそんな事を思った。


 空には満月に少しだけ足りない月が浮かんでいる。甲板上にいくつも焚かれている篝火がなくても、足下に不安を覚えないだろう。そう思えるくらいに明るかった。


 岸から離れているためか、秋だというのに虫の声は耳に届かない。聞こえるのは、船が水面を滑る音だけ。一刀はそっと目を閉じ、ただその音に包まれる。全身に心地よさが広がっていくのを覚えた。


 しかし、川の上を抜けてくる風は思いの外冷たい。次第に心地よさは薄れ、寒気に支配されるようになってくる。元々、ちょっと外の空気を吸いたくて甲板へと出ただけ。風邪を引くのも馬鹿らしいと、船室へと戻ろうとした時だ。舳先の方に星の姿が見えた。


 どうせまた、酒を飲んでいるんだろう。そう思いながら、彼女の方へと歩き出す。甲板を踏む度に板が軋み、小さな音で鳴った。


 「月見酒?」


 「ああ。メンマには遠く及ばぬが、それでもこれ程見事な月、肴にせぬのはもったいないからな」


 船の縁に背中を預け、星は月を見上げながら杯を傾けていた。彼女の顔から首筋、胸元にかけてまで、ほんのりと朱に染まっているのが月の薄明かりの下でも分かる。その色っぽさにあてられ、顔が熱くなる。


 「で、一刀はどうしたのだ? 船酔い醒ましに、風に当たりにでもきたのか?」


 「何となく眠れないだけだよ。夜風に当たろうと思ったら、星がいたんで声を掛けたんだ」


 「そうか。そういう事なら……」


 それまで月を見ていた星は一刀へと向き直る。そうしながら一気に杯をあおって空にすると、そこになみなみと酒を注いで、一刀に向かってずいと突き出した。


 「酒が1番であろう。ほれ」


 近付けられた杯からほのかに甘い匂いが立ち上ぼり、一刀の鼻腔をくすぐった。


 どうせ後は寝るだけだ。一刀は杯を受け取ると、先程の星と同様、一息で酒を飲み干した。口を付けたところを指でぬぐい、ごちそうさま、と言いながら杯を返す。もう一杯飲むか、との問いには首を横に振って答えた。


 再び月を見上げて杯を傾ける星に倣い、彼女の隣で一刀も船の縁に背中を預けて夜空を見上げた。


 落ちていく錯覚に襲われそうな満天の星空。今ではすっかり見慣れたが、やはり感動する事に変わりはない。一刀はしばらくの間、身動ぎもせずに星空へと見入っていた。


 2人の周囲を包む空気は穏やかで、とても静かだった。その静寂を、一刀の声が破る。


 「ありがとうな、星」


 「酒の一杯くらい、気にするな」


 「いや、酒じゃなくて、荊州での事だよ。あの時、星が助けにきてくれなかったら、こんな風に月を愛でる事も出来なかったんだな、って」


 月を見上げたまま答えた星の横顔を、一刀はじっと見ていた。その視線に気付いたのか、星も月から一刀へと顔ごと視線を向けた。真剣な表情で見詰め合う。が、すぐに星の顔には、いつも通りの涼しげな笑みが浮かんだ。


 「それこそ、気にする事ではなかろう? お主は仲間だ。仲間を助けるのは、当然の事ではないか」


 そう言って、杯にまた口を付ける。


 「しかし、一刀がそこまで感謝をしているというのに、その思いを無下にするのも無粋だな。ならば、江夏に着いたら気の済むまで酒を奢らせてやろう」


 名案とばかりに、星は膝を打った。


 「そうだな。じゃあ、それにメンマも付けるよ」


 その言葉に、星の顔は喜色ばむ。


 江夏に向かっている面子の中には、酒豪は星しかいない。霞や桔梗がいれば、どこからともなく聞き付けてたかられる事になる可能性が高いが、星1人ならそれほど問題はないだろう。少なくとも、翠や鈴々に食事を奢るよりは懐が痛まないはず。


 一刀のそんな算段は予想外の乱入者によって打ち砕かれる事になるのだが、それはまた、別の話である。


 「そういえば、長坂橋で話をしていた人は星の知り合いなのか? あの、眼鏡をかけた……」


 ふと思い出し、一刀は素直に口に出した。と同時に、自分の不用意さを悔いる。


 2人の会話の全てが聞こえた訳ではなかった。それでも2人の間に漂っていた雰囲気から、なんの面識もない者同士であるはずがない。少なからず関わりを持った間柄である事は間違いなかった。


 であれば、そんな相手と敵味方に別れて戦わなければならない星の胸中はいか程か。想像しただけで、一刀は心苦しさで一杯になった。


 「ん? 稟の事か? 奴は郭嘉といって、私がまだ、白蓮殿の下に客将として世話になる以前、諸国を漫遊していた時の友だ。他にもう1人、程立というのもいてな。2人共、曹操に軍師として取り立てられたと風の噂に聞いてはいたが、ああして無事にやっているのを見ると、安心すると同時に微妙な気分になるな」


 そう言ってかすかに笑った星の横顔は、一刀には少し寂しそうに見えた。気まずさから、間髪を置かずに口を開く。


 「じ、じゃあ、西涼にきた時がそうだったのか? 武威の街中で助けてくれたろ?」


 そうだな、と返事をした後、星は込み上げてくる笑いを懸命にこらえようとし始めた。訝しむ一刀がどうしたのか尋ねようとすると、星はそれを手で制した。


 「いや、すまん。その時の事を思い出したら、つい面白くなってな。まさか、あそこで助けたのが天の御遣いと董卓だったとは、夢にも思わな……」


 笑いをこらえ切れず、ニヤニヤしていたはずの星の顔から、いつの間にか笑みが消えていた。


 一層訝しむ一刀と星の目が合う。その瞬間、星は大きく後ろへ跳ねた。月明かりの下でも、彼女の顔が驚きに包まれていると、一刀には分かった。


 「お、お主、いつから気付いていた!?」


 星の声が静かな暗闇の中に響く。焦りと、わずかな怒りがその声には含まれていた。


 「な、何が?」


 いきなり怒鳴りつけられ、一刀の方は軽いパニックを起こしていた。星がこんな反応をした理由が全く分からない。


 「思い出してみろ。あの時、お主を助けたのは私だったか?」


 「……あっ!」


 助けてもらった時の事を思い出した一刀の口からは、無意識のうちに声がこぼれていた。


 星の言った通りだ。一刀が助けられたのは星ではなく、華蝶仮面だったのだ。再度の失言を自覚した時には、すでに誤魔化しの効かない状況になっていた。


 「いつからだ? ……成都での私の活躍を見てなのか? そうなのだろう、一刀!」


 強くなった語気に気圧されて頷きそうになったものの、思いとどまる。


 星の顔には焦りと困惑が浮かんでいる。普段、からかわれる事の多い一刀が目にした事のない表情だ。彼の中には優越感が生まれてくる。本当の事を伝えたらどんな顔をするのか、見てみたくてたまらなくなった。


 「いや、氾水関で初めて会った時から気付いていたけど」


 さも当然の事の様にさらっと言うと、星は愕然とした様子で膝から崩れ落ちた。


 「くっ……、趙子龍一生の不覚。たった1度で見抜いていたとは……。天の御遣いの名は伊達ではなかったか……」


 気付かない方がおかしいだろ。あまりの落胆振りに、さすがにそんな本音を口にするのははばかられた。






 江夏へと到着した桃香と孫策は、さっそく同盟の会談に入った。とはいえ、同盟を結ぶ方向で両者の考えは一致しており、それは船内でも確認済みだ。詰めなければならないのは、曹操を撃退した後の荊州の領有権等、戦後の事だった。


 孫策側は、現在、桃香が押さえている南部の2郡以外の領有を主張する。桃香達の窮地を救った事を盾に取っての言い分である。とはいえ、孫策も周瑜そのまま通るとは思っていない。あくまでも、最初に吹っ掛けるだけのつもりだった。しかし、桃香はその条件をすんなりと受け入れてしまった。


 「えっと……、私が言うのもおかしいんだけど、本当にいいの? この条件、かなり貴方達に不利なのよ?」


 訝しげな表情となった孫策に対し、桃香は首肯して見せる。


 「ですが、私の方からも1つ、条件を付けさせてもらってもいいですか?」


 やはりきたか、と、周瑜を初めとする孫策側の者達は身構えた。荊州が魅力的な土地であるのは、誰にとっても同じである。その領有権を、ただ放棄するはずがない。引き換えに、一体何を望むつもりなのか。それは周瑜にも予想がつかなかった。


 「条件、って何かしら?」


 「はい。曹操さんに勝つまでではなく、その後もずっと、同盟関係を継続してください。せっかく、こうして孫策さんと手を取り合う事が出来たんですから、これからも仲良くしていきたいんです」


 周瑜達にとっては拍子抜けもいいところだった。ぴんと張り詰めていた場の空気は一気に緩み、若干の間の後、孫策の大笑が部屋中に響いた。


 「……私、そんなに変な事を言いましたか?」


 傷付いた様な表情を見せる桃香だったが、ほんの少しだけ、その声には怒りがこもっていた。朱里や星でも気付けない、付き合いの長い関羽だけがわずかに違和感を感じた程度だ。当然、孫策が気付くはずはなかった。


 「……悪いわね、笑っちゃって。別に、貴方の考えが悪いとかじゃないの。ただ、あまりにも真っ直ぐだったから……」


 笑い過ぎてまなじりにたまった涙を指で拭う。細くしなやかな指の先には、髪と同じ桜色のマニキュアが塗られており、色気を醸し出している。


 涙を拭うと、孫策は真剣な表情に戻り、姿勢を正した。


 「貴方の出した条件を飲むわ。今回の戦いだけでなく、今後も盟友であり続けると約束する」


 それを聞き、強張っていた桃香の頬が緩んだ。が、彼女が口を開くよりも早く、朱里が間に割り込む。


 「失礼ですが、孫策さんは天下を狙っていると聞いていました。こちらと恒久的な同盟関係を維持していただける事になれば、それは不可能になると思いますが、よろしいのですか?」


 「ちょ、ちょっと、朱里ちゃん」


 止めさせようと、桃香は小声で朱里の名前を呼んだ。すみません、とこちらも小声で返しただけで、朱里は言葉を続けていく。


 「孫策さんも御存知だとは思いますが、私達はかつて、同盟を結んだばかりの袁術さんに裏切られ、徐州の地を失いました。ですから……」


 「私もそうじゃないかと疑っているのね?」


 「はい。無礼なのは承知していますが、そこのところだけはお聞かせいただけませんか?」


 孫策配下の将から、刺す様な視線が朱里に向けられている。胸を張り、堂々とした態度でそれらを受け止める朱里。だが、机の下の両手はスカートを強く握り締め、首をもたげそうになる恐怖心を必死に抑えていた。


 「あんなのと同類に見られるのは面白くないけど、いいわ。話してあげる。私にとって、天下を手に入れる事は手段でしかないのよ」


 「手段?」


 「そう、私の目的を果たすための手段よ。私は自分の領民を豊かにするために戦ってきた。そのためには、より多くの土地が必要になる。そうして行き着く先が、天下だっただけの事。もっとも、私の母は本気で天下を狙っていたみたいだけどね」


 肩をすくめ、ふぅと息を吐きながら首を横に振る。


 「だから、他に方法があるのなら、無理に戦を仕掛けて領土を広げる必要はないの。……これで納得してもらえた?」


 「……はい。申し訳なかったです」


 剣呑な雰囲気の部下達とは違い、孫策の表情はにこやかだった。彼女に向かい、朱里は深々と頭を下げた。


 自分の発言が同盟そのものを崩壊させる危険性をはらんでいた事を、もちろん朱里は分かっていた。それでもなお、言わなければならなかったのは、袁術の時の轍を踏む訳にはいかないからだ。


 以前は、相手が袁術だからこそ追撃を逃れ、荊州へと落ち延びる事が出来たのである。その後、こうして再起を遂げられたのは奇跡に近い。孫策や曹操が相手では逃げ延びる事は叶わないだろうし、仮にそれが出来たとしても、表舞台に再び立つ事はないだろう。


 朱里は孫策の全てを信用した訳ではないが、それでも今の発言に嘘はない様に感じられた。


 「でも、曹操は違うわね。あれにとっては、天下を手に入れる事こそが目的であって、他は自分の行いを正当化するための大義名分に過ぎない。だからね、私には曹操がこちらの言い分に耳を貸すとは思えないのよ」


 朱里から桃香へと体の向きを変え、孫策は己の曹操に対する評を述べた。しかし、それは桃香の思う曹操とは違っていた。


 「そんな事はないと思います。曹操さんだって、きっと民のために戦っているはずです。私はそう信じています」


 どちらの評が正しいのか、それは曹操本人にしか分からない。ただ、2人の評価の違いにより、曹操への対応に関する協議は平行線を辿っていた。


 最終的に、対話によって平和的に事態を収拾したい桃香。一方の孫策は、大きな野心を内に抱く曹操との話し合いは不可能と考え、後顧の憂いを断つためにも討つべきだ、と主張していた。


 人々が笑顔で幸せに暮らせる国を創る。こんな旗印を掲げてきた桃香からしてみれば、敵だから、考え方が違うから、そんな理由だけで曹操との和平を諦める訳にはいかなかった。ましてや、曹操に向かい、人は分かり合える、と断言した手前もある。桃香には孫策の主張を受け入れる事は出来なかった。


 「……このままだと、まとまりそうもないわね。なら、こういうのはどうかしら? 曹操を捕らえた側のやり方に従うの。貴方達が曹操を捕らえたのなら、説得だろうと何だろうと、私達は一切口を出さない。逆に、私達が曹操を捕らえれば、貴方は私のやり方に文句を言わない。これでどう?」


 「……そうですね。分かりました」


 しばらく悩んだ後、桃香は孫策の提案を受け入れた。これ以上、自分の信念を押し通す事は難しい。落としどころとしては妥当に思えた。






 「ねえ、冥琳は桃香のあの考え方、どう思っているの?」


 会談の後、自室に戻った孫策は周瑜と差し向かいで酒を酌み交わしていた。太陽はわずかにその身を地平線に沈めたばかり。明かりを灯さなくとも、室内は十分に明るかった。


 周瑜に尋ねた孫策の顔は笑っていた。会談の時の様な、裏側に抜き身の剣のごとき鋭さを秘めた笑顔ではない。無二の親友である周瑜にのみ見せる笑みだ。だから、周瑜も友人として答える。


 「そうね……。戦を早期に終結させたいのであれば、劉備の考えは間違ってはいないでしょう。曹操が話を聞くかどうかは別だけど」


 曹操を討ち取れば戦が終わる、というものではない。結局は、誰かが曹操の後を継ぎ、戦乱が続いていくだけ。そうなった場合、周瑜は曹操陣営が分裂すると読んでいた。後を継いだ者が、曹操と比肩する程の指導力や求心力を発揮するのは不可能だと考えたためだ。


 ましてや、皇帝をその身に囲っている状況だ。曹操という絶対的な存在によって抑えられているものの、そのたがを外されれば、内部での権力争いも一気に噴出するはずである。そうなれば、ようやく落ち着き始めた中原や河北も、再び戦火に包まれる事になってしまう。


 天下を狙うのであれば、それは好機と呼べるかもしれない。しかし、国力の増強と国民生活の安定を考えれば、避けたい状況であった。


 「ところで、貴方の劉備に対する評価はどうなっているの? まさか、真名を交換するなんて思ってもみなかったけど」


 「う~ん……。正直、油断ならないわね」


 低く唸った後、少し考える様にしながら言った。その答えに、尋ねた周瑜はわずかに驚いた風の表情を見せた。


 「あ、違うわよ。桃香が裏切るかも、って事じゃなくて……。あれだけの信念を持った人間は手強い。そういう事よ。周りにいたのも皆、ひとかどの人物の様だし」


 そう言うと、孫策は机の上に突っ伏した。その状態から顔だけを上げ、甘えた声を出す。


 「ねぇ、め~りん。馬超と一騎討ちしちゃ駄目?」


 「当たり前でしょ。同盟相手の将よ。何かあったら困わ」


 「大丈夫よ、本気でやらないから」


 孫策は突っ伏していた上体を起こし、手をひらひらと振りながら言うが、周瑜はまともに相手をしない。


 「すぐに熱くなるくせに。駄目よ、信用出来ない」


 「う~、けち~。せっかく、虎の娘と狼の娘、どっちが強いかはっきりさせようと思ってたのに~」


 なおも駄々をこねる孫策の姿を、周瑜は微笑むと共にため息を吐いて眺めていた。






 今までにないくらいの速度で心臓が鼓動している。口から飛び出してしまうのでは、と思うほどだ。歩みを止め、何度か大きく深呼吸を繰り返すが効果はない。


 いっそ、このまま逃げてしまおうか。先程から幾度となく首をもたげてくる弱気の虫を振り払う様に、首をぶんぶんと左右に振る。再び意思を固め、一刀は足を踏み出した。


 すっかり日は落ちており、辺りは闇に包まれている。夜空に浮かぶ満月は煌々と輝いて、灯りの乏しい街の外れであっても足元に不安はない。それでも普段より圧倒的に歩みが遅いのは、激しい緊張のせいに他ならなかった。


 一刀が歩いているのは、江夏の城内を流れる水路岸だ。そこを、城壁の方へと向かって進んでいる。


 と、前方に人影が見えた。心臓が大きく跳ね、一瞬止まる。意識せず、同時に足も止まっていた。


 月明かりの下、それなりの距離があっても見間違えるはずのないその姿を目にすると、緊張はさらに大きくなった。やっぱりいるのか。昼間のうちに自分で呼び出したくせに、そんな事を思ってしまうほどだ。


 足を止めたまま、瞑目する。暴れる心臓を押さえるように、自分の胸ぐらをぎゅっとつかむ。息を大きくゆっくりと吐きながら、頭の中で何度も自分に言い聞かせる。逃げるな、想いを伝えるんだ、と。


 目を開けた一刀は、再度、歩を進め始めた。手も足もぎくしゃくした動きしか出来ず、まるで自分の体ではないかの様な感覚に陥ってしまう。それでも何とかある程度の距離にまで近付くと、長い髪を夜風になびかせる少女の背中に声を掛けた。


 「……翠」


 緊張のせいか、一刀の声は思い切り裏返った。あまりの事に、情けないのを通り越して少しおかしくなる。


 対して声を掛けられた側は、ビクッと肩を大きく揺らした。忍び寄ったつもりはなかったが、彼女は気付いていなかったらしい。


 「……な、何の用だよ、こんな時間に」


 少女の声も裏返っていた。相手の緊張を感じ取ると、一刀の方の緊張もさらに加速した。


 「あ、あのさ、翠……」


 声が震えてはいるが、翠の耳にまで十分届く声量はあった。だが、彼女は振り返ろうとしない。身動き1つせず、一刀に背を向けている。もう1度真名を呼んでみるが、振り返る事はおろか、返事すら返ってこない。 


 自分の想いを伝えなければ。そう思っても勇気が出ない。背を向けられたままで何の反応も返ってこない今の状況は、自分は拒絶されているのではないか、と一刀を不安にさせていた。


 2人の間に漂う沈黙と緊張感。先に堪えられなくなったのは翠の方だ。


 「……何の用もないなら、あ、あたしはもう行くからな」


 背を向けたまま、翠は歩き出そうとする。その背中を、一刀は叫ぶ様な大声で引き止めた。


 「待ってくれ!」


 踏み出した翠の足がピタリと止まる。それでも、彼女は振り返らない。


 「何なんだよ。よ、用があるなら早く言えよな」


 「お、俺……。俺を、俺を殴ってくれ!」


 「はぁっ!?」


 突然言われた一刀の頼み事に、翠はすっとんきょうな声を出した。あまりにも衝撃的だったのか、振り返って怪訝そうな目で一刀を見る。


 「頼む、俺の事を殴って欲しいんだ」


 翠の様子に構っている余裕はない。さらに頼み込むと、翠は少しひきつった笑みを見せる。


 「……ほ、本当にいいんだな?」


 ああ、と返事をして、顔を前に突き出す。


 右手を振りかぶった後、翠はわずかに躊躇したものの、それを振り抜いた。さすがに拳ではなく平手だったし、全力だった訳ではない。それでも、夜の静寂を切り裂く乾いた音と共に、一刀の体は大きく右側へと傾いだ。


 歯を食いしばり、しっかりと踏ん張っていたにもかかわらず傾いだ体を、一刀は足を大きく横に出して踏み止まらせる。


 「……いって~」


 そんな言葉が自然と口を突いた。


 「なっ!? お、お前が殴れって言ったんだろ!」


 言われた通りの事をやった翠にしてみれば、文句を言われる筋合いはない。抗議は当然だ。


 翠の睨む様な視線を受けながら、上体を戻す一刀。その頬には、きれいに手形が残っている。そんな間抜けな顔のまま、真面目な表情で翠を正面から見詰める。先程まで彼の体と心を支配していた緊張は、翠の平手打ちですっかりどこかへと消え失せていた。


 深く息を吸い込む。そして、自分の想いと共に体外へと放出する。


 「翠、俺はお前が好きだ!」


 一刀の目の前にある翠の肩がビクリと跳ねた。同時に、ボンッ、と音がする程の勢いで顔が赤くなる。ぼんやりと明るい月の下でも、茹で蛸の様に真っ赤になったのが分かった。


 だが、取り乱して訳が分からなくなる様子はない。そうなっていれば、話をするどころではなくなってしまっていた。一刀は少しだけホッとし、さらに言葉を繋げていく。


 「本当は、胸を張って翠の横に立てる様になるまでこの気持ちは伝えないでおくつもりだった。けど、この間の一戦で気付いたんだ」


 俯いたままで、翠は微動だにしない。それに構わず、一刀は喋り続ける。


 「今さら、って言われるかも知れないけど、明日にはどうなるか分からないんだよな。それは俺だけじゃなくて、翠も、さ。だから、俺は自分の正直な想いを伝える事にしたんだ。……好きだ、翠」


 前回よりも小さいが、確かに翠の肩が揺れた。それだけで、他には何の反応もない。


 「……お前は俺の事、どう思ってるんだ?」


 最初の緊張が嘘の様に滑らかに喋れていたが、沈黙が続くとやはりぶり返してくる。


 無言なのは、是か非か。是だからこそ、緊張で言葉を発せないのか。それとも、ただ単に非なので言いづらいだけなのか。一刀にはどちらともつかない。


 だからこそ、我慢し切れなくなって尋ねた。


 そこから、また同じくらいの長さの沈黙が辺りを支配する。その間、一刀の心臓は早鐘を鳴らし続けていた。


 「あ、あたしは……」


 今にも消え入りそうなか細い声が、俯いたままの翠の口からこぼれた。普段とは全く違うその声に、一刀は耳を凝らす。


 「あたし……!」


 言いながら、翠が顔を上げた。2人の目が合う。その時、2人の間を強い風が吹き抜けた。


 2人は思わず顔を背ける。その風にあおられてか、近くの茂みが揺れてガサリと鳴った。


 「誰だっ!?」


 叫んだのは翠だ。茂みの方へと向き直り、凝視する。つられて一刀も目を向けるが、そこに人の気配は感じられない。安心して翠に視線を戻すと、彼女は茂みを見詰めたままだった。


 「……ひょっとしたら、曹操の間者が忍び込んでるかもしれないからな。あ、あたし、ちょっと見てくるよ」


 「駄目だ!」


 歩き出そうとした翠の左腕を、一刀の右手がつかむ。驚きの色を浮かべる翠に構わず、つかんだ腕をぐいと引く。まるで、風に吹かれて舞う木の葉の様に、彼女の体は一切の抵抗なく一刀の胸に落ちた。


 「駄目だ。今、誤魔化すのを許したら、ずっとはぐらかすつもりだろ」


 石の様に固まったままでいる翠の頭の上で、一刀は少し強い口調で断言した。


 もし、ここで翠から答えを得られなければ。自分が言った通りの結果になる、と自信があった。


 想いが通じないのなら、それは仕方がない。それならそれで、諦めがつく。だが、蛇の生殺しの様にはっきりとしない状況が続くのだけは避けたかった。


 自分の想いを伝え、相手の気持ちを尋ねる。再度、勇気を振り絞る事が出来るかどうか、考えるのも嫌だった。


 「う……」


 翠が何事か呟いた言葉は、一刀には聞き取れなかった。


 「えっ? 何て……?」


 そう言って、耳を近付けようとした時だ。


 「嘘だーっ!」


 翠は叫ぶと同時に一刀を突き飛ばした。一刀は2、3歩下がったところで体をとどめる。つかんでいた手は離れてしまった。


 「ど、どうせ、星やたんぽぽと一緒になって、あたしをからかってるんだろ。分かってるんだからな」


 「何言ってるんだよ! 冗談でこんな事言う訳ないだろ! 勝手に勘違いするな!」


 ありったけの勇気を振り絞って告白したのだ。振られるのならともかく、信じてすらもらえない。腹立たしいのを通り越して悲しくなる。溢れる感情を言葉にし、一刀はそのまま翠にぶつけた。


 「……だって、あたしは可愛くないし、女らしくもなくて……」


 下を向いたまま、翠は絞り出す様な声を出す。その肩は小さく震え、両の手は短いスカートの裾をギュッとつかんでいる。


 「桃香様の方があたしなんかよりも全然可愛いし、月はあたしと違ってすごく女らしいし、紫苑みたいな色気はないし……。あたしみたいのじゃなくて、他に一杯いるじゃないか」


 翠の瞳から、ひとしずくの涙がこぼれて大地を濡らす。薄暗い上に、翠がうつむいていたために一刀からは見えない。だが、震えた声と様子から、彼女が泣いているのだと感じる事は出来た。同時に、熱くなっていた一刀の頭は急速に冷え、冷静さを取り戻していく。


 ああ、そうか。不安だったのは俺だけじゃないんだ。翠だって、俺と同じくらい。ひょっとしたら、俺よりももっと。


 小さい頃から武に生きてきた彼女が、自分の女としての才能に自信がない事は考えられたはずだ。いくら余裕がなかったとはいえ浅はかだった。そう悔いると共に、1から全てを伝えようと、一刀は決めた。


 「……そうだな。確かに翠はがさつで男勝りだし、短気でせっかちだからすぐ勘違いしたりするし、料理や掃除も出来ないし、大飯食らいで色気の欠片もなかったりするけど……」


 一刀が口に出す度に、翠の肩は落ちていく。


 「でも、一本気で真っ直ぐなところとか、裏表がなくてさっぱりしたところとか、いいところも一杯あるじゃないか。それに……」


 一刀は喋りながら翠へと近付き、その眼前に立った。


 「翠は自分の事を、可愛くない、って言ったけど、俺は最初に会った時からすごい可愛いと思ってた。今でも覚えてるよ。殺されそうになった俺の前に颯爽と現れて助けてくれた時の事。勇ましくて、でも、とっても可愛くて……。今にしてみれば、あの時から翠の事、好きになってたんだと思う」


 両方の手を翠の肩に置く。彼女の体が小さく跳ねた。


 「まだ信じられないなら、何度でも言ってやる。俺は翠が好きだって、世界中の人に向かって宣言してやる。それでも足りないなら、俺は……」


 「……い、いいよ! 一刀の気持ちは分かったから……」


 一刀の言葉を遮る様に叫んだ後、翠は消え入りそうな声で続けた。


 「なら、翠の気持ちを教えてくれるか?」


 「あ、あたし……」


 言葉を発しようとして、途中で思いとどまる。それを何度も繰り返されても、一刀は急かす事をしない。想いを形にして相手に伝えるのには、ひどく勇気がいる。当たり前の事だが、さっきまでの一刀には、相手に当てはめて考えるだけの余裕がなかった。


 どれ程の間、同じ事を繰り返していただろうか。ついに意を決したのか、翠は大きく息を吸い込むと顔を上げた。顔中を真っ赤に染め、睨む様に一刀を見詰める。そして、


 「あたしも……、あたしも、一刀の事が好きだーっ!」


 半ばやけくそ気味に叫んだ。街中に聞こえてしまうのではないか、と思えるほどの大声だ。だが、とても翠らしいと一刀には思えた。


 息遣いも荒く、瞳に涙を一杯にたたえた表情がいとおしくて、思わず翠を抱き寄せた。腕の中で彼女の体が強張ったのを感じたが、抵抗はない。そのまま顔を自分の胸に押し付ける様に抱き締めた。


 女性らしい柔らかさを体に感じ、甘い香りとかすかな汗の匂いの混ざり合ったものに鼻腔をくすぐられる。至福の時だったが、それはすぐに終わる事となる。


 翠は両手で一刀の胸を押し、彼の腕の中から逃れる。怒りをはらんだ顔で睨む姿に、一刀は感情のままに動いた事を後悔した。だが、翠が怒っているのは抱き締めたその事ではなかった。


 「お前、胸のところに何を入れてんだよ。何か硬い物が当たったぞ」


 少し赤くなった鼻の頭を押さえながら文句を言った。それを受けて、一刀は失念していた事に気付く。ボタンを外し、手を突っ込んで懐をまさぐる。そうして取り出したのは、木製の細長い箱だった。


 「本当はさ、去年の翠の誕生日に渡すつもりだったんだけど……」


 翠に向けて木箱を差し出す一刀の顔は照れ臭そうだ。


 えっ、と声を上げて驚いた翠は、一刀から木箱へと視線を落とした。その動きを見てから、一刀はゆっくりと蓋を外す。口の開いた箱の中に指を入れ、中の物をそっとつまみ上げる。金属同士が軽く擦れた音と一緒に、細くて長い鎖が一刀の指先から垂れ下がる。その先端には、深い緑色の粒が1つ。


 「翡翠の首飾りだけど、受け取ってもらえるか?」


 手を翠の方へとやると、翡翠の粒が風に吹かれた様に揺れた。


 「い、いいよ、あたしは。こんなの、あたしみたいなのに似合うはずないだろ」


 「そんな事ない。俺は、これが1番翠に似合うと思ったから、これに決めたんだ。だから、付けてみせてくれないか?」


 翠は黙ってネックレスを眺めた。しばらくの間ためらったものの、ゆっくりとした動きで手を伸ばす。そして、両手で包む様にしてネックレスを受け取った。


 その瞬間、翠の顔が大きくほころんだ。右手で鎖をつかんで粒を浮かせると、様々な角度からそれを眺める。


 「付けてみても……?」


 恥ずかしそうに上目遣いで見てくる翠に、一刀の心臓は思わず高鳴った。うん、としか返す事が出来ず、後はうなずくだけだった。


 一旦、鎖を外し、それを首の後ろへと持っていく。一見、手慣れた動きにも見えたが、やはり経験はなかったらしく、はめ直す段になってかなり手こずり始めた。


 「手伝おうか?」


 「へ、平気だ、これくらい」


 気遣う一刀に対し、翠は強がりを返す。


 このまま付けられない状態が続いたら、イライラして投げ出すんじゃないか。そんな心配が一刀の中に浮かんできた時だ。


 「……出来た!」


 嬉しそうな声が翠の口から発せられた。確かに、翠が鎖から手を離しても、翡翠の粒は落ちる事なく彼女の胸元で月光を反射していた。


 左手で優しく粒に触れる。いとおしそうに微笑むその顔は、飛び抜けた勇を誇る武人のものではない。普通にいる、年頃の乙女の見せる表情だった。


 可愛い。単純にそう思った。無意識のうちに手が伸びる。その先には、粒を愛でる翠の指が。


 一刀の手が翠の手に触れるか触れないかの刹那だった。柔らかい表情は一変し、驚いた様に目を見開くと一刀の手をはたき落とす。拒絶され、ビクッと体を震わせながら手を引く一刀。一方の翠は跳びずさった後で、しまった、とでも言いたそうな顔を見せ、一刀から視線を外した。


 「……ごめん」


 「い、いや、あたしこそ……」


 先程までの幸せな雰囲気は跡形もなく消え、気まずさだけが2人の周りを包んでいる。


 このままではいけない。両者がそう思う中、一刀が口を開く。


 「俺に手を握られるのは、嫌?」


 責める様でも、問い質す様でもない。幼子に尋ねる様に、優しい口調だった。


 「いっ、嫌じゃ……ない。嫌じゃないんだけど……」


 胸の前で、左手を右手で包む様にしながらもじもじする。ちらりと一刀を見上げ、すぐに自分の手へと視線を落とす。


 「恥ずかしい?」


 「それは確かにそうだけど、それだけじゃなくて……」


 しばらく悩んだ翠は、意を決した様に大きく足を踏み出した。自分が空けた分の距離を詰めると、おずおずと両手を一刀へと伸ばす。目を固く閉じて恥ずかしさをこらえながら、少しずつ手を開いていく。まるで、つぼみが花を咲かせるかの様だ。


 そうして開かれた手の平を覗き込む。だが、別段変わったところはない。なぜ翠がここまで恥ずかしがっているのか、一刀には理解出来なかった。


 「……あたしの手、まめだらけだろ。傷も多いし、全然、女らしくなくて……」


 余程恥ずかしいのか、翠は顔を上げようとはしない。一刀から視線を外したまま、小さな声で言った。


 改めて、翠の手の平へと視線を落とす。確かに、まめやまめの潰れた痕が多く見られる。小さな傷痕も無数にあり、一刀のイメージする女の子の手とは違っていた。


 だが、それだけだ。彼からしてみれば、些細な事に過ぎない。こんな事をここまで気にしてる翠が可愛らしく、一刀の顔に自然と笑みが浮かぶ。


 「なあ、翠。ちょっと見てくれるか?」


 言いながら、一刀は両手を開いて前に出した。翠の顔が少しだけ上がる。


 一刀の手にも、やはりまめがあった。だが、翠と比べれば圧倒的に綺麗だった。


 「前に言ったと思うけど、俺もさ、小さい頃からじいちゃんに剣術を習ってたんだ。自分では一生懸命練習したつもりだし、実際、じいちゃんも認めてくれてた。それでも、俺の手にはこのくらいしかまめが出来てない。翠がどれだけ真剣に鍛錬を積んできたか、この手を見れば一目で分かるよ。この手は、翠が今まで頑張ってきた証だろ? 恥ずかしがる必要なんてないじゃないか」


 一刀はそっと翠の手を取る。一瞬、体が強張ったものの、振り払われる事はなかった。


 「俺はすごい尊敬するし、かっこいいと思う」


 翠の事を気遣って、慰めるために出した言葉ではない。純粋な気持ちだ。それに応える様に、翠も口を開く。


 「……この手は、母様の手なんだ」


 彼女の視線は触れ合う手を見詰めたままだ。


 「小さな頃に握った母様の手は、大きくて、硬くて、でも、すごく温かかった。そんな手に憧れて、あたしは鍛錬に励んできたんだ。努力して努力して、やっと母様と同じ様な手になれて、あたしはすごく嬉しかった。けど、お前に出会ってから変わっていった。女らしくないこの手が恥ずかしく思えて、お前に知られたら嫌われるんじゃないか、って不安になって……。でも、そう思う事は大好きな母様を侮辱する事のような気がして、あたし、よく分からなくなっちゃって……」


 後半、翠の声は震えていた。絞り出す様に言葉を紡ぐその姿が痛々しくて、一刀は力を入れて翠の手を握った。顔を上げる翠。その瞳には涙があふれている。


 「俺は大好きだよ、この手。誇っていいと思う。……立派だよ、翠は」


 翠の目を真っ直ぐに見詰め、優しく語り掛ける。


 「ありがとう……、一刀」


 涙を流したまま、翠はいつもと変わらないひまわりの様な笑顔になった。


 一刀の心臓が、今までにないくらい大きく跳ねる。笑顔はもちろん、泣き顔も見た事がある。しかし、初めて目にした、泣きながら笑う翠の表情はとても眩しい。いとおしくて気が狂いそうになる。


 一旦、両方の手を離す。そうして、改めて手を握り直した。右手で翠の左手を、指を絡める様にして握る。空いた左手は翠の腰に回し、ぐっと抱き寄せる。互いの顔が、息が掛かる距離にまで近付いた。


 「翠……」


 少年は目の前の少女の名を呼ぶ。


 「一刀……」


 少女も少年の名を呼び返す。


 2人はまぶたを閉じながら、どちらともなく顔を近付けた。そっと、互いの唇が重なる。


 煌々と輝く満月の下、祝福するかの様に虫達が鳴き始めた。

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