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第2章-洛陽編・第7話~氾水関を越えて~

 翠と一刀が華雄の下に着いたのは、ちょうど一騎討ちの決着が付いた時だった。関羽の偃月刀を脇腹に受けて、華雄の体は地面に激しく叩きつけられた。


 やはり無理なのか。関羽の勝ち名乗りを聞きながら、一刀はそう考えていた。






 それから数時間後、翠達3人は劉備軍の陣内にいた。案内された天幕の中には檻がある。そして、そこには手枷と足枷をはめられた華雄の姿があった。


 安心する翠達。しかし、華雄はそんな3人に向かって吠えた。


 「どういう事だ、馬超! なぜ、貴様がこいつ等と……!」


 そこまで叫んだところで、華雄は顔をしかめて脇腹を押さえる。偃月刀の柄で痛打され、彼女の肋骨には数本ひびが入っていた。


 そんな華雄を宥める様に、翠と一刀は事情を説明する。最初の内は鋭い眼光で睨んでいたが、説明が終わる頃には表情から険が取れていた。


 「……って訳だ。だから、大人しくしといてくれよ」


 翠の言葉に、華雄は素直にうなずいた。


 「でも、本当に無事で良かった……」


 心底安心した様で、一刀はしみじみと呟いた。骨にひびを入れられている以上、正確には無事ではない。だが、一刀の知る歴史では、華雄はこの時の一騎討ちで命を落としている。それと比べれば、無事と言っても何の問題も無いだろう。


 改めて大人しくしている様に伝え、翠達は天幕を出る。そこには、3人を案内してくれた桃香と関羽がいた。前に会った時と同じで柔らかく微笑む桃香と、こちらも相変わらずの険しい顔を見せる関羽。そんな2人に、一刀は頭を下げて礼を言った。


 「別に、私は礼を言われる様な事はしていない」


 関羽はにべもなく答える。彼女は一刀と目を合わそうともしない。自分のせいとはいえ、ここまで嫌われるとやはり淋しい。それが美少女であるなら尚更だ。その思いが面に出たのか、桃香は申し訳無さそうな顔になる。


 「何言ってんだよ。お前、あの時手加減したろ。わざと柄で打ち込んだんだろうが」


 翠の言った通りだった。偃月刀が華雄を捉える瞬間、関羽は腕をわずかに伸ばした。刃ではなく、柄が当たる様にするためだ。


 距離があった事と、何より偃月刀の振りが速過ぎて、一刀には全く見えなかった。自分との実力の違いを、改めて思い知らされた一刀だった。


 「なっ、わ、私は……」


 図星をさされ、関羽の頬はわずかに朱に染まる。


 「そうだよ。だって、愛紗ちゃんは優しいもん」


 さっきと180度違う満面の笑みを見せた桃香は、関羽の右腕をその胸に抱く。大きな胸は、ムニュリと形を変えた。


 「と、桃香様、何を仰っているのですか。は、離して下さい」


 関羽はよっぽど恥ずかしいのか、耳まで真っ赤になってしまう。


 「や〜だ」


 関羽が振り解こうといくら腕を振っても、桃香は笑顔のまま甘えた声を出して離そうとはしない。どちらが姉で、どちらが妹か分からない光景だった。


 そんな2人のほのぼのする姿から視線を外し、一刀は左手の方に目をやる。その方向には、日が暮れてもまだ炎を上げる氾水関があった。夜空を赤く染める氾水関を、一刀はしばらく眺め続けていた。


 そして、一刀以外にも氾水関を眺める人物があった。曹操である。彼女はしばらく氾水関を見つめた後、フフッ、とかすかに声を漏らして笑った。


 袁紹軍の統制の無さに計画をふいにされ、昼間は怒りを覚えてさえいた。しかし、今になってみれば、そのお陰で助かったのかもしれない。もし、計画通りに袁紹軍を出し抜いて氾水関に突入していたら、あの炎に巻かれて全滅の憂き目に遭い兼ねなかった。もちろん、火を放つ前に制圧出来たかもしれない。しかし、氾水関に火を放たれる事を想定していなかった以上、前者の結果に至る可能性は決して低くなかった、と言えるだろう。


 氾水関に背を向けて、曹操は天幕に戻るべく歩き出す。その後ろでは、夏侯姉妹が対称的な顔をしていた。曹操の心中を察した様に薄く微笑む夏侯淵に対し、姉である夏侯惇は、笑った事にも気付いていない様子で、真っ赤に燃える氾水関をボーッと眺めながら歩いていた。






 氾水関を放棄した張遼は、虎牢関へと入った。部下達に休息を取らせると、自身は呂布と陳宮と共に虎牢関の上に出た。


 「すまん。氾水関も華雄も守れんかった」


 氾水関での結果を、張遼は2人に詫びる。呂布は普段と何ら変わらない無表情のまま、フルフルと首を横に振った。


 「……霞は頑張った」


 呂布に励まされた事がむず痒くて、張遼の頬はゆるむ。さらには、陳宮が続ける。


 「連合軍の動きが遅かった事もあって、氾水関での時間稼ぎはほぼ計算通りなのです」


 自分の半分程度しか人生経験の無い小さな軍師に気を遣われた。張遼の心の中は、気恥ずかしさや申し訳なさで一杯になる。そんな気持ちを誤魔化す様に、張遼は声を上げて笑う。そして、陳宮の頭を帽子の上から撫で付けた。


 「や、止めるのです、霞」


 「恥ずかしがらんでもええやん。ほれ、ええ子ええ子」


 止めるように言うと共に、陳宮は脱出しようと身をよじらせた。だが、カラカラと笑う張遼は、上から押さえ付ける様に頭を撫でて逃がさない。最初の内は、自分の気持ちを誤魔化すため、また、少なからず感謝の思いがあってやっていた事だった。しかし、ここに至り、張遼の心は嗜虐心に支配されつつあった。


 尚も暴れる陳宮とじゃれ付く張遼。そんな2人に呂布がスッと近付く。助けてもらえる、と思った陳宮は、涙目で呂布を見上げながら、


 「恋殿~」


 と、哀願する様に真名を呼んだ。しかし、呂布はそれを止めようとはせず、張遼の方に自分の頭を差し出した。


 「……霞。……恋も」


 その場の時間が一瞬止まった。予想外の言葉に、目を見開いて驚いた張遼は、思わず爆笑してしまう。一方の陳宮は、全身から力が抜ける様な感覚に襲われた。


 「あっはっは! そやな、恋もええ子や!」


 笑い過ぎて目尻に涙を浮かべた張遼は、開いている右手で呂布の頭を撫でた。陳宮にしているよりは弱いものの、それでも結構な力を入れている。髪の毛がくしゃくしゃになるが、呂布は嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。


 しばらくそうしてから手を離すと、張遼は真剣な表情で2人に向き直った。


 「劉備軍の関羽、華雄を殺った奴の名や。綺麗な長い黒髪やった」


 「……そいつ、強い?」


 関羽の武を直にその目で見た張遼には、自分との力量差が分かっていた。


 勝ち目が無い訳では無い。だが、5回やって1つ勝てるかどうかだろう。ひょっとしたら、翠よりも強いかもしれない。張遼はそう見ていた。


 それでも彼女の中には、関羽とやり合ってみたい、という思いがあった。武人の性を感じ、張遼は自嘲気味に笑った。


 「まぁ、ウチでは勝てんやろな。せやけど、恋なら……」


 コクリとうなずいた呂布は、氾水関のある東の方を見やる。燃え盛る氾水関により、夜明け前だと言うのに空は明るかった。


 「……華雄の敵は恋が討つ」


 いつも通り静かな口調だが、その言葉には力強さがあった。


 「……せやけどウチ、月ちんに会わす顔無いわ〜」


 肩を落としながら呟く張遼。3人の中では、華雄はすっかり死んだ事にされてしまっていた。






 氾水関の火が消えたのは、それから3日後の事だった。とはいえ、すぐに通過出来るものでもない。まだくすぶっている火も多く残っているし、温度も高くなっている。何より、焼け残った氾水関の耐久力を確認してからでなければ、部隊を進める事が出来なかった。


 結局、全軍が氾水関を越えたのは、それから2日後だった。連合軍は氾水関からわずかに進んだ場所に陣を築くと、虎牢関攻略に関する軍議を始めた。


 軍議に出席した一刀は、氾水関攻めの先鋒に推した事を袁紹から叱責される覚悟をしていた。事実、袁紹の機嫌はすこぶる悪かった。しかし、その怒りの矛先は一刀ではなく、彼女の従姉妹である袁術に向いていた。


 「美羽さん、あの様に後方で縮こまって見ているだけなど、恥ずかしくはありませんの!? 貴方も名門袁家に名を連ねるのであれば、自ら前線に立ったらどうです!」


 袁術を後衛に回したのは袁紹自身なのだが、すっかり忘れているらしい。


 「なっ……!れ、麗羽姉様、そんなのは横暴なのじゃ!」


 当然、袁術は反論するが、袁紹は自分の意見を押し付けるだけで、全く聞こうとはしなかった。結局、袁術はそのまま押し切られ、虎牢関攻めの先鋒を務める事にされてしまった。






 自分の天幕に戻った袁術は、その小さな体躯には似付かわしくない大きな椅子に深く腰掛けた。足首がやっと座面から出ている状態で、駄々をこねる様に四肢をじたばたさせる。


 「腹が立つのじゃ、あの妾腹! 七乃、蜂蜜水を持って来るのじゃ!」


 袁術と袁紹は従姉妹なのだが、血縁関係としては異母姉妹になる。今袁術が言った様に、袁紹は妾の産んだ子だ。その袁紹が跡継ぎのいない本家の養子に入り、2人は従姉妹となった。元々姉の事を妾腹と蔑んでいた袁術である。本妻の子である自分を差し置いて、姉が本家の跡取りとなった事に強い憤りを覚えた。


 張勲から差し出された湯呑みを受け取ると、袁術は蜂蜜水を一気に飲み干した。プハーッ、と満足そうに息を吐く。四肢をばたつかせる動きは治まったものの、その顔はまだ不満そうだ。


 「どうするのじゃ、七乃。妾は面倒な事は嫌なのじゃ」


 「大丈夫ですよ、美羽様。そのために孫策さん達を飼ってるんじゃないですか」


 張勲はニッコリ笑って言う。その進言を聞き入れた袁術は、直ぐ様客将である孫策を呼び付けた。


 「……と言う訳で、孫策よ、よろしく頼むのじゃ」


 孫策は天幕を訪れるなり、袁術から虎牢関攻めを申し付けられた。


 「ちょっと、私達だけで虎牢関を落とせ、って言うの!?」


 「もちろん、私達も後方から援護しますから、安心して下さい」


 驚いた声を上げる孫策に、張勲は相変わらずの笑顔で答える。しかし、先程袁術に対して向けていた笑顔と違い、目は笑っていなかった。


 張勲の言葉が信用出来ない事を、孫策は嫌と言う程分かっている。今言った事は、あくまで建前。実際には、危険な事はこちらにやらせて、手柄だけを得ようとする魂胆だろう。しかし、それが分かっていても、孫策には断る事が出来ない。


 袁術は孫策を客将として迎えるにあたり、いくつか保険を掛けていた。その内の1つとして、孫策の妹である孫権を引き離して監視していたのである。である以上、孫策には下手に逆らう様な真似は出来なかった。


 「分かったわ。張勲、あてにさせてもらうわよ」


 渋々ではあるが、面には出さない様、無理矢理に笑顔を作って孫策は答えた。






 「あーもう、ムカつく! 聞いてよ、冥琳」


 自陣に戻った孫策は、その足で周瑜の天幕へと飛び込んだ。そのまま、机に向かって仕事をしている彼女の背中から抱き付く。


 「ちょ、ちょっと、止めなさい、雪蓮」


 完全に不意を突かれた周瑜は、驚いた声を上げる。だが、孫策は制止を無視し、じゃれるかの様に体を左右に振った。


 この2人の間にあるのは、ただの主従関係だけではない。2人は幼なじみであり、共に天下統一する事を夢見て義姉妹の契りを交わした仲である。その心の結び付きは強く、同じく義姉妹となった劉備3姉妹に勝とも劣らない。


 「……雪蓮。貴方、いい加減に……!」


 周瑜の言葉に怒気が含まれる。肩越しに机の上を覗いてみれば、そこには書きかけの書簡があった。途中までは綺麗な字で書かれているが、最後の方はミミズがのたくった様に墨が暴れていた。とっさに孫策は周瑜から離れる。


 「あはは……。ごめんね、冥琳。そんなに怒らないで、ね?」


 そう言って孫策は謝るが、大して悪いとは思っていない。周瑜の説教を受けたくないがために、形として謝ったに過ぎなかった。


 しかし、周瑜はそんな事には慣れっこな様子だ。仕方が無い、という様な感じで大きなため息を吐きながら、ずれた眼鏡を指で押し上げる。そして、机に両手を突いて立ち上がると、孫策の方に振り返った。


 周瑜には孫策の言いたい事が分かっていた。だが、愚痴の1つも聞いてやろう。そんな思いで何があったのか尋ねようとした時、天幕の入り口から1人の女性が顔を出した。


 「何じゃ、話し声がすると思ったら、策殿が戻っておったのか」


 そう言いながら、その女性は中に入って来る。孫策は周瑜から女性の方へ向き直った。


 「祭〜、冥琳が苛める〜」


 「人聞きの悪い事を言わないで。聞いてあげないわよ」


 再び周瑜の方を向いた孫策は、えーっ、と不満の声を漏らす。その声を聞きながらも、周瑜は澄ました顔でそっぽを向いた。そんな2人のやり取りを見て、声を上げて笑う女性。


 彼女は黄蓋、字は公覆。孫策の母、孫堅の代から孫家に仕える古参の将である。孫策達と同じく褐色の肌に、髪の色こそ銀髪だが、これまた2人と同じ癖の無いストレートのロングヘアーをしている。


 「で、どうしたの? 袁術に何を言われてきたの?」


 周瑜に促され、孫策はここに来た目的を思い出した。周瑜とじゃれ合いに来た訳ではないのだ。ゆるんだ顔を引き締めた孫策は、袁術から虎牢関攻めを命じられた事を2人に伝えた。


 「何と、儂等だけでか!? あの童、相も変わらず無茶を言うてくれる」


 話を聞いた黄蓋が驚くのも無理はなかった。袁術の客将に過ぎない孫策が有する兵力は五千人程。連合に参加した者の中では、劉備に次いで少ない。たったそれだけの兵力で、氾水関よりも堅牢な虎牢関を落とせと言うのだから。


 だが、孫策軍の軍師である周瑜の表情は、普段と少しも変わっていない。彼女にとって、この命令を受ける事は想定の範囲内だった。袁紹が袁術に虎牢関攻めを命じた時に、周瑜はこうなる事を予測していたのだ。いつも通りの凛々しいたたずまいに、孫策と黄蓋は頼もしさを覚えた。


 「その様子だと、虎牢関攻めに何か妙手でもあるんでしょ? ねぇ、教えてよ、冥琳」


 孫策の問いに、周瑜は速答する。


 「無いわよ、そんなの」


 2人が感じた頼もしさを、一気に吹き飛ばす一言だった。


 「ちょっと、どういう事よ、冥琳」


 「お主、儂等を無策のままで虎牢関に突っ込ませる気か?」


 2人が文句を言うのも当然だった。正面からでは攻め落とせない以上、何らかの策が必要になってくる。にもかかわらず、軍師に、打つ手が無い、と言われれば、誰だって文句の1つも言いたくなるものだ。


 しかし、周瑜は冷静なままだった。2人を宥めると、足りなかった言葉を補う。


 「虎牢関を落とす手は無い。でも、今の状況を切り抜ける事なら出来るわ」






 翌日から、孫策軍は虎牢関への攻撃を開始した。それを迎え撃つ張遼達は、虎牢関の上からそれを眺める。


 「なぁ、あれはどういう事や?」


 「……ねねに聞かれても、分からないのです」


 2人が困惑するのも無理は無かった。孫策軍は、矢が届くか届かないかの距離から散発的に射かけてくる。当然、全くと言っていい程に董卓軍の被害は無い。後は、氾水関の戦いの様に、罵声を浴びせて挑発するだけ。虎牢関を攻め落とす意志は全く感じられず、呂布などは城壁の上で寝息を立てる有様だった。


 「普通に考えれば、正面に意識を集中させて、その隙に側面や後方に回り込む事を考えている、と思うのですが……」


 陳宮は自信が無い様で歯切れが悪い。それはそうだ。意識を集中させようとするなら、激しく攻め立てるのが当たり前だからだ。


 「ともかく、警戒を一層厳しくしておくのです」


 とりあえず、彼女達に出来る事はそれしかなかった。






 孫策軍が虎牢関を攻め始めてから3日が経った。その間、ずっと初日と同じ様に意味の無い攻撃を繰り返していた。


 「ねぇ〜、いつまでこんな事を続ければいいのよ」


 すっかり日も暮れた後、孫策は不満たらたらで周瑜に尋ねる。彼女にとって、こんな戦い方は消化不良でフラストレーションが溜まるだけだった。と、そこに1人の兵がやって来る。その兵が身に付けている鎧は袁術軍の物だった。


 「明日より虎牢関攻めの指揮は、袁術様が自ら執られます。孫策殿には、後方に下がるよう通達されました」


 必要な事だけ伝えると、その兵はとっとと帰ってしまう。その姿が見えなくなってから、周瑜は口を開いた。


 「ふむ、予想通りの時間だな」


 眼鏡を掛け直す周瑜の口元がゆるんだ。


 虎牢関攻めは、袁術自身が袁紹から申し付かった事だ。それを客将である孫策に丸投げした。戦果が上がれば、それでも文句は無かっただろう。しかし、何の進展も無いこの状況では、袁紹が怒り出し、袁術に対して督戦するのは目に見えていた。そうなれば、袁術が何を言ったところで耳を貸さなくなり、自ら前線に出ざるを得なくなる。


 思い描いた通りの状況となり、満足そうに薄く笑う周瑜。だが、一兵も損なわずにすんだというのに、孫策は不満顔を崩さない。


 「せっかく暴れられると思ったのに、つまんな〜い」


 「あ、貴方ねぇ……」


 大将としてあるまじき発言に、周瑜は軽くめまいを覚えた。だが、孫策は悪びれる風も無く続ける。


 「飛将軍と謳われる呂布がそこにいるのよ? 祭だって、戦ってみたい、と思うでしょ?」


 「確かにのう。最強と呼ばれる者の武がいか程なのか、自分自身で確かめてみたい気持ちはありますな」


 「雪蓮! 祭殿も、煽る様な真似はしないで頂きたい」


 武人としての本能を隠そうとしない2人を、周瑜は強い口調で諫める。肩をすくめた孫策は、残念、とでも言いたげに、黄蓋と微笑みあった。


 こうして次の日から、袁術軍が虎牢関攻めに掛かり始めた。だが、袁術は袁紹以上に無能だった。もっとも、現代日本であればランドセルを背負っている歳の少女に、一軍を率いる能力を求めるのが間違っているのかもしれないが。


 袁術にその力が無いため、普段は張勲が軍の指揮を取っている。だが、彼女は袁術の世話で忙しかった。そのため、他の将が率いて虎牢関を攻めているのだが、状況は芳しくない。元々兵達の練度が高くない上に、大将が天幕にこもって出て来ないのであれば、士気が上がるはずも無かった。


 そんな状況を見逃す董卓軍ではない。機を見て虎牢関から討って出ると、袁術軍を散々に打ち破る。袁術は張勲に抱きかかえられ、大混乱に陥った兵達の中を逃げ惑うしかなかった。

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