変人がいなくなった
変人がいなくなった。
最初は影響がないと思った。しかし、数ヵ月経ってから不在の影響が及び始めていた。
上司たちがピリつき出していた。生産が追いついていかなくなったのだろう。
変人がいたことで間に合っていた仕事量が、徐々に間に合わなくなっていた。
変人が仕事量の大多数をこなしていたから。周りは思っていなかったとしても、変人に負んぶに抱っこの状態だったと思う。正直に言って私もそうだ。
特に変人がワックス作業で不在だったあの夏の日々はひどいものだった。
生産の数が全然足りていない。連日の残業が職場内で発生していた。
皆が皆、どうしてそうなったのか分からないようだった。ただ一つ分かるのは、変人がいたことで仕事量が賄われていたこと。変人不在が残業の原因だと思う。
夏の日々が過ぎてからは、変人がいたことで仕事量が賄われていった。生産も安定していた。それでもワックス作業でいなくなる日々もあったけど、たいして影響は無いように思われていた。あの夏の日々に比べればになるが。
しかし、新たな問題が起き始めていた。変人が転職するという話が出てきた。それも年明けの冬の間、実習の関係でいなくなる日々が続くそうだ。
あの夏の日々に比べれば、影響はそれなりにあるだろう。不在の影響は大きかった。それでも生産は賄えるはずだ。今思えばそれがピークだった。
変人がいなくなった春の初め。そこから苦難が芽吹いていた。気づかれることなく。
上司たちのピリつきから始まり、周りの仕事の遅さ、それらが明らかな問題となっていった。
数ヶ月経つ頃には、改善されるどころか悪化していった。
機械壊しのアホのせいで、生産が稼いだ金額以上に修理代がかかることになった。
それもあのアホは自分が悪いのだと認めたがらない。変人がいた頃よりも質が悪くなっている。
それ以外にも生産が間に合わなさ過ぎて、外部委託する始末。
生産の人数確保だとしても、ワックス作業の利益を手放さなければならないとは。
しかも、それで問題は解決出来ていないようだ。仕事ができる人たちは、今の職場に見切りをつけ始めている。
変人のように転職することを決心したようだった。
生産が追いつかなくて上司たちも厳しくなり始めた。仕方ないのかもしれない。
ワックス作業の外部委託をやり始めてから数ヵ月。問題が明らかになり始めた。
仕事ができる人たちが転職先での実習などによって不在の日々が続いた。
それによって生産がさらに追いつかなくなった。厳しくなってからこれでは周らない。
生産が最低限周るようにレベルを数段下げざるを得なくなった。
そうしなければならないほど、落ちぶれてしまったのだ。
変人が今のこの状況を見たらどう思うのだろうか。たぶん呆れると思う。
どうしてこうなってしまったのだろうか。ただ一つ分かることは、今までは変人によって支えられていた。そのことを私たちは知らなかった。
しかし今、変人がいなくなったことによって、誰も支えることができなくなった。そのことに直面することになって、ようやく知った。
私が今いる職場は、変人がいた頃のようにはならないだろう。
最低限しか周ることがない。将来性すら見込みが無い。
細々とやっていくしかないみたいだ。
私も早めに転職することができていたら、結果は違っていたのかもしれない。
しかし、もう手遅れだ。転職することを考えるだけでも恐怖を感じてしまう。
今のこの状況を変えることに対して、足がすくんでしまう。最悪のぬるま湯に浸かっているようなものだ。底なし沼のようなぬるい温泉に。
嗚呼、私の将来は真っ暗だ。扉が閉じたような暗闇の中にいる。
上がることの無い給料で生活していくことを強いられる人生になってしまったのだからー-。
〈終〉




