魂のレンダリング(Rendering)
(静寂。培養槽の駆動音だけが、重く、低く響いている。それはサーバーの排熱音のようでもあり、巨大な釜が煮えたぎる音のようでもある)
(Mが培養槽を見上げ、青白い光に照らされている。彼は恍惚とした表情で、ガラスの表面を指でなぞる)
М: 素晴らしい……。実に素晴らしい「処理」でした。
互いのエゴを溶かし合い、不純なノイズを取り除き、高解像度の「虚無」を出力する。
これこそが、現代の錬金術だ。
彼らは最後、互いを許し合い「一緒にいよう」と手を取り合いました。
感動的ですね。
ですが、個性を捨て、記憶を捨て、心を捨てて得た「安らぎ」。
それを人は何と呼ぶか? ……「死」ですよ。
さあ、最後の仕上げです。この空っぽの器に、署名を刻みましょう。 (Мが空中に指を走らせる。鮮血のような光の軌跡が空中に浮かび、ほんの少し下方へ鮮血が垂れる。)
Oscar……尽きせぬ「Obstinacy強欲」。
Vanessa……美しき「Vanity虚栄」。
「おっと」(Мがふっと息を吹きかけると順番が入れ替わる。)
Vanessa……美しき「Vanity虚栄」。
Oscar……尽きせぬ「Obstinacy強欲」。
Isaac……哀れな「Intellect傲慢」。
そして……
(Mが最後の文字を、指揮者がタクトを振り下ろすように刻む)
Death……祝福された安らかなる「死」。
(それぞれの頭文字が光出す)
「完成です。起きなさい、私の美しいV.O.I.D.(虚無)」
(Mが観客席に向かって優雅に一礼する)
「『時よ止まれ、お前はあまりにも美しい』
……もっとも、止まっているのは『時間』ではなく、彼らの『思考』ですがね」
(暗転)




