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地獄の顔は何度まで?  作者: 安達夷三郎
第二章、入学早々、目立っちゃってます
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七話

放課後の住宅街。

美穂ちゃんと別れて帰路につく。人通りはほとんどなく、風に揺れる洗濯物の音だけが微かに響いていた。

「ねぇ、君。こんな時間に一人?」

振り返ると、背の高い男が立っていた。口元には笑み。けれど、目は笑っていない。

この顔......どこかで......

思い出した。

先日、宋が言っていた『女子中学生誘拐事件』の犯人だ。閻魔帳に載っていたから覚えている。

「おじさん、この辺に美味しいケーキ屋さん知っているんだよ。案内してあげようか?」

「……いいです」

「遠慮しないで。怖い人じゃないよ」

そう言いながら、じりじりと距離を詰めてくる。

「じゃあ、家教えてよ」

「......」

私はわざと視線を伏せて、少し怯えたふりをした。

「……こっちです」

「お、素直だねぇ」

軽い足取りでついてくる亡者。

私は人気のある道を避け、住宅街の外れにある廃工場の方へと足を向けた。

工場跡地。フェンスは(さび)つき、誰もいない。

――ここなら、誰かに見られることもない。

私は鞄の中から小さな帳面――閻魔帳を取り出した。

ページがひとりでにめくれ、黒い文字が浮かび上がる。

「連続女子中学生誘拐。被害者は八名。誘拐しては写真など撮ったりしていたらしいね」

ここに変成くんがいたら、思いつく限りの罵詈雑言(ばりぞうごん)を相手に浴びせていたと思う。

その言葉でようやく私の正体に気付いたのか、私から距離をとる。しかし、後ろは壁。逃げれる訳がない。

「も、もう俺は絶対に地獄へ還らないぞ!あんな恐ろしい場所、まっぴらゴメンだ!!」

「現世に来ても同じ悪行を繰り返し、己の罪を反省しない人の言葉なんか、聞く気にもなんないよ」

「なんでだよ!好みの女の子を愛でてただけだろ!」

「いや、愛で方が犯罪じゃん!!」

突っ込んでしまった。つい、いつもの癖で......。

「とりあえず......第一の地獄、等活地獄!!」

私は声を震わせずに言った。

地獄にも、犯した罪の重さや数によって、階層が決まる。

一、等活地獄

二、黒縄地獄(こくじょうじごく)

三、衆合地獄(しゅうごうじごく)

四、叫喚地獄(きょうかんじごく)

五、大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)

六、灼熱地獄(しゃくねつじごく)

七、大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)

八、阿鼻地獄(あびじごく)

下に堕ちれば堕ちる程、刑期は長くなるし、受ける罰も重くなる。

金色に輝く細い紐が閻魔帳から現れ、亡者を縛る。

紐が締まるたび、亡者は目を見開いて呻く。もがけばもがくほど、紐は深く食い込み、暖かさを吸い取るように身体から力を奪っていく。

「や、やめ……やめてくれ……っ!」

閻魔帳が最後の一行を示すと、紐は光を帯びてピンと張り、そして――ぱちんと弾けるような音と共に亡者の身体は風化し、地獄へ繋がる裂け目へと吸い込まれていった。吸い込まれる瞬間、あの男の目に、やっと後悔の色が差したように見えた。

次は、真っ当な人生を歩んでほしい。

(まぁ、何はともあれ、無事に送り返せて良かった〜)

帰ろ帰ろ。

足元にあった小石を蹴った。

小石は数回跳ねた後、側溝(そっこう)に転がり落ちた。


「ただいま〜」

二人で住む家に帰ると、見慣れた靴があった。

「遅かったね」

変成くんがお玉を片手に台所から顔を出した。

「今日の晩ご飯、肉じゃが。もうすぐできるよ」

「やった……!疲れたから助かる〜」

変成くん、こう見えて料理上手なんだよね〜。

「聞こえてるよ」

「あ、ハイ」

「手、洗ってきなよ。すぐ盛りつけるから」

「はーい」

玄関に鞄を置き、洗面所で手を洗う。鏡に映る自分の顔は、ほんの少しだけ頬が緩んでいた。

(よし、今日も頑張った!明日は美穂ちゃんとスイパラだから、楽しみ〜!)

「味噌汁、こぼれるよ」

「い、今行くー!」

リビングに戻ると、テーブルには湯気の立つ肉じゃがと味噌汁、それに小鉢が二つ。

「いただきます」

「いただきます」

一口食べた瞬間、ふわっと口の中に広がる砂糖の甘み。

「おいしい!」

「そりゃどうも」

変成くんはいつも通り淡々と食べる。けれど、その目がほんの少しだけ、私を探るように見えた。

「次の審判は、俺も一緒に行く」

突拍子もなく、変成くんが聞いてきた。あまりにも突然だったので、ビクッと体が震えた。

「えっ、な、何で!?」

箸を持ったまま固まる私に、変成くんは静かに笑って言った。

「あれ、気付いてないとでも思った?」

その笑みが、何だか怖くて......。

「な、何のこと……?」

言葉を濁すと、変成くんはため息をついて、味噌汁の椀を静かに置いた。

「ま、何もなくて良かったけど」

そう言うと、変成くんは食べ終わった食器を片付けに行く。

ご飯を食べ終え、リビングでのんびりしていると、ガラッと窓が開く音がした。目線を向けると、雨に降られた宋がいた。

「......どしたの?」

「雨降っててさ〜、二人の家近かったから寄った〜」

「何でいつも、自分の家みたいに勝手に上がるの?あと鍵どうやって開けたの?」

変成くんは呆れながら宋に向かってタオルを投げる。

「やーん、怒らないで〜!」

タオルで頭を拭きながら、ソファにどっかと腰を下ろした。

「あ、肉じゃがあるじゃん。いいなぁ〜、変成くんの肉じゃが。食べていい?」

「駄目」

「ケチ〜」

私は苦笑しながらコップに温かいお茶を注ぐ。

外はすっかり夜。雨が強くなり、窓を叩く音が響いている。

依然として雨はやまず、空は分厚い雲で覆われていた。

回復の兆しが見えない、嫌な天気だった。

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