三話
どうしよう。ついにこの日が来ちゃった......!
ピカピカの真新しい制服に身を包み、鏡の前でもう一度確認する。
そして、何度目か分からないけど、おかしなところがないか制服をチェックする。
今日は、緑学園中等部の入学初日。
普通に頭の良い中高一貫校なんだけど、学校なんて冥府学校以来だし、現世の学校なんて行ったことないからもちろん楽しみなんだけど、緊張する。
とりあえず現世に留まる間は、偽名を使うことにした。そのまま名乗れば、は?って言われそうだから。
私は真宵。
変成くんは楓。
「何、朝から鏡の前で百面相してるの?自分の馬鹿面見てるの?」
「うるさい。変成くんこそ、ちゃんとネクタイ結んでよ」
「これ、首締まるから嫌」
制服のシャツのボタンを三つ開け、ネクタイをポケットに突っ込むというスタイル。
「え、それ絶対校則違反でしょ!」
変成くんは、紙パックの牛乳をズズズッと音を立てて飲みながら、くつろいでいる。
(遅刻しそうになったら、変成くんに運んでもらお。足速いし)
「何で俺が運ばないといけない訳?自分で飛べるでしょ」
私は今、住宅街の屋根をぴょんぴょん飛び越える変成くんの脇の下に抱えられている。
「いやー、便利だね」
「落としてやろうか?」
「ごめん」
素直に謝ると、変成くんは口角を上げてニヤリと笑う。
あ、何か企んでいる顔だ。
「ほら、見えてきた。あれが学校」
視界の向こうに、緑学園の立派な校舎が見えてきた。
「変成くん、あの、もうちょっと手前で――」
「直接校庭に降りた方が早いでしょ」
「え、やめ――」
ドンッ!!
次の瞬間、中庭の芝生の上に放り投げられた。
慌てて受け身を取ろうとするが、顔面からスザーと派手に転んだ。
周りの生徒がポカンとこっち見てる。
(やばい、目立ちたくなかったのに!!)
「あ、これは……えっと......」
口ごもる私の横で、変成くんは気にせずに私を見下ろしている。
女子の一部から「かっこいい……」って声が上がった。
かっこいい......?誰が?変成くんが?いやいや、確かに顔は整っているかもしれないけど、中身はサイコパスだよ?
それから体育館で入学式をして、それぞれの教室に向かう。
「ねぇねぇ、あの男の子かっこ良いよね〜」
「うんうん」
どこからともなく騒ぎだす女子達。
恐らく他のクラスから変成くんを見に来たんだと思うけど、すごい人だかりでびっくりしてしまう。
入学早々こんなに話題になるなんて、すごい人気だよ。まぁ、確かにあのルックスなら無理もないけど......。
さっそく女の子達を敵にまわしてしまいそうだよ。
大人しく机に座ったまま、キャーキャー騒がれる変成くんの様子を遠目に見る私。
すると、突然そんな私の元に男の子達が数人近寄り、声をかけてきた。
「やっほー、初めまして」
「ねぇねぇ、名前なんて言うの?」
「えっ......」
少しびっくりしたけれど、話しかけられてちょっと嬉しかった。
同じクラスだから、挨拶してくれたのかな?
何故か男の子ばっかりだけど、自分から声をかけるのは少し緊張するからありがたいかも。
「私は......白崎真宵です」
私が自己紹介すると、身を乗り出してくる一人の男の子。
「真宵ちゃんマジで可愛いよね。さっき教室に入ってきた時から気になってたんだー!あ、俺は三組の田中良平。良かったら連絡先教えてよ」
「俺も俺も!」
「俺にも教えて!」
田中くんという人が連絡先を聞いてきた途端、他の男子達もスマホ片手に詰め寄ってくる。
「あ、えっと......」
私はその勢いに圧倒されながらも、スマホを取り出してメッセージアプリを開いた。
何かさっそく連絡先を聞かれちゃったけど、同じクラスだし良いよね?みんなフレンドリーで良い子そうだし......と思ったら、急に後ろから手が伸びてきて、メッセージアプリを閉じられた。
「悪いけど、コイツには手を出さないでもらえる?」
その声の振り返ると、怖い笑みを浮かべた変成くんで。
「え?」
田中くん達も驚いている。
そして、私の方に手が伸びてきたかと思ったらギュッと頬をつねられた。
「い、痛い痛い!!」
変成くんは笑顔なのに、その笑みが怖い。
怒ってる......?
(え、何で!?)
怒られる要素あった!?
変成くんの腕をバシバシ叩くが、頬をつねる手はますます強まるばかりで......。
このままだと、頬が取れちゃうよ!!
「聞いてる!?」
「んー、聞いてる聞いてる」
パッと手を離してくれた。頬をさすりながら、変成くんから距離を取る。
「ってことで、コイツから離れてくれない?」
「はぁ!?」
「お前、真宵ちゃんの何なんだよ」
すると、すかさず笑顔で微笑む変成くん。
「何って......友達だけど」
「は?」
「で?コイツに何か用?」
さらにポキポキと手を鳴らし始めたので、その威圧感から何かを感じ取ったらしい男子達は急にしっぽを巻いたように逃げ出した。
すると、ムっとした表情のまま、片手でグリグリと頭を押さえ付けてきた。
「ていうか、何入学早々ナンパ男に引っかかってるの?」
「......え、ナンパ!?」
嘘、今のナンパだったの?
ナンパってチャラ男が街中で『ねーねーおねーさん、今一人?俺とお茶でもしなーい?』って声を掛けてくるイメージがあった。




