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地獄の顔は何度まで?  作者: 安達夷三郎
第五章、温泉旅行
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二十五話

その温泉は、冥府のパワースポットとして人気が高い『極楽湯』だった。

さすがに温泉に動物は無理かもしれないという決断の元、オムライスは泣く泣く手が空いている十王に預けられた。

「いや〜、温泉なんて久々だね〜」

閻魔が荷物を置きながら笑っている。

「半額チケット貰って良かったね〜」

「それな」

「ねぇねぇ、みんなで写真撮って良い?学校のみんなにも見せるんだ〜!」

ごーちゃんがスマホ片手に聞いてきた。

「良いよ〜!」

「じゃあ撮るよ〜!はい、寄って寄って〜!」

ごーちゃんが腕を伸ばして、慣れた手つきで画角を調整する。

「ちょ、近い近い」

「宋の主張が激しい」

「いえーい!」

初江王は少し後ろに下がろうとして、「おい、フレーム外れる」と変成くんに袖を引っ張られている。

わちゃわちゃしている間に、シャッター音が鳴った。

画面を覗き込むと、全員綺麗に撮れていた。

「じゃあ温泉入ろ〜」

宗の一声で、場の空気が一気にゆるむ。

「待て待て、走るな」

「滑ったらシャレにならないからね〜」

初江王と閻魔が軽く注意するが、もう半分は聞いていない。

「じゃあ出たら待っててね〜」

「閻魔〜、二百円ちょうだい」

「後で買ってあげるから、先に出たら待っててね〜」

男子組と別れて女湯の脱衣所に向かうと、週末だからか結構お客さんがいた。

木造の脱衣所、湯気、石造りの湯船。 壁には湯の花の効能が丁寧な字で書かれていた。

脱衣所の端では、先に上がったらしい人たちが団扇で風を送っている。

籠に服を入れながら、その様子を横目で眺めた。

「思ったより混んでるね」

「人気だしねー、ここ」

しばらくして上がると、湯上がり処には、牛乳とコーヒー牛乳にフルーツ牛乳の販売所があった。 ちゃんと瓶で、紙のフタ付き。

冷蔵ケースの前で、自然と足が止まった。

「……悩む」

「全部飲みたい」

「それは無理でしょ」

背後から、変成くんの声がした。

「どれにするかで性格出るよね」

変成くんはそう言いながら、腕を組んで冷蔵ケースを覗き込んでいる。

その後ろでは、宋がケースのガラスに顔を近づけていた。

「なんかこれ、どっかで見たことあるな〜って思ったら人道にもあったよね」

「平等王が昔、人道で衝撃を受けた物の話をしたレコードを出したら、それを聴いたこの女将が冥府に作ってみたらしいな」

「そう言えばレコード出してたよね〜」

「人道の文化、ちょいちょい冥府に逆輸入されてるよね」

「平等王の影響力、地味に強いからな」

宋はまだガラスに張り付いたまま、真剣な顔をしている。

「…よし、フルーツ牛乳に決めた!」

「私はコーヒー牛乳にしよっかな〜」

「私も!」

「変成くんは何にするの?」

「俺は初江王と同じ牛乳」

飲み物を購入し、夜ご飯を食べる為のお座敷で飲みながらメニュー表を見ていると、何処からか「お姉ちゃん、お兄ちゃん!」と幼い声が聞こえてきた。

声の方を見ると、じごさいで迷子になっていた子鬼の男の子だった。

まさかこんなところで会えるなんて思ってなくて、つい反応に遅れてしまう。

「あっ……!」

一拍遅れて立ち上がると、男の子はぱっと顔を明るくしてこちらに駆け寄ってきた。

その近くの座席には弟くんとお母さん、お父さんらしき人物がいる。どうやら家族で来ていたらしい。

「閻魔さま、こんばんは!」

枝豆を摘んでいた閻魔に元気よくお辞儀をする男の子。

「こんばんは、葵くん」

閻魔は枝豆の小鉢をテーブルに置いてから、男の子と目線を合わせて軽く手を振った。

「あれ?閻魔さまと一緒にいるってことは……お姉ちゃんとお兄ちゃん、もしかして、十王なの?」

「正解!」

「すごーい!有名人だー!!」

「じごさいの時は暗くて角があるかどうか見えなかったんだろうね」

「ぶっちゃけ鬼と十王の判別方法って、角があるかないかだもんね〜」

宗がケラケラ笑う。

その時、男の子のお母さんが男の子を呼んだ。どうやらご飯が運ばれてきたらしい。

男の子は机に戻っていった。

「じゃあ僕達もご飯頼もっか」

「今日は閻魔の奢りだー!」

「仕事押し付けられてるし、これくらい頼んでも良いだろ」

「閻ちゃん、オレうどん」

「私もうどん」

「盛り蕎麦…あったあった」

「五官王は昔から盛り蕎麦好きだよねー」

「美味しいじゃん!」

「今さっき、五道からオムライスの写真が送られてきた」

五道(五道転輪王(ごどうてんりんおう))から送られてきたオムライスの写真を見て頬を緩ます初江王。

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