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地獄の顔は何度まで?  作者: 安達夷三郎
第四章、都市王を探せ
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二十三時

「何でここにいるんですか?」

都市くんは一瞬だけ視線を泳がせてから、小さくそう言った。

逃げ道を探すみたいに左右を見るけど、もう完全に包囲されている。

「閻魔から『都市王がいなくなった〜』って招集かけられて今これ」

変成くんがにこやかに笑う。

その笑顔が一番怖いかもしれない。

「で、何してた。定時連絡と会議に出なかった理由を詳しく聞かせてもらおうか」

初江王もうっすら怒っているのが分かる。

私達は巻き込まれないように静かにした。

「ここじゃ人多いから、一旦僕の家に来て下さいよ。そこで話します」

という訳で都市王の家に来たのは良いけど......

玄関を開けた瞬間、全員が固まった。

壁一面。

本当に、一面だった。

「凄っ......」

思わず声が漏れる。

ポスター、ブロマイド、雑誌の切り抜き。

等身大パネルまである。

棚にはアルバムがぎっしり並び、机の上には缶バッジとアクスタが整列していた。

そしてテレビ台や机の上には、恐らく推しであろうアイドルのフィギュア。

「なーなー、何で都市くんの部屋にはお人形が沢山置いてあるの?」

宋が気になったらしく、フィギュアを持ち上げたその瞬間、都市くんが目にも止まらぬスピードでフィギュアを奪い取った。

「触んなぁぁぁ!!」

「え、え!?」

「おいコラ宋帝王!何勝手に僕の推しに触ってんだぁぁぁ!!」

胸ぐらをぐっと掴み上げ、怖い顔で詰め寄る都市くん。

「え、あ......ごめん」

「誰がごめんだよ、『すみません』だろうが!!」

「す、すみません......」

「誰が僕に謝れと言った!?」

宋は都市くんの迫力に負け、フィギュアに対して土下座した。

「あーあ、オタクの逆鱗に触れちゃって」

「オタク?」

首を傾げる宋に変成くんが説明する。

「ある特定の分野に対して熱中し、深い知識を持つ人のことだよ。都市王の場合はアイドルやアニメオタクだね」

「なるほど」

「……で?」

低く落ちた声に、空気が一気に締まる。

初江王だった。腕を組み、都市くんを真っ直ぐ見据えている。

「そろそろ本題に入るぞ、都市王」

都市くんはフィギュアを胸に抱いたまま、そっと棚に戻した。

「定時連絡がなかったのは」

「単純に、スマホの電源が切れてました」

「え?」

宋が素で声を漏らす。

「ライブ前に充電がヤバくて。写真も動画も撮るし、途中で切れたら嫌じゃないですか。それにライブ中は電子機器の使用は禁止ですし......だから一回切って、終わったら充電しようと思ってたんです」

「そのまま忘れたと」

初江王が淡々と補足する。

「……はい」

「で、会議に来なかった理由は?」

一瞬だけ、都市くんの視線が泳いだが、すぐに諦めたように口を開く。

「推しの……握手会がありました」

沈黙。

「ライブの後の特典会で、握手会のチケットが当たったんです。楽しかったですよ、推しのいる生活って良い......!」

幸福そのものの笑みを浮かべながら、都市くんが推しのイラストクッションを抱きしめる。

「良かったね......」

「会議開いた意味なかったね」

「何事もなくて良かったけどねー」

「お前らな......」

初江王が頭を抱えた。

「あ、そうだ!都市くんって来週の週末空いてる?」

ローテーブルの上に温泉チケットを置く。

都市くんはその一枚を手に取り、電気にかざしたりしてまじまじと観察する。

「このチケットって......」

「良かったら行こ!」

「あ、無理です」

即答で答えられた。

「そこを何とか!都市くんが行かなかったら閻魔が穴埋めで行くことになるんだよ〜」

宋が半泣きで都市くんの肩をガタガタと揺さぶる。

「良いじゃないですか温泉。閻魔のお金で満喫(まんきつ)したら良いじゃないですか!」

「都市くん、お願い!」

「無理」

「何で!?」

「その日は推しのサイン会があります!」

全員の声が、綺麗に重なった。

「当選確率めちゃくちゃ低いやつで。しかも名前入りですよ? 世界に一つだけのサインですからね?」

早口で言い切ってコップの水を飲み切る。

「とにかく!僕はそういう大切な用事があるんで、温泉には行けません!」

「「「「えぇー」」」」

一斉に不満の声が上がる。

「本人が断固拒否しているんだ。無理に誘う必要もないだろう」

ため息をつきながら初江王がスマホで温泉のホームページに載っているお土産コーナーを見せる。

「土産は何が良い」

「じゃあこの饅頭(まんじゅう)をお願いしますね」

都市くんはスクロールしながら、十二個入の饅頭を指差した。

「分かった」

「冥府にもアイドルがいれば良かったんですけどね」

「いないもんね〜......もしかして、都市くんの自室に飾ってある写真とかって......盗撮!?」

「なわけないじゃないですか。あれは二次元です!」

「違いが分からない」

「どこが分からないんですか」

都市くんが本気で不服そうな顔をする。

「二次元は公式と制作陣の愛と許可のもとに存在してるんですよ?三次元の盗撮なんて不敬にも程があります。あと普通に捕まります」

「不敬……」

「神格化してる……」

宋と変成くんがひそひそ声で感想を漏らす。

「でも、同人誌は愛読してるんだね」

「......ぐっ」

変成くんの容赦ない言葉に、都市くんがむせた。

「好きな子が画面から出てこない切ない恋しているんですよ!」

「アイドルの子は?」

「あの子は推しです!!」

「ちょっとオレ、違いが分かんない」

宋の言葉に変成くんと一緒に頷く。

「はぁ、やれやれ......推しは推しです。冥府の僕の部屋に飾ってあるのは僕の女達です」

「僕の女達......?」

「それに、二次元なら多少何しても許され―――」

ガンッ。

「もう良いよ」

変成くんは変態になり始める都市くんの頭をわし掴み、机に叩きつけた。

い、痛そう......。

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