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地獄の顔は何度まで?  作者: 安達夷三郎
第四章、都市王を探せ
22/22

二十二話

テレビでは特別番組『貞子』がやっていた。

薄暗い井戸から這い出てくる真っ白のワンピースを着た貞子。

思わず、ソファの端を掴む。

画面の中の貞子は、関節の位置が分からないほど不自然な動きで、じり、じりとこちらに近づいてくる。

その時。

「ねぇ、昼ご飯パスタで良い?」

「ぎゃぁぁぁ!!」

変成くんの声にびっくりして思わず悲鳴を上げてしまう。

「うわ、何......」

「知らなかった。現世では死んだはずの人間が夜な夜な現れたりするんだね......怖っ」

「え、アンタ。今まで何を裁いてきたの?」

変成くんが半目で私を見る。

「冥府の王だって貞子は怖いよ!」

「ただのビビりなだけじゃないの?」

......何も言えなかった。

お昼ご飯を食べ終わってから、出掛ける用意をする。

今日は都市くんの情報を探すのだ。

温泉は来週の週末に行くことになった。本当は平等王を誘いたかったんだけど、その日はどうしても外せない用事があるらしくて、結構閻魔を誘うことにした。

待ち合わせ場所に向かうと、すでに宋と初江王とオムライスがいる。

「あれ、ごーちゃんは?」

「アイツならさっき家を出たって連絡が来た」

「じゃあ待とっか」

しばらくすると、人混みの向こうから見慣れた姿が見えた。

ゆるっとした歩き方で、片手を軽く上げてくる。

「お待たせー」

「二十分遅刻だぞ、走ってこい!!」

「いやぁ、靴下が片方見つからなくてさ」

「子供か」

初江王が呆れたように言った。

「都市くんが現世のどこに行ったのか分かれば良いんだけどね〜」

「結構バラバラに散らばったからね〜」

「都市王がいそうな場所を探すしかないね」

変成くんの提案で私達は都市くんがいそうな場所に向かうことに。

久しぶりに乗る電車は何だか新鮮(しんせん)で楽しくて、乗っているだけでワクワクしてしまった。

人混みを掻き分けて、ようやく辿り着いた先は―――

「......ライブハウス?」

隣の県にあるライブハウスだった。

小さな箱だけど、入口には長蛇の列。

手作りうちわ、推し色の服、トートバッグに大量の缶バッジ。

「え、何ここ......」

「アイドルのライブ会場だね〜」

宋がやけに納得した声で言う。

「都市くんが好きって言ってたアイドルの?」

「うん。確かこのグループだった気がする」

長蛇の列に並ぶ人々を見渡す。

「人多いね」

「ライブ行くにはチケットが必要みたいだね〜。誰かチケット人数分持ってる?」

「「「「......」」」」

宋の言葉にみんな目を逸らす。

(え、チケットいるの......?)

「じゃあどうする?」

変成くんが顎に手を当てる。

「正面突破は無理そうだね」

「やめろ、警察を呼ばれるだろ」

その時だった。

「......あ」

宋が、列の端を指さす。

そこには、黒いキャップにマスク、推し色のタオルを首から下げ、トートバッグを大事そうに抱えた人物がいた。そして特徴的な青髪。

「......都市くん?」

私が小声で言う。

その人物は、整理番号を何度も確認しては、スマホの画面を見て小さく深呼吸をしている。

「「「いたー!!」」」

「案外簡単に見つかったな。閻魔が緊急事態みたいに言っていたが......」

「あれを見る限り大丈夫そうだね」

「ライブが終わるまで近くのショッピングモールに行っておこっか」

「賛成」

近くのショッピングモールは、休日らしく家族連れやカップルで賑わっていた。

さっきまでのライブハウス周辺の熱気とは違って、空気がゆるい。

しばらくして、モールの外が急に騒がしくなった。 ライブが終わったらしい。

「そろそろだね」

変成くんが立ち上がる。

再びライブハウス前へ戻ると、人の波の中に、見覚えのある青髪があった。 両手にはパンパンの袋、肩にはタオル、顔は……ものすごく満足そう。

「……あ」

都市くんは私たちを見つけた瞬間、固まった。

「おかえり〜、都市くん!」

ごーちゃんが笑顔で都市くんの方に駆け寄った。

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