二十二話
テレビでは特別番組『貞子』がやっていた。
薄暗い井戸から這い出てくる真っ白のワンピースを着た貞子。
思わず、ソファの端を掴む。
画面の中の貞子は、関節の位置が分からないほど不自然な動きで、じり、じりとこちらに近づいてくる。
その時。
「ねぇ、昼ご飯パスタで良い?」
「ぎゃぁぁぁ!!」
変成くんの声にびっくりして思わず悲鳴を上げてしまう。
「うわ、何......」
「知らなかった。現世では死んだはずの人間が夜な夜な現れたりするんだね......怖っ」
「え、アンタ。今まで何を裁いてきたの?」
変成くんが半目で私を見る。
「冥府の王だって貞子は怖いよ!」
「ただのビビりなだけじゃないの?」
......何も言えなかった。
お昼ご飯を食べ終わってから、出掛ける用意をする。
今日は都市くんの情報を探すのだ。
温泉は来週の週末に行くことになった。本当は平等王を誘いたかったんだけど、その日はどうしても外せない用事があるらしくて、結構閻魔を誘うことにした。
待ち合わせ場所に向かうと、すでに宋と初江王とオムライスがいる。
「あれ、ごーちゃんは?」
「アイツならさっき家を出たって連絡が来た」
「じゃあ待とっか」
しばらくすると、人混みの向こうから見慣れた姿が見えた。
ゆるっとした歩き方で、片手を軽く上げてくる。
「お待たせー」
「二十分遅刻だぞ、走ってこい!!」
「いやぁ、靴下が片方見つからなくてさ」
「子供か」
初江王が呆れたように言った。
「都市くんが現世のどこに行ったのか分かれば良いんだけどね〜」
「結構バラバラに散らばったからね〜」
「都市王がいそうな場所を探すしかないね」
変成くんの提案で私達は都市くんがいそうな場所に向かうことに。
久しぶりに乗る電車は何だか新鮮で楽しくて、乗っているだけでワクワクしてしまった。
人混みを掻き分けて、ようやく辿り着いた先は―――
「......ライブハウス?」
隣の県にあるライブハウスだった。
小さな箱だけど、入口には長蛇の列。
手作りうちわ、推し色の服、トートバッグに大量の缶バッジ。
「え、何ここ......」
「アイドルのライブ会場だね〜」
宋がやけに納得した声で言う。
「都市くんが好きって言ってたアイドルの?」
「うん。確かこのグループだった気がする」
長蛇の列に並ぶ人々を見渡す。
「人多いね」
「ライブ行くにはチケットが必要みたいだね〜。誰かチケット人数分持ってる?」
「「「「......」」」」
宋の言葉にみんな目を逸らす。
(え、チケットいるの......?)
「じゃあどうする?」
変成くんが顎に手を当てる。
「正面突破は無理そうだね」
「やめろ、警察を呼ばれるだろ」
その時だった。
「......あ」
宋が、列の端を指さす。
そこには、黒いキャップにマスク、推し色のタオルを首から下げ、トートバッグを大事そうに抱えた人物がいた。そして特徴的な青髪。
「......都市くん?」
私が小声で言う。
その人物は、整理番号を何度も確認しては、スマホの画面を見て小さく深呼吸をしている。
「「「いたー!!」」」
「案外簡単に見つかったな。閻魔が緊急事態みたいに言っていたが......」
「あれを見る限り大丈夫そうだね」
「ライブが終わるまで近くのショッピングモールに行っておこっか」
「賛成」
近くのショッピングモールは、休日らしく家族連れやカップルで賑わっていた。
さっきまでのライブハウス周辺の熱気とは違って、空気がゆるい。
しばらくして、モールの外が急に騒がしくなった。 ライブが終わったらしい。
「そろそろだね」
変成くんが立ち上がる。
再びライブハウス前へ戻ると、人の波の中に、見覚えのある青髪があった。 両手にはパンパンの袋、肩にはタオル、顔は……ものすごく満足そう。
「……あ」
都市くんは私たちを見つけた瞬間、固まった。
「おかえり〜、都市くん!」
ごーちゃんが笑顔で都市くんの方に駆け寄った。




