二十話
ぽかぽかとした毛布の温もりの中で、まぶたの裏がじんわり明るくなる。
鼻先をくすぐるのは、ダシの良い匂いとほんのり卵の匂い。
なんか、良い匂い......。
ぼんやりとまぶたを開けると、ちょうど初江王がお盆に何か乗せてきたところだった。
「起きていたのか」
「今起きた......」
寝起きのせいなのか意識がはっきりしない。
机に置かれたのはホカホカと湯気の立つ卵がゆ。
「重くない方が良いと思って作ったんだが......食べれそうか?」
「......ありがとう」
その優しさが、とても嬉しかった。胸の奥がジーンってなる。
スプーンを受け取って、食べ始める。
「帰れるか?」
「......」
下を向いたまま黙る。このまま居座って初江王に迷惑をかける訳にはいかない!
よし、ここは......
「野宿するから大丈夫!」
「は?」
初江王くんが何言ってんだこいつ、みたいな目で私を見る。
「ほら、野宿したら変成くんとも気まずいまま会わなくて良いし、初江王にも迷惑かけないし......」
「はぁ〜〜......」
理由を言ったら言ったで、大きいため息を吐かれた。
こめかみを押さえ、首を振る。
「何故そこで野宿という手段にでるんだお前は......」
初江王の言葉に「だって」「でも......」とゴニョゴニョと言い訳を探す私。
嫌い!って言って飛び出してきた手前、変成くんと顔を合わせるのは気まずい。それはもう気まずい。
(あー、同じ家じゃなかったら良かった)
そしたらきっと気まずくない。
「仕方ない。今日は冥府に帰るよ」
めんどくさいけど......という言葉は飲み込んだ。
「変成王には私から言っておく」
「ありがとう!」
冥府。閻魔庁にて。
「なるほど〜、変成王と喧嘩しちゃったのか〜」
食堂で向かい側に座っているのは、焼き魚を食べる閻魔。
「昔みたいに『嫌いって言ってごめん』って面と向かって言うのは......」
「それができたら苦労しない」
「ん〜、難しいね。何百年も生きてるのに、仲直りの仕方が分からないって相談された時は驚いたよ」
湯気の立つワカメの味噌汁を飲みながら、ため息をつく。
「秦広王は仲直りしたいんだよね?気まずくない方法で」
生姜焼きを口に運びながら頷く。
「え、秦ちゃん喧嘩したの!?」
ふと後ろからそんな声が聞こえた。振り返ると、蕎麦が乗った盆を抱えたごーちゃんが立っていた。
驚きすぎて目がまん丸になっている。
「あー、うん。ちょっとね......」
曖昧に笑うと、ごーちゃんは「ほぉ〜〜」と妙に深い声を出した。
そのまま隣に腰を下ろし、盛り蕎麦を机の上に置く。
「で、誰と喧嘩したの?」
「変成くん」
「マジ!?宋くんじゃなくて!?」
手を口元に当てて驚くごーちゃん。
「五官王は喧嘩した時はどうしてる?」
閻魔がごーちゃんに尋ねた。
彼女は蕎麦をすする手が一瞬固まり、視線を宙に泳がせた。
「アタシはえーっとね、お菓子渡して謝ってるよ」
「気まずくないの?」
「気まずいけど......長引かせたら余計気まずくなっちゃうからね」
「そっかー......お菓子か〜」
「一緒に作る?アタシ、期末テスト終わって暇だから手伝ってあげることはできるよ」
ごーちゃんは鞄から『簡単♡お菓子を作ってみよう!』というタイトルの本を取り出した。
「何作る?簡単のから作った方が良いよね〜」
私よりワクワクしているごーちゃんがページをめくる。
「あ、これとか良さそ〜」
そう言って指差したページには、色んな形のクッキーの写真が載っていた。
「これならお菓子作り初心者の秦ちゃんでも作れそうだね、うん」
「ありがとう!」
こうして、買い出しを済ませて明日の放課後、一緒に作ることになった!




