表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の顔は何度まで?  作者: 安達夷三郎
第一章、ポンコツ閻魔のミス
2/22

二話

それから閻魔庁で発掘したバーベキューセットや材料を運んだりして、ようやくお肉を焼いていく。

変成くんが笑顔で私の袖を引く。

振り返ると、彼は既にお肉を串に刺す作業に集中している。どうして彼が『焼き方係』になってるんだろう。

「......んま!」

「うめぇ!」

「このしいたけ、ちょーだい」

「焼きとうもろこが欲しい人は、手を上げるんである」

そんな平和(?)な空気をぶち壊すように、のんびりした声が響いた。

「――あ、そうそう。誰か僕の代わりに、逃げ出した亡者を送り返してくれないかな?」

閻魔だ。地獄の王が、お肉の匂いに紛れてとんでもないことを言い出した。

その場にいたみんなが、ぴたりと動きを止める。誰も目を合わせない。沈黙が痛いほどに広がった。

「いやー、秦が良いと思うよ」

一番最初に裏切ったのは変成くんだった。

「は!?何で私!変成くんの方が手際良いじゃん!」

「じゃあ、オレはパスー」

「お前やれよ」

「いや、お前がやるんである」

面倒な職場特有の押し付け合いが始まる。閻魔の尻拭いなんて、誰だって御免だ。

閻魔は頭を搔きながら、まるで面倒ごとを整理するかのように言った。

そもそも、閻魔のせいだからね?

「じゃあ、指名しまーす。秦広王と変成王ね」

「「は?」」

気の抜けた返事が見事にハモる。

今、完全に聞き間違いじゃないよね?ねぇ、誰かフォローして。

そんなことを思いながら、自分の取り皿にお肉を移した。火が通り過ぎて固くなってしまった肉ほど悲しいものはない。

「だって、最近君達、仕事してないでしょ?」

「......チッ。バレてたか」

「変成くん、そこはもうちょっと粘ろうよ」

「ちなみに、亡者は中学校にいるみたいだから、生徒として潜入してきて〜」

閻魔の言葉に、私と変成くんはまた固まった。

「……え、今なんて?」

「だから〜、生徒として潜入してきて。制服も用意しといたから!」

そう言ってニッコニコの閻魔は、どこからともなく紙袋を取り出す。中には――

学生服と、女子用のセーラー服。

「待って、それ、まさか……」

「もちろん秦広王はこっち!」

「嫌だよ!!」

即答した。何でセーラー服を着なきゃいけないの。罰ゲームにも程がある。

「えー、似合うと思うけどなぁ」

変成くんがニヤニヤしながら男子の制服を広げる。

「変成くんは着るんだね!?」

「だってこっちのが楽そうだし」

「おかしいでしょバランス!」

閻魔はそんな私達を見て、満足そうに頷いた。

「お願い!全部の亡者を送り返してくれたらお給料アップするから!ね?」

その後、お給料アップを条件に渋々、私と変成くんが担当することになった。

「何で私達があの馬鹿上司の尻拭いしないといけないんだろ......」

廃工場の鉄骨の上に座りながら、ぶつぶつと文句を言う。

「もう地獄道と化しても良いんじゃない?」

「ダメだよ!?」

すかさずツッコミを入れる。変成くんは隣で足をぶらぶらさせながら、まるで遠足の休憩中みたいな顔している。

まったく緊張感がない。亡者を探しに来てるのに、何でこの人はそんなに楽しそうなんだろう。

地獄では平然としてたくせに、人道に来たらテンション上がるとか理解不能。

「……で、亡者の反応は?」

「んー、まだ。多分、近くにいるはずだけど......」

「何?双眼鏡持って、まだ見つかんないの?」

「うん」

軽く悪態をついてくる変成くんの言葉をスルーし、持っている双眼鏡を鞄に片付けた。

(夜ならいると思ったんだけどね〜......いなかった)

かれこれ三十分くらいはこうしているよ。

もう、やめやめ。今日は疲れた。

「で、どこ泊まる?」

「......」

閻魔から『あ、仕事が終わるまでは帰って来なくて良いからね〜』と、言われてたんだった。

(え、最悪)


「......で、えーっと、最低でも2LDKの部屋が借りたいと」

「「はい」」

手元の書類をめくりながら数枚の見取り図を確認している。

はい、不動産屋さんに来ております。

亡者探し、完全にどっか行きました。

「こことかどうでしょうか?」

男性が差し出したのは、郊外の築二十年のアパートの間取り。

「駅から徒歩十五分、スーパーまで五分……」

「ま、俺は何でも良いけど〜......」

ふわぁ......と眠そうに欠伸をする変成くん。

そして見取り図を逆さまに持って眺めていた。

(それじゃ上下逆だから、部屋の広さも何も分からないよ......?)

不動産屋さんの男性が、営業スマイルを崩さぬまま説明を続ける。

「こちらのお部屋は、日当たりも良くて、静かな環境が特徴ですね」

「へー、良い物件ですね!」

「でしょ〜?」

「...で、これ事故物件なの?」

変成くんのひと言で、その場が凍りついた。

「条件が良いのに、この値段......明らかに事故物件でしょ」

「で、で、ででで出ませんよぉぉ?」

一瞬で営業トーンが裏返った。

うん、絶対なんか出るなこれ。

「まぁでも。そういうの、逆にお得じゃない?」

「え?」

「だってほら、入居者少ないなら、家賃下げてもらえるかもしれないし」

「いやいやいや、値引きキャンペーンとかいらないから!でも、できたら家賃半値が良い」

最近、お金が消えていく......。

そんなことを言い合っていると、不動産屋さんが小声で呟いた。

「……実は、以前ちょっと“音”の報告が……」

不動産屋の言葉を最後まで聞かず、変成くんは話しだした。

「まぁ、別に何でも良いや。ここで良いでしょ」

「確かに」

何でも良い、何でも良いから早く横になりたい。

「じゃ、契約書ここにサインお願いします」

不動産屋さんが差し出したボールペンを受け取り、ため息をつきながら名前を書いた。

こうして私達は、“訳あり”な部屋に入居することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ