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灰の剣と、星を宿す少女  作者: formalin
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新たな決意

街から数日後、ジークとイリスは、旅の途中にある小さな村に立ち寄った。ジークが店の主人と話している間、イリスは村の広場で水汲みをしていた。

その様子を、数人の村人がじっと見ていた。やがて、彼らの視線は憎悪に変わり、広場にいたイリスではなく、ジークへ向けられた。

「なぜ、お前が生きている!」

「裏切り者が!お前のせいで、バルザ様が死んだんだ!」

ジークは、その声に気づき、すぐさま村人たちに囲まれた。彼の脳裏に、かつて仲間だった龍神族の戦士、バルザがこの村を救ったときの光景が蘇る。村人たちはバルザに感謝し、その偉大な功績を讃えていた。しかし、バルザの部隊が人間軍に裏切られたことで、バルザは命を落とした。そして今、ジークは、その罪を背負わされ、罵声を浴びせられている。

「どうして、あの方を見捨てた!」

「お前が死ねばよかったんだ!」

村人たちの罵声は、ジークの心を深く抉る。罪悪感と無力感が彼を苛み、投げつけられる石を、彼はただひたすら受け止めた。

その様子を見たイリスは、すぐに駆け寄り、村人たちに向かって叫んだ。

「やめてください!ジークが何をしたんですか!」

しかし、村人たちの怒りは収まらない。彼らの手から、無数の石がジークへと投げつけられる。イリスは、再び叫んだ。

「お願いです!話を聞いてください!」

それでも、村人たちの勢いは止まらない。石は激しさを増し、ジークに容赦なく降り注ぐ。イリスは、彼を守るように前に立つが、その小さな体では限界があった。

意を決したイリスは、両手を広げ、魔力で薄い膜を張った。無数の石は、その透明な壁にぶつかり、音もなく地面に落ちていく。村人たちは、その光景に息を呑んだ。

「ジーク、行きましょう!」

イリスは、動けないジークの手を強く引き、村から走り出した。村人たちは、しばらく呆然としていたが、すぐに二人を追いかけようとした。しかし、イリスが作り出した魔力の膜は、彼らの行く手を阻んだ。

二人は、人通りのない森の奥深くまで逃げた。

野営地に着くと、イリスは傷だらけのジークをそっと手当した。ジークは、無言のまま、彼女の顔を見つめていた。その瞳には、今まで見たことのない、深い悲しみが宿っていた。

「……どうして、何も言い返さなかったのですか?」

イリスの問いかけに、ジークは静かに答える。

「……俺は、バルザたちを救えなかった。だから、何を言われても仕方ない」

ジークの言葉に、イリスは何も言わず、ただ彼の傷を手当し続けた。しかし、彼女は知っていた。彼の心は、体よりも深く傷ついていることを。

その夜、イリスは、ジークの過去を知るために、彼の話を聞き続けた。ジークは、最初は言葉を濁していたが、やがて、かつての仲間との日々、そして裏切りによってすべてを失った悲劇を、ぽつりぽつりと語り始めた。

イリスは、その話を聞きながら、静かに涙を流した。彼女は、ジークの痛みが、どれほど深いものかを理解した。

「……私は、あなたを裏切り者だとは思っていません」

イリスの言葉に、ジークは驚き、彼女の顔を見つめた。

「あなたは、ただ大切な人を守ろうとしただけです。それは、決して間違いなんかじゃない」

イリスの純粋な言葉に、ジークの閉ざされていた心が、ゆっくりと開いていくのを感じた。彼の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。


その夜、ジークはイリスの横顔を見つめながら、己の心の中に深く沈み込んでいた過去と向き合っていた。それまでは罪悪感と喪失感という重い鎖に縛られ、ただ生きているだけの抜け殻のような日々だった。バルザを見捨てたという村人たちの非難は、彼自身の罪の意識を再確認させるだけの、受け入れるべき当然の罰だと思っていた。


しかし、イリスは違っていた。彼は何も話していないのに、イリスはまっすぐにジークの心を見つめ、涙を流してくれた。そして、「あなたは、ただ大切な人を守ろうとしただけ」という言葉は、彼が自分自身を罰するために押し殺していた、本当の気持ちだった。


ジークの心に、一つの確固たる決意が芽生えた。魔法を得るために故郷へ送り届けるという義務ではない。彼の胸に湧き上がったのは、イリスの融和の夢を、そして彼女自身を最後まで守り抜くという揺るぎない覚悟だった。もう2度と大切な物を失うまい。その決意を胸に、彼は静かに夜空を見上げた。


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