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灰の剣と、星を宿す少女  作者: formalin
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夜の静寂

焚き火を囲む夜が明け、ジークとイリスの旅は再開された。数日後、二人は旅の物資を補充するため、小さな街に立ち寄る。

ジークは人目を避けるように行動していたが、イリスは久々の街の賑わいに心を弾ませていた。彼女は、フードを目深にかぶり、尖った耳を隠し、時折唇を噛んで吸血鬼特有の小さな牙が見えないようにしていた。しかし、子供たちが遊ぶ声を聞くと、ついフードを少しだけ外し、目を輝かせながらジークに話しかける。

「ジーク、見てください!この果物、とっても甘そう!」

イリスが指差した果物を見て、ジークの脳裏に、楽しそうに笑うかつての獣人の戦士の姿が、一瞬だけ重なった。ジークは、気づかれないようにそっと、悲しげな表情を浮かべた。その表情は、一瞬のうちに消え去り、再び冷たい無表情に戻る。

ジークは振り返りもせず、ただ冷たく「無駄な話をするな。用件を済ませたらさっさと出るぞ」と返すだけだった。

イリスは少ししょんぼりしたが、すぐに別のものに目を向ける。今度は、街の工房から響く機械の音に興味を持った。

「あの音、なんですか?何を作っているんでしょう?」

彼女がジークの袖を引くと、彼は苛立たしげに手を振り払う。その瞬間、彼の脳裏に、かつて混成部隊にいた人間が、無邪気に機械をいじっていた姿が蘇った。ジークは、その光景を振り払うように、冷たい声で言い放つ。「知らん。俺には関係ないことだ」

ジークの冷たい対応に、イリスはとうとう口を閉ざしてしまう。彼女は少し不貞腐れたような顔で、黙ってジークの後をついていった。

買い物を済ませた二人は、人通りの少ない裏通りから街を出て、近くの洞窟へ向かった。日が落ち、焚き火の光が揺らめく中、ジークは無言で焚き火を見つめる。イリスは、そんな彼の横顔をじっと見つめていた。

「さっき、街で…」

イリスは、意を決して口を開いた。

「あなたが、ふっと悲しそうな顔をしたときがありました。…どうしてですか?」

ジークは、イリスの言葉に動揺した様子を見せた。彼は、自分の感情が彼女に気づかれていたことに驚き、苛立たしげに顔を背ける。

「お前に話すことは何もない」

ジークの冷たい言葉に、イリスは怯むことなく、静かに続けた。

「どうして、そんなに悲しんでいるのですか?あなたに、何があったの?」

イリスの言葉を聞いたジークの表情が、わずかに揺らぐ。彼は、イリスの言葉の中に、動揺を隠せず直ぐには言葉が出なかった。

「……もうやめろ」

ジークは、それだけを言い残し、洞窟から出ていく。イリスは、彼の背中をただ見つめることしかできなかった。

しかし、その夜、イリスは確かに感じていた。ジークの心に、自分と同じような孤独と悲しみがあることを。そして、彼の心を少しでも癒したいと願う、彼女自身の気持ちに気づいたのだった。


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