異世界に転生したら、苦痛を操る魔王だった件
苦痛がある。
それは公理だ。証明不要の、この肉の、鈍い疼き。
コンクリートの床の冷たさが、脊髄を這い上がってくる。
それは、ただ、在る。
次に、叫びが、その苦痛から生まれる。
言葉にならなかった、すべての言葉の、無惨な死骸。
喉を、内側から引き裂く、意味のない音の羅列。
それは、論理の、完全な放棄だ。
そして、祈りが、その叫びの、燃えさしから、立ちのぼる。
それは、宛先のない手紙。空虚という名の、神に向かって放たれる、問い。
なぜ、と。なぜ、と。
その、無限の、問いのリフレイン。
最後に、世界が、そのすべてを、無関心に、包み込んでいる。
初夏の、無慈悲なほどに明るい光。遠くで鳴る、サイレン。蝉の声。
それは、無音のカメラのように、ただ、事実を記録し続ける。
そして、私は、
その、世界と、
苦痛と、
叫びと、
祈りの、
その、巨大で、矛盾した、全体を、
今、文字にする。
この、黒い、インクの染み。
この、モニターの上の、冷たい光の点滅。
これが、私の戦場だ。
これが、私の答えだ。
これが、すべてだ。