偽婚師
ついひと月前結婚した
そして先日離婚した
確かに好きだった、愛していた
声も、顔も、体も、全てにイエスと言えるほどに、彼女を愛していた。
でも気づいたんだ、「好き」だった感情が、いつの間にか僕の中で「彼女を助けなければ」という使命感に似たなにかに変わっていたことに
「結婚」という手段を使い、辛い家庭環境にあった彼女を僕は自由な場所へ連れ出した、ある意味助けることになったと思ったんだ
そんな目的を果たし安堵した僕の目の前にいたのは、僕を見つめて優しく微笑む責任という重りと、世間体という鎖だった
あんなに好きだったのに、あんなに愛し合ったのに
好きだと言えなくなった、愛せなくなった
自分勝手な理由で、愛してくれた彼女に別れを告げた
「なんで」って、「私じゃダメなの」ってそう僕を引き止めてくれるその声が苦しくて、泣きながら僕を見るその顔が辛くて、「行かないで」って僕の手を引くその体が酷く小さく見えて壊れてしまいそうだった
自責で潰れそうになる、後悔で狂いそうになる
死んでしまいたかった
なのに
「やっぱり僕じゃ幸せにしてあげられない」そんな言葉を吐いて逃げた
そして誰も幸せにできない、クズだと気づいた
これはそんな自分勝手で、最低で、臆病な男の話
「書面上の結婚をすることで無理やり身柄を引き取る者」
偽婚師として生きた話