エピック66【魔獄界】
クリミナルデビルの本拠点——荘厳かつ禍々しい雰囲気に包まれた玉座の間。黒曜石で作られた玉座に腰掛けるスペルヴィアの前に、一人の女性が静かに召喚された。彼女は黒いメイド服に身を包み、頭にはフードを深くかぶっている。フードの影から覗く瞳だけが冷たく光り、口元は布で隠されて、表情の一切が読み取れない。
スペルヴィアは玉座の肘掛けに指を叩きつけ、ハキハキと声を響かせる。
「セレスティア・夜神、お前には任務を与える。ジョンアイデルを始末しろ!差別や偏見を無くすためには必要なことだ」セレスティア・夜神は微動だにせず、ただ一つ、小さく頷いた
「承知いたしました、主様」低く、抑揚のない声が返ると、彼女はくるりと背を向け、玉座の間を静かに去っていく。黒いメイド服の裾が床を滑る音だけが、しばらく空間に残された場面はキヴォトスのメインルームに移る。壁一面には各種計測器の光が瞬き、中央には先ほどの装置が鎮座し、今なお微弱なエネルギーの波動を放っている。ジョンアイデルは装置の前で腕を組み、満面の笑みを浮かべながらハキハキという。
「いや~、まさか、今まで回収したデビルアイテムを膨大なエネルギーに変換できるとはね! さすがはエルパだな! オレも頭の中では考えてたんだが、実際に形にするなんて出来なかったよ。そのおかげで、界域超越のワームシステムまで作れたんだからな!」エルパはノートパソコンの画面を指しながら、照れくさそうに笑う。
「そんなに褒められると照れちゃうわ。でも、アイデルが集めてくれたアイテムがあってこそよ。このシステムがあれば、魔獄界との行き来も安全にできるはずよ」クレティアは漂うオカルトカードを手に取り、頷きながら言う。
「これで準備は万端だね。あとはいつ出発するかだけだ」シトリーは白い翼を小さく広げ、ハキハキと言い放つ。
「行くにしても私の力は必須だ。魔獄界の空間の歪みや獄力の干渉は、普通の術では防げない。私がいなければ、ワームシステムだって安定して作動しない」その言葉が響くメインルームの片隅、物陰に身を潜めたセレスティア・夜神は、フードの下で冷たい瞳を細める。心の中で密かに呟きが巡る。
「(なるほど、アイツがジョンアイデル…だが、あの魔精が本当に障壁になるの?うまく利用すればいいのかもしれない…いやいや、私に下された使命は彼を処理することだ。余計な考えは捨てろ)」彼女は黒いメイド服の裾をそっと押さえ、息を潜めたまま、ジョンアイデルたちの会話に耳を澄まし続けた。ジョンアイデルは腕を組み、物陰の方向を鋭く睨みながらハキハキと声を上げる。
「出発する前にどうやら誰か紛れ込んでるな…、出てこいよ! こそこそ行動しても無駄だ。熟練以上の感知スキルがあるし、ましてや、この舶で隠密なんか無理だぜ!」彼の言葉に、メインルームの空気が一瞬で張り詰める。物陰に潜んでいたセレスティア・夜神は、フードの下で眉をひそめ、心の中で舌打ちをする——「まさかこんなに早く見破られるとは思ってもみなかった。」セレスティアは物陰から躍り出ると、腰に差した黒いナイフを抜き放ち、一直線にジョンアイデルへ飛びかかる。だが、勢い余って足元が滑ったのか、突然体勢が崩れ——「きゃっ!」短い悲鳴と共に、彼女の体は傾き、飛びかかる途中でジョンアイデルの顔に柔らかな感触が当たった。セレスティアの胸が彼の頬に軽く打ち付けるように触れ、その反動で二人はその場によろめいた。ナイフは手から滑り落ち、床にカチャリと音を立てて転がる。セレスティアはフードが少しずれ、慌てて口元の布を直しながら、顔を真っ赤にして後ろに飛び退った。ジョンアイデルは頬の感触を残したまま、少し顔を赤らめながら困惑気味に言う。
「女か中性か…」セレスティアはフードの下で瞳を怒らせ、ハキハキと言い返す。
「女だったらなんだって言うの…! 貴様を始末する! スペルヴィア様が目指す、差別や偏見のない世界を作る上で、貴様は邪魔だからだ!」彼女は床に落ちたナイフを拾おうと手を伸ばしかけるが、すぐに踏みとどまり、再びジョンアイデルたちに向けて警戒心を露わにした。ジョンアイデルは慌てて手を振り、ハキハキと声を上げる。
「待て待て、俺も差別や偏見はなくしたいんだ! だが、俺の方法は話し合いで解決することだ!」セレスティアは一瞬動きを止め、フードの下の瞳を大きく見開き、ハキハキと驚きの声を上げる。
「なんですって!?」ジョンアイデルは手をゆっくりと下ろし、セレスティアの目を真っ直ぐ見つめながらハキハキと話し続ける。
「どうやら会話や意思疎通は可能だな。まあ、聞いてくれ! 俺は確かにクリミナルデビルの邪魔はしてるがそれはスペルヴィアが物界や魔獄界を壊して作り直し、支配することで差別や偏見をなくそうという極端な方法を取ろうとしてるからなんだ!」セレスティアはフードの下で眉をひそめ、ハキハキと反論する。
「界域を壊す? そんなことは一度も聞いたことがないわ! スペルヴィア様はただ…」その言葉を遮るように、クレティアが一歩前に出て、ハキハキと言い放つ。
「彼奴がバカ正直にそんなことを言うわけがないでしょ! そんなことを正直に言えば、お前みたいな者を利用できなくなるし、下手すりゃ神界の神々に目をつけられてしまうからね。だからこそ、『差別や偏見をなくす』という綺麗な言葉だけを使って、お前を動かしているのよ」セレスティアは言葉に詰まり、フードの下で唇を噛みしめながら「私は…私は…」と繰り返すばかりで、それ以上の言葉が出てこない。信じてきた主の真実が突然揺らぎ、混乱が心を支配しているようだ。そんな彼女の様子を見ながら、ジョンアイデルは腕を組み、周囲の空間を確かめるように視線を巡らせながらハキハキと告げる。
「にしても、キヴォトスのワープ機能を作動させてるし、この場から外には出せないな。お前がこのまま敵対するにしろ、話し合うにしろ、一旦ここに留まってもらうしかないぜ」セレスティアはフードの下でジョンアイデルを睨みつけ、自身の手を握り締めながらハキハキと分析するように言う。
「君を始末するにしても、どうも簡単ではなさそうね。傷を負ってもすぐに再生しそうだし、まるで不死身のようだわ。封印術式を使おうにも破られそうだし、能力を封じようにも全く隙がない…」彼女はため息をつきながら、肩の力を少し抜く。今の状況では、どんな手段を取ってもジョンアイデルに勝てる見込みがないことを、はっきりと認めたようだ。ジョンアイデルは胸の前で手を開き、敵意のないことを示しながらハキハキと告げる。
「俺はお前をどうこうするつもりはない。これからどうするかは、全部お前自身の判断に委ねるぜ」セレスティアはフードの下で瞳を瞬かせ、驚きと疑問が入り混じった声でハキハキと問い返す。
「殺しにかかった相手に、そんなことを言うの? 普通、敵対してきた相手にそこまで寛容になれるものかしら?」その瞬間、キヴォトス全体が激しく振動し、空間に裂け目が走った。界域超越システムがフル稼働し、青く輝く光の壁が押し広げられるようにして——硬い殻を破るような鈍い音が響き、界域の壁が砕け散った。次の瞬間、視界が一変する。明るかったキヴォトスの内部が暗転し辺りは赤黒い空に覆われ、地面からは黒い煙が立ち上っている。空には三つの月が歪んだ形で浮かび、遠くからは魔物の雄叫びが聞こえてくる——そこはまさに、魔獄界だった。
キヴォトスは魔獄界の荒野に静かに着地し、船体のエネルギーランプが低く鳴り響いた。ジョンアイデルは窓の外の光景を目にし、拳を握り締める。
「ついに…着いたか、魔獄界!」セレスティアはフードの下でその光景を見つめ、驚きと戸惑いが入り混じった表情を浮かべながら、身動き一つせずに立っていた。キヴォトスの扉が開き、ジョンアイデル、クレティア、そしてセレスティアが外に踏み出す。
目の前に広がるのは、まるで天空に浮かんでいるかのような草原の大地だった。柔らかな草が風にそよぐが、空は赤黒く染まり、どこか異質な雰囲気が漂う。そして、大地の中心には、荘厳かつ巨大な宮殿がそびえ立っている。ジョンアイデルは宮殿の方向を見つめ、手を胸に当てながらハキハキと言う。
「あの宮殿は魔王殿か…。しかし、なんだか不思議だな、体の底から通じるようなものを感じるんだ」セレスティアはフードの下でジョンアイデルの横顔を見つめ、彼の全身から立ち上る気配を探りながらハキハキと告げる。
「ジョンアイデルからは原初の魔族の気配も感じるの。赤、青、黄、緑、紫、黒、白、金、銀——すべての属性の気配が混ざり合ってる。今の魔獄界の魔皇は、原初の金だと聞いてるわ」ジョンアイデルは指を折りながら状況を整理し、ハキハキと語る。
「魔獄界は0〜9層に分かれてると聞く。今いるのはまさに0層だな。9層には特に用はないから、わざわざ行く必要もない。俺たちの目的はマレブランケだ。この勢力を我々側に引き込むことができれば、大きな前進になるはずだぜ!」セレスティアはフードの下でジョンアイデルを見つめ、驚きと評価が入り混じった声でハキハキと言う。
「マレブランケを自分の勢力に置くかどうかまで考えてるなんて…思ってた以上に色々と計画を立ててるのね。スペルヴィア様よりも、よほど先のことまで考えて行動してるんじゃないかしら」キヴォトスから降り立ったジョンアイデルたちは、層の境界を越えて一層へと足を踏み入れた。
目の前の光景は0層とは少し異なっていた。地面は依然として草原だが、柔らかな緑の草は姿を消し、枯れ切った茶色い草が一面にびっしりと生い茂り、風が吹くたびにさらさらと音を立てている。そして、視線を上げると、枯れ草の原の彼方には、いくつかの高層建築物が無機質な姿を晒して立ち並んでいた——まるで、かつての文明の名残か、あるいは魔獄界独自の発展を遂げた街の一部のようだった。ジョンアイデルは手で枯れ草をかき分けながら、建物の方向を見つめる。
「ここが一層か…。枯れ草ばっかりだが、建物があるってことは、誰かが住んでるか、拠点にしてる可能性があるな。マレブランケの手がかりも、この辺りにあるかもしれないぜ」その時、枯れ草の茂みの向こうから一人の魔族が姿を現した。漆黒の髪が風になびき、紅い瞳が冷たく光る。だが、背中には魔族らしからぬ真っ白な翼が大きく広がっている。彼は一歩一歩ゆっくりと近づきながら、静かな口調で告げる。
「マレブランケに会うとか言ってますが、やめたほうがいいですよ。奴らは気まぐれすぎるし、交渉の余地はほぼないかと思いますが」ジョンアイデルは一歩前に出て、相手の目を真っ直ぐ見つめながらハキハキと問いかける。
「何か知ってるんですか!?」黒髪赤瞳の魔族——黒月のルナーロは、白い翼を小さく震わせながらハキハキと答える。
「私は原初の黒の配下、通称、黒月のルナーロです。マレブランケは確かに数多くの功績を立てた英雄ですが、それと同時に反英雄でもあるんです。魔族だろうと他種族だろうと、目的のためなら無慈悲に殺すことも厭わない、そんな一面もあるんですよ」ジョンアイデルは眉一つ動かさず、信念を込めた声でハキハキと言い切る。
「だとしても、俺はやっぱり話し合ってみたいんだ! もしかしたら、何か誤解があるかもしれないし、彼らなりの考えや事情があるのかもしれない。それを確かめもせずに、諦めるわけにはいかないんだ」ルナーロはジョンアイデルの瞳をじっと見つめ、白い翼をゆっくりと畳みながらハキハキと告げる。
「貴方、やはりそっくりですね…原初の黒と。雰囲気も、物事に対する考え方も、まるで同じ血が流れているかのようです」ジョンアイデルたちは枯れ草の原を進み、やがて岩壁に大きく口を開けた洞窟を見つけた。洞窟の入り口には古びた石の階段が奥へと続いており、これが階層を降りるための道だと直感した。
「ここが一層から二層へ降りる道か。行ってみよう!」ジョンアイデルが先頭に立って洞窟へと足を踏み入れ、ルナーロ、クレティア、セレスティアが続く。洞窟内は薄暗く、壁には魔光を放つ鉱物が青く輝いているだけで、足音だけが響き渡る。階段を下りきると、視界が再び開けた——そこは二層だった。一層の枯れ草の原とは打って変わり、辺りは黒い岩肌が剥き出しの荒野になっていた。空には赤い霞が立ち込め、地面からは時折、黒い炎が吹き上がる箇所も見える。遠くにはいくつかの岩山がそびえ、どこか荒廃した雰囲気が漂っていた。ジョンアイデルは周囲を見渡し、拳を握り締める。
「ここが二層か…。マレブランケの手がかりは、この先にあるのかな」ルナーロはジョンアイデルたちの後ろから、洞窟の出口の方向を指し示しながらハキハキと告げる。
「第8圏に行くには、普通に階層を降りていくだけではたどり着けませんよ。途中で閉ざされた門があるんです。それを開けるためには、『罪禍の宝玉』を入手しておくべきです」ジョンアイデルは一瞬目を見開き、すぐに表情を引き締めてハキハキと言う。
「なるほどな…。それと、今更だがセレスティア、お前、体に紋を刻まれてるな」セレスティアはフードの下で頷き、自身の腕をそっと抱えながらハキハキと答える。
「ええ、スペルヴィア様に刻まれたのです。この紋は、私が彼に忠誠を誓った証でもあります」その瞬間、ジョンアイデルの頭の中に突然、無機質な声が響き渡った。
——「《個体名:セレスティアは間違いなく利用されてます》」ジョンアイデルは思わず頭を押さえ、眉をひそめる。突然の声に驚きながらも、すぐにセレスティアの方を見つめ、その瞳に複雑な色を浮かべた。ジョンアイデルは突然の声に驚き、身構えながら周囲を睨みつけ、ハキハキと怒鳴る。
「だ、誰だ!? どこから声がしてる!?」すると、再び頭の中に無機質な声が響き渡った。
——「《解、個体名:ジョンアイデルは新たなる能力に目覚めました。叡智が目覚めました》」ジョンアイデルは頭の中の声に向けて、困惑しながらも真剣な表情でハキハキと問いかける。
「人格ありの能力か…。で、どうすればいいんだ? これからどう動けばいい?」すると、叡智の声が再び頭の中に響き渡り、明確な助言を告げる。
——「《個体名:セレスティアに対し、虚構の概念を応用した契約洗脳解除の術を使用することをお勧めいたします》」ジョンアイデルはセレスティアに向けて手をかざし、淡い光が彼女の体を包み込む。すると、彼女の腕に刻まれていた紋がゆっくりと薄れ、やがて完全に消え去った。
「一体何を…?」セレスティアは驚き、自身の腕を見つめながら戸惑う声を上げる。ジョンアイデルは手を下ろし、彼女の様子を見守りながらハキハキと問いかける。
「気分はどうなんだ? 何か変わったことはないか?」セレスティアは頭を抱え、記憶の断片がよみがえるように瞳を瞬かせる。
「私…なんでここにいるの? 一体何があったの?」ジョンアイデルは頷き、確信を持った声でハキハキと告げる
「思ったとおりだな。お前、スペルヴィアに騙されてたんだよ。彼の契約に縛られて、本来の自分の意思を失ってたんだ」セレスティアはさらに記憶を辿り、はっとした表情でハキハキと言う。
「そうだった…確か、私、ジョンアイデルの始末を命じられた気がする。命令に逆らうと、私は役立たずだと言われて消されるから…だから、従うしかなかったの」ジョンアイデルはセレスティアの肩にそっと手を置き、安心させるように柔らかい声でハキハキと言う。
「だから、契約紋を刻まれてたんだな。セレスティア、大丈夫だ。契約紋を消したからもうそんな心配はない。お前はもう自由なんだ」セレスティアはジョンアイデルの目を真っ直ぐ見つめ、胸に手を当てて深く頷き、ハキハキと誓いの言葉を口にする。
「じゃあ、私は貴方に忠誠を誓います。これからは貴方のために、私の力を尽くします」ジョンアイデルは少し考え込むように顎に手を当て、真剣な表情でハキハキと問いかける。
「つまり…それは、メイドとして俺に仕えるってことか?」セレスティアは瞳を輝かせ、真剣な面持ちでハキハキと言う。
「はい、あなたの専属になりたいです。貴方だけに仕え、貴方のためだけに力を尽くしたいのです」ジョンアイデルは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかい笑顔を浮かべ、頷きながらハキハキと応じる。
「わかった。それなら、俺の専属になってくれ。これからよろしくな、セレスティア」ジョンアイデルたちは二層の荒廃した荒野を進み、再び階層を降りるための洞窟を見つけた。洞窟内は前の層よりもさらに暗く、壁には赤く輝く鉱物が不気味な光を放っていた。階段を下りきると、視界が開け——そこは第三圏だった。第三圏は一面に灰色の霧が立ち込め、辺りの景色がぼんやりと霞んでいる。地面は固く凍ったような土に覆われ、時折、霧の中から無数の根のようなものが地表に這い出しているのが見える。遠くにはいくつかの廃墟となった建物が霧に隠れるように佇んでおり、どこか静かで、だが張り詰めたような雰囲気が漂っていた。ジョンアイデルは霧の中を見渡し、手をかざしながらハキハキと言う。
「ここが第三圏か…霧が濃くて先が見えにくいな。だが、マレブランケの手がかりはこの先にあるはずだ。気をつけて進もうぜ」一行は霧の中を手探りで進み、時折根のようなものをかき分けながら第三圏を探索していた。すると、霧が少し晴れた先に、石造りの重厚な扉が見えた。扉には古びた装飾が施され、周囲には魔術的な結界の痕跡も感じられる。
「ここは…まるで宝物庫のようだな」
ジョンアイデルが声を上げ、扉に手をかけると、ゆっくりと内側に開いた。中に入ると、広い空間に無数の棚や箱が並び、壁には魔具や装飾品、古い書物などが飾られている。一部の品々は淡く光を放っており、どれも貴重なものであることが窺えた。ルナーロは翼を小さく動かしながら周囲を見渡し、ハキハキと言う。
「ここは確かに宝物庫のようですね。何か重要なものが隠されているのかもしれません。もしかしたら、先ほど言っていた罪禍の宝玉もこの中にある可能性がありますよ」セレスティアはジョンアイデルの側に立ち、警戒しながら辺りを見守る。
「気をつけてください、ジョンアイデル様。何か罠が仕掛けられているかもしれません」ジョンアイデルは宝物庫の奥にある台座に目を移すと、そこに一つの宝玉が鎮座しているのを見つけた。黒を基調に、赤と紫の禍々しい模様が渦巻くように浮かんでおり、触れれば何か恐ろしい力が牙をむくかのような威圧感を放っている。
「これが…罪禍の宝玉か?」ジョンアイデルは一歩近づき、台座の上の宝玉をじっと見つめながらハキハキと呟く。宝玉が安置された大きな台座の前には、ひと回り小さな台座が置かれていた。その上には、一つの指輪が静かに輝いている。
ジョンアイデルが興味を惹かれて指輪を手に取ると、指輪は自然と彼の左腕にはめられていたソロモンの腕輪の一部にすっと収まり、まるで元からそこにあったかのように一体化した。よく見ると、指輪の表面には、魔術的な紋様であるパイモンのシジルが鮮やかに刻まれているのが見えた。
「これは…パイモンのシジルが刻まれた指輪か? ソロモンの腕輪に合うなんて、不思議なものだな」
ジョンアイデルは腕輪に収まった指輪を見つめ、驚きながらもハキハキと呟く。その瞬間、ジョンアイデルのインベントリーから突然、黄金に輝く一冊の本が浮かび上がった。本はゆっくりと宙に浮き、自動的にページがめくれていく。やがて一つのページで止まると、そこから眩い光が溢れ出し、光の中から一人の存在が姿を現した。それがパイモンだった。
パイモンは優雅な身のこなしで光の中から降り立ち、ジョンアイデルの方を向いて柔らかな笑みを浮かべる。
「おや、こうしてまた会えるとは思いませんでしたよ、ジョンアイデル殿。指輪の力で私を呼び出してくれたんですね」ジョンアイデルは突然の出来事に少し驚きながらも、すぐに表情を整えてハキハキと言う。
「パイモン…! お前がこの指輪から現れるのか。まさか、こんな形で再会するとは思わなかったぜ」クレティアは目を丸くしてパイモンとジョンアイデルを見比べ、驚いたように問いかける。
「知り合いなの?」ジョンアイデルはパイモンの方を向き、懐かしそうな表情でハキハキと答える。
「ああ、幼少期の頃、俺の家庭教師をしてくれたんだよ。だけど途中で急に行方をくらましちまって…俺、ずっと心配してたんだぞ」その言葉が終わるやいなや、ジョンアイデルの傍らに浮かんでいた金色の本と、彼が持っていたディヴァインバイブルがゆっくりと近づき、互いに重なり合うように融合し始めた。眩い光が二冊の本を包み込み、やがて光が収まると、そこには一冊の荘厳な本となって浮かんでいた。表紙は黄金と神聖な白が混ざり合い、独特の気配を放っている。ジョンアイデルは融合した本を見つめ、驚きの声を上げる。
「ディバインバイブルと魔精の本が一つになったのか…」すると、パイモンがすぐに訂正するようにハキハキと告げる。
「魔精の本じゃなく、ソロモンの秘本ですよ。この本は、ソロモン王が遺した魔術と知識の集大成とも言える重要な書物なんです」ジョンアイデルは融合した本をじっと見つめ、感慨深げにハキハキと言う。
「ソロモンの秘本とディバインバイブルが一つになったのか…。この本に名前を付けるなら…『秘典』だな。何か、それがふさわしい気がするんだ」一行は宝物庫を後にし、再び第三圏の霧の中を進んでいた。やがて、岩壁に大きく口を開けた新たな洞窟を見つけた。洞窟の入り口には古い石の階段が奥へと続いており、前の層へ降りた道と同じような雰囲気が感じられる。ジョンアイデルは洞窟の入り口に立ち、奥を見据えながらハキハキと言う。
「ここを下れば四圏にいけるな。さあ、行こうぜ」




