エピック48【第二試合の日】
二日目、会場に雷鳴のような号砲が鳴り響く
マルスの声がスタジアムに響き渡る。
「さあ、格闘技大会第二試合は!アリク選手とレグ選手!」アリクとレグ。言葉を交わさず、ただ静かにリングへ。その姿は、まるで研ぎ澄まされた刃のよう。言葉など不要。全てはリングの上で、拳と拳で語り合うのみ。静寂が、観客の期待と緊張を最高潮へと高めていく。今、激闘の幕が切って落とされる。レグの口角が上がる。
「アリク、この舞台で君と拳を交えられるとは、光栄の極みだ」
アリクは涼やかな眼差しを返す。
「同じく。長年の鍛錬、今こそ決着をつけよう。どちらが頂に立つか、見せてやる」静かに火花を散らす両雄互いの実力を認め合うからこそ譲れない。観客のボルテージは最高潮に達した。マルスの声が鋭く響く。
「さあ、第二試合開始!」銅鑼の音が会場に鳴り渡り、闘いの幕が上がった。静寂と緊張感が漂う中、二人の戦士は一瞬の静止を経て、激烈な戦いへと身を投じていく。観客の期待と興奮が一つになり、試合の行方に目が離せなくなる瞬間だ。試合開始の合図と同時に、アリクが仕掛けた。 渾身の飛び蹴りが炸裂するかと思われた瞬間、レグは紙一重でこれを回避。その流れに乗じ、レグの拳がアリクの側頭部を捉えた。 会場がどよめく。まさに電光石火、一瞬の攻防で試合の主導権を握ったのは、ラグか!?体勢を崩したアリクだが、間髪入れずに反撃開始! 怒涛の前方蹴りを連発する! レグの腹部へ的確に叩き込まれる蹴り。観客の息をのむ音が響く。一瞬にして形成逆転か!? アリクの猛攻に、レグはどう立ち向かうのか!?レグは涼やかな笑みを浮かべ、ハッキリと言った。「やはり、そのスピードは脅威だ。だが、どんな強者であろうと、俺は負けない」アリクが間合いを詰めようと踏み込んだ瞬間、レグは冷静に足払いを繰り出す。体勢を崩したアリクに、ラグは容赦なく両のこめかみへチョップを叩き込んだ。 会場が騒然となる。 鮮やかな足払いからの痛烈な一撃!。レグの冷静さと技術が光る、完璧な流れだ。アリクはこめかみへの強烈な一撃で、大きく体勢を崩した。その隙を見逃さなかったラグは、アリクの足首を掴む。次の瞬間、アリクの体が宙を舞う。ジャイアントスイングだ。会場全体が、どよめきと興奮の渦に巻き込まれる。アリク、必死に耐えているが、遠心力との戦いだ。ラグの容赦ない攻撃に、会場のボルテージは最高潮に達する。
ラグがアリクを壁へ叩きつけようと投げ放つ。 だが、その瞬間、アリクは驚異的な反応速度で空中で体勢を立て直した。 壁を蹴り、加速をつけた反動で繰り出されたのは、渾身のフライングクロスチョップ。会場が爆発したかのような歓声に包まれるまさかの展開! 絶体絶命のピンチを起死回生の一撃に変えたアリク、この一撃で、試合の流れは大きく変わるのか!?だが、ラグは冷静だった。空中で体勢を崩したアリクの腹に、正確無比な蹴りを叩き込む。 さらに、間髪入れずに渾身のストレートナックルを顔面に叩き込んだ。アリク、大きく体勢を崩す。 ラグの的確な攻撃に、会場は静まり返る。一瞬の隙を逃さない、ラグの冷静さと技術が光る。ラグは追撃の手を緩めない。勢を崩したアリクに、さらに追い打ちをかけるように強烈な蹴りを叩き込む。アリク、完全に動きが止まったか!? ラグの猛攻が止まらない会場からは悲鳴にも似た声が上がる
ラグはハッキリと言った。
「アリク、貴様の力はこんなものじゃないだろう」アリクもハッキリと答える。
「そうだ! 終わらせない! 見せてやる、真の力を!」アリクは自分の右手の親指を軽く噛み切った。するとアリの触覚が生え、百足を人型にしたような姿になった会場は騒然となる。一体何が起こったんだ!?観戦席から、ジョンアイデルが呟いた。 「あれは…、蟲化か」アリクはムカデのような無数の手で、雨あられの如く拳を繰り出す。 その拳はレグを捉え、容赦なく叩き込まれる!レグは苦悶の表情を浮かべ、呻いた。
「クソッ! 素早さが段違いに上がったか!」アリクはハッキリと宣言する。
「さらに、こうだ!」その言葉と同時に、アリクの背中から翅が生え始めた。それは、トンボと蝶の中間のような、美しくも不気味な羽根だった。アリクは空へ舞い上がると、ムカデのように伸びた胴体を叩きつける。 その衝撃と同時に、強烈な蹴りをレグに叩き込む! 空中からの予測不能な攻撃に、レグは対応できるのか!?しかし、レグは渾身の力でそれを受け止めた。衝撃波が会場を揺るがす。 果たして、レグはアリクの猛攻に耐えきれるのか!?レグは雄叫びを上げながら、渾身の力を込めて技を繰り出す!
「反転曲芸!」アリクの胴体を掴むと、バックドロップの要領で頭から地面に叩きつけた!アリクの異形の胴体が宙を舞う! そして、頭部と上半身が凄まじい勢いで地面に叩きつけられた! 大地が震え、土煙が舞い上がる!アリクは、この衝撃に耐えられるのか!?アリクが地面に叩きつけられた瞬間、小規模ながらも凄まじい爆発が発生した!一体何が起こったのか!? 会場全体が騒然となり爆煙の中から、アリクの声が響く。
「なるほどな、プロレス技も組み込んでるとはね。だが、それで勝てるとでも?」その直後、レグの強烈なドロップキックがアリクの腹部に炸裂する。アリクは強烈なドロップキックを受け、まるで砲弾のように吹き飛んだ。 そして、観客席側のフェンスに激突。 そのフェンスからは、危険な電気がバチバチと放電されている アリク、絶体絶命か!?アリクは電気フェンスに打たれながらも、信じられないことに、まだ立ち上がった。レグはアリクに冷静に言い放つ。
「お前、知らずのうちに一つ戦法を潰してるんだよな。その姿じゃ、足技使いづらいんじゃないか?」アリクはレグの言葉に呼応するように、ハッキリと答える。
「足技だけが、私の戦い方ではない!」そして、レグに向かって、まさかの噛みつき攻撃を繰り出した。レグの体内にアリクの毒が侵入する。「クソッ、毒だと!?」痺れ、吐き気、激しい痛みがレグの意識を蝕むアリクは嘲笑う。
「フフフ…どうした〜? 動きが鈍いぞ、レグ。その毒は、お前の自慢の力も奪い去るだろう。諦めて、ここで朽ち果てるがいい!」しかし、レグの目はまだ闘志を宿していた。
「この期に及んで、まだ奥の手を隠し持っていたか! だが、ここで倒れるわけにはいかない! この毒が回る前に、決着をつけてやる!」レグは己の限界を超え、絶望的な状況を打破できるのか!?激痛と痺れの中、レグは冷静に噛まれた箇所を絞る。肉が裂け、血が噴き出す
「(そうだ…、あの時も毒蛇に噛まれた時は、こうして毒を絞り出したんだ…!)」過去の記憶がレグを支えるアリクは冷笑を浮かべた。
「無駄だ。絞ったところで、もう遅い!」レグの額から脂汗が滴り落ちる。噛まれた箇所は紫色に変色していく。それでもレグは諦めない。強靭な精神力と生命力が、僅かに毒の進行を遅らせている。レグは苦悶の表情を浮かべながらも、覚悟を決めたように叫んだ。
「仕方ない! こっちも出すとしようか、奥の手をね!ウオオーーー!」レグはまず、自身の顔を軽く引っ掻くような動作をした。すると、彼の頭部はみるみるうちに姿を変え、羊の角が生えたジャッカルのような異形へと変貌した。次に、胴体を両手で軽く引っ掻くような動作をする。すると、今度は胴体がネコ科の猛獣のような逞しい姿に変化した。さらに、足は猛禽類のように鋭い毛と爪が生えて、腕にはワニのような硬い鱗が生え始めて最後に蛇の尻尾が生えた。 一体、何が起ころうとしているのだろうか!?変わり果てたレグの姿に、アリクは目を見開いて驚愕する。
「な、なんだその姿は!? まさか、お前も…!」レグの体から溢れ出す、圧倒的な力。 ジャッカルの頭部は鋭い嗅覚でアリクの位置を捉え、ネコ科の胴体はしなやかな動きを可能にする。猛禽類の足は大地を掴み、ワニの腕は強靭な防御力を生み出す。そして、蛇の尻尾は予測不能な攻撃を繰り出すだろう。レグは静かに呟いた。「ああ、そうだ。私もまた、異形の存在。エルカトリアの神獣と崇められた動物すべてが融合したキメラそのものだ!これはお前にだけ、いい格好はさせないさ。」まるで悪夢の具現化のような異形こそが、レグの決意の表れ。彼は、己の全てを賭けて、アリクに立ち向かう。観戦席のジョンアイデルは、レグの変貌を見て確信する。
「やはり、レグさんから感じた気配は、天族と神獣キメラのものだったか…。神獣キメラの力…それに加えて天族の血も混ざっているとは…!」天族は様々な種族の力を取り込める。レグは、その力で自らの肉体を改造したのか!?レグの蛇の尻尾が鞭のようにしなり、アリクを襲う!その速度、威力は凄まじく、アリクは辛うじて防御するのが精一杯。しかし衝撃は凄まじく、体は大きく吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「ぐっ…! なんだこの力は…!」レグの尻尾の一撃は、ただのアリクへの攻撃ではない。それは、体勢を崩し、次の攻撃への布石。休む間もなく、レグはアリクに襲いかかるだろう。果たして、アリクは、この猛攻を凌ぎ切ることができるのか!?蛇の尻尾での一撃の後、間髪入れずにレグは猛禽類の爪が生えた足で強烈なキックを繰り出す。アリクの体を捉えた爪キックは、鋭利な刃物のように皮膚を切り裂き、肉を抉る。 アリクは激痛に顔を歪め、苦悶の声を上げる。
「がああああ!」観戦席のジョンアイデルは、レグの攻撃パターンを分析し驚愕する。
「多彩な攻撃…! まさか、レグさんはそれぞれの部位の特性を最大限に活かして戦っているのか…! ジャッカルの嗅覚で敵の位置を把握し、ネコ科の俊敏性で接近、ワニの腕で防御し、蛇の尻尾と猛禽類の足で攻撃…! まさに死角なし!」深手を負ったアリクだが、まだ戦える。レグの攻撃パターンを見抜き、反撃の機会を伺っているはずだ。果たして、アリクはレグの猛攻を凌ぎ、反撃することができるのか!? 次の瞬間、何が起こるのか、予測できない!血を吐き出しながらもアリクはハッキリと言い放った。
「魔力を使った技じゃないなら、格闘大会では何をやっても大丈夫なんだろう! ならば…ポイズンベール!」次の瞬間、アリクの口から大量の毒液を噴き出し、自身を覆い尽くした彼の身を包んだ毒のヴェールは、見るからに危険なオーラを放っている。迂闊に近づけば、ただでは済まない…。観戦席のジョンアイデルは、アリクのポイズンベールの危険性を指摘する。
「ポイズンベール…! 毒を操る能力か…! しかも、あれはただの毒ではない。神経毒、血液毒、細胞毒…様々な毒が混ざり合った複合毒だ! 迂闊に触れれば全身が麻痺し、細胞が破壊され、死に至る…!」ポイズンベールを纏ったアリクは、もはや近づくことすら困難な存在となった。レグは、どのようにしてこの難局を乗り越えるのか!? 遠距離攻撃か、それとも新たな力を使うのか!? 次の展開から目が離せない!アリクの毒のヴェールに対し、レグは冷静に言い放った。「無駄だ! ウィングブロワー!」その瞬間、レグの背中から巨大な怪鳥の翼が生え、激しく羽ばたき始めた巻き起こる強烈な突風が、アリクの毒のヴェールを吹き飛ばしていく。毒のヴェールを吹き飛ばされても、アリクはニヤリと笑った。
「そう来たか…! だが、お前には毒が回っていることを忘れてはいないよな!」次の瞬間、アリクの拳が、毒に蝕まれ、動きの鈍ったレグの体を捉えた その拳には、ありったけの力が込められており、レグの体を大きく揺さぶる。アリクの渾身の一撃を受けたものの、レグの闘志は未だ衰えず、逆にその目に宿る炎は激しさを増す。
「終わりにする!」レグは体勢を崩しながらも、アリクを逆さまに抱きかかえ、ベアハッグの体勢で空へと飛び立った! まるで獲物を掴んだ猛禽類のように!
「シューティングデスバレー!」叫びと共に、レグは急降下を開始! アリクの頭部をめがけて、地面へと叩きつける。その速度、威力は、まさに必殺!レグの必殺技、シューティングデスバレーが炸裂する。 アリクの頭部が地面に叩きつけられた瞬間、凄まじい衝撃が周囲を揺るがす。 地面にはクレーターができ、それと同時に小規模の爆発が起きアリクは断末魔の叫びを上げる。
「グアアアアア!」アリクは意識を失い、完全にノックアウトした。直後、試合終了のブザーがけたたましく鳴り響き、レグの勝利を告げるアナウンスが、高らかに会場全体に響き渡った。
「勝者、レグ選手! 見事な勝利です!」勝利を確信したレグは、高らかに宣言した。
「神獣の力を思い知らせたり!」レグは元の姿に戻り、意識を失いぐったりとして元の姿に戻ったアリクをまるで壊れ物を扱うかのように丁寧に抱き起こした。そして、その体を優しく背中に背負い、深々と頭を下げた。観客席からは、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。レグは、その声援に応えるように、ゆっくりと、しかし力強く歩き出した。その背中には、先程まで激しい戦いを繰り広げていたアリクが、静かに寄り添っていた。レグは、一歩一歩、勝利の余韻を噛み締めながら会場を後にした。レグはアリクを丁寧に救護室へ運び込んだ。しばらくして、アリクは意識を取り戻し、レグに語りかけた。
「いい試合だったぜ、レグ。種族能力まで出したのに負けちまった、ハハッ。まあ、お前に負けても屈辱とかは思わないぜ。寧ろ、なんか、清々しい気分だ。」レグはアリクの言葉に頷き、答えた。
「そうか。毒を入れられたときは少しヒヤッとしたがね。進めるところまで進む。それが勝った俺のお前への最大の敬意になるかもしれんな。」
レグは、救護室で毒抜きと傷の治療を受け、体を回復させると、アリクに別れを告げ、救護室を後にした。アリクは、完全休養のため、そのまま救護室に残ることになった。レグは競技場へと続く廊下を歩いていると、そこでジョンアイデルと出会った。
「ジョンアイデル、お前とこうやって話すのは久しぶりだな。ちょっと付き合え。」レグはそう言うと、ジョンアイデルの肩に手を置いた。ジョンアイデルは、レグの申し出に快く同意した。
「ああ、構わないよ。レグ、君と話したいと思っていたんだ。」レグはジョンアイデルを連れて、人気のない空き教室に入った。
「なあ、お前、やはり、男でありながら女でもあるな。確信したぜ!だが、今までは男寄りに育てられたんだろう。貴族は男か女かで育て方が違うからな。まあ、ジェンダーレスな考えをする貴族自体が珍しいからな。」
レグの言葉に、ジョンアイデルは少し眉をひそめた。しかし、すぐにいつもの冷静さを取り戻し、毅然とした態度で答えた。
「んでさ、それがどうしたんだよ。俺は俺だ。性別が男だろうが女だろうが、あるいは両性こと中性であろうがな。」レグは、さらに問い詰めるように言った。
「お前はこれから先の性別が両性であろうといいということか。」ジョンアイデルは、少し苛立ちを滲ませながら、語気を強めて答えた。
「フン、同じことを言わせるな!俺は俺だ!性別のどうこうではない、大事なのは心のあり方だろうが!」レグはジョンアイデルの言葉に納得したように頷いた。
「心のあり方か。尤もなことだな。お前の信念は変わらんか。なるほど、分かった。」そして、話題を変えるように、レグは言った。
「俺とお前は次の試合では誰と当たるかは今の段階では分からんがもし、俺とお前で当たったらいい試合しような。まあ、第三試合はおそらくだが、クレティア嬢と萌愛だろうし。」ジョンアイデルは腕を組み、女生徒同士の試合について思案するように呟いた。
「女生徒同士か…、侮れないってことだろうな。油断は禁物だ。しかし、二試合も間が空くのは、正直、退屈だな。まあ、それもまた一興なのか。」と、冷静な分析の中に、わずかな退屈さを滲ませた。レグは、どこか名残惜しそうな口調で言った。
「アリクがすぐにでも動ける体なら、ジョンアイデルとの手合わせを願いたいところだがな。残念ながら、彼は当分休養が必要だ。まあ、焦らず、彼の回復を待つとしよう。」ジョンアイデルはふと疑問に思ったように尋ねた。
「ワルプルギスのメンバーって、変身能力持ちで大半が構成されてるのかな?」レグは少し考えてから答えた
「少なくとも、会長、副会長、俺、アリク、ケルド、萌愛、クレティア嬢、そして、ジョンアイデルは変身能力持ちだってことは判明している。だが、他のメンバーがどうなのかは、まだ分からないな。」ジョンアイデルは、ふと疑問に思ったように尋ねた。「しかし、格闘大会って、だいたい1年以上連続で出てる人が多いんですね。ワルプルギスのメンバーは何年在籍してるんですか?」レグは答えた。
「だいたいは長い人で3年以上だな。今の中で一番長いのはルミカさんとアルさんとノアさんくらいだね。ルミカさんは一昨年からだから。ちなみにルミカさんは、一回留年してるけど、皇族の血を引いてるからな。」ジョンアイデルは、少し確認するように言った。
「そうなんですか。しかし、特別高等部は最高で4年ですよね、確か。」レグは答えた。
「ああ、そうだな。君達が卒業したら、ワルプルギスはどうなるんだろうな。まあ、生徒会幹部のみが残るって感じかな。ワルプルギスというのも元々は、生徒会と、それに同格の者と統括理事長が認めたものの集まりという意味合いだしな。SMOもそこは分かってるだろうし。」ジョンアイデルは、決意を新たにするように言った。
「実績を今年、来年、再来年で納めないとな。問題を片付けるのも、来年までに、か。」レグは、ジョンアイデルの心を見透かしたように、真っ直ぐ見つめて言った。
「お前、今、ふっと思ったんだろう。クリミナルデビルとの決着は、来年までにつけると。なあ、それなら、できる手伝いを俺たちにさせてほしい。お前やクレティア嬢、そしてルミカさんだけじゃ荷が重いだろう。それにさ、ミクスタッドの将来は、なにもクレティア嬢、ルミカさん、舞華、ゼレスだけの問題じゃない。ワルプルギスのメンバー全員に共通することだ。」ジョンアイデルは、少し考えた後、決意を込めて言った。
「そうか……。ならば、君たち、ワルプルギスを頼ろう。SMOはどうも胡散臭いところがあるから、完全に頼れるかどうか分からないしな。」場面は変わり、クリミナルデビルの本拠地、玉座の間。そこに、スペルヴィアが座っていた。
「恩羅院大陸にも魔科学を仕掛けないといけないし……うーむ、誰に任せるか。」スペルヴィアは、顎に手を当て、思案するように呟いた。その時突然、スペルヴィアの影が揺らめき、そこから一人の人影が現れた。
影から現れた人影は、静かに、しかしはっきりと告げた。
「この私にお任せください。」スペルヴィアは、顔を上げて人影を見つめ嬉しそうに言った。
「おおー、これはアルカナのトリスティシア!お前が行ってくれるのか。」
トリスティシアと呼ばれた者は、静かに、しかし力強く答えた。
「はい。アルカナのトリスティシアことデカラビア、任務を遂行しましょう」トリスティシアは、影のような空間の歪みに身を潜め、恩羅院大陸の中心、アルカシティの広場の地下へと向かった。
「さてさて、悲嘆の願いを叶うべく、ココに魔科学を設置させてもらおう。犠牲は出ることは悲しいが、あの方の命だ。恨むなら、差別した自分たちを恨み嘆きなさい。」そう言うと、トリスティシアは禍々しい色の釘がついた球体の魔科学を設置した。設置された魔科学兵器は静かに起動し、他の国との魔科学と共鳴し始めた。トリスティシアが地上に出ると、なんと、ジョンアイデルと出くわした。ジョンアイデルは、警戒するようにトリスティシアを見つめ、問い詰める。
「お前、何者だ?穢れを感じるな。まさか……。」トリスティシアは、冷静に、しかしどこか楽しげに答えた。
「お初にお目にかかります、ジョンアイデルさん。私はスペルヴィア様の側近の一人、アルカナのトリスティシア。真名をデカラビアと申します。」ジョンアイデルは、驚きと警戒を露わにして言った
「まさか、隠し球を持っていたとは……恐るべきだな。」その時、トリスティシアの隣に、新たな人影が現れた。
「ここで会うとはね……ケーッケケケケケ。」新たな人影は、奇妙な笑い声を上げながら、自己紹介した。
「我はスペルヴィア様の側近の一人、チャトランガのフーリオース。又の名はフラウロス。」ジョンアイデルは、視線を二人に一気に注ぎ、鋭く言った。
「今までのメンバーとは違うな。お前ら、人為的に混ぜられた存在か。」トリスティシアは、声にほんのりと締まりを見せつつハキハキと答えた。「その通りだ。元々は人間だが、異種族の遺伝子をスペルヴィア様に入れられたんだよ。私達は、元人間でも障害を持ってるだけで差別された…。そんな世界は…」言葉の途中で途切れ、トリスティシアの瞳には、過去の傷跡のようなものが浮かんだ。フーリオースは目を血走らせるように輝かせ、声をギャラギャラと鳴らしながらハキハキと叫んだ。「潰して〜壊して〜殺す〜!差別や偏見するヤツらも、虐げる者もォ、そして…邪魔者をォ!」その叫び声には、過去の恨みが渦巻くような狂気と、ある種の固い決意が混じり合っていて、周囲の空気まで凍りつくような圧迫感を生んでいた。ジョンアイデルは真っ直ぐフーリオースを見つめ、決断のようにハキハキと叫んだ。「させるわけにはいかない!そんなことがあってはならない」フーリオースは鼻先で笑うようにして、ハキハキと指示を飛ばした。
「アルカナ、お前は先に戻れ!コイツは俺が始末する」するとトリスティシアは一言も返さず、すぐに周囲の影に身を潜め、瞬く間に姿を消していった。ジョンアイデルは周囲のアルカシティ広場をひとめ見渡し、少し焦り混じりにハキハキと言った。
「まさか、街中での戦闘になるとは……住民に危害が及ぶ前に仕掛けなきゃ」その瞬間、フーリオースは刃の生えた棍棒を右手に、片手銃を左手にしっかり構え、体に力が込むように身構えた。その姿からは先ほどの狂気が一層際立ち、周囲の風まで刃のような冷たさを帯び始めた。フーリオースが一気に刃をジョンアイデルに振り下ろす。その一撃をジョンは素早く体をかわし、逆に強烈な蹴りをフーリオースの胴元に打ち込んだ。フーリオースは勢い余って吹き飛び、背中から壁に激突し、大きな音を立てた。
「コイツ…、なんだ…、純粋な身体能力でこれか…」フーリオースは苦しそうに眉をひそめつつ、ガクリと立ち上がった。
「今回は引くか。だが、次こそはお前の最後だと思え!」そう叫ぶと、フーリオースは刃のついた棍棒をぐるぐると振り回し周囲に砂塵まみれの竜巻を起こし、その渦の中に姿を隠していった。ジョンアイデルは竜巻の残りかすが舞う空気を見つめ、少し溜め息混じりにハキハキと言った。
「スペルヴィアの側近か…、クリミナルデビル、どれほどメンバーがいることやら。今度はアルカナとチャトランガという新しい称号まで出てくるとはな…」その声には、未知なる敵の数に対する警戒感と、再来年までの決着に向けた重圧感がにじんでいた。




