エピック45【影去り種残り】
アルカシティの最上空に浮かぶミクスタッド邸は、夜霧を切り裂くように光を放っていたが、その内部は妙な静けさに包まれていた。つい先ほどまで、屋敷には“外敵の影”が確かに存在していた。アスモディンことアルテンとマモーンことアヴィンが学園に仕掛けた“情報の罠”が作動し、その余波が屋敷へと押し寄せてきたのだ。しかし、ジョンアイデル、クレティア、舞華、ゼレス、そしてワルプルギスメンバーの介入により、危機は辛うじて回避された。敵は去った。──だが、“種”だけは確かに残っている。
「完全に、消えた……か?」ゼレスは窓枠に手を掛け、外に広がる雲海に視線を落とした。その横で、舞華は刀を肩に担ぎ、一歩たりとも気を緩めることなく警戒を続けている。
「気配は残っていないわ。でも……妙なのよね。」
「妙?」 クレティアがその言葉に反応し、可愛らしい耳を揺らした。
「ええ。敵が残した“情報の楔”が、どこかに刺さってる。まだ、何かが続く気配がするの。」舞華はそう答えると、クレティアは息を吸い込み、薄く微笑んだ。
「つまり“種”が撒かれてるってこと?なら……芽を出す前に私たちで摘まないとね。」ジョンアイデルは、クレティアの言葉に静かに頷いた。彼は依然として味覚、痛覚、疲労感が欠落したままだが、感情はまだ残っているため、以前よりも“心の揺れ”が表に出やすくなっていた。「……今の俺じゃ足りないかもしれないが、動くなら一緒だ。影が何を残したにせよ──放置はできない。」ジョンアイデルの強い決意が、屋敷の空気を震わせるように、その場にいた全員に伝わった。屋敷のリビングでは、ワルプルギスのメンバーも緊張感を共有していた。ルミカは巨大な魔導端末を操作し、立体投影で都市の監視データを表示している。ルミナは空気を揺らす光の羽根を背後に浮かべ、ジョンテイルは剣を膝に置き、アルとノアも常に外界へ感覚を研ぎ澄ませている。
「……ねぇ、ジョンアイデル。」ルミカが振り向いた。彼女の瞳は冴えわたっている。
「敵が撤退したのはいいんだけどね……あのふたり、あからさまに“何かを仕込んで逃げた”動きだったよ
「やっぱり、そう見えるか。」ジョンテイルが腕を組んだ。
「完全撤退って感じじゃなかった。むしろ“第一段階が終わった”って顔。あれは、そういう動き。」ノアが補足する。
「たぶん彼らは“学園内部の混乱”を狙ってる。潜入してるんだもん。裏で動く気マンマンだよね。」クレティアは尾を揺らして言った。
「何か次のことが始まる前に、もう一件……“影の残した仕事”を片付けておくべきかもね。」話が進む中、ジョンアイデルは胸に手を当て、うっすらと眉を寄せた。
「……どうしたの、アイデル?」クレティアがすぐに気づき、寄り添う。ジョンアイデルはハキハキと答えた。
「いや……変なんだ。影が残した“種”を考える時、俺の中で妙なざわつきがある。」クレティアは質問する。
「ざわつき?」ジョンアイデルはハキハキと答えた。
「感覚の欠落とは別の……直感だ。影が残した“目的”が、俺か──いや、俺の“内側”に触れようとしている感じがする。」その瞬間、ルミナの表情が真剣に変わった。
「……ねぇジョンアイデル。それってたぶん、普通じゃないわ。」
「どういうことだ?」ジョンアイデルが問う。
「あなた、感情が残ってて、そして“感覚以外”が鋭くなったんでしょ?記憶とも、直感とも違う領域が。なら、敵が残した“種”は──ジョンアイデルの概念領域を狙ってる可能性が高い。」 沈黙が落ちる。概念領域。ジョンアイデルが"虚構+因果+共栄"の神格に至る可能性を持つ、その核心部。そこを狙う“影”。舞華が低く呟いた。
「……もしそれが本当なら、敵はジョンアイデルを利用するつもりだったってことよ。影が去っても、“意図”は残ってる。」ルミカが端末を操作し、ひとつの画面を表示した。それは── クロニクル学園のコロッセオ開催案内。格闘技大会のスケジュール、そして、生徒データ。そこに、二つの名前があった。アルテンとアヴィン。しかもスポンサー側についているようだ。舞華が顔を上げた。
「生徒なのにスポンサー側につくとは。」ゼレスは鼻で笑った。
「種がどこで芽を出すか……ここかよ。分かりやすいな。」クレティアがジョンアイデルの手を握る。
「ジョンアイデル。あんたは大会に出るんでしょ?今回はあなたの戦いが中心になる。……でも、あの二人はスポンサーつまり観察者だよ、しかも、背後にはやはりリヴァイアサンがいるみたい。」ジョンアイデルは静かに立ち上がった。心の揺れは確かにあるが、揺れながらも前へ進む芯は揺るがない。
「影は去った。だが残った種は、必ず芽を出す。なら──芽を出した瞬間に、俺たちで摘むだけだ。」屋敷の上空を、夜風が通り抜けた。影の気配はもう無い。だが、目に見えない“意図”だけが、確かに空気の底に残っていた。一方、アレイスターサイドでは、格闘技大会の観客やスポンサー一覧を仔細に調べていた。アレイスターはハキハキと分析する。
「アルテンとアヴィンがスポンサー側か。スポンサーの1人にリヴァイアサンか。ステージギミックを提供したから、その代わりにそちらの計画に干渉するなってことか。」シャウラは進言する。
「どうなさいますか?相手はおそらくクリミナルデビル、我々SMOとは敵対組織。何か手を打たなければ。」
アレイスターは、断言するように言った。
「SMOからの来賓はカトレアとトライが来ている。加えて、本部特殊部隊も既に招集済みだ。」シャウラは焦燥感を隠せない口調で言った。
「総帥は一体何を考えているんでしょうか。敵の狙いは絶対にジョンアイデルさんですよ。まずい状況なのは間違いないですよ。」その後、ヤンロエルが現れた。
「アレイスター、格闘大会のほうの仕込みはキチンとしてるんだろうな。お前の手腕はいつも驚かされてる。今回は魔科学ギミックまで入れているんだろう。わざわざそこまでするってことは、ただの体技測定ではなく演出にも凝っているんだろう。」シャウラは語気を強めて言った。
「総帥、いつまでも敵に好き勝手させるつもりですか。未だ、各国にある問題も片付いていません。穢れの問題、そして、正体不明の魔科学、さらには学園に潜伏者まで。これは非常にまずい状態ですよ。」ヤンロエルは冷静に答えた。
「ヤツラが決定的なことをしない限り動けないんだ。それまでの間は災害対処などもする必要がある。各国の穢れの対処もだが、災害も起きているのは事実だ。」アレイスターは淡々と言った。
「そうだな、こちらの問題はこちらで対処する。だが、人員が足りないんだよな。あと2人ほどいてくれれば助かるが。」ヤンロエルは軽く答えた
「ならば、いつも暇している二人を着かせる。それでいいか。」その言葉が終わるか否かのうちに、一人の人影が現れた。金髪が陽光を浴びて輝き、口元には愛らしい牙が覗く。身長は175cm、Gカップの豊満な胸を抱えた、ケモミミメイドのような姿の女性だった。
金髪のケモミミメイドは、にっこりと微笑み、深々と頭を下げた。
「私はフレロアディです。お役に立てるよう頑張りますね。」そして、フレロアディが挨拶を終えるか否かのうちに、もう一人の人影が現れた。きちっとした白のスーツに身を包み、頭には可愛らしいウサギの耳が生えている。身長は155cmと小柄ながらも、Dカップの豊かな胸が目を引く女性だった。
うさ耳のスーツ姿の女性は、キリッとした表情で軽く会釈した。
「私はバニーロです。任務、遂行します。」アレイスターは、フレロアディとバニーロを静かに見つめた。そして、二人に契約紋を刻み込む作業に取り掛かった。
「これで、君たちは正式に私の戦力となる。」シャウラは鋭い眼差しでアレイスターを見つめ、ハキハキと問い詰めた。
「アレイスターさんって、アッシにも契約紋をつけたじゃないですか。この二人にも付けるってことは、計画の上に必要だからですよね?」アレイスターは冷たい視線をシャウラに向け、ハキハキと突き放すように言った。
「いらん詮索をするでない。君は君の仕事をこなしなさい。」ヤンロエルは冷静な口調で、しかし強い警告を込めてハキハキと言った。
「シャウラもそうだが、いずれは返してもらうよ。あくまでも、君の手伝いだから。それに、計画は今の二年生が卒業するまでの間で行うんだろう。そこを履き違えてはならん。いくら親友の君でも、違えた場合は厳しいことをする。」アレイスターはどこか他人事のように、しかしわずかに皮肉を込めてハキハキと言った。
「おお~、怖っ…。そこまで愚かな真似はしないよ。やだなー。」ヤンロエルは鋭い洞察力で、アレイスターの核心を突くようにハキハキと言った
「おそらくだが、君の計画の要は二人だろう。ジョンアイデルくんとクレティアさん。」アレイスターは覚悟を決めたような、そしてどこか狂気を孕んだ笑みを浮かべながらハキハキと言った。
「やはり気付いてたか。私はその二人の成長のため、学園を円滑にするためならなんだって利用する。それが敵であろうとね。」ヤンロエルは納得したような表情で、まるで謎解きをするようにハキハキと言った。
「腑に落ちた部分があるな。わざわざ、潜伏者を知っておいて知らせない。あえてわざと潜らせてる。ジョンアイデルくんやクレティアさんに揺さぶりをかけて成長を促す算段か。」ヤンロエルは厳しい口調で、アレイスターに釘を刺すようにハキハキと言った。
「だが、もしSMOや学園の存立の危機に迫らせたら、お前はどうなるか分かってるだろうな。」アレイスターは静かに、しかし確固たる決意を込めてハキハキと言った。
「わかってる。」アレイスターは冷笑を浮かべ、心の奥底に潜む狂気を露わにした。
「(偉そうに釘刺してるつもりだが、別に私の計画は学園さえあればどうとでも出来るんだよ。SMO?そんなのは建前だ。ヤンロエル、君も所詮は同じ罪を背負いしもの。)」ヤンロエルは鋭い視線を向け、容赦なくアレイスターの痛いところを突くようにハキハキと言った。
「そもそも、君は君で直属の部下を持つのに、それでも、人員が足りないってことはそれほどかなり大掛かりなことをするのか。子息もいるのにな。まあ、元妻であるローズにもマリアにもリアにも見捨てられて、子息にまで異常者認識されてるんだっけ。」アレイスターは苛立ちを隠せず、挑発的な態度でハキハキと言った。
「君、今さらその話ししたところでなんになる。それで傷でもえぐって弱みを握るつもりか。」ヤンロエルは冷静な口調で、アレイスターの動揺を見透かすようにハキハキと言った。
「弱みを握るとかそういう言い方するってことは、何か疚しいことあるのか?」アレイスターは激昂し、怒りを露わにしてハキハキと言った。
「くだらん!不愉快だ!出てけ!こちらの邪魔をするな!」ヤンロエルは一瞥をくれ、静かにその場を去った。場所は変わり、クリミナルデビルの本拠点にある研究所。一体何が待ち受けているのだろうか……。クリミナルデビルの幹部たちが集結したのである。テリオン、ベルフェ、ベリアル、リヴァイアサン、そして遅れてアスモディン、マモーン、一体、何が始まるのだろうか。テリオンは冷静沈着に、計画を読み解くようにハキハキと言った。
「リヴァイアサン、お前、学園のほうに向かうのか。もしや、提供した魔科学のデーター採取か。そして、アスモディンとマモーンを生徒として潜入させて、スポンサー側の席につかせるか。私も研究のために観客に紛れるかな。」リヴァイアサンは余裕のある態度で、許可を与えるようにハキハキと言った。
「それはご自由にどうぞ。まあ、そういうことは咎めはしないだろうし、おそらくスペルヴィア様や他の幹部達も見に行くだろうし。」玉座の間には、威厳に満ちたスペルヴィア達が一堂に会している。緊張感が漂い、何かが始まる予感がする。スペルヴィアは興味深そうに、決意を込めてハキハキと言った。
「あの学園でイベントがあるみたいだな。よーし、ここは偵察のため行くか。クロニクル学園に。」シズズは冷静に、疑問を投げかけるようにハキハキと言った。
「スペルヴィア様、それはそうとインヴィディアはどうするんですか?ヤツを解放しないんですか?」スペルヴィアは寛容な態度で、決断を告げるようにハキハキと言った。
「もうお仕置きに牢獄に閉じ込めておくことはないな。それに、アヤツにも世間ってのを知ったほうがよかろう。」シズズは無機質な足音を響かせ、地下牢へと続く階段を下りていく。鉄格子に囲まれた一室、そこに幽閉されているのはビューネだ。ビューネはシズズの姿を認めると、冷笑を浮かべながらハキハキと言った。
「随分と長い仕置きをするもんですね。半年近くも幽閉とは」シズズは感情を押し殺した声で、ハキハキと応える。
「お前はそれほどのことをしたんだから仕方なかろう。」シズズは無言で鍵を取り出し、重々しい音を立てて扉を開ける。
「アタシを解放するんですか、今になって」ビューネは驚きを隠せない表情で、シズズを見つめた。その瞳には、警戒心と僅かな期待が入り混じっている。シズズは冷徹な眼差しで、諭すようにハキハキと言った。
「計画を進めるためだ。お前はこれからも理不尽を目のあたりにする。もう少し了見を広げろ!それが完醒者への近道だ。」ビューネは興味深そうに、知識を披露するようにハキハキと言った。
「完醒者…。神格者に似た存在ですよね。概念体のなかでもなれるものは幾つかしかいないと言われる。」シズズは現状を説明するように、簡潔にハキハキと言った。
「そうだ。あれから半年以上近くたった。学園もSMOもせわしく動いてる。そして、ジョンアイデルとクレティアは教養を深めてる。」ビューネは探るように、確認を求めるようにハキハキと言った。
「完醒者になってるのも中にはいるということですね。」シズズは簡潔に、肯定するようにハキハキと言った。
「そうだ。」ビューネは高らかに、決意表明するようにハキハキと言った。
「アタシの原動力は嫉妬。恨み妬み嫉みこそがアタシの存在意義。擬態の概念の真価をこれから先発揮させる。」牢から出ると、ビューネの黒に近い緑のオーラは一層強まっている。その禍々しい輝きは、内に秘めた強烈な感情を物語っている。場面変わってベヒモスサイド、ベヒモスは力強く、はっきりと、ハキハキと言った。
「アスタロト、ベルゼブド、俺たちも動くぞ。自由に行動してはいい。ただし、目立つように動くな。」 その声には指示と警告が込められていて、周囲に緊張感が走る。ベヒモスの威圧感が、場の空気を一層引き締めているね。ベヒモスの隣には、異様な存在感を放つ生き物が現れた。それは、巨大な河馬のような体躯に、犀のような力強い脚と角を備えているその異質な組み合わせは、見る者に畏怖の念を抱かせる。ベヒモスは、少し意外そうに、しかし親しみを込めてハキハキと言った。
「ヒッポタムン、お前もついてくるのか?」ヒッポタムンは、ベヒモスの言葉に呼応するように、力強い鳴き声を上げた。それは、忠誠心を示す返事のようにも聞こえる。場面は変わり、妖艶な雰囲気を漂わせるベリアルと、怠惰な気配をまとうベルフェと移る。二人は対照的な存在感を放ちながら、何かを企んでいるようだ。ベリアルは真剣な眼差しで、しかし少し照れくさそうにハキハキと言った。
「ベルフェ、ここに呼んだのには実は伝えたいことがある。俺、君のことがどうやら好きになったみたい。」
ベルフェは驚いた様子を見せながらも、冷静にハキハキと言った。
「そう…。だけど、その返事は今はしないでおくよ。何もけじめつけてないし。」ベルフェの言葉には、戸惑いと慎重さが入り混じっている。ベリアルは核心を突くように、問い詰めるようにハキハキと言った。
「けじめっていうのはクリミナルデビル絡みか。」ベルフェは自らの内面を語るように、ゆっくりとハキハキと言った。
「ボクは最初の頃は平穏であればダラダラ出来ればそれでいいと思ってた。だけど、それをするにも少しは動かなくてはいけないことを知ってしまった。矛盾してるのは分かるんだけど、怠惰と勤勉を同居させることも可能じゃと思ってきた。」ベリアルはベルフェの言葉を噛み締め、決意を新たにするようにハキハキと言った。
「そうか、俺も強固になれれば。」 その言葉には、ベルフェへの想いと、自身の成長への決意が込められている。ベリアルの瞳には、強い光が宿っているようだ。場面は一転、重厚な雰囲気が漂うワルプルギスの屋敷へ。歴史と秘密が染み付いたその場所で、何かが起ころうとしている。ルミナは鋭い眼光を放ち、確信に満ちた口調でハキハキと言った。
「アルテン、アヴィン、アイツラがやはりクリデビの差し金なのは間違いない。それにしても、ボク達の細胞をいつの間にか取ってたとは。」その言葉には、怒りと警戒心が滲み出ている。ルミナは、事態の深刻さを理解しているようだ。ゲルドは冷静に、しかし強い警戒心を抱きながらハキハキと言った。
「しかも、そろそろしたら格闘技大会が始まるんだろう。その告知はしてる。多分というより確実にスポンサーにクリデビの影があるし。」ゲルドの言葉には、状況の分析と今後の懸念が込められている。クリミナルデビルの影が、不穏な空気を漂わせている。萌愛は少し安堵しながらも、依然として警戒を怠らない様子でハキハキと言った。
「幸い、奴らが参加するつもりがないのが救い。だが、観客として来るかもしれない。SMOにも協力は仰いでるがどこまで対応できるか。」萌愛の言葉には、現状の把握と今後の対策への懸念が入り混じっている。SMOの協力が、どれほどの力になるのか、予断を許さない状況だ。ルミナは冷静に、指示を出すようにハキハキと言った。
「参加予定者は鍛錬。残りワルプルギスメンバーは変わらず職務を。」 その言葉には、迷いのない決意が感じられる。迫りくる危機に立ち向かうため、ワルプルギスはそれぞれの役割を果たすべく動き出す。場面は変わり、静寂に包まれたジョンアイデルの屋敷の裏庭へ。鍛え上げられた肉体を持つジョンアイデルは、闘志を燃やしている。
「次は何やら格闘大会があるらしいな。実績を収めるにはうってつけの機会だ。」ジョンアイデルはそう呟きながら、渾身の力を込めて特製サンドバックに拳や蹴りを叩き込む。その姿は、勝利への渇望に満ち溢れている。ジョンアイデルは現状の力量に甘んじることなく、さらなる高みを目指し、己を鼓舞するように、鋭く言い放った。
「ダメだ、このくらいでは。もっと鋭く、素早く!」そう叫ぶと同時に、ジョンアイデルは研ぎ澄まされた刃のように、力強く、鋭い蹴りを繰り出した。その一連の動作は、無駄がなく、洗練されている。ジョンアイデルが鍛錬に打ち込んでいると、気配もなくクレティアが背後に現れた。
「アイデル…、いいかな」ジョンアイデルは一瞬驚いたように振り返り、「クレティアか、なんだ…。」と少し警戒しながら答えた。クレティアはためらうことなく、はっきりとした口調で言った。
「格闘技大会…、実はワタシも出る予定なのよね」ジョンアイデルは特に驚く様子もなく、冷静に言った。
「そうか、お前、護身術とか身につけてるんだっけ」その言葉には、クレティアの実力をある程度認めているような余裕が感じられる。クレティアは屈託のない笑顔で、率直に尋ねた。
「もしかして、君も出るのかな」ジョンアイデルは自信に満ちた表情で、迷いなく答えた。
「そうだよ、オレも出るよ。なんせ、ここで示さないといけないだろうし」その言葉には、揺るぎない決意と、自身の力への絶対的な自信が込められている。クレティアは真剣な表情で、諭すように、はっきりと言った。
「格闘技大会には女生徒も出るのは確実だよ。ある程度、女性慣れしておかないといけないよ。もし、相手が女性だからってそれで躊躇なんかしてたらダメだからね」その言葉には、ジョンアイデルへの期待と、格闘技大会への真摯な姿勢が表れている。女性だからといって手加減することなく、全力で戦うことの重要性を伝えようとしているのだ。ジョンアイデルは呆れたように、歯に衣着せぬ物言いで、きっぱりと言い放った。
「バーカ。普段ならいざ知らず、こういう真剣勝負に女性も男性も関係ないぜ。それを言うなら俺は両性だしな。あっ、それで思い出したけど書類訂正してこなくては。ライセンスの方はインターネット経由で性別変更したが」その言葉には、クレティアの言葉に対する反論と、自身のアイデンティティへの誇りが込められている。性別に関係なく実力で勝負するという強い意志を示すとともに、両性であることを臆することなく語っている。そして、性別変更の手続きを忘れていたことに気づき、慌てて手続きに向かおうとする少し抜けた一面も見せている。ジョンアイデルが向かったのは、いつものようにアレイスターたちがいる場所だった。アレイスターは興味深そうに、明るい口調で言った。
「おや、こんな時に来るなんて珍しいねぇー」ジョンアイデルは少し緊張した面持ちで、真剣に言った。
「アレイスターさん、俺、実は性別は中性なんです。だから、書類の訂正をしなくてはいけません」その言葉には、アレイスターへの信頼と、書類訂正の必要性を真摯に伝えようとする誠実さが表れている。アレイスターは少しばかり笑みを浮かべながら、落ち着いた口調で言った。
「その件だが、性別は中性なのは知ってたんだよ。だから、勝手ながら中性で登録させてもらった。」その言葉には、ジョンアイデルへの理解と、スムーズな手続きを進めるための配慮が込められている。ジョンアイデルが性別を告白する前から、中性であることを知っていたという事実に、驚きと安堵が入り混じった感情が湧き上がってくる。すると、アレイスターのすぐそばに、思いがけない人物たちが現れた。それは、シャウラ、フレアロディ、そしてバニーロだった。ジョンアイデルは驚きを隠せない様子で、はっきりとした口調で言った。
「統括理事長、新たに契約を交わしたお二方いるんですね」フレアロディは優雅な物腰で丁寧にお辞儀をし、穏やかな声で自己紹介をした。
「私はフレアロディです。貴方がジョンアイデルさんですか。噂は兼ね兼ね聞いております」その言葉には、ジョンアイデルへの敬意と、今後の関係構築への期待が込められている。初対面でありながら、親しみを込めた挨拶をすることで、友好的な雰囲気を醸し出そうとしているのだ。バニーロは屈託のない笑顔で、率直に言った。
「私はバニーロです。あなたの匂い、やはり独特ですね」その言葉には、ジョンアイデルへの興味と、独自の感性が表れている。匂いという五感を通して、ジョンアイデルという人物を深く理解しようとしているのだ。
シャウラは自信に満ちた表情で、譲らないという強い意志を示した。
「2人とも先に目をつけたのはアッシですからね」フレアロディは穏やかな口調ながらも、毅然とした態度で反論した。
「独り占めさせるわけには行きませんこと」バニーロは子供のように、ストレートに自分の気持ちを表現した。
「ダメ、彼は私が」3人の言葉には、ジョンアイデルへの強い関心と、彼を巡る熱い駆け引きが表れている。それぞれの個性がぶつかり合い、今後の展開が予測不可能な状況となっている。ジョンアイデルは少し困惑した表情で、はっきりと、自分の意思を伝えた。
「俺の意思を無視しないで頂きたいですね。だいたい俺は俺で気にかけてる女性がいるんですから」その言葉には、3人のアプローチに対する拒否と、特定の女性への想いが込められている。自分の気持ちを尊重してほしいという切実な願いと、他の女性には目もくれないという強い決意が感じられる。シャウラはからかうような口調で、面白がるように言った。
「それってもしかしてクレティアさんっすか。確かにクレティアさんはかなりグラマーで美人で可愛いっすからねぇー」その言葉には、ジョンアイデルの気持ちを探ろうとする意図と、クレティアに対する興味が込められている。ジョンアイデルの反応を見て、2人の関係性を見極めようとしているのだ。ジョンアイデルは少し照れながら、はっきりと答えた。
「二人いるんだ。一人はクレティア、そして、もう一人はアスモディンだ」その言葉には、シャウラへの正直な告白と、2人の女性への特別な感情が込められている。隠すことなく、自分の気持ちをさらけ出すことで、誠実さを示そうとしているのだ。フレアロディは眉をひそめ、厳しい口調で言った。
「アスモディン…、そいつ確かミクスタッド家の裏切り者でしょう。家出してそして、クリミナルデビルのハートの座についたんでしょう。そんなヤツを気に掛ける必要はあるのですか?」ジョンアイデルは語気を強め、フレアロディを非難した。
「おい、相手のことを知らないくせに悪く言うだけ言うな!」その言葉には、アスモディンを擁護する気持ちと、先入観で人を判断することへの怒りが込められている。アスモディンの過去を知った上で、それでも彼女を信じたいという強い意志が感じられるフレアロディは冷静な口調で、自分の立場とアスモディンに対する考えを説明した。
「私の家系は代々ミクスタッド家の給仕の家系ですよ。クレティア様は有力候補、ルミカ様は末妹であっても自分を卑下することはなかった。だがアスモディンは自分を卑下してそして地位を手放した。ただのエゴではありませんか」その言葉には、ミクスタッド家への忠誠心と、アスモディンの行動に対する強い批判が込められている。自分の家系の誇りと、アスモディンの自己中心的な行動を対比することで、彼女の行動を否定しようとしているのだ。ジョンアイデルは真剣な表情で、フレアロディに反論した。
「自分の家系の立場を重んじるのは構わん。だが、フレアロディ、お前はただ表面しか見てない。クレティアも一見優等生に見えるが実際は相当の努力をしてるからだ。そのせいで本当に友達になりたい者と友達になれないと言う疎外感が生まれてた。皇族だから不便してないとでも思ってるのか?」その言葉には、フレアロディの浅はかな考えに対する批判と、クレティアの苦悩に対する理解が込められている。表面的な情報だけでなく、内面まで見ようとしないフレアロディに苛立ちを覚え、クレティアの苦しみを代弁しようとしているのだ。ジョンアイデルは穏やかながらも力強く続けて言った。
「それにアスモディンはただ誰かに認めてほしかっただけ。やはり周りの環境が悪いせいだな。改めて確信したよ」その言葉には、アスモディンの行動の背景にある孤独と願いを理解し、彼女の本当の気持ちを汲み取ろうとする深い思いやりが込められている。環境のせいで彼女がそうなったと、理解と共感を示すことで、偏見を排除しようとしているのだ。フレアロディは侮蔑の笑みを浮かべ、冷たく言い放った。
「魔族混じりのただの貴族の子息が言わせておけば」その言葉には、ジョンアイデルの血筋に対する差別意識と、彼の言葉を軽視する態度が表れている。ジョンアイデルを見下すことで、自分の優位性を保とうとしているのだ。アレイスターは毅然とした態度で、フレアロディを厳しく非難した。
「フレアロディ、ジョンアイデルくんを侮蔑するな!今の発言は魔族という種族に対する偏見、そして、権力に物を言わせる発言、到底看過出来ない。発言はすべて記録されてるぞ!今の発言をヤンロエルに提出して告訴するぞ!差別や偏見する者をSMOに置くのは公平であるべきという掟に反すること」その言葉には、ジョンアイデルを擁護する強い意志と、差別や偏見を許さない断固たる決意が込められている。フレアロディの発言を重大な違反とみなし、SMOの掟に照らして厳正な処分を求めることで、公平な社会を守ろうとしているのだ。
フレアロディは冷静ながらも鋭い口調で言った。
「どう言おうが魔族が穢れた存在は証明されてますわ。現に魔族は未だ恐れられてる。物界での世論ではそう語ってる。そして、吸血鬼の血も入ってる。こんな種族が貴族にいるだけでも腹立つ」その言葉には、偏見と差別的な考えが明確に表れている。魔族や吸血鬼の血筋を否定的に見ていることと、貴族階級に魔族の血を引く者がいることへの嫌悪感が強調されている。偏見に基づく差別意識を示し、他者への攻撃的な態度を持っている。クレティアが扉から静かに現れて、優しいけれどもしっかりとした声で言った。
「フレアロディ、君の言い分は分かった。でも、魔族や吸血鬼の血を引いてるとかはさほど関係ないよ!ヒトってのは分かりあえるから、そういう風に先入観だけで物言うのはどうかと思うけど」その言葉には、偏見を超えて理解し合おうとする優しさと、誰もが平等に尊重されるべきだという強い信念が込められている。フレアロディの考え方に対しても、温かくも真剣に伝える姿勢が感じられる。フレアロディは驚いた表情で、敬意を込めて言った。
「クレティア様、なぜここに?」クレティアは毅然とした態度で、明確に答えた。
「アイデルの帰りが遅いから心配して来たんだよ。フレアロディ、君の発言はミクスタッド国に住む者としては絶対見過ごせない。君の考えを改めないならミクスタッド国やその友好国や協力国や同盟国への出入りは禁じます」その言葉には、ジョンアイデルへの深い愛情と、ミクスタッド国を代表する者としての責任感が込められている。フレアロディの差別的な発言を断固として許さないという強い意志を示すことで、国の威厳を守ろうとしているのだ。フレアロディは苛立ちを隠せない様子で言い放った。
「もう面倒ですね、ならば」次の瞬間、フレアロディの身体は激しい変化を遂げ、豹やジャガーを思わせる巨大な猫科の獣へと姿を変えた。その変貌には、言葉での解決を放棄し、暴力的な手段に訴えようとする意思が明確に表れている。獣化することで、理性を捨て、本能に従って行動しようとしているのだ。クレティアは覚悟を決めた様子で言った。
「言って分からないなら…」その時、ジョンアイデルがクレティアを制止し、前に進み出た。
「ここは俺が行く…」その言葉には、クレティアを守りたいという強い決意と、フレアロディとの対決を避けられないと悟った覚悟が込められている。自らが盾となり、大切な人を守ろうとする勇敢な姿が感じられる。フレアロディは容赦なく、ジョンアイデルの肩に噛み付いた。しかし、ジョンアイデルは怯むことなく、フレアロディの喉元に渾身の一撃を叩き込んだ。その一連の動きには、獣の本能とヒトの知恵、そして生き残るための強い意志が表れている。フレアロディは獣の力を、ジョンアイデルはヒトの技術を駆使し、互いの存在を否定しようとしているのだ。フレアロディは痛みに顔を歪め、ジョンアイデルから距離を取った。ジョンアイデルはその隙を見逃さず、間髪入れずに拳をフレアロディの鼻先に叩き込んだ。その一瞬の攻防には、ジョンアイデルの冷静さと戦闘能力の高さが際立っている。フレアロディが体勢を立て直す前に追撃することで、優位な状況を作り出そうとしているのだ。フレアロディは怒りと憎しみを込めて叫んだ。
「小癪な…、所詮は魔族と吸血鬼の血が入ってるくせに」その言葉に呼応するかのように、ジョンアイデルは一瞬の迷いもなく、フレアロディの腹に強烈な蹴りを叩き込んだ。その行動には、フレアロディの言葉に対する怒りと、自身の血に対する誇りが表れている。差別的な発言を力で否定することで、自らの存在を証明しようとしているのだ。フレアロディは壁に激突し、吹き飛ばされるとともに、獣化が解ける。ジョンアイデルは落ち着いた声で言った。
「分かり会える時が来ればいいけどな、魔族すべてが悪いやつではないってことを」その言葉には、偏見を超えて理解し合いたいという願いと、未来への希望が込められている。戦意を失ったフレアロディに対しても、温かさと真剣さを持って伝えることで、和解や理解の可能性を示している。フレアロディは意識を取り戻し、弱々しい声で問いかけた。
「何故…、何故…、トドメを刺さなかったのです…」ジョンアイデルは静かに、しかし力強く答えた。
「別に殺し合いではないからな。ただ、俺は分かり合えばいいと思ってる。魔族や吸血鬼、いや、ヒトというモノは話し合うことができるからな」その言葉には、相手を殺すことではなく、理解し合うことこそが重要だというジョンアイデルの信念が表れている。フレアロディに対しても、敵意ではなく、対話への希望を示し、人間性の本質を信じている。フレアロディは何かを悟ったように、静かに言った。
「君は違うんですね。吸血鬼や魔族って傷付ける者ばかりって思ってたけど、君や君の親はそうではないんですね」その言葉には、ジョンアイデルとの出会いを通して、自身の偏見に気付き、新たな視点を得たフレアロディの変化が表れている。過去の経験から吸血鬼や魔族を一括りにしていたが、ジョンアイデルや彼の親との交流を通して、彼らもまた多様な存在であることを理解し始めたのだ。ジョンアイデルは力強く、未来を見据えるように宣言した。
「俺はミクスタッドの皇帝に必ずなる!そして、魔族や他の亜人、人間、全員が安心して暮らせるようにするぞ」その言葉には、ミクスタッドの未来に対する強い意志と、全ての人々が平等に暮らせる社会を実現したいという熱い想いが込められている。皇帝になるという目標を掲げ、魔族や亜人を含む全ての人々が安心して暮らせる世界を創り上げることを誓っている。アレイスターは納得した様子で、ジョンアイデルに向かって言った。
「フィリアさんが君を後継者に引き取った理由なんか分かった気がしますね。ミクスタッド国は多種族との交流や共存してるが、魔族に対しての偏見は残ってるしね。君が改善のための種になって根付いてくれると見たんだね」その言葉には、フィリアがジョンアイデルを後継者に選んだ理由に対する深い理解と、ジョンアイデルへの期待が込められている。ミクスタッド国が抱える多種族間の問題、特に魔族への偏見をジョンアイデルが解決してくれると信じているのだ。ジョンアイデルを変革の種と見なし、その成長と根付きに希望を託している。




