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エピック42 【潜伏者】

夕暮れ時、学園の裏門。淡い夕陽の中を、二つの影が並んで歩いていた。一人は、淫惑の大罪悪魔アスモディンが、その姿を変えた“アルテン”という名の女性転校生。長めの髪を無造作に束ね、どこかアンニュイな空気を漂わせた美形。“歩くだけで周囲が振り返る”タイプの、危険な魅力を放っている。アルテンは、学園の門を前に、楽しげにハキハキと語った。

「ふふ……学園は本当にいいねぇー、若い魂の匂いで満ちてる」その隣には、貪欲の大罪悪魔マモーンが、その姿を変えた“アヴィン”という名の転入生が歩いていた。整いすぎた顔立ちに、冷たい光を宿した冷静な瞳。制服の着こなしは端正で、一切の隙がない。アヴィンは、あくまで任務遂行を優先するように、冷たく言い放った。

「遊びに来たわけではない、アルテン。 ジョンアイデルの観察、そして神器の位置確認が目的だ」アルテンは、小悪魔的な笑みを浮かべた。

「分かってるわよ。“兄さん”」アヴィンは、面倒くさそうに溜息をついた。

「……兄妹設定、面倒だが仕方ない」二人は、学園の門番に生徒手帳を見せ、学園内へと足を踏み入れた。アルテンは、軽く手を振ってみせた。

「人気者になれそうねぇ、アヴィン?」アヴィンは、興味なさげにハキハキと言った。

「いらない」軽口を交わしながらも、二人は、それぞれの目的を胸に秘め、確実に歩みを進めていた。学園に、新たな波乱の幕開けを告げるように。クレティアが、静かに魔法書を読んでいると、向かいの席に、いつの間にか青年が座っていた。

「転入して一ヶ月のアヴィンだ。よろしく」アヴィンは、穏やかな笑みを浮かべながら、そう言った。クレティアは、小さく礼を返したが、心の中で呟いた。

「(この人……普通じゃない)」本能が、危険を警告している。アヴィンは、穏やかな声で続けた。

「ミクスタッド家の魔力波形は独特だ。特に君は……“希少価値”が高い」

「……希少価値?人を評価する言葉じゃないわね」クレティアは、不快感を露わにした。アヴィンは、微笑を深める。

「興味があるんだ。君と……君の周囲の“特異点”に」その時。ジョンアイデルが近づいてくる気配を、アヴィンは敏感に察知した。わずかに瞳を鋭くし、ジョンアイデルに視線を向けた。「ジョンアイデルくん。君にも挨拶しておいたが、改めて言うよ。僕はアヴィン。一応、同級生だ」ジョンアイデルは、無表情で言った。 

「悪魔の波長を隠す気は?」アヴィンは、一瞬、焦りの色を見せた。

「(……やはり感知するか)隠しているつもりだったんだけどね。君は特別だ」あくまで、柔らかい声でそう言った。しかし、周囲の空気は冷たく張りつめていた。クレティアは、思わずジョンアイデルの袖を掴んだ。アヴィンは、その様子を観察するように見て、満足したように席を立った

「今日は去るよ。アルテンにも伝えておく。……“価値は高い”とね」ジョンアイデルは、ハキハキと尋ねた。

「アスモディンにもか?」アヴィンは、足を止めて微笑んだ。

「――よく気づいたね」そして、図書館の奥へと消えていった。残されたのは、張り詰めた空気と、それぞれの思惑。クレティアは、いつものように体育館へ向かい、一人、集中して拳法の型を打ち始めた。その静寂を破るように、扉が静かに開き、くぐもるような色気をまとった女生徒が姿を見せた。

「おどろかせちゃった? ごめんね」アルテンは、整った笑みを柔らかく揺らしながら、そう言った。しかし、クレティアは警戒を解かず、鋭い視線を向けた。

「何の用?」アルテンは、楽しげな口調で言った。

「ワタシはアルテン。一ヶ月前から転入してたよら……君、怒ると強いタイプだね。でも“恋する女の子”ってもっと可愛い顔ができるのに」クレティアは、動揺を隠せない。

「なっ……!」アルテンは、楽しげに瞳を細めた。

「ジョンアイデルくん、だよね?あなたの想いの相手」クレティアは、顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「違っ――!」アルテンは、いたずらっぽく笑った。

「嘘はつかなくていいよ。 感情の波が、とても甘いから」クレティアは、心のなかで呟いた。

「(こいつ……絶対ただ者じゃない)」 アルテンは、ひらりと手を振った。「今日は挨拶だけだよ、再び会えるかもね」アルテンの言葉は、クレティアの心に大きな波紋を広げた。夕暮れ時、学園の裏。人気のない場所に、アルテンとアヴィンは再び姿を現した。アルテンは、今日の“収穫”を振り返るように、楽しげに言った。「クレティア姉ちゃん、可愛かったわぁ。情熱的で素敵」アヴィンは、ジョンアイデルについて、冷静かつ客観的に分析した。

「ジョンアイデル……あれは“規格外”。魂の密度が異常だ。解析する価値は高い」アルテンは、今後の計画について確認を取った。

「じゃあ決まりね。“観察期間”続行」アヴィンは、最終的な指示を出し、静かに告げた。

「周囲の人間関係も含めて、全て調べる。 ――潜伏開始だ」二人の影は、ゆっくりと、そして確実に夕闇に溶けていった。学園に潜む、二つの影。彼らの目的は、一体何なのか。そして、ついに翌日が来た──。その兆候は、突然に現れた。昼休み。ざわめきの中、アルテンが、ふいにジョンアイデルの机に近づいてきた。「ジョンアイデル。ねぇ、今日の放課後、少し時間ある?」ジョンアイデルは、その意図を測りかね、疑いの眼差しを隠さずに答えた。

「……何の用だ」アルテンは、微笑んだ。それは、完璧すぎる、まるで作り物のような笑顔だった。

「ちょっと……話がしたくてね」その言葉に、クレティアがすぐに反応した。

「アイデルに何の話?」アルテンは、クレティアにも柔らかく微笑を向けた。

「クレティア姉さん。そんな警戒しないでよ。アタシはただ……ジョンアイデルと“友達として話したい”だけさ」その言い回しが嘘だと、クレティアもジョンアイデルも即座に悟った。本音を隠す者ほど、“友達”という言葉を軽々しく使う。教室の後方では、アヴィンが本を閉じる音が静かに響き、その視線だけが、こちらへ向けられていた。

「(……来るか。ついに)」ジョンアイデルは、静かに覚悟を決めた。

「……分かった。放課後だな」アルテンの目が、わずかに細くなった。それは、獲物を捉えた獣のような、危険な光だった。

「うん。楽しみにしてるよ」アルテンが、意味深な笑みを残して去った後、クレティアは、迷うことなく、強い決意を込めて言った。

「アイデル、同行するわ」ジョンアイデルは、クレティアの申し出を冷静に受け止め、しかし毅然とした態度で言った。

「いや……俺一人で行く」クレティアは、心配そうな顔で、ジョンアイデルを見つめた。

「でも──」ジョンアイデルは、クレティアの言葉を優しく遮るように、理由を説明した。

「動きの気配があったのは今日が初めてだ。ここで俺以外の誰かがいたら、警戒させるだけだから」ジョンアイデルの言葉には、クレティアへの気遣いと、強い決意が込められていた。そして、ついに放課後──。長きに渡る潜伏期間を経て、ついにアルテンが、そのベールを脱ぎ、“動き出す”。その背後では、アヴィンが微かに笑みを浮かべ、まるで心の中でそう呟いているかのようだった。「(──やっと暇つぶしが始まるな、ジョンアイデル)」学院を赤く染める夕焼けが、これから始まる静かな戦いの幕開けを、ドラマチックに告げていた。放課後の学院は、昼間の喧騒がまるで嘘だったかのように、静まり返っていた。長い廊下の窓から差し込む夕陽が、赤銅色の光を放ち、古びた床を染め上げる。ジョンアイデルは、その静寂を破るように、ゆっくりと、しかし確実に廊下を歩いていた。クレティアは、ジョンアイデルの固い決意を尊重し、同行することはせず、遠隔からの監視と、万が一の事態に備えた連絡を担当している。夕焼けに染まる学院で、それぞれの役割を胸に、静かな戦いが始まろうとしていた。廊下の奥深く、薄暗くなった階段を一歩ずつ降りる音が、静まり返った建物に不気味なほど響き渡る。──

「待っていたよ、ジョンアイデル」声の主は、やはりアルテンだった。昼間の教室では完璧な笑みを浮かべていた彼女だが、この薄暗い距離感、照明の陰影の中では、その目が冷酷な光を帯びている。

「話って……何の話だ?」ジョンアイデルは、警戒を一切緩めず、無意識のうちに手が剣を握る仕草をしている。しかし、今はまだ剣を抜くことは許されない。アルテンの魔力は、巧妙に、しかし確実に抑えられているからだ。アルテンは、ゆっくりと一歩近づく。足音をほとんど立てないその歩き方は、もはや人間離れした優雅ささえ感じさせる。

「僕と君の“関係”を確認したいだけさ」微笑みを浮かべながら、アルテンは小さく手を振る。だが、その手は、何かを示すわけでも、何かを求めるわけでもない。ジョンアイデルの目は、獲物を狙う獣のように鋭く光った。

「(……何を仕掛けようとしているんだ?)」アルテンは、まるで自分の部屋であるかのように、用意されていた椅子に腰かけ、優雅に手を組んでゆったりと座る。

「一ヶ月、君を観察していたよ。学校に馴染む君の態度、クレティアの反応、その他諸々ね」ジョンアイデルは、アルテンの視線に臆することなく、冷静に返す。

「俺の観察も、同じだ」アルテンは、微笑みを深め、さらに言葉を続ける。

「そう、でもアタシは違う。アタシは、ただ待っていた。動くべき時を、そして君がどこまで警戒を解けるかを、じっくりとね」その言葉に、ジョンアイデルはわずかに眉を寄せた。

「……誘いか?」アルテンは、口角を微かに上げた。

「いや、“確認”だ。君がどう反応するのかをね、ただ知りたいだけ」その言葉の裏には、微細な揺さぶりが潜んでいる。直接的な魔力の圧力は感じないが、精神の奥底に忍び込むような、何か得体の知れないものが確かに存在する。ジョンアイデルは、ゆっくりと息を吐き出し、冷静に、しかし力強く応じた。

「……俺を試す気か。ならば、簡単には解けない」アルテンは、ゆっくりと椅子から立ち上がり、まるで舞台役者のように、軽く手を広げた。

「期待しているよ。君なら、アタシの意図を察し、的確に反応できると信じている」ジョンアイデルは、警戒しながら一歩後ろに下がる。

「俺は観察もしている。お前の“完璧さ”も、既に見抜いている」アルテンの瞳が、一瞬、獲物を定めるかのように細くなる。

「なるほど……君がすでに気づいているなら、これから、面白いことになりそうだ」静まり返った廊下に、二人だけの緊張した時間が流れる。外では、夕陽が沈み、二人の長い影が床に不気味に伸びていく。アルテンは、最後に微笑みながら、意味深な一言だけを残した。

「では、また後で……じっくりと話を続けよう」ジョンアイデルは、微かに頷き、警戒を解かずにその場を静かに離れる。

「(……この一ヶ月、動かないように見せていたのは、この時のための、本当の準備だったのか)」ジョンアイデルが去った後、背後で、アヴィンが静かに本を閉じる音が、かすかに響いた。二人の魔王は、完璧な潜伏の中で、ついに最初の一手を打とうとしていた。廊下には、夕暮れの静けさと、これから始まる“本当の戦い”の不穏な気配だけが、重く残っていた。放課後の屋敷は、外の光が沈むにつれて影を濃くしていた。ジョンアイデルは自室の窓辺に腰を下ろし、夕暮れの薄橙色の光を眺める。脳裏には、先ほど廊下で交わしたアルテンの言葉が反芻される。

『期待しているよ。君なら、アタシの意図を察し、反応できると信じている』その微笑みには、ただの好意や親しみではなく、計算された重みがある。──この一ヶ月、彼らは何を見て、何を仕込んでいたのか。ジョンアイデルは無意識に、手のひらで下腕のランプ状の痣を触る。サイボーグ化された部分が、かすかに温度を帯びている。

「油断はできない……いや、感情が希薄な今の俺にとって、判断力はむしろ研ぎ澄まされている」視線は窓の外の庭に移る。舞華とゼレスは、屋敷のあちこちで監視と警戒を続けているはずだ。しかし、潜伏者の二人──アルテンとアヴィン──の正体は未知数。表面上は学生として振る舞っているが、その存在感は常に暗流のように屋敷内に流れている。ジョンアイデルは深く息を吸い込み、思考を整理する。夕陽が完全に沈み、屋敷内は深い暗闇に包まれた。ジョンアイデルは、手にしていた地図を静かに畳み、再び窓際にゆっくりと歩み寄る。静かな呼吸、そして無駄のない規律正しい足取り。ジョンアイデルは、自らに言い聞かせるように、ハキハキと呟いた。

「この屋敷は、俺たちの陣地だ……奴らの存在を許すにしても、俺の目は常に光を放っている」同じ頃、影が不気味に揺れる廊下の奥深くで、アルテンとアヴィンもまた、それぞれの周到な潜伏計画を静かに、しかし着実に進めていた。ジョンアイデルの卓越した観察力と、いかなる状況でも冷静さを失わない判断力は、この先の息詰まる潜伏戦において、間違いなく最大の武器となるだろう。翌日の夕方、訓練場にて。激しい鍛錬を終えたジョンアイデルは、汗を拭うこともしないまま、まるで何事もなかったかのように平然と立っている。まるで、日々の通学や激しい疲労といったものが、彼から完全に喪失しているかのようだ。そんな彼の様子に、アルテンが興味深そうに声をかける。「今日もすごいね、ジョンアイデル。……本当に、全然疲れないって、本当なんだ?」ジョンアイデルは、その言葉に微笑みだけを返しつつも、心の中で「探りだ」と即座に理解する。そして、警戒を解かずに、ハキハキとした口調で返す。

「体質みたいなものだよ。アルテンこそ、最近よく僕のこと見てるね」アルテンは、軽く笑って肩を竦める

。「(──“観察”されているのは、こちらだと気付いたか? いや、彼の洞察力は生半可なものではない。焦らず、確実に。)」アルテンは、警戒心を抱かせないよう、距離を詰めすぎない絶妙なラインを保ちつつ、その場からゆっくりと撤退する。ジョンアイデルは、去っていく彼の背中を、ただ無言で見送る。アルテンは、心の中で冷静に分析する。

「(……反応が薄すぎるな。普通なら、もう少しは動揺するはずだ。やはり、この男……ただの学生じゃない)」互いの警戒心が、目に見えない形で、しかし確実に一歩だけ深まった。図書塔の静寂が支配する空間で、クレティアは古びた魔導史の資料を熱心に読み込んでいた。そこに、突如としてアヴィンが現れる。

「クレティアさん、また魔導史ですか?本当に凄いですよね、あなたは。皇族の第一子息でありながら、決して努力を怠らない」クレティアは、アヴィンの言葉に微笑みを浮かべながら礼儀正しく答える。

「……あまり褒められるほどのことではありませんわ」しかし、その冷静な瞳は、アヴィンの目の奥に一瞬だけ浮かんだ“計算”の光を、確実にとらえていた。

「(──この人は、何かを探っている……)」アヴィンは、さらに一歩踏み込み、距離を縮める。

「皇族の魔力、しかも第一子息の魔力って……実際に触れれば、誰にでも簡単に分かるものなんですか、本当のところ?」その瞬間、周囲の空気が一瞬にして張り詰める。クレティアは、読んでいた本を静かに閉じ、優雅な微笑みを浮かべたまま、静かに答えた。

「触れなくても、わかる方はわかりますわよ」それは、やんわりとした口調でありながら、明確な拒絶の意を込めた返答だった。アヴィンは、それ以上の追求を避け、静かに撤退しつつも、その目の奥には、確かな光が宿っていた。

「(……直接的な探りは失敗、か。だが、これで十分だ。“触れられない王家”──なるほど、ようやく急所が見えてきたな)」深夜、屋敷にて。ゼレスは、人気のない廊下の窓辺に一人立ち、静かに外の様子を窺っていた。そこへ、舞華が心配そうに近づいてくる。

「どうしたの?」

「……どうも、気になる視線がある」ゼレスの感覚は、まるで野生動物のように鋭敏だ。微かに抑えられた殺気すら、空気の流れから正確に察知することができる。

「学園には、只者ではない連中がいる。ジョンアイデルだけじゃなく……クレティアにも、十分な注意が必要だ」舞華は、ゼレスの言葉に静かに頷き、決意を込めて拳を強く握りしめる。

「クレティアは、私が絶対に守り抜く。……ジョンアイデルも、必ず」暗い廊下に、二人の固い決意だけが、静かに、しかし確かに存在していた。

深夜、人気のない学園の裏庭。二人は、人目を避けるように影の結界を張り、ひっそりと顔を合わせた。アヴィンは、冷静な口調でハキハキと言った。

「……皇族の第一子息の娘は、やはり手強い。“触れられない”と自ら口にした。何か、深い意味があるはずだ」アルテンも、それに呼応するように、ハキハキと分析を始める。

「ジョンアイデルは、異常だ。痛覚も、疲労も、まるで感じない……もはや、生身の人間とは思えない動きだ」アヴィンは、少し苛立ちを含んだ声で問い詰める。

「で? 分かったのは、そこまでか?」アルテンは、落ち着いた様子でハキハキと答える。「いいや。それだけじゃない。ジョンアイデルは、確実に“アタシたちを監視している”」アヴィンの眉が、その言葉に僅かに反応する。

「……察知されている、ってことか」アルテンは、さらに核心に迫る。

「ただ察知されている、というレベルじゃない。──彼は、もうアタシたちの裏の“名前”に、気付き始めているのかもしれない」アヴィンは、喉の奥で低く笑う。

「面白いじゃないか。ならば、予定を早めるか?」しかし、アルテンは静かに首を横に振った。

「まだ早い。クレティア姉さんを中心に、“屋敷組の結束”が日に日に強くなっている。焦って動けば、逆効果になる」アヴィンは、退屈そうに肩をすくめ、夜空を見上げる。

「皇族の第一子息と、中性者と、死神とのハーフ、半神と……本当に、面倒な連中ばかりだな」アルテンは、冷酷な笑みを浮かべながらハキハキと言う。

「だが、弱点も見えてきた。ジョンアイデルには、『三つの感覚が欠けている』」アヴィンは、それを確認するようにハキハキと繰り返す。

「ああ……痛覚・疲労・味覚、だったな。ふふっ……そこが、奴の“壊せる部分”か」アルテンは、さらに恐ろしい言葉を続ける。

「そして……クレティア姉さん―――。──彼女の“心”は、驚くほど脆い」深夜の結界内は、まるで底なしの氷穴のように、ひどく冷たい空気に満たされていた。二体の悪魔は、獲物を求めて、確実に爪を研ぎ始めた。翌日の朝、ジョンアイデルは、いつものように屋敷の静かな庭で、静かに瞑想にふけっていた。彼の意識は極限まで拡張され、屋敷全体、学園、そして微細な空気の流れまでも、鮮明に感知していく。──影の揺れ方が、どこか不自然だ。──そして、二ヶ所同時に、同じ種類の“魔の匂い”が微かにする。──一ヶ月前に突如として現れた二人の生徒を中心に、周囲の空気が僅かに歪んでいる。ジョンアイデルは、ゆっくりと目を開き、静かに、しかし確信に満ちた声で低く呟いた。「………アルテン、アヴィン。とうとう、正体を隠す気も、なくなってきたか」その時、クレティアが庭に出てきて、心配そうに声をかける。

「アイデル? 何か、気付いたの?」ジョンアイデルは、クレティアの方を振り向いて、優しく微笑んだ。

「大丈夫。まだ、君たちは動かなくていい」だが、その瞳の奥には、冷静な光が宿っていた。──敵は、すぐそこに潜んでいる。──そして、確実に、こちらの命を狙っている。放課後の静まり返った地上エリアの訓練場。他の生徒たちが皆帰っていく中、舞華はただ一人、黙々と木製の訓練人形を相手に、剣の鍛錬を続けていた。その尋常ではない集中力は、彼女の生真面目さと、常に周囲に気を配る警戒心の表れだろう。そこへ、まるで自然の風景に溶け込むかのような、極めて自然な足取りで、アヴィンがゆっくりと近づいてくる。「すごいね。君の剣……とても生徒レベルの域ではない」舞華は、アヴィンの声にハッとして振り返り、ほんの一瞬だけ、手にしている剣を無意識に引き締めた。

「(──気配が……薄すぎる。ここまで近づかれるまで、全く気付けなかった……)」しかし、その驚きを悟られないよう、表情には決して出さない。

「ありがとう。あなたも、時々訓練場で見かけるわね」アヴィンは、優しげな笑顔を浮かべ、まるで心を込めるかのように、手を自分の胸に当てた。

「見ていたくなるんだよ。人が努力する姿って、本当に美しいから」言葉は、どこまでも柔らかく、甘美だ。だが、その目は、まるで獲物を定める“観察者”の目をしていた。舞華は、決して不必要に距離を縮めることなく、冷静に答える。

「努力は、誰かに見せるためのものじゃないわ」アヴィンの目が、一瞬、獲物を定めるかのように細くなる。

「……君、意外と強情だね。クレティアさんとは、また違ったタイプだ。 あの二人、仲がいいの?」舞華は、警戒を解かずにハキハキと答えた。

「もちろん。私たちは、屋敷で一緒に暮らしているから」アヴィンの眉が、その言葉に反応して、僅かに動いた。

「(──屋敷住まい、か……やはり、全てはそこに集約される“中心軸”は、そこにあるのか)」舞華は、アヴィンに悟られないよう、静かに剣を鞘に納め、軽く微笑んだ

「そろそろ戻るわ。クレティアも、私のことを心配するでしょうし」アヴィンは、名残惜しそうにハキハキと言った。

「また、君の剣を見せてほしいな、舞華さん」舞華は、冷たい視線を送りながら、そっけなく答える。

「機会があればね」二人は、そこで別れ、それぞれの道へと歩き出した。だが、互いの背中越しには、言葉には出せない、鋭い“警戒”の視線が、激しく交差していた。夕食後の静かな時間。屋敷の薄暗い廊下で、ゼレスはジョンアイデルを呼び止めた。

「ジョンアイデル。……今日、アヴィンがお前のことを、まるで獲物を狙うかのように、海のように深く、じっと見つめていた」ジョンアイデルは、その言葉に足を止め、わずかに眉を動かした。

「アヴィンも、ついに動き出したか」ゼレスは、いつものようにハキハキとした口調で告げる。

「舞華ちゃんにも、近づいた。あいつ……、やっぱり普通じゃない」ジョンアイデルは、静かに頷き、ハキハキと答えた。

「……ああ。気付いている。アルテンとアヴィンは、お互いに連携を取り合って、動いている」ゼレスは、少し心配そうな表情でハキハキと尋ねる。

「それでも、今はまだ泳がせるんだな?」ジョンアイデルは、冷静な口調でハキハキと答える。「学園の内部で本格的に動くには、まだ決定的な証拠が足りない。でも──もう少しで、奴らを一網打尽にできるはずだ」ゼレスは、ジョンアイデルの言葉に静かに頷き、最後に、意味深な視線を壁越しの影へと向けた。

「守るぞ、屋敷の仲間は。……何があっても、必ず」ジョンアイデルは、力強くハキハキと答えた。

「ああ。俺も、それを強く望んでいる」短い会話だったが、互いの胸に抱く決意は、揺るぎないものだった。翌朝、人通りの少ない渡り廊下。アルテンは、まるで偶然を装ったかのように、ジョンアイデルに声をかけた。

「ジョンアイデル。昨日の訓練、本当にすごかったよ。……痛みを感じないって、実際にはどんな気分なんだ?」ジョンアイデルは、その言葉に足を止め、アルテンの目をまっすぐに見つめ返した。

「痛みを感じなくても、負ける時は負ける。──痛覚は、戦いのすべてじゃない」アルテンは、興味深そうに軽く目を細めた。「……なるほど。じゃあさ、疲れは?」ジョンアイデルは、警戒を解かずにハキハキと答えた。

「感じないことが、強いと思う?」アルテンは、さらに核心に迫る

「いや。──それは、弱点にもなる」その言葉に、ジョンアイデルの瞳が、まるで獲物を定めるかのように細く、鋭くなった。

「(ああ……やはり、気付いている)」目に見えないオーラが、二人の間で激しく揺らいだ。ジョンアイデルは、静かに、しかし強い意志を込めてハキハキと問い詰めた。

「……アルテン。君は、一体何を調べたいんだ?」アルテンは、柔らかい口調で答える。

「君の強さの理由。そして……君は、誰を守ろうとしている?」ジョンアイデルは、ほんの一瞬だけ、言葉を止めた。そして、次の瞬間、逆に質問を返す。

「アルテン。君こそ……一体、何を壊しに来たんだ?」──その瞬間、周囲の空気が凍りつく。アルテンの表情は微動だにしない。だが、その内側で、何かがカチリと音を立てて、静かに動き出した。

「(……面白い。本当に、そこまで“気付いている”のか)」アルテンは、一歩だけ距離を置き、いつもの柔らかい笑みを顔に作った。

「また、ゆっくり話そう、ジョンアイデル」──この日の短い会話で、互いの腹を探り合う駆け引きは、一段と深まった。学園の裏庭。薄闇が全てを包み込む中、二人は人目を避けるように結界を張り、再び密談を始めた。アスモディンことアルテンは、冷静な口調でハキハキと言った。「ジョンアイデルが……アタシたちの真の目的に、気付き始めている可能性がある」マモーンことアヴィンは、興味深そうな笑みを浮かべながらハキハキと答える。

「へぇ……それは早いね。やっぱり、ただ者じゃない」アスモディンは、深刻な表情でハキハキと続ける。

「問題は、彼がクレティアを守るために、“動く準備”を着々と進めていることだ」マモーンは、まるで獲物を定めるかのような目でハキハキと言う。

「クレティアの心、か。あれは、壊しがいがある。一撃で終わらせるんじゃなく、じっくりと、時間をかけてね」アスモディンは、より効率的な方法を提案する。「学園の中心にいる屋敷組を、根こそぎ崩壊させる方が早い。まずは……舞華とゼレスの“隙”を狙う」マモーンは、焦るアスモディンを制するようにハキハキと言う。

「焦らないことだよ。ジョンアイデルが、いくつかの感覚を欠いているのは事実。──壊すなら、まずはそこからだ」二人の作戦は、ついに一段階上の“実動フェーズ”へと移行した。夜風が冷たく、結界の不気味な揺らぎが、二人の行く末を暗示しているかのようだった。屋敷の自室で、クレティアは静かに鏡を見つめていた。「(……どうしてでしょう。胸が酷くざわつく。嫌な予感が、どうしても消えませんわ)」窓の外では、ジョンアイデルが一人、月明かりの中で静かに立ち尽くしている。クレティアは、いてもたってもいられず、部屋を出て、庭へと降りていった。

「アイデル……何を考えているの?」ジョンアイデルは、彼女の姿を認めると、ほんの僅かに、しかし確かに柔らかい表情になった。

「クレティア、この学園で、何かが大きく動こうとしている」クレティアは、彼の言葉に頷き、不安げな表情で答える。

「やはり……あなたも、そう感じているのね」ジョンアイデルは、静かに頷き、夜空を見上げた。

「アルテンとアヴィン……。二人の不気味な影が、学園全体の空気を、まるで濁らせているようだ」クレティアは、自分の胸にそっと手を当て、小さく震えた。

「怖いわ……。でも──ワタシは、決して逃げませんわ」ジョンアイデルは、彼女の決意に応えるようにハキハキと言った。

「大丈夫。俺がいる」彼の言葉は、どこまでも静かで、しかし、何よりも力強い。クレティアの心に渦巻いていた不安は、彼の言葉によって、ほんの僅かに溶けていった。

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