5話 転校生2
午前の授業が終わり、お昼休憩になった。
「貧相、遊子早く行くわよ」
「はいはい」
「分かりました天杉ちゃん」
もうそこまで二人は、仲良くなっているのか、
俺は暁さんに貧相と呼び捨てにされたい。
「いつもここで食べてるわ」
ここは普段、授業でも使われていない空き教室だ。
よくこの教室で、優華と麻里の3人で昼飯を食べることが多い。
「誰もいなくていい場所ですね!」
「そうだろ」
誰もいない上にこの時間は陽の光が入ってきて暖かく、ちょうど授業終わりの昼寝にも最適なのだ。
ほら、こんなに陽の光が…!
そんなこと思っていたら、二人は机を適当にくっつけて、お弁当を食べながら話が始まった。
「遊子は前の学校で何か部活動でもしてたの?」
「いえ、何も」
「へぇ!なら私達と同じ帰宅部というわけ」
「本当は軽音部というのに、入ってみたかったんですけど前の学校になくって」
「非常に残念なお知らせだが、今は軽音部はこの学校にはないんだ」
昔は存在していたらしいのだが、今は見る影もない。作ろうと思えばできないことはないが、部員5人に担当の先生1人集め、生徒会の賛成さらに何人かの先生と校長の許しをもらわないといけないからめんどくさい。
「でも貧相?作ろうと思えばできるでしょ」
「えぇ、めんどくさい」
「作れるんですか?!」
非常にめんどくさいことになりそうだ。
優華は非常にお人好しだこんなの手伝うに決まっている。
ただ、優華のそういうところは嫌いではないのだ。
「そうよ!せっかくの青春でやりたいことやれないって可哀想だから手伝ってあげるわよ」
「ありがとうございます!」
えぇ!いや、本当にめんどくさいバイトもあるのに軽音部との両立?そんなの無理に決まっている!
そもそも今、一瞬でも両立を考えた俺はかなり優しいのでは?
「貧相君とも一緒にやりたいです」
「俺も優華と同じ意見だ、一緒に頑張ろう」
あぁ、俺の口は頭と繋がっていないらしい了承してしまった。
「なにか、面白いことになってますね貧相先輩」
いつのまにか、麻里も来ていた。
「いや、面白いかもしれないが」
本当はやりたくないです、なんて言えるわけねぇだろ。
暁さんの前で弱音を吐いてはいけない意識を保て!
「うん!凄く楽しみだ」
「大丈夫ですか?」
「そんな馬鹿ほっといて麻里もこっちきて」
こんな俺が馬鹿になった理由の半分は優華にあるのだから勘弁してほしい。
「貧相先輩もそんなところで食べてないで行きましょう」
天使が目の前に現れた。この優しい小さな胸の天使と関わりを持たせてくれてありがとう、神様と言われるお方がいるのなら、足の一つでも二つでも舐めろと命令されたら舐めれるだろう。
「なんで貧相君は、そんなちょっと離れたところに?」
「少し照れてるのよ馬鹿貧相は」
あんな可愛い生き物(暁さん)を目の前にして、もぐもぐと俺の汚食事を見せつけられるか。
「ちょうど食べ終わったし行くよ」
「相変わらず速いわね」
「パンだったからかな」
遊子と麻里が軽い自己紹介を終えた後、
本格的に軽音部について考えていた。
「そうですね今4人しかいませんし、先生も問題ですね」
「それに楽器も安くないよな」
「たしかにそうね」
「残念です」
メンバーに関しては影郎をつれてくればと思ったがな、アイツが来るわけないよな。
そんな時間あったらゲームするわとか言ってきそう。ゲーム?
「たしかゲーム好きなんだろ?暁さん」
「はい、大好きです」
「ゲーム部とかは?」
あっ、でも学校でゲームなんて文化祭ぐらいでしか許されないか。
「できたとしてもアナログゲームだけでしょうね」
「相変わらず馬鹿貧相ね、ゲームなんて許されるわけないでしょ」
「いやそうだな失言だった」
「でも、貧相君が一生懸命考えてくれて嬉しいです」
「そう言ってもらえて助かる」
「そもそもなんで軽音部なんですか?」
おぉ、確かにそれは俺も気になる。
もしかしたら違う部活動でも理由によってはそこでもいいかもしれないしな。
「えっとね、仲間と一緒になにかを作りたいと言うか、何かを成し遂げてみたかったんだ。ゲームの世界だけじゃなくてリアルでね、それで何かゲーム以外に好きなものって思ったら音楽やってみたいとそんな感じです」
「いいじゃないそれ、やっぱ頑張りましょうよ!」
「私もできるとこまで着いていきますよ」
「頑張るか」
俺は嫌なことは後回しにするタイプでありどれだけ愚かなのかは重々承知なのだ、だから行動は速く起こしたい。
それにだ。暁さんのしょぼくれた顔なんて見たくないからな。
「じゃあ、早速今日の放課後先生に会いに行くか」
「えっ?貧相やる気ありすぎない?」
「嫌なことは先に済ましておきたい」
楽しいお昼休憩は終わり、睡魔と隣にいる暁さんのダブルパンチで話の内容が入っていない授業が終わり、放課後になった。
職員室には言い出しっぺの俺が行くことになった。
もう、嫌になってきた。威圧感のある扉を3回ノックして名前を言い入る。
「今朝はありがとうな貧相、どうかしたか?遅刻書は書いておいたぞ」
「それはありがとうございます、先生実は新しい部活動を作りたいと思いまして」
あれやこれや、語彙のない言葉で先生と話を交わした。
「楽器なら何とかなる、昔使ってた道具が音楽室にあるのちょっと使っていいぞ」
「吹奏楽使わないんですか?」
「ベースとかギターは全然だなドラムは古いのがあったはず」
「なんか詳しいですね」
「先生吹奏楽の顧問してるからな」
そうだったのか。
「顧問の先生に心当たりとか?」
「いやぁ、一人思い当たる先生がいるんだが癖が強くてな」
「癖が強くても大丈夫です、うちのメンバーも癖強いんで!」
「それは失礼だろ、暁さんと魔衣鶴さんに」
「え?優華は?先生」
「天杉はな、例外だ」
よくよく考えたら俺の名前入ってなくないか?
まぁ、いいけどさ
「しかも今日休みなんだわその先生」
「名前だけでも教えてもらっていいですか?」
「八薙 クル先生だ」
もう名前から癖の強さを感じられる。
薙刀でもかついでいるのかもしれない。
「一応女の先生だ、会った時に失礼ないようにな」
「分かりました」
一応ってなんだよ。
「まぁ、というわけで難なく顧問はゲットです」
「ありがとう、貧相君」
「でもメンバーは暁さんが集めないと意味ないからな」
「それは、頑張ります」
仲間というのは自分で集めないと意味ないからな。
なんなら暁さんがメンバー5人、最悪2人集めれば俺はこの軽音部に入らなくてすむのだ。
もちろん集められなかったことなんて考えない、暁さんを信じてるからな。
ただもしもの場合は影郎に頼んで幽霊部員になってもらおう。
ついでに俺も幽霊になろう。