1話 胸がデカすぎる
朝、目覚めると、大きな山が二つ佇んでいた。
肩を大きく揺さぶってくる。
それにともない目の前の2つの山と長い茶色のポニテが揺れる。
これが小さな胸ならばどれだけ絶景だったか。
初日の出を砂浜で見た時よりも綺麗だろうに。
「邪魔」
そんなことを口走ったら、
お腹に衝撃が走った。
「わざわざ起こしたんだから、ありがとうぐらい言えば」
「殴ることはねぇだろ馬鹿」
どちらかと言えば牛だが、そんなこと言った日には社会的にも肉体的にも俺は死ぬだろう。
「てかなんで俺の部屋にいるの」
「そんなの貧相が、終業式の日に始業式は一緒に登校しようって言ってきたから、来てあげたのにまさか忘れてたの」
そうだっけか。
記憶というのは抜け落ちていくものだ。
例え本当だとしても、忘れてしまうのだからしょうがない。
「それはすまん。」
「それにしても今年で高校2年生か、あっという間に1年すぎたな」
「1年経っても貧相は、ずっと変わんないね」
「そう言うお前は結構変わったよな」
中学の時は良かったのに、本当に良き胸を持っていた。
だが今はどうだ、身長は俺を少し見下すぐらいになって、
まぁ身長はどうでも良いが。
1番問題なのは胸だ。
無駄に胸も一丁前に成長し、とんでもない物が2つも実ってるじゃねぇか。
おまけに態度も大きくなって、どこまで何が成長するんだ。
「そんなに変わったの私」
「いや、やっぱり性格は変わらんな」
「そんなの貧相だって変わらないじゃない」
「男なんてあんま変わらねぇよ」
「いや、貧相ぐらいじゃないの」
「男は変わらん、隠してるだけだ」
正直男の頭の中なんて、くだらない厨二の設定を考えたり女の裸か遊びぐらいしか脳の使い道がないんだ、
悲しい生き物だ。
まぁ、全部俺のことだけども。
「後、着替えるから早く出ていってくれ」
俺の生お着替えショーなんか、見せたくも見られたくもないしね。
「言われなくてもそうするわ、早く着替えて」
朝から騒がしすぎて嫌になりそうだ。
着替え下に降りると妹と優華がご飯を食べていた。
「おはよう」
「遅いアホ貧相」
「本当に早くして時間もないし、ご飯冷めちゃうでしょ馬鹿」
挨拶をするだけでアホ、馬鹿呼ばわりいつもの光景だ。
母さんや父さんがいないのは、俺達よりはやく仕事に行っているからだ。
尊敬するよ。
「そういえば福音ちゃんそろそろ志望校決める時期じゃない」
「お兄ちゃんや優華さんと同じ所にしようかなと思っています」
黒い長い髪をもじもじ触りながら言った。
なにを今更緊張してるんだ。
「ここから近いし、通いやすいよね。学校の雰囲気も悪くないから良いところだよ」
「ただ、お兄ちゃんと同じなのは嫌ですけど」
「俺は、まったく構わないが」
俺は、大人なのだ。そんなの構いやしないね。
「きしょ、無理」
流石に傷つくよ大人でも、
「相変わらず辛辣だね福音ちゃん」
「お兄ちゃんきもいから」
「傷に塩塗るの辞めて」
凄く痛いよ妹よ。
「じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
中学の方が早くホームルームが始まるから先に福音は出ていってしまった。
俺達は少し出かけるまで余裕がある。
妹が出て行ったからか、重そうな胸を机の上に乗せている。
これだから巨乳というやつは、
俺じゃなかったら、お前はその胸鷲掴みにされて、滅茶苦茶にされてるからな。
残念ながら俺は、貧乳派だ。
そんなけしからん脂肪に興味はない。
もちろん欲情もしない。
「誰と教室一緒になるかな、後新しい後輩も気になる麻里ちゃん来るよね」
「え、誰でも良いし」
「あっ」
麻里ちゃん、で思い出してしまった。
「なによ」
「麻里迎えに行かないと」
「母さんに頼まれてたの忘れてた」
「本当に馬鹿でアホね」
急いで時計を確認し、ホッとしたまだ時間は大丈夫そうだ。起こしてくれた優華には感謝だな。
「時間過ぎる前に思い出せて良かった。優華が麻里の話題出してくれたおかげだよ。助かったありがとう」
「勝手に貧相が思い出しただけでしょ、感謝するぐらいならお菓子でも買ってよ」
「うっ、あんまりお金かけるなよ」
「やった」
そのお菓子が胸に貯まっていくのか。
俺からしたら嫌なシステムだが。
それから麻里の家に行った。
魔依鶴麻里とは中学の時の後輩である。
委員会に必ず入らないと行けない中学の決まりがあり、楽そうな図書委員に入ったときに後輩の麻里と出会った。
あいつも今日で高校1年、また俺が先輩になる日が来るとは。
インターホンを押すと麻里が出てくれた。
「はい」
「麻里さんいますか。貧相です」
「貧相先輩ですね、来てくださりありがとうございます」
「今出ますね」
もう声から可愛さが滲みでている。
「おはようございます、貧相先輩」
中学から、一切の成長をみせないその胸、
青髪のショートで、首筋がすこしちらりと見えるのも最高だ。
今、目の前で屈んで欲しいという狼が出てきた。
「おはよう、麻里」
「いつ見ても安心するよ」
胸を見ながら言ったからか
「馬鹿にしてますか先輩」
そんなことを言われた。
「しないよ、馬鹿になんて」
そんなこと神に誓ってもないね。
貧乳神ばんざーい。
「最低だね貧相」
追い打ちをかけてくる。
俺は紳士な狼なのだ。
変態だとバレるわけには、いかない。
「優華、お菓子買いに行くのを俺は忘れそうだ」
「酷いぞ、貧相」
「先輩私にもなんか買ってください」
「もちろん」
こんな可愛い後輩には何でも買ってあげたくなる、
毎月のバイト代?
そんなの知らんな。
でも、食べ過ぎて胸だけ成長したら、泣いちゃう。
もう優華だけで、大きいのは十分なのだ。
二人にお菓子を買って学校に着いた。
「じゃ、ばいばい麻里」
「貧相先輩また後で、ですね」
「うん、また後で」
入学式もすぐに終わりホームルームが始まった。
「はい、さっさと席に着け」
今から転入生を紹介する、なんてことはなく。
今年もいつも通りになりそう。
クラスには優華もいた。
それにあいつも。
「貧相、おはよう」
「おはよう、影郎」
白髪で少し寝ぐせのついてるこの男は、
北畑影郎、お悩みからR18なことまで、いろいろ話している唯一無二、俺の親友だ。
「朝から女の子二人と登校とか羨ましい限りだ」
「羨ましいだろ」
「死ね」
こいつは基本、草か死ねでしか返答しないネットの怪物みたいな男だ。
半分冗談だが。
「なんで付き合わねーの」
「分かるだろ今の状態が一番居心地がいいんだ」
「意気地なし、僕が優華をもらいたいぐらいだわ」
「二次元にしか興味ないとか言ってたくせに」
「草」
ほら、すぐ草って言う。
喋るのが面倒くさいのだろうか。
その後、麻里と優華を家まで送って、
家族と夕飯を食べ、
風呂に入り、
通話しながら、影郎とゲームをして眠くなったら寝る、
こうして何も変わず一日が終わろうとしていた。
このときの俺は夢にも思わなかっただろう。
まさか明日の朝にあんなことが起きるなんて。