お弁当男子の中山とパン女子の中村
「このクラスで一番かわいい女子って誰だと思う?」
「やっぱ中村さんじゃね?」
「だよなー。いいよな中山は、隣の席で」
「んーけどあいつ…………パン女子じゃん」
毎朝五時に起きて弁当を用意する生粋の弁当男子の俺、中山にとって、パン女子の中村は理解不能な存在だった。
だが授業中、中村は無邪気に話しかけてくる。
「中山君、日本史の教科書一緒に見ていい? 忘れちゃった」
パン女子は距離感がおかしい。だからイヤなんだ。勝手に机をくっつけるな。肘が当たって授業に集中できない。
昼休み。きつく結び過ぎた弁当の包みに俺が手こずっている間に、中村はプラスチックの袋を軽く引き裂きパンを食べ終えて言った。
「中山君も早く食べて外でバドミントンしよ?」
これだからパン女子は困る。よく噛んで食べる大切さを知らない。
そんなに嫌なら近づかなければいい。その通りだ。だが俺たちは出席番号が近いせいでプールの授業だってペアにされちまう。
「中山君っ! 手っ放しちゃヤだよ!? 溺れちゃうから!!」
いや足着くだろ。バタ足の練習中、プールの端まできてほっとした中村は、水中でつま先立ちになり俺にしがみついた。
「私、25m泳げたの初めて。中山君のおかげだね」
なぜか高鳴る胸の鼓動。水泳帽を脱いでくしゃくしゃになった中村の金髪ツインテールが、陽光にきらめいた。
「いや何で金髪? パン女子は何でも許されると思ってる、だからイヤなんだ」
「え?」
し、しまった!! いつもの愚痴がつい口から!!
「パン女子? 何それ……?」
「えっ? 何だろう!??」
「いま金髪がイヤって……」
「や〜金髪が似合うな〜って言ったんだよ」
「そっか、よかったぁ。派手じゃないか心配してたの。私のお母さん、美容師だけどブリーチ下手でさ、よく私の髪で練習してるんだ」
「校則ゆるいし平気平気」
「似合ってるって言ってくれてうれしかった」
頬を染める中村。こんなに可愛かったっけ? 笑い返すしかできない俺にパン女子は続けた。
「ごめんね、私、中山君のこと誤解してた」
「誤解?」
「昼休み、よく三段の重箱弁当食べてるから。ちょっと怖い、おかしい人なのかなって」
「……中村さん」
「ん?」
「弁当で人を判断するとか、よくないよ」
「うん……じゃあ今日の昼休み、一緒にバドミントンしてくれる?」
「三段弁当食べるの手伝ってくれたらね」
互いに偏見にまみれていた俺たちは、今までの自分を水に流し、仲良くプールから引き上げたのだった。