夜明けのミューオン、チャオ!ニュートリノ
少しマイナーな素粒子たちです。
この歌のKEYはメジャーです。
おはようミューオン
君は原子核でも電子でもないから
ちょっとはぐれもの扱いの素粒子
意外と身近にいるんだねミューオン
君は宇宙からやってきたと思ったら
遠くの星のプロトンが大気にぶつかってできたんだね
君は高速で僕らを通過するから
僕らはなかなか気づかない
チャオ!ニュートリーノ
君も原子核でも電子でもないうえに
ちょこっと微々たる質量の素粒子
意外と身近にいるんだねニュートリノ
君は遠くの星からやってくる
幾億光年の宇宙の物質にぶつからずに届いたんだね
君がいっぱい降り注いでも
僕らはなかなか気づけない
お読みいただきありがとうございます。
以下簡単な脚注です。
*ミューオン
1936年にアンダーソンとマイヤーが宇宙線から発見しました。霧箱の軌跡から電子の200倍の質量と電子と同じ電荷を持つことがわかりました。発見当初は、湯川秀樹が理論的に予想していた中間子ではないかと期待を持たせてガッカリされました(湯川らは原子核の中の陽子や中性子を結合する粒子、中間子を予言し、特に、プラス電荷同士で強く反発するはずの陽子が原子核のサイズに収納されるには中間子の質量を電子の200倍と予測していた)。また、当時の新粒子の発見ラッシュのなかで、電子より重く原子核よりも軽い、役割の分からない粒子として、「誰がこんな素粒子を発注したんだ」と言われたり、可哀想な粒子です。ミューオンは、宇宙からやってきた高速なプロトンが物質(大気なら窒素や酸素)に衝突したときに発生します。僅か2.2マイクロ秒で、電子(または陽電子)とニュートリノ(または反ニュートリノ)に崩壊します。発生したミューオンは短時間で崩壊するのに大気圏付近から地表に届くのは光速に近いミューオンの相対論効果によるものとして有名です。また、宇宙からの危険な高速プロトンから私たちを直接に守るのは大気ですが、ミューオンがあるおかげで、大気の分子は、高速プロトンのエネルギーを受け止めることができます。また、ミューオンが崩壊する反応は、物理法則が鏡の面に対して非対称である面白い証拠を与えます。地表では毎秒100個/m^2が通りすぎます。しかし、数が少なく光速に近く通過するので、地表の原子とはあまり反応しません。
*「誰がこんな素粒子を発注したんだ」
自然はこうなければならないというのは、人間の思い込みです。ミューオンの存在は、人間の科学に対する取り組み方を考えさせます。心理的に受け入れがたかろうが実験や観察が全てです。とはいえ、この台詞は、何が起こるかわからない科学の楽しさを表しているとも思います。今も、ミューオンの役割は完全にはわかっていませんが、素粒子の理論はミューオンも含むように構築されようとしています。
*ニュートリノ
中性子は陽子と電子に崩壊します。中性子は電気的に中性で、崩壊後の陽子と電子は電荷が±0の中性です。しかし、崩壊前に中性子が持っていたエネルギーが、崩壊後には少しだけ失われます。フェルミというイタリア人物理学者(理論家として量子統計学を確立、実験家として核の連鎖反応にはじめて成功、フェルミ推定の名でも知られる)により、観測されにくい中性の微粒子があって、その粒子がエネルギーを持っていったに違いない、と予想された粒子です。ちなみに、ニュートロン(中性子)の名は既に使われていたので、フェルミがニュートリノと名付けました。フェルミの提唱から20年、ライネスとカワンの実験により検証されました。ニュートリノの発見はエネルギー保存則が破られていないことを示す重要な証拠です。そして、ニュートリノは、確かに観測されにくい粒子でした。観測されにくいのは、他の粒子と反応しにくいからです。その代わり、他の粒子からの影響が少ない分、遠くからくるニュートリノには、発生した星の情報が詰まっています。一度、観測のコツをつかむと天体観測に向いています。小柴昌俊らにより、ニュートリノ天文学の道が開かれました。太陽からやってくるニュートリノは、毎秒1平方cmあたり600億個です。太陽からの光子の百万倍以上です(光子数は概算です)。光子(電磁波を運ぶ素粒子)は数個だけでも人の目に認識されると言われます。ニュートリノは、これだけ飛来しても私たちの体を通過して、超高感度な方法でようやく観測にかかります。ミューオンが電子の質量の200倍に対して、ニュートリノは電子の質量の百万分の1以下とめちゃくちゃ軽いです(質量はまだ確定していません)。
*ニュートリノと光子
先ほど、「太陽」からは、ニュートリノの方が光子よりも多いと書きました。しかし、一般的には、宇宙空間で、光子のほうがニュートリノよりも多いです。光子は、電荷を持った粒子、例えば電子が運動を僅かに変えるだけで、放出されます。一方、ニュートリノは核反応などの特定の高エネルギーを伴う反応でしか放出されません。従って、宇宙では光子の数の方が多いと考えられます。太陽は、ただいま水素原子が核融合している最中です。太陽の中では、核融合反応に伴いニュートリノも光子も放出されます。ニュートリノは他の粒子とほとんど反応しないので、太陽の中心からそのまま太陽の外に放出されます。光子は太陽の水素やヘリウムによる吸収と放出の繰り返しで時間をかけて太陽の外にでます(10〜100万年、拡散モデルでは17万年かかる)。従って、現在は太陽からはニュートリノの方が光子よりも多いです。光(電磁波)では見えにくい遠い星の挙動もニュートリノでならとらえやすいことがあります。電気を帯ないので途中の磁気の影響を受けません。今では、光、ニュートリノの他に、重力波も星の観測法の仲間入りをしています。