2023年4月中旬に、アクセス激減した小説家になろう! 見えた弱点と克服方法 ~膨大なアクセス数のミステリー
小説家になろうにはあるミステリーがあります。
近年に入り、なろう発の小説はあまり売れなくなって来ていて、だからでしょうがヒット作もほとんど生まれなくなっているのですが、それにも拘わらず、サイトのアクセス数だけは伸びていて、今もそれをある程度は維持できているのです。
小説家になろう発の小説が売れなくなっている原因については色々と言われていますが、“なろうテンプレ”という言葉が示す通り、類話がいくらでもある点が最も大きいのではないかと僕は考えています。
“その作品ならではの個性”というものが少ない作品が多く、似たような作品が他にいくらでもあってしかもネットで無料で読めるのでわざわざ買う必要がないのです(中には極端に文章力が低かったり、話の整合性が取れていなかったり、社会規範的に批判されても仕方がないような内容のものもありますが)。
また、小説家になろうの作家や作品は、一般的に軽蔑される傾向にあるようです。性格の悪さや頭の悪さを示す言葉として、なろう作品や作家が使われてしまう場合があるのですね。「なろう系主人公のように性格が悪い」などと言われたり、「なろう系作家のように頭が悪い」なんて表現を偶にですが聞いたりします。
AIであるChatGPTに『小説家になろうが悪いイメージを持たれている原因を教えてください』といった質問をすると、『品質の低い作品が多い。ジャンルが偏っている。商業的な成功が少ない。作品のオリジナリティに欠ける。問題行動を取る作者がいる。文体や表現に問題がある作品がある』といったような返答が返ってきます。
ChatGPTは誤情報を出力したりもしますが、それでも莫大な文章を読み込んでいるので漠然とした人々のイメージを調査する上では参考になります。
一応断っておくと、小説家になろう作品にもちゃんと良作はあります。複数人のレビュアーが高く評価するような。がしかし、悪い印象を持たれてしまっている所為か、それら作品が注目されるケースは稀です。
これらの話を総合すると、とてもじゃありませんが、小説家になろうに膨大なアクセス数をたたき出し、なおかつそれを維持できるような能力はないように思えます。
がしかし、実際に小説家になろうはアクセス数の多さでは日本有数のサイトになっているのです。同じジャンルのサイトの中では他に圧倒的な差をつけてのトップです。
僕は長い間、ずっとこれを疑問に思って来たのですが、漠然と「“メディア展開”の効果だろう」くらいに考えて深くは調べて来ませんでした。なので、2023年1月から、かなりの数の小説家になろう原作のアニメ作品の放送が始まると知った時、「いい機会だな」と考え、小説家になろうのアクセス数の増減をアクセス解析サイトで調べてみることにしたのです。
すると、2023年1月は確かにアクセス数は増えていましたが、2月には急落し2022年12月よりも減っていたのです。
つまり、少なくとも小説家になろう作品の“アニメ化”には、それほどサイトのアクセス数を増やす効果はないようなのです(因みに後述しますが、3月は再びアクセス数が増えていました)。
だとすると、小説家になろうサイトはどうしてこれほどアクセス数が多いのでしょうか? あまりに不思議だったので、僕は自分でも独自に小説家になろうのトップ画面で紹介されている月間ランキングトップ10のアクセス数を記録していくことにしました。
僕が使ってるアクセス解析サイトは、その月が終わらないと集計結果が出力されないのですよ。時間が経ったら、その時に何があったのか忘れちゃいそうなので、毎日記録を残していくことにしたのです。
集計方法は、一話分の平均アクセス数にしました。この方法だと話数の多い作品に全体の数字が引っ張られてしまうので、一話目のアクセス数に限定した方が良かったかもしれませんが、まぁ、コストをそこまでかけるつもりもなかったので。
それで調べ始めたのですが、2023年4月の中旬辺りから、何故かアクセス数が激減し始めたのです(後にアクセス解析サイトでも調べてみましたが、やはり激減していました)。そして僕はこの時期に小説家になろうのメディア展開に起こったある異変に偶然気が付いていました。
小説家になろう作品の多くはコミカライズされていますが、その作品の販促用の帯で“小説家になろう発”といったような文言が添えられてあるケースがよくあるのです。昔はもっと露骨に宣伝文句として使われていたようですが、時が経つにつれて少しずつ大人しくなり、目立たなくなって来ました。
“なんとなく”ではありますが、僕はこれを観察していました。とある漫画のレビュアーさんが「クオリティの低い作品に“小説家になろう”のタグを付けると、どんどん小説家になろうのブランド価値が低下する」なんて主張していたのを覚えていたからなんですが、とにかくそのお陰で2023年4月の中旬辺りで、店頭に横置きされている新刊のなろうコミカライズ作品の帯から“小説家になろう”の文言が消えている事に気が付きました。
少なくとも僕の近所の中サイズの本屋さんでは、そのような現象が起こっていたのです(後になってもう少し詳しく調べてみたのですが、横置きされてなかったコミカライズ作品の中には帯に“小説家になろう”の文言があるものもあったみたいです)。
この原因が何かは分かりませんが、それにより小説家になろうの宣伝効果がなくなってしまった事は事実でしょう。そして小説家になろうへのアクセス数が激減した時期の一致を考えるのなら、それにはかなりのインパクトがあると考えた方がよさそうです。
つまり、小説家になろうのアクセス数が増え続けて来たのは、単なるメディア展開ではなく、コミカライズされた作品の販促用の帯で“小説家になろう”を宣伝していたからではないか?と思えるのです。
もちろん、これは仮説に過ぎません。僕が知らない何か他の要因があるかもしれませんし。
ただ、それからもコミカライズ作品の販促用帯とアクセス数を観察し続けたのですが、2023年5月のコミカライズ作品の帯で“小説家になろう”の文言が復活するのに合わせて、再び小説家になろうのアクセスも増加しました(僕の方の集計では、それほど顕著には増えなかったのですが、これは話数の多い作品に数字が引っ張られてしまった事が原因っぽいです)。
これを考えると、コミカライズ作品の販促用帯による実質的な“小説家になろうの宣伝”こそが、小説家になろうの原作が売れなくなった後もアクセス数が増え続けた大きな要因になっていると考えられます。
もちろん、まだ結論を出すのには早すぎるのですが、これが正しいとするのなら、謎がすっきり解けるんです。小説家になろうは小説があまり売れなくなってからは、コミカライズが中心になっていくのですが、コミカライズ中心になってからの方がアクセス数が大きくなっているようなのです(すいません。これについては記憶頼りの曖昧な情報です)。
ヒット作が少なくなってからの方が、アクセス数が増えている…… コミカライズ作品の、つまり漫画家さん達のお陰と考える以外に他に何か説明が可能でしょうか?
繰り返しますが、結論を出すのは早計です。本来はもっと長く記録やその他情報を集め続けなくてはいけないでしょう。2023年7月から、多くのなろう系アニメ化作品の放送が始まるらしいので、その時にどうアクセス数が変化するのかも要注目ですし。
(ただし、いずれにしろ、メディア展開に小説家になろうが依存しているのは間違いないと思われますが)
「小説家になろうサイトのアクセス数の増加は、コミカライズの帯による宣伝効果の比重が大きい」
もしこれが正しいとするのなら、小説家になろう発の作品がビジネスとして成立しているのはコミカライズのお陰だとよく言われていますが、小説家になろうサイト自体もコミカライズに依存している可能性がかなり大きい事になります。なろう作品の価値は、膨大なアクセスによって宣伝されている事でしょうが、それすらコミカライズのお陰って事になってしまいますね……
ここまで考えて、僕はこのコミカライズ作品の帯による小説家になろうの宣伝価値が、どれくらいの金額に相当するのかに興味を覚えました。そこで参考に電車広告の費用を調べてみたのですが、2週間、800枚で3千万~5千万円くらいでした。これを考えるのなら帯による宣伝効果は、年間で軽く10億円以上に相当するのではないかと思われます。
これだけの宣伝効果に、小説家になろうはフリーライドさせてもらっているのですね。そして、明確にこう金額で表現すると“なろうの膨大なアクセス数”に納得ができてくるようにも思えます。
宣伝は、興味のある人に対して行うのが最も効果がある訳ですが、コミカライズの帯による宣伝は、この条件を満たしています。仮にその人が漫画を買おうかどうか悩んでいたとして、帯に“なろう発”と書かれてあったなら、なろうにアクセスする可能性はかなり高いはずですから。
当たり前の話ですが、このような“フリーライド”の宣伝効果をより高めたいと思ったのなら、なろうのブランド価値を上げる必要があります。
『君の膵臓をたべたい』という作品を知っていますか? 実写映画化やアニメ映画化までされた有名な小説作品ですが、実はこの作品は元はなろう作品です。ところが、この作品の宣伝に際して“小説家になろう発”の文言はほとんど使われていません。小説家になろう作品は、軽蔑されていて、前述したように頭や性格が悪いイメージを持たれてしまっているので、恐らく『君の膵臓をたべたい』の宣伝には使われなかったのでしょう。ですが、もし仮に小説家になろうのブランド価値が高かったなら、使われていた可能性はかなり高いと思うのです。
読者が「小説家になろう作品ならば知的で面白く、価値が高いに違いない」と思っていたなら、販促担当者が、作品の宣伝の為に小説家になろう発である点を使おうとするのは当たり前ですから。そして、もし使われていたのなら、小説家になろうにとって、億レベル相当の宣伝効果になっていたと思われます。
因みに、『君の膵臓をたべたい』の作者の住野よるさんの文庫本などの略歴には“小説家になろう”出身の記述がありません。恐らく、小説家になろうに悪いイメージがあるので記載しなかったのでしょう。これについてももちろん同様の理屈が成り立ちます。もし小説家になろうのブランド価値が高かったなら、略歴に記述され、それによってなろうは宣伝効果を得られていたはずです。
企業のブランド価値は、“のれん代”などと表現されています。そして、こののれん代があるかどうかで企業価値(“小説家になろう”は、企業名じゃないですけどね)に数倍の差異が生まれる場合もあるのですが、小説投稿サイトのような知名度が重要になって来る業界では、特に意味があります。
小説家になろうのイメージがもっと良かった頃から比べるのなら、このブランド価値は大きく毀損されてしまっていると考えてまず間違いありません。世間から軽蔑されるような作品の出版によって、なろうは企業価値を大きく下げているのです。
もちろん、反対に世間から尊敬されるような作品を出版すれば、企業価値が上がる訳ですが。
『推しの子』って有名なアニメ・漫画作品があります。この中で、登場人物が京極夏彦さんの“絡新婦の理”という実在する本を読んでいるシーンがあって、一部では話題になっていました。この本は登場人物の頭の良さを表現する為に用いられたのではないかと思われます。つまり、“知的である”というブランド価値が、京極夏彦さんの作品にはあるのです。
なろう作品の一部で良いので、このようなブランド価値が付けば、サイト全体にとって大きくプラスになるのは言うまでもありません。高い宣伝効果を得られます。
さて。
以上の話を踏まえると、小説投稿サイトにとって理想的な“ループ”がある事が分かると思います。
仮にその理想的なループをAループと名付けますが、
『小説投稿サイトの作品が出版される → 出版された作品が高評価を得る → 小説投稿サイトの宣伝になる → 読者やクリエイターが集まる → クオリティの高い作品が投稿されるようになる……』
といった感じです。
このループに入れさえすれば、後はもう勝ったも同然です。放っておいても、サイトがどんどん有名になって大きくなっていきます。
こうではなく、現状維持…… 仮にそれをBループと名付けますが、出版された作品がそれほど評価を受けず、あまり話題にならない場合、サイトは当たり前ですが大きくも小さくもなりません。
最後にCループ。出版された作品の評価が低く、イメージを悪化させてしまう場合は、もちろん、読者やクリエイターが減っていき、サイトは縮小していきます。
現状、小説作品だけなら、小説家になろうは明らかに縮小のCループです。小説作品がどんどん売れなくなっているので、これはほぼ自明でしょう。それを何とか現状維持のBループにしているのはコミカライズ作品の力です。
小説家になろうは、類話が多い。それが最大の問題点ではないかと僕は指摘しましたが、それに対し、コミカライズを担当している漫画家さん達は、なんとか個性を持たせようと努力をしているようです。
なろう系作品のレビュー動画を上げている人の中には、原作を確認している人もいるのですが、それによると成功しているかどうかは別問題にして、漫画家さん達はなんとか作品に個性を持たせようと様々な工夫をしているようなのですね。
つまり、なろう小説が売れなくなった最大の原因だと思われる“似たような作品ばかり”という弱点を、漫画家さん達はなんとかクリアしようとしているのです(もちろん、何の努力もしていない漫画さんもいるのですが)。
……因みに、なろう系作品の主人公は性格が悪い場合が多いのですが、コミカライズに際して多少はマイルドにされていたりもするようです。まぁ、“嫌われる”って普通は思うから当たり前ですよね。なろう作家さん達が、何故そのような性格の悪い主人公を描くのかは分かりませんが、「作家自身の性格が悪くて技術もなく、客観視もできないので、素の自分をそのまま書いてしまっている」と、思っている人もどうやら少なくないようなので、できれば止めておいた方が良いです。
今のところ、なろう作品のコミカライズは上手くいっているようですが、コミカライズ作品を担当している漫画家さん達が、いつまでもこのような努力をし続けられるとは限りません。
小説家になろうから出版される作品が、いつまでも似たような内容であったのなら、いずれアイデアの限界が来て、個性を出す事は難しくなっていきます。
もし仮に、なろうコミカライズ作品を買っている人達が、個性のない似たような作品をいつまでも買い続けてくれると言うのなら、それでもあまり問題ないでしょうが、流石に難しい気がします(いえ、買い続けてくれるのでしょうかね?)。
2023年4月の中旬、コミカライズ作品の帯から“小説家になろう発”の文言が消えた時、僕は「悪評の所為で、遂に出版社が小説家になろうを宣伝文句に使わなくなった」と考えました。
わざわざ宣伝文句に“小説家になろう”を使わなくても、小説家になろうの読者なら買うでしょうし、それ以外の人は「なろう作品なら買うのは止めよう」とその作品を避けてしまう…… 少なくとも出版社はそう考えたのではないか? なんて思ったのです。
文言が消えたそれ以外の理由が思い付かなかったのですね。
ただ、今にして思えばこれは早計でした。
その後、5月の中旬頃に、コミカライズ作品の帯に“小説家になろう発”の文言が復活しました。その少し前に小説家になろう運営から、“ランキング不正操作する別サイトへの注意喚起”が促されましたから、「なろうランキングをもっと信頼できるものにするよう努力する」といったような、何かしらのやり取りが運営と出版社との間であった可能性もありますが、今は単なる偶然だった可能性の方が高いと僕は判断しています。
2023年3月が出版社の決算期で、少しでも業績を改善しようとコミカライズ作品の発売を急いだ反動で4月の発売作品が減ってしまい、更に偶然その減ってしまった作品の販促担当者が帯に“小説家になろう発”の文言を採用しなかった、と捉える方が正しいような気がしているのです。その頃は、まだ熱心にコミカライズ作品の帯を観察してはいなかったのでただの推測になりますが。
前述しましたが、2023年3月に入って、2月に減った小説家になろうサイトのアクセス数が復活をしましたが、それが原因だとすれば説明が付きます。
(この予想が正しいとするのなら、帯に“小説家になろう”の文言がなくても、コミカライズ作品の新刊発売だけで、十分になろうの宣伝効果はある可能性がありますが)
また、コミカライズ作品の帯を熱心に観察するようになって、2023年4月の作品でも、“小説家になろう発”の文言があるものを見つけました(観察対象は前述したのと同じ、近所の中サイズの本屋さんです)。多分、目立たない場所に置かれていて気が付かなかったのだと思うのですが、つまり、数が少ないだけであるにはあったのですね。
流石に、小説家になろうの悪いイメージは、出版社からも敬遠されるほど深刻ではなかったようです。
――ただし、それと同時に僕は小説家になろうの脆弱性にも気が付いてしまいました。
まず、『転生したらスライムだった件』のコミカライズの帯です。この作品は、なろうを代表する作品の一つで、なろう連載開始10周年キャンペーンをやっていましたが、その帯に何故か“小説家になろう”の文言がなかったのです。帯には“Web連載開始10周年”と表記されてありました。小説家になろうはこれに協力していて、トップ画面で宣伝までしていたにも拘わらず。
不思議に思って他も調べてみたのですが、帯で小説家になろうの文言を使っているのは、ほとんどが“モンスターコミック”レーベルのようでした。それ以外の出版社では見当たりません。
また、1巻目は宣伝文句に“小説家になろう”を使っていたとしても、2巻目以降は使わないケースも多いようでした。この原因については分かりません。
近所の中サイズの本屋さんには、なろう系専門のコーナーがあるので、そこで昔の作品の帯も調べてみたのですが、昔の作品は2巻目以降も“小説家になろう”を使っているものが多いように思えます(確証はありません。偶然かもしれません)。
つまり、少しずつ“小説家になろう”の存在感が薄くなってきているようなのですね。現在も熱心に“なろう”を推しているのは、モンスターコミックだけのように思えます。他の出版社もなろう系作品を出版していますが、そこまでなろうと協力関係が深いようには思えないのです。
ですから、もしかしたら、ですが、“モンスターコミック”レーベルの業績が悪化して、なろうのコミカライズ作品をあまり発売しないようになってしまったら、それで一気に小説家になろうは衰退していくことになるかもしれません。
ここで疑問にするべき点があります。
小説投稿サイトが拡大していくAループ。本来なら小説家になろうはこれを目指すべきなのは言うまでもありません。しかし2023年6月現在、何故か小説家になろう運営はこれにあまり関心がないようにしか思えないのです。
Aループにする為には、まず何よりも出版した作品が高い評価を受ける必要があります。つまり、クオリティの高い作品の選出が何よりも重要なのです。今のように、不正が容易でユーザーがただ単にポイントを入れるだけの信頼性の低いランキングでは、その役割は果たせません。
もちろん、なろう運営がそれを認識しておらず、なろうランキングトップ層のクオリティは本物だと思っているのであれば、“何も対策をしない”事にも納得できるのですが、なろう運営が今の小説家になろうランキングが作品のクオリティを正しく反映していると思っている可能性はほぼ有り得ないと思われます。総合ランキングを見ていると、過去はある程度は信頼できそうですが、近年ははっきり言って滅茶苦茶です。なろうランキングトップ層の中には、とんでもなくレベルの低い作品も含まれてありますし、近年のなろう作品の中では珍しくヒットした『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』という作品のポイントはそれほど高くありません。
この状況は、読者にとっても出版社にとっても好ましくないはずです。読者はクオリティの高い作品を見つけ難くになってしまうでしょうし、出版社は売れる作品を出版する事が難しくなってしまいますから。
YouTubeでは、このような問題が発生しないようにルールの改善を行っているようです。例えば切り抜き動画が一時かなり盛んにアップロードされていましたが、YouTubeはこれを規制しました。著作権侵害問題ももちろんある訳ですが、切り抜き動画が大量に増えると複数の動画主が同じ動画を上げる事になり、ユーザー側が不便になってしまいます。「新しい動画だと思ってクリックしたら、同じ動画だった」なんて事になりかねませんからね。
このような努力によって、YouTubeは幅広いジャンルで幅広い層の人気を維持しているのです。
ですが、小説家になろう運営は、何故かこのような読者中心のシステム設計を工夫しようとしないのです(ですから、もし仮にYouTubeの販売戦略担当者が小説家になろうを運営したら、一気に収益が上がるかもしれません)。
或いはその原因は、小説家になろう運営が初期の“クリエイター集めが重要な時期”に形成された伝統に固執しているからなのかもしれません。
小説投稿サイトの類は作品を集めなくては何も始まりません。ですから、初期は「できる限りクリエイター達の居心地の良いサイト作り」を目指すのが効果的でしょう。つまり、“クリエイターフレンドリー”なサイトですね。ただ、それはサイトの人気が高くなるにしたがってそれほど重要ではなくなっていきます。そのネームバリューに惹かれ、放っておいてもクリエイター達が集まって来るからですね。
小説家になろうは、既にこの状態になっているものと思われます。ですから、クリエイター中心ではなく、読者中心のサイト設計に転換しても問題はないと思うのですが、相変わらずに昔の意識が変わっていないのかもしれません。
――が、その“クリエイター中心”という意識を捨て、“読者中心”の発想を持ちさえすれば、恐らくは比較的楽にクオリティの高い作品を読者に提供できるようになるのではないかと思われます。
まず、何故、小説家になろうがクオリティの高い作品を抽出できないのかという点から見ていきましょう。
小説家になろうの評価システムが、クオリティの高い作品を抽出し難いのは、まず第一にポイントランキング形式を取っているからです。その所為で、仮にクオリティが低かったとしても、ポイントさえ得られれば、高い宣伝効果を得られてしまうのですね。簡単にポイントを入れてくれるユーザー層が好むジャンルの作品がだから有利になってしまい、作品傾向に偏りが生じてしまいます。
アクセス解析サイトで調べると、小説家になろうの女性の割合は33%ほどしかないのですが、なろうランキングでは女性向け作品がかなりの割合を占めます。つまり、「なろうに登録している女性達は簡単にポイントを入れる」という事ですね。
恐らくは、コミュニティに近いものが形成されていて、その女性達がポイントを入れているのだと思うのですが、それによってその女性達が好むジャンルばかりが有利になってしまうという現象が起こっています。
しかも、これ、偶然に左右されるし、不正がし易くもあります。
例えば、偶然、投稿した時にポイントを入れてくれる人が多くいたら、それだけでランキングに入り、宣伝効果を得られます。運悪くポイントを入れてくれる人がいなかったら、宣伝効果は得られません。更に、同じポイント数だったとしても、同時にポイントが入るか、それとも数日に分かれてポイントが入るかでも結果は大きく変わってきます。何故なら、日間ランキングはその日のポイントしか対象にしていないからです。
一日に100ポイント入ったら、日間ランキングに載るでしょうけど、一日に10ポイントずつ、10日間で100ポイントでは、ランキングには載らないのですね。
つまり、まったく同じ作品でもタイミングによって結果に雲泥の差が生じるのです。
また、当然ですが、友人がいれば“一日に100ポイント”は簡単に達成できます(クラブなどに所属していれば依頼する事は容易でしょう)。また、だからこそ不正にポイントを入れるサイトも有効になってきます。
そして、この所為で、“ガチャ”と呼ばれるような作品を粗製乱造して“当たり”を引くまでそれを繰り返す手法も有効になってきます(もっとも、一時に比べれば今はマシになっているようですが)。
これが“作品のクオリティ”とはまったく関係のない話である事は誰にでも分かるでしょう。ですが、小説家になろうでランキング上位に入る為にはとても重要なんです。
つまり、ポイントランキング形式は、クオリティの高い作品を抽出する手段として不向きなのですね。なのに、小説家になろうではランキングが重要な価値を持ち過ぎているのです。これでは優秀な作品が大量に埋もれてしまいます。
しかも、小説家になろうはポイント加算方式を採用している為、実質的に作品の評価を下げる手段が存在しません。読者が“この作品はつまらない”と思って低評価にしたとしても、その作品にとってプラスにしかなりません。つまり、ランキングに載る事のデメリットが存在しない事になります。
また、実はユーザーにとってクオリティの高い作品に高ポイントを入れるメリットもあまりありません。もし仮にそのユーザーが同時にクリエイターでもあったなら、むしろ自分が不利になってしまいます。仲間同士の同調圧力などがあるのなら、積極的にポイントを入れるでしょうが、その作家を積極的に応援したいと思っている以外で、ポイントを入れてくれるケースは稀でしょう(運良くバズれば別ですが)。
今までの話をまとめます。
小説家になろうがクオリティの高い作品を抽出できないのは、
1.ランキングによる宣伝効果があまりに重要である為、ポイントさえ得られればクオリティに関係なく目立ってしまう。
2.作品の評価を下げる手段がない。
3.クオリティの高い作品にポイントを入れるメリットがユーザーにあまりない。自分で作品を書いてる場合は、むしろデメリットになってしまう。
以上です。
ですから、クオリティの高い作品を抽出したいと思ったのなら、これら問題点をクリアしていかなくてはなりません。
過去、僕は何度かエッセイの中でその方法を提案していますが、それらはいずれも“これら問題点を解決する”という観点から考えたものです。
ただ、それら方法にはサイトが荒れてしまう可能性があるものも含まれてありました。また、システム設計が難しかったり、マスタメンテナンスが必要になるなど、運用面での問題もあります。
そこで今回は、比較的楽な方法で実装が可能な“クオリティの高い作品を抽出する”方法を提案してみたいと思います。
今現在、小説家になろうのトップ画面では月間ランキングトップ10が掲載されています。この所為で、ランキングが必要以上に重要なものになってしまっているだろう事は想像に難しくありません。なのでこれを廃止しましょう。その代わり、小説家になろう運営が売り込みたいと思っている作品を載せるようにします。
その選考基準は以下のようにします。
1.ポイントが高い
2.オリジナリティが高い
3.社会的意義が高い
4.コミカライズし易い
5.世間的な人気ジャンル
理由をそれぞれ説明します。
1.ポイントが高い
ポイントが問題だと言っておきながら、いきなり“ポイントが高い”を挙げていますが、流石にユーザーが入れたポイントを完全に無視する訳にはいかないでしょう。また、そもそもポイントが高い作品に絞らないと作品数が多過ぎて選考のしようがないという理由もあります。
2.オリジナリティが高い
現在、なろう系作品が嫌われている理由の一つが、“オリジナリティがない”事ですから、これは当然です。なろう読者には何度でも似たような作品で楽しめる人が多いようですが、世間的にはそれは明らかにニッチ層で、中には楽しめるどころか苦行のように感じる人すらもいます。ですから、世間的に高い評価を得る為には“オリジナリティの高さ”が必須条件になります。
また、現在AIの創作物に対する著作権問題が世間で盛んに議論されていますが、もし仮にその影響で『AIによる創作物と明記しなければ、詐欺罪とする』といったような法律ができた場合、なろう系テンプレ作品の作家の多くは容疑者となってしまう可能性があります。
AIによる創作物の特徴は、“類似作品が多く、話やキャラクターの整合性がなく、文章力が低く、創作スピードが速い”といった点になるかと思いますが、なろう系作品の多くはこれに当て嵌まってしまうのですね。
一応、断っておくと、僕はなろうではそれほどAIによる創作物は多くないと考えています。“文章力が低い”という点をAIの特徴として挙げましたが、“人間の文章の下手さ”と“AIの文章の下手さ”は根本から性質が異なっていて、なろう作家の文章力の下手さは、AIのそれとは違っています(ただし、今までに一度だけ、トップ層の作品で、まるでAIのような文章の作品を僕は見かけた事があります)。
ただ、それでも警察としては法律ができてしまったなら、なろう系テンプレ作家を容疑者にしない訳にはいかないと思うのです。
一応断っておくと、小説家になろうなどの小説投稿サイトは、現段階で既に著作権侵害無法地帯と化してしまっています。著作権は基本的には親告罪で、誰かが訴えない限り罪にはなりませんから世間的にあまり目立ってはいませんが、著作権の立法目的は、実は“権利者の保護”ではなく、クリエイター達に対し、安易な模倣に陥らず“豊かな文化を醸成するよう”に促す事にあるので、今の状態で既に大問題なのです。小説投稿サイトに対し、行政指導も何もされずにこれが放置されているのは、国のトップ層がネット文化に疎くて知らないか、やる気がないかのどちらかでしょう。
ですから、或いは、AIの創作物に関する法整備が進む中で小説投稿サイトの著作権侵害が問題視される事になる可能性もあると僕は考えています。先程述べたように、AIの創作物である旨を明記しない事が詐欺罪に当たるようにもしなったなら、多くのなろう作家は容疑者になってしまいますが、今のままでは、人数が多過ぎて警察も捜査し切れませんから、小説家になろう運営に対して警察が状況を是正するように勧告して来るかもしれません。
「オリジナリティがある作品を尊重し、AIが創作したような模倣作品は評価を下げるシステムを導入しろ」
と。
そうすれば、自ずからAIにでも制作できるオリジナリティが低い作品は減っていきますから。そしてもちろんその方が小説家になろうの読者の数も増えるでしょう。
……ただし、法整備がされても、警察にやる気がなかったなら、やはり放置されてしまうかもしれませんが。
3.社会的意義が高い
もしかしたら、人によっては「メッセージ性の高い作品はビジネスに向かない」などと思ってしまっているかもしれませんが、実際はそんな事はなく、ヒットしている娯楽作品の多くで(ゲームですら)、メッセージ性は重要な要素としてあります。
もちろん、そのような作品の方が世間からの評価も高くなります。
小説になろうは、残念ながら現在は世間から軽蔑されてしまっている訳ですが、その悪いイメージを払拭する意味でもそういった社会的意義の高い作品を積極的に推す事には価値があるはずです。
4.コミカライズし易い
現在のなろうの膨大なアクセス数が、主にコミカライズに支えられている点を考えるのならこれは自明でしょう。
また、ですから、コミカライズ担当する予定の漫画家さん自身が、作品の選出に加わる方が良いのではないかと思われます。
5.世間的な人気ジャンル
世間的には一番の小説の人気ジャンルはミステリです。が、小説家になろうにおいてはマイナージャンルです。この点を観ても、小説家になろうが世間一般とは異なった文化を持っていると分かります。もちろん、異なっていようがどうであろうが、発展性があるのなら何の問題もない訳ですが、どう好意的に受け止めても、なろう系テンプレ作品にもうこれ以上の伸びしろはないでしょう。ならば、“新しいジャンル”に光を当てる方策が必要になって来るはずです。
なろう系テンプレ作品とは異なったジャンルならば、ポイントが比較的低くてもトップ画面で宣伝してもらえ、運営から推してもらえるとなれば、自然、そのジャンルは活性化していきます。
もちろん、今人気のジャンルを完全に無視する訳にもいかないので、異世界(恋愛)やハイファンタジーから半分、その他のジャンルから半分を選ぶといった感じにすれば良いのではないでしょうか。
この様になろうでの人気を無視してトップ画面で宣伝すると、サイトのアクセス数を減らしてしまうという懸念もあるかと思いますが、それほど心配しなくて良いのではないかと僕は考えています。
何故なら、明らかになろうで人気ジャンルの作品は供給過多だからです。
アクセス解析サイトで調べると、小説家になろうの女性の割合はわずか33%ほどだと先に説明しました。ところが、なろうランキングのトップ層はそのわずかしかいない女性向け作品の方が遥かに多いのですね(前述しましたが、女性達の方がポイントをよく入れる傾向にあるのでしょう)。そして、にも拘らず、小説家になろうのアクセス数は大きな影響を受けていないように思えます。これは、なろう人気ジャンルの作品は、個人の力では読み切れない程膨大に供給されているので、多少トップ画面で紹介されている作品が減ったところで大きな影響を受けない為ではないかと思われます。
(作品が多過ぎて、本当にこの人達は作品を読んだ上でポイントを入れているのか?と思わず疑ってしまいたくなりますが)
ですから、一時的には減るかもしれませんが、むしろ幅広いジャンルの作品をピックアップする事で、他のジャンルの読者を呼び込む効果が期待でき、長期的にはアクセス数が増えるのではないかと思われます。
小説家になろうのユーザーの多くはある特定のジャンルの作品にしかポイントを入れませんから、トップで宣伝してもポイントは伸びないかもしれませんが、出版社が気にしているのはポイントではなくアクセス数でしょうから、それで出版が決まる作品も出て来るはずです。
そして、そうして今までにないジャンルのコミカライズ作品が増えていけば、それにより幅広い層に対して宣伝効果を得られ、更にアクセス数は増加していくでしょう。
また、それら“推し”作品に対しての新レビュー機能を実装するのも面白いかもしれません。小説家になろうの既存のレビュー機能には、ポイントなどを付ける機能がありませんが、この新レビューにはポイントに相当する“販売部数予想”の項目を設けます。
つまり、レビュアーはその作品が書籍化、コミカライズした場合の販売部数予想をするのですね。そしてその予想がある程度当たっていればレビュアーポイントを加点し、反対に大きく外れていれば減点します。初期にはあまり意味がありませんが、数年続ければ、これにより売れる作品を判断する能力を持った実力のあるレビュアーが分かるようになるはずです。
その実力のあるレビュアー達が選んだ作品は人気作になる可能性が高いでしょう。今度はそれをピックアップするようにすれば良いのです。そうすれば、より積極的にヒット作を世に送り出せるようになります。
もちろん、レビュアーに無償で小説家になろうに貢献してもらうというのも図々しい話なので、売れる作品をレビュアーが見出してくれた際には何かしらの報酬を用意するべきだと思います。
こういった試みを行うだけでもかなり小説家になろうのイメージを改善し、アクセス数を増やす効果があると思われますが、まだ試すべき方略もあります。
“大極宮”って知っていますか? 大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆきという三人の人気作家が所属している株式会社ラクーンエージェンシーの公式サイトで、作家達の宣伝活動も行っています。作家というと個人事業のように思われていますが、このような形態も存在しているのですね。そしてこの会社は、作家の営業なども行っています。
このままの案を採用しろ、とは言いません。
しかし、小説家になろうでも似たような形態は考えられないでしょうか?
“小説家になろうプレミア作家”という称号(?)のようなものを新たに設け、プレミア作家になった人は、小説家になろうに営業活動などをしてもらえるようにするのです。その代わり、プレミア作家は小説家になろうを介して得た印税などの収入の何割かを小説家になろうに支払い、更に小説家になろうの広報活動も行います。
一つでも何か大きなヒット作が生まれれば、小説家になろうの直接間接の収入が大幅に増えます。印税だけで、億単位の収入増になる可能性があります。
作家の住野よるさんが、小説家になろう出身であるにも拘わらず、それを文庫本などの略歴に書いていないと説明しました。それにより小説家になろうには潜在的な損失が生まれてしまっている訳ですが、プレミア作家として契約しておけば、そのような損失が発生せず、むしろ大きな宣伝効果を得られます。
近年では、宣伝の為に企業がプロゲーマーチームを作る事も珍しくなくなってきましたが、発想としてはそれに近いです。
もちろん、“小説家になろうプレミア作家”の選出には厳しい条件を設けるべきです。小説家になろうのイメージを良くするような人ではなくてはなりませんし、多作で様々な依頼に対応できるタイプの人の方が良いでしょう。小説家になろう出身の作家には、評判の悪い人も少なくありませんが、そのような作家やテンプレに頼っている作家は当然対象外になります。
これは作家だけでなく、レビュアーにも適応させるべきかもしれません。先ほど説明した“売れる作品を見抜く力を持ったレビュアー”になろうプレミアレビュアーの肩書を与え、お金を支払って特別な仕事をしてもらうのですね。
このような方法は、比較的シンプルですが、効果は充分にあると思われます。
作中でも書きましたが、本当に”コミカライズ作品の帯による宣伝”が原因かどうかはまだ分かりません。