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疑惑のペリドット

 ツァイ様とタンザが見つめる中、石板の上のカフスリンクスに手をかざして意識を集中する。カフスリンクスの周りが淡く輝きだし、次第に白い光が全体を覆い隠す。


「まぁ!」

「おぉ!」


 輝き出したカフスリンクスにツァイ様とタンザが驚きの声をあげる。どうやら宝飾合成を見たことがないというのは本当だったみたい。


「静かに」


 私の言葉にツァイ様とタンザが揃って口に手を当ててうなずく。その様子に私もうなずくとカフスリンクスに視線を戻す。


 すると真っ白な光に包まれたカフスリンクスから、きらきらとしたイメージが伝わってくる。

 

 さっきツァイ様に、厳密に誰のどんな思いかまではわからない、と言ったけど、最近はなんとなくのイメージくらいは感じられるようになってきた。


 まぁ、あくまでイメージだし、きらきらとか、柔らかい感じとか、その程度のものなんだけどね。


 今回のカフスリンクスから伝わってきたのは、きらきらとした光。夏の太陽みたいに眩しくて真っすぐな光。多分、出来上がる石はあれだ。

 

 息をつめて見つめること十数秒。石板の上に現れた石を見て私は思わずにっこりする。


 そこには予想通りオリーブ色のペリドットが二つ煌めいていた。


 ペリドットは太陽の石とも呼ばれていて、その煌めきが前向きで明るい気持ちにしてくれると言われている。これから領主様として頑張っていくコーディ様にも、結婚を控えている二人の新しい門出にもぴったりの石だ。


 しかもできた石はカフスリンクスにぴったりの大きさの石が二つ。


「よかったですね。こんなに希望どおりの結果になるのは珍し……」


 そこまで言いかけて、目の前のツァイ様の顔に思わず息を飲む。

 

 ペリドットを無言で睨みつけるライラックピンクの目。視線だけでペリドットを砕くつもりか、なんてバカなことを思ってしまうくらいの強い目。そこに浮かぶのは明らかに怒りだった。


「ツァイ様?」


 でもどうして? 婚約者へのプレゼントなんだよね? 出来上がった石もこれ以上ないってくらいぴったりなのに。


「やっぱり」


 そう言うやいなやツァイ様が石板のペリドットを鷲掴みにする。そのまま立ち上がってペリドットを投げ捨てようと手を振り上げたのをタンザが止める。


「タンザ! 離しなさい!」

「ツァイ様、落ち着いて」


 怒鳴るツァイ様の腕を掴んだまま静かに告げるタンザ。でも、ツァイ様が落ち着く様子はなく。


「離せといっているでしよ! こんな石! やっぱりコーディ様には他に」

「落ち着いて。コーディ様はそのような方では」

「うるさい! タンザも知っていたんでしょ! 二人して(わたくし)を笑っていたんでしょ!」

「そんなわけないだろ!」


 声を荒げたタンザの言葉にツァイ様がビクッとする。その隙をついてタンザがペリドットを取り上げて、ツァイ様を座らせる。


 えっ? 一体、何が起きているの?


 一応は大人しくなったもののツァイ様の表情は険しいまま。そんなツァイ様の肩を抑える手を離さずにタンザがため息をつく。


「だから止めておけと言ったのに」

「やっぱり知っていたのね!」


 その言葉にツァイ様がタンザをキッと睨みつける。


「そうじゃなくて」

「知っていたから止めたんでしょ! それにあなた!」


 えっ? 私?


「この石を見て笑ったわね! あなたもわかったんでしょ!」 

「はい?」

「とぼけた顔をしても無駄よ! あの顔! 私を嘲笑ったんでしょ!」


 いやいや、何の話よ?


 急に怒りの矛先がこっちに向いたけど、さっぱり話が見えてこない。宝飾合成でペリドットができたことが原因なんだろうけど、なんで? まさかフィアーノではペリドットに何か悪い意味でもあるの?


 パンパンッ。


 そんなことを考えていたら、おもむろにツァイ様が手を叩いた。すると部屋の中に厳つい格好の男性が数人入ってくる。と。


「この者を捕らえなさい!」


 えっ? 嘘でしょ!


 ツァイ様の言葉に慌てて部屋を出ようとするけど、あっという間に両腕を掴まれてしまう。


「ツァイ! 止めるんだ!」

「うるさい! この者は私を侮辱しました! 地下牢に連れていきなさい!」


 慌てて止めるタンザの言葉を無視してツァイ様がとんでもないことを言い出す。

 

「ちょっと! どういうこと? 離してよ!」

「お前たち止めるんだ! この人は何も悪くない!」


 タンザの言葉に私を連れて行こうとした男性が一瞬立ち止まる。でも。


「私の言うことが聞けないの! さっさと連れて行きない!」

「ツァイ! いい加減に」

「さっきから誰に口をきいているの! タンザも地下牢に連れて行きない!」


 タンザが大きく目を見開く。男性たちにとっても予想外の言葉だったようで。

 

「ツァイ様、それは」

「いや、いいんだ。……わかりました。ツァイ様。仰せのとおりに」


 戸惑う男性を止めるとタンザが私を振り返る。


「申し訳ない。必ずなんとかしますので今は我慢してください。……おい! 丁重に扱うんだ!」


 言いたいことは山ほどあったけど、ここで騒ぐのは得策ではないことだけはわかった。どう考えても今のツァイ様はまともに話ができる状態じゃないし。ってことは、ここは地下牢とやらに連れて行かれるしかないわけね。


 とりあえずタンザの言葉にうなずいてみせると、私は心の中で盛大にため息をついた。


 セレスタとジェード、心配してるだろうなぁ。

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