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新規のお客様は大切に

「えぇ? 私をご指名ってこと?」


 上まであがってきた二人にノームさんの桃とお茶をだしながら、きょとんとしてしまった。


「ふん。ほうみたい(うん、そうみたい)」

「こら。食べながら話すな」


 早速、桃を頬張るセレスタをジェードがたしなめる。


「フィアーノってどこかわかるか?」

「港町の? もちろん。行ったことはないけど」


 フィアーノは私たちの住んでいるタキの町から南に位置する港町。いろいろな土地の物が集まるから、デザインの勉強のためにも一度は行ってみたいんだけど、馬車で片道三日もかかるんだよね。


「そこの領主様のご息女ツァイ様がホタルをご指名なんだ」

「ぜひ宝飾合成してもらいたい品があるんだって」


 ジェードとセレスタの言葉に首を捻る。フィアーノには行ったことがないし、もちろんツァイ様とやらとも面識はない。


「なんでフィアーノの貴族様がホタルを知ってるんだい?」


 マダムの言葉に私もうんうんとうなずく。

 

「この前、王都でお茶会が開かれたんだけど、その時にレナ様のバングルを気に入られたんだって」


 レナというのはタキの町の領主様の一人娘。ひょんなことから仲良くさせてもらうことになって、確かにプレナイトのバングルを作ったことはある。でも。


「えぇ! 同じものは無理だよ!」


 慌てて首を横に振る。宝飾合成は基本的に一点モノ。例え同じ素材があって、同じ宝飾師が宝飾合成したとしても同じものはできない。貴族様なら他にもアクセサリーは持っているだろうし、そこの所は知っているはずだけど。


「それはツァイ様もわかっているよ。アクセサリーってそういうものだし」

「ホタルが思いを素材にする宝飾師だと言ったら、ぜひにという話になったんだとよ」


 なるほど。同じアクセサリーが欲しいんじゃなくて、そういうことね。


 宝飾師自体がそれほど人数はいないし、その中でも私のように思いを素材にする宝飾師は少ない。レナのバングルをみて興味を持ったってことね。


「でも、私の場合、その場で宝飾合成してお渡しはできないよ」


 レナが私の名前をだしたってことは説明ずみだろうけど、一応断っておく。今のところ私が宝飾合成できるのはルースだけ。アクセサリーができる可能性もゼロではないけど、ルースの可能性の方が圧倒的に高い。


 アクセサリーは宝飾合成によって一発で作られるこの世界。もちろんルースを加工してアクセサリーにする技術なんてあるわけもなく。お客様もルースだけ渡されても困ってしまう。結果、ルースが合成されたときはそれを預かって土台を彫金で作ることになる。その分、時間がかかってしまうのだ。


「そこはレナ様も説明したらしいんだけど、急がないから構わないってさ」

「どうする? 気が乗らないなら断ってもいいんだぞ」

「こら、ジェード!」


 セレスタがジェードをたしなめる。珍しい。いつもは逆なのに。

 

「ホタルさん、フィアーノとタキじゃ、同じ領主様でも町の規模が全然違うんだ」

「おい! セレスタ!」


 あぁ、そういう事ね。ジェードがセレスタを止めようとしてくれるけど、言いたいことはわかっちゃった。


「同じ領主様でもタキよりフィアーノの方が格上なのね?」

「さすが。理解が早くて助かるよ」


 私の言葉にセレスタがうなずく。


「で、私が断ると角が立つ、と」

「まぁ、ご息女同士の話だからね。断っても大事にはならないだろうけど」

「好ましくはない、と」

「そーゆーこと」

「ホタル、それは町同士の話だ。気乗りしないならいいんだぞ」


 セレスタとジェードの言葉を聞きながら考える。フィアーノにはいつか行ってみたいと思っていたし、私のアクセサリーに興味を持ってもらえたのも嬉しい。時間がかかることも了承済みってことだし。

 

「マダム、私行ってみたいです」

「いいのかい?」

「ご指名いただけるなんて光栄です。折角の機会を無駄にしたくありません」


 ジロリと睨むマダムの灰色の目を真っすぐに見返して答える。


「護衛はつくんだろうね?」

「もちろん。もし行ってくれるというなら、俺とセレスタがついていく」


 マダムの質問にジェードが即答する。その姿にマダムがうなずく。

 

「まぁ、だったらいいんじゃないか。たまには遠出もいいだろうよ」

「ありがとうございます!」

「ホタルさん、助かるよ。まぁ、おばさんもたまには自分のことは自分でするようにしないとボケる……フゴッ!」


 セレスタの不用意な発言に灰色の閃光が走る。


「大きなお世話だよ」


 フンッと鼻を鳴らしてマダムが部屋の隅をジロリと睨みつける。視線の先にはセレスタが転がっている。


 マダムに年齢の話は厳禁。おばさんと呼ぶなんてもってのほか。甥っ子だっていうのにいつになったら学ぶんだか。


「ホタル、悪いが行くとなれば早い方が助かる。明日の朝には出発したいんだが」


 セレスタの惨状をさらりと見なかったことにしてジェードが話をすすめる。


「私はいいけど、マダム、お店の方は?」


 申し訳ないけど私もセレスタはスルー。いつものことだし、放っておいても勝手に復活するしね。


「自分の注文が入っていないなら構わないよ」

「大丈夫です。それじゃ、明日の朝ってことで」

「わかった」


 私の言葉にうなずくとジェードが店を後にする。セレスタも何事もなかったかのように、また明日ね~、と出て行った。本当にタフな子だわ。

 

 さぁて、初めてのフィアーノ。どんな町かな?

灰色の閃光、結構好きなんです(笑)

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