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ペリドッドの結婚指輪

 一ヶ月後。再び訪れたフィアーノの領主様のお屋敷は相変わらずの豪華さだった。だったのだけど。


「ほぇ〜」

「ホタルさん、口閉じて! 口!」


 目の前の光景にぽかんと口を開けたままの私にセレスタが小声で注意する。


「まぁ、気持ちはわからんでもないっす」

「静かに。というか、リシア、なんでお前がついてきてるんだ?」

「は? 誰かさんが頼りないからに決まってるじゃないっすか」

「なんだと!」

「ほら、リシアとジェードも黙る! 他所様の前でみっともない真似しない!」


 隣でこそこそと言い合うリシア君とジェードをセレスタが睨みつける。


 そう。なぜか今回のフィアーノ行きはリシア君までついてきちゃったのよね。まぁ、リシア君の発明と助けがあったからこそ解決したんだし、来ておかしくはないけどさ。


 なんだかジェードとリシア君が険悪なのよね。ジェードが無愛想なのはいつものこととはいえ、リシア君はあの通り誰に対しても感じのいい子なのに珍しい。


 でも話を聞いてみようとしたんだけど、セレスタに止められちゃったんだよね。


 まぁ、セレスタが放っておくくらいなら大したことじゃないんだろう。問題あるならフォローしない子じゃない。なんだかんだいってセレスタってできた子なのよね。


「ホタル様、そんな遠くに座ってらしたらお話しずらいわ。どうぞこちらにいらして。ほら、やっぱり謁見の間なんかじゃなくて、この前と同じ部屋の方がで良かったじゃない」

「次期領主がいるのに無理に決まってるだろ! 何度言ったらわかるんだ!」


 不貞腐れた顔で言うツァイ様の耳元でタンザがすごい顔で注意している。たぶん小声のつもりなんだろうけど、残念ながら丸聞こえだ。


 隣ではそんな二人をにこにこしながら眺めている菫色の髪の青年。おそらく、というか間違いなくこの方がコーディ様だろう。


 そう。私が呆けていた原因はこの二人。透けるような白い肌、甘いライラックピンクの髪と零れんばかりの大きな目。お人形のように愛くるしいツァイ様。そして隣に座るコーディ様は褐色の肌に菫色のさらりとした髪、同じく菫色の切れ長の目。豹や虎を思わせるようなしなやかですらりとした長身はさすが元警備隊。


 まさにファンタジーのお姫様と騎士といった二人が、これまた往年のRPGでお馴染みのいわゆる謁見の間に並んで座っているのだ。そして後ろに控える女剣士、じゃなかった、タンザ。これはテンション上がるなと言う方が無理でしょ。


 もうちょっとで片膝ついて頭下げそうになったわ。私たちにも椅子を用意していただけていてよかった。


「私は構わないよ」

「うるさい! お前も自覚持て!」


 あっ、タンザがとうとうキレた。まだ、ぶうぶう言っているツァイ様と外見に反してのほほんと微笑むコーディ様。このままじゃ、さすがにタンザが可哀想だ。


「ツァイ様、ではお許しいただけるなら、お側にあがってもよろしいですか? ご依頼の品を近くでお見せできると嬉しいのですが」

「もちろんですわ!」


 ツァイ様の言葉に席を立って二人の側に近寄り、トレーに載せた二つの指輪を差し出す。


 紅姫竜胆の模様を彫り込んだ金の台座に一粒のペリドットを埋めて止めた二つの指輪。


 指輪の金はリシア君に無理をいって18金にしてもらったから強度もばっちり。この世界では金も銀もそのまま使っているけど、銀は曇るし、純金は毎日つけるには柔らか過ぎるからね。


「まぁ、指輪ですの? しかも二つ? 私がお願いしたのはコーディ様への贈り物ですわよ?」 

「ほぅ、指輪ですか。でも随分とシンプルだ。しかも同じものが二つ。ただの指輪ではないのかな?」


 怪訝そうな顔をするツァイ様の隣でコーディ様は興味深そうな顔で私を見てくる。ツァイ様が言っていたとおり菫色だった目が淡い黄色に煌めく。その不思議な目に一瞬言葉を失うけど、慌てて我に返る。


「これは私の育った土地の習慣で結婚指輪というものです」


 私はコーディ様とツァイ様に結婚指輪の説明をする。


「素敵! コーディ様とお揃いなんて!」

「なるほど、だからこのデザインなのか。これなら執務中でも気にならずにつけられるね。それに」


 コーディ様は大きい方の指輪を手に取るとペリドットを見つめる。


「この石が常に目に入るところにあれば、私は今回の失敗を忘れずにいられそうだ」

「本当ですわね」


 ツァイ様も真面目な顔でうなずく。この二人に余計な説明は不要みたいね。では。


「お二人とも指輪のサイズは問題ありませんか?」


 ツァイ様はともかくコーディ様はリシア君に教えてもらった体格を頼りに造ったから、多少の調整ができる準備をしてきたのだけど。


「ぴったりですわ」

「私も問題ないよ」


 どうやらその必要はなかったみたい。


「では、指輪をこちらに」

「「えっ?」」

「この指輪にはお決まりの儀式があるんです」

 

 不思議がる二人からさっさと指輪を取り上げてトレーに並べる。お二人の結婚式はまだまだ先とのことだけど、これは結婚指輪。やっぱりやっておかないとね。


「さぁ、お二人とも席から立って向かい合ってください」

「わかりましたわ」

「何が始まるのかな」


 戸惑うツァイ様に面白そうな顔をするコーディ様。


「さぁ、セレスタたちも立って。もうちょっとこっちに来て」

「えっ? 僕たちも?」

「早くする! タンザはセレスタたちの横に並ぶ!」

「は、はい」


 戸惑うみんなに指示をだす。一段上がったところで向かい合って立つツァイ様とコーディ様。それを見守る形で並ぶタンザとセレスタたち。


 それを確認して私は指輪を載せたトレーを持ってツァイ様とコーディ様の側に立つ。


「さて、コーディ様。あなたはツァイ様を妻とし、病める時も健やかなる時も、良い時も悪い時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、彼女を愛することを」


 神父役は私。とはいえそんな心得も、この世界の宗教もわからない。だから。


「ここにいるみんなに誓いますか?」


 これが一番でしょ。

 

 私の言葉にコーディ様の目が一瞬見開かれた後で明るい青に煌めく。そして。


「はい」


 落ち着いた声で答えるコーディ様に小さい方の指輪を指し示す。


「では誓いの印にこの指輪をツァイ様の左手の薬指にはめてください」


 コーディ様は静かにうなずくとツァイ様の手をとり指輪をはめる。


「ツァイ様。あなたは……」

「もちろん誓いますわ!」


 同じようにたずねた私の言葉にツァイ様が力一杯うなずいて、コーディ様の指に指輪をはめた。


 自然とみんなが拍手をする。潤んだ目のツァイ様と優しく肩をだくコーディ様。


 こうしてペリドットから始まった騒動は大団円をむかえた。


「ホタル様、いつでも遊びにいらしてね。もっとお話しましょ」

「えぇ。よろこんで」


 その後、仕事があるというコーディ様を見送り、ツァイ様にお茶をごちそうになった。泊まっていけばといってくれたのだけど、みんなそれぞれに仕事があるので次の機会にという話になったのだ。


「ホタルさん、今回は本当にありがとうございました」

「ううん……まだまだ大変そうだけどがんばってね」

「えぇ」


 耳元で囁くとタンザが苦笑いしながらうなずく。彼女がいれば大丈夫だろう。


「では、失礼します」


 馬車に乗り込むと私たちはフィアーノを後にしたのだった。

本編はこれで終わりです。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

明日、おまけを公開の予定です!


もしよければ評価や感想などいただけたら嬉しいです!

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