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地下牢にて

「おぉ、地下牢だ」


 石造りの壁と床に冷たい鉄格子。窓のない暗い部屋。明かりは壁の松明だけ。全体的にじめじめ、どんより、灰色。連れてこられた地下牢があまりにイメージ通りでちょっと笑えてきてしまった。


 って、いやいや、笑ってる場合じゃない! あの場でじたばたしても仕方ないと思って大人しくしていたけど、帰してもらえるんだよね?


 そんな私の心の声が聞こえたのか。聞こえなかったのか。

 

「申し訳ない。すぐに別の部屋を用意しますので」


 そう言って頭を下げるとタンザが私たちを連れてきた男性に何かをささやく。多分、タンザの方が立場的に上なんだろう。男性は何も言わずにただうなずいて地下牢を去っていく。


「夜にはきちんとした部屋がご用意します」

「あっ、ありがとうございます」


 って、だから、違うんだってば! お礼を言うところじゃないし、部屋の問題じゃない!


「あの、帰してもらえるんですよね?」


 なんとかするって言ったよね? 嘘でしょ。夜ってどういうことさ。


「もちろんです。ただすぐにという訳には」


 申し訳なさそうな顔で言葉を濁すタンザ。いやいや、何言ってくれてるのさ。セレスタとジェードも待たせたままだっつうの。相手が相手だからセレスタもジェードもいきなり強硬手段にでたりはしないだろうけど、丸一日戻らなければ絶対心配する。


「お付きの方ですよね? 勝手ながらホタル様がこちらでアクセサリーの仕上げをしたいとおっしゃってるということにして、お二人には一旦お引取りいただくようにしました」

「はぁ?」


 しれっと答えるタンザに思わず抗議の声をあげる。なんだそれ! 勝手すぎるでしょ!


「申し訳ございません。ですがいつまでも引き止めておくのもどうかと思いまして」


 いつまでも、って、そんなに長く帰してもらえないの? 絶対困る! っていうか一体、何が起きているの? ただ言われたとおりに宝飾合成をしただけなのに。


「あの、タンザさん、でしたっけ?」

「はい。どうぞタンザとお呼びください」


 あぁ、今、呼び方の話はどうでもいい。でも、まぁ、いいや。


「じゃあ、タンザ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」

「私でお答えできることでしたら何でも」


 おっと、知っていること、じゃなくて、答えられること、ときましたか。なんかいろいろと不穏そうなんだけど今はタンザしか聞ける人もいないし仕方ない。


 ツァイ様が怒った理由は宝飾合成でペリドットができたから。それは間違いないと思う。だとしたらペリドットの何がそんなにツァイ様を怒らせたのか?


「ねぇ、フィアーノではペリドットが縁起の悪い石とされているとか、そういう話があるの?」


 十中八九ないだろうけど、念の為。


「いえ、そんなことはありません」


 だよね。そんな話なら頭に血が上ったツァイ様はともかく、タンザが今までに何か説明していそうなものだ。ペリドットに一般的な悪い意味はない。そうなると考えられるのはツァイ様の個人的な事情かぁ。


「ねぇ、タンザ。あなた、ツァイ様とは昔からの知り合いよね? 例えば子どもの時から一緒に過ごしてきたとか?」

「なぜそれを!」


 驚きの声をあげたタンザが急に私から距離をとる。その顔には明らかに不信感と緊張の表情が浮かんでるんだけど、いや、気が付くでしょ。だって。


「さっき、ツァイ様を止めるときに、ツァイ、って」

「あっ」

「それにちょいちょいタメ口になっていたわよ」

「……そうでしたか。気を付けてはいたのですが」


 あからさまに、しまった、って顔をしたタンザに私は質問を続ける。


「なんでツァイ様はあそこまでペリドットを嫌うの? 何か事情があるのよね?」

「それは私の口からは」


 そう言って黙り込んでしまうタンザ。


「ペリドットの件が解決しない限り、私は帰してもらえないのよね?」


 タンザがハッとした顔で私を見る。おっと、図星かい。できれば違うと言って欲しかったのに。


「一緒に来てくれたセレスタとジェードはそこそこ腕が立つの。私をツァイ様に紹介したレナとも私は親しくしているわ」


 私の言わんとすることがわかったのだろう。タンザが眉間に皺を寄せる。


「このまま私が帰らなければ、フィアーノとタキの両方の町にとって好ましくないことになるわよね? それに何より」


 そこで一度言葉を切ってタンザを真っ直ぐ見つめる。大丈夫。今までの行動を見る限り、タンザはツァイ様のことを主としてだけではなく、それ以上に大切に思っている。


「タンザ、あなた自身がツァイ様にこんなことさせたくはないんでしょ?」


 タンザの切れ長の目が大きく見開かれる。綺麗な紫紺の目が地下牢の微かな灯りを映して揺らめく。しばらく逡巡した後でタンザが諦めたようなため息を一つつく。


「わかりました。お話します」


 そうして語られたのは予想外に簡単で面倒くさい話だった。

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