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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

LOVE&FART~僕が君の前でおならできない理由~

作者: オーギリー

 バーカウンターで一人の飲んでいる、男の名前は矢島賢治

一人のガラの悪そうな男とバーテンダーにむかって話しかけはじめた。


 「なあいきなりなんだが、握りっ屁で人は殺せると思うか…」


その答えは無論イエスだ。

相手が「臭い」なんて感じる前に、全身の神経が麻痺し

5秒程度で完全に死に至らしめることができる。


嘘を付くな、と思うだろう

でもそこのあんた、話だけでも聞いてくれないか、

バカにされても仕方ない信じられない本当の悲しい話を…


 実はオレの屁は、完全殺人が可能な凶器なんだ。


 俺のが自分の特異体質に気がついたのは15歳の夏休みだった

ある昼下がり何気なく、飼っている愛犬のシーザーに面白半分で握りっ屁を食らわせるとシーザーは「キャイン!」という悲鳴をあげ、痙攣し動かなくなり、そのまま死んでしまったのだ。


俺は泣いた。


 ただその時は犬の嗅覚の鋭さと己のバカさゆえに起きた悲しい事故だと考えていた。だがやはり自分のせいかもしれないと、試しに庭の木に止まっていたセミにもそっと近寄り握りっ屁をしてみると、「ビビビッ!」という断末魔を発しセミは木から落ち絶命した。

そんなバカなと、今度は自分で自分に握りっ屁をしてみた…案外無臭でなにも感じない。やはり自分の屁で生き物が死ぬなんて気のせいだったのだ、そう納得していた。


 しかし、夏休み明け、学校で大事件が起きたんだ。


 俺は数学の時間にどうしても屁を我慢できず、こっそりすかしっ屁をしたのだが、クラスメイト達がバタバタ倒れはじめ、病院に搬送されたのだ。

無事だったのは俺と、女子の上原希だけ…幸いにも死者は出なかったが皆軽度の記憶障害が発生し、事件当日のことと1学期に教わったことを全部忘れてしまったんだ。


まさかと思ったよ。


テロの疑いがあるということで学校は閉鎖され調査が行われたが、警察はなんの痕跡も発見できず、事件は迷宮入りした。


はずだった。


 事件のあと、上原がいじめのターゲットになったんだ。

原因はクラスメイトたちが皆、受験前にもかかわらず一学期の学習内容を忘れてしまったので上原がクラスで1番になったからだ。


 ちなみに俺は元々、学習内容を覚えていないのでビリから2番めバカだったのでそれはそれで大いに馬鹿にされたのだが…


 さらに上原の父親は有名な研究者で、上原が父親の研究室から薬品を盗み出して、教室に撒いたなどというあらぬ噂までが流されたのだ。

しかも上原はそこそこかわいい、性格も控えめで目立つタイプではなく、格好の標的だった。


クラスの女子達のいじめは壮絶だった。


 いじめのリーダーは元々はクラスで一番で、美人かつ家も裕福な横田愛理。

あきらかに一番の座を奪われた嫉妬から行為をエスカレートさせていた。

全員で無視からはじまり、水泳の授業中に下着を隠される、給食に虫を入れる、トイレで水を浴びせる、髪の毛をハサミで切るなど…


 ある日「上原のこといじめるな!」と勇気を出して横田たちを怒鳴りつけたが、効果はなく、翌日から【異臭カップル】というあだ名を付けられ俺も無視されるようになり、上原へのいじめはさらにひどくなっていった。


やがて上原は学校に来なくなった

そして受験を待たずに転校していった。

すると、俺へのいやがらせも止んだ


 これは俺のせいかもしれなかった、

だが俺がすかしっぺをしたせいで皆がこんなことになっていると打ち明けたとしても一体誰が信じるだろうか?大笑いされておしまいだ。

それにそもそも、なぜ上原だけが何事もなかったのか説明がつかない。


いじめられている上原と時折、目があった、

「なぜ私たちがいじめられるの?」

と救いを求めるような、あるいは恨むような眼差しが胸を締め付けた。

それは俺の恋心、そして無力な自分への憎しみだったんだろうか。


卒業式間近の3学期の終わり

横田愛理が突然死んだ。


 休み時間中の廊下で皆の前で突然倒れ、そのまま息を引き取ったのだ。

検死の結果、死因は急性心不全、外傷はなく体内から毒物は検出されず、不審な点もないため、不運な自然死ということだった。


しかしつい最近異臭事件があった手前、クラスメイト全員が警察から聴取を受けた。その日の横田と接触についてである。

当然俺も聴取を受け、刑事に尋ねられた。


「その日、横田さんと接触はありましたか?」

「えーと、教室にいるとき以外はたまに廊下ですれ違ったくらいだとおもいます。」

「話はしていない?」

「普段からほぼ話しはしないので」

「仲が悪かったとか?」

「いえ、小学校が違うのでそこまで仲良くないだけです」

「なるほどわかりました、もう結構です、ご協力ありがとうございます。」


 ちなみに刑事には話さなかったことがある。

廊下ですれ違ったときに、横田に握りっ屁していたことだ。


 握りっ屁といっても、横田の顔面が通るであろう廊下の数メーター手前の中空にさりげなく広げるように放ったので周りが見ても握りっ屁だとは気が付かなかっただろう。


俺の屁の漂う空間に顔をもろに突っ込んだ横田は

5秒後にぶっ倒れてそのまま死んだ。


その瞬間、俺の疑念は確信に変わった。

俺の屁は人を殺せること、そして証拠が全くの残らないこと。


 横田の机の上には花が飾られている。

死んだことに多少は驚いたが、なぜか、なんの罪悪感もわかなかった。

なぜなら上原の席が空いたままだから。


 これは、すべて、俺の屁が引き起こしたことだ。

すべてを打ち明け大人たちの前で、実演してみせたとして、俺は危険人物として一生隔離されるだろう。

だから俺は、これから屁をガマンして秘密とともに生きていくことに決めた。

そしてあれから16年の歳月が過ぎた。


ってわけさ


明らかにヤクザ風の人相の悪い男がバーカウンターで笑っている。

店のマスターも苦笑気味だ。


「馬鹿だろおめえ!そんな事あるわけねえだろ」

「嗅いでみるか?」

「だははは!嗅ぐわけねえだろ!おめえほんと馬鹿だな!」

「ははそうだな、でも、バカはおメエだよ中田龍二」

「あん?んだと?…ってか、てめえ、なんで俺の名前を?」

「ああ、仲間殺して金盗んで隠したチンピラだって聞いてるよ」

「てめえ俺を弾きに来たのか?あの金は絶対に…」

「スーッ」


やにわに矢島がスカしっぺをすると、銃を構えた中田とバーテンダーは昏倒した。


「終わったぞ、身柄引き取りに来い、六本木のバー・ザナドゥだ」


 矢島は淡々と電話で代理人に場所を告げると一万円をカウンターに置いて、店を出た。地下のバーから階段地上に出ると、夏の夜特有の重たい蒸し暑さが体にまとわりつく。さっそく並木道の向かい側から、数人の男たちが走ってきてバーの階段を降りていった。

あの中田という男はきっと殺されるだろう、だが俺には関係ない、なぜなら俺はただバカ話をして店で屁をこいただけなのだから


数日後、組織から電話があった

「あーカイザーか、先方から生け捕りにしたと連絡があった、すぐに500万を振り込む」

「満額だな」

「もちろん、生け捕りで500万、死んでたら100万の約束だ」

「頼む、問題ないか」

「ああ、だが兄貴分を殺して奪ったヤクの売上1億らしいんだが、

 覚えてないとかしらばっくれているそうで、タマを犬に噛ませても吐かねえらしい」

「…(さすがに気の毒だが)…ふん、知ったことか」

「しかし奴は、元格闘家だってきいてたが、どうやって気絶させたんだ?あのバーのマスターも何も覚えてないらしい、防犯カメラも全部ダメになっていたらしいが」

「さあな、依頼は身柄の受け渡しだけだ、では」


 電話を切ると、俺はいつも携帯を鉛ので出来たケースから取り出し叩き壊す。


 学校を卒業後、俺はやはり社会に適応できなかった、職を転々としたがいつも、うっかり職場で屁をこいてしまうためだ。これは後から気がついたのだが、俺が屁をこくとなぜか電磁パルスが局地的に発生するようで周囲の電話、カメラ、pcなどの電子機器がショートするのである。

もちろん車は屁をこくたびに電子回路がショートするため旧車しか乗れない。

現代社会でまともな仕事ができるわけがなかったのだ。


 社会とのつながりを遮断した俺は、飯を食うために、いつしか暗殺を請け負う非合法組織の依頼を受けるようになっていた。

暗殺者は俺に向いていた、全く証拠が残らない握りっ屁と相手の記憶を奪うスカしっ屁、そして副次的に発生する電磁パルスで俺は、誰も姿を見たことがない殺し屋として伝説的な存在となっていったのだ。政治家、企業家、有名人、気に入った依頼があれば何でも請け負うのだ。


「カイザーX」それが俺のとおり名だ、とてもじゃないが屁で相手を殺す暗殺者の名前じゃないところが良いカモフラージュになっている。


 仕事終わりに1950年代のコルベットコンバーチブルのオープンカーで真夜中の首都高を飛ばす、この車なら多少屁をこいても問題はない。

 夏の夜の生ぬるい風が、15の夏の出来事を思い出させる、対向車のヘッドライトはまるで上原のあの時の眼差しのようで、


「もしもう一度君に逢えたなら、二度と屁はこかない」


そう心に誓うと俺はグッと括約筋を締め、屁をこくのを我慢した。



 一方その頃、警視庁では一人の女性刑事が組織犯罪対策2課長に呼び出されていた。

上原「組織犯罪対策2課第3捜査係係長上原希です、お呼びでしょうか?」

2課長「ああ早速なんだが、海道組の中田龍二が大黒ふ頭で遺体で発見された、中田は同組幹部の安田を殺害して、その金を隠して逃走中だった…」

上原「はい、暴力団関係の山でしたが本件に国際的な拉致・暗殺を請け負う組織が関与している疑いが強いということで私の方で動いております。」

2課長「すぐに、中止してくれ」

上原「なぜでしょうか?」

2課長「本件に関わるな」

上原「カイザーXが絡んでいるという噂があります」

2課長「私もよくわからんが長官直々の指示でもある」

上原「それはカイザーXが政治がらみの暗殺も請け負うからですか?」

2課長「これ以上は私は知らん、とにかく捜査を4課に戻すことにした、これは命令だ」

上原「カイザーは危険です!」

2課長「いいか、カイザーXなど存在しないんだ、都市伝説だ、忘れろ!以上だ!」

上原「了解いたしました」


 上原は退庁するとその夜、いつも行く吉祥寺のバーで痛飲して、23時には三鷹のマンションに帰った、一人暮らしでもただ今を言ってしまうくせがある。


 郵便受けに一枚のハガキが入っていた、それは中学の同窓会の案内だった、嫌な記憶が蘇る。今でこそ屈強な男性刑事たちと堂々と渡り合う上原だったが、かつては壮絶ないじめの被害者だったのだ。

 2課長に理不尽な捜査の打ち切りを命じられたイライラと酒の勢いもあり

「同窓会で横田に会って、ボロクソに言ってトラウマを払拭してやる」と意気込み

はがきについたQRコードをスマホで読み取ると、出席にチェックを付け送信してしまった。


 翌朝、二日酔いで目を覚ますと、メールには出席登録完了メールが届いていた。

話せる相手が唯一いじめからかばってくれた矢島しかいないことに激しく後悔しながら、15の苦い夏を思った。

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