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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛・短編

お迎えに上がりました、お嬢様・短編

作者: まほりろ

※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」https://ncode.syosetu.com/n7243ho/

を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。

勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。

本作だけでもお楽しみいただけます。


「お迎えに上がりました、アリッサお嬢様」






そう言って彼は優雅にほほ笑み、塔に閉じ込められていた私に手を差し伸べた。




☆☆☆☆☆





思えば今日は災難続きだった。


卒業パーティで婚約者の第一王子のフンベアト殿下に婚約破棄を突きつけられ、

腹違いの妹ミアを長年に渡り虐めていた濡れ衣を着せられ、

フンベアト殿下に侯爵令嬢の身分を剥奪され、

裁判にかけられることもなく、罪人を入れる北の塔の最上階に幽閉された。


幽閉された部屋にあったのは、簡易な椅子とベッドのみ。


入り口には鉄格子で出来た扉、高い位置にある小窓には鉄柵がはめられていた。


小窓から入ってきた冷気が私の体温を奪っていく。


床は石造りだし……夜になったらかなり冷え込みそう。


私は室内にある簡易なベッドに腰を下ろした。


ずっと清掃されていなかったのか、ベッドはホコリだらけで纏っていた赤いドレスにホコリが付く。


卒業パーティのために王宮から贈られてきたドレスは第一王子の瞳の色と同じ赤い色をしていた。


赤は好きな色ではないし、私の銀色の髪には赤いドレスは似合わない。


だが私のドレスは全てミアに奪われてしまったので、卒業パーティに着ていけるドレスが他になかったのだ。


王妃様から私宛に届いたドレスなので有り難く着させて貰った。


王宮から届いたドレスを、今回に限りミアが奪わないことに違和感を抱いた。


あの時もっと警戒するべきだったわ。


卒業パーティで私を断罪するためには、私を卒業パーティに出席させなくてはいけない。


だから今回ミアは私宛に届いたドレスを奪わなかったのね。


妹を虐めていたという理由で断罪されると分かっていたら、卒業パーティになんか出席しなかったのに。

 

私が腹違いの妹のミアを虐めていたという事実はない。


むしろエーベルト侯爵家で継母と妹から虐めを受けていたのは私だ。


卒業パーティが国王陛下と王妃殿下が不在な時に行われると知ったとき、嫌な予感はしていたのよね。


四年前、母が亡くなった。


半年後、父は愛人と再婚した。


父と愛人との間には腹違いの妹がいた。


妹の年は私の一つ下。


そのことを知ったとき、私は最悪の気分だった。


私がフンベアト殿下と婚約したのはそれから半年後のこと。 


フンベアト殿下は私の髪の色を「銀髪なんて白髪みたいで気持ち悪い」と言ってけなし、ミアのふわふわのピンクの髪を「綿飴みたいで可愛い」と言って褒めた。


フンベアト殿下はミアと二人でお茶をしたり、買い物に行ったり、お芝居を見に行ったりしていた。


フンベアト殿下の婚約者がミアだと思っていた貴族も多いだろう。


私が断罪され兵士に取り押さえられたとき、ミアはフンベアト殿下と抱き合っていた。


兵士に引きづられパーティ会場を後にする私を見てミアは邪悪な笑みを浮かべていた。


完全にミアにはめられたわ。


フンベアト殿下とミアは国王陛下と王妃殿下の留守中に私を処刑するつもりなのだろう。


「私、殺されるのね……」


言葉にすると急に現実味を帯びた気がして、恐怖で体が震えた。


自分の体をきつく抱きしめたが震えは収まらない。


国王夫妻の帰国予定は明後日。


私が処刑されるとすれば、きっと明日……。


私は明日までの命なのね……。




☆☆☆☆☆





疲れていたせいかいつの間にか眠っていたらしい。


目が覚めたとき窓の外はもう暗かった。


窓から入ってくる風は昼間とは比べ物にならないくらい冷たい。


私はホコリだらけの毛布を頭から被った。



目覚めてもベッドから起き上がるだけの気力が湧いて来ない。


幼い頃同じような事があったな……とぼんやりと考える。


あれは母がまだ生きていたころ……五年前、私は十一歳だった。


母が、実家であるグラウン公爵家のタウンハウスに一カ月滞在することが決まった。


母に「私も連れて行って!」と頼んだのだが、断られてしまった。


グラウン公爵家に対する父の態度が悪かったので、父の血を引いている私は母の実家に嫌われていたからだ。


だから私は、グラウン公爵家に里帰りする母に付いて行くことが出来なかった。


父と母の結婚は政略的なものでエーベルト侯爵家の強い要求で成り立った。


三年続く不作に苦しんでいたエーベルト侯爵家は持参金目当てにグラウン公爵家の令嬢だった母との結婚を望んだのだ。


エーベルト侯爵家は母の実家の援助を受けて領地経営を立て直した。


領地経営が軌道に乗り出した頃……。


「真実の愛で結ばれた恋人がいたのに、グラウン公爵家に金の力で引き裂かれた……!」


父が自分を悲劇の主人公に見立て、可愛そうな自分に酔い始めた。


父は母を「真実の愛を引き裂いた悪女!」と罵り、母の娘である私のことも「悪女の子供!」と言って嫌った。


エーベルト侯爵家が持ち直したのは母の家の持参金のおかげなのに……酷い話だ。


父は喉元を過ぎれば感謝を忘れるタイプの人間だったのだ。


母が実家に帰ってから三日が過ぎたある日。


父の万年筆が無くなり、なぜか私が疑われた。


父は問答無用で私を納屋に閉じ込め

「泥棒は納屋で暮らすのがお似合いだ!」

と言って外から鍵をかけた。


「ここから出たければ母親に泣きついて出してもらえ!」


扉の向こうで父はそう言って、去っていった。


母が侯爵家に帰ってくるのは一カ月後。私はそれまで納屋から出してもらえない。


暗い納屋に一人でいるのが怖くて、父に罵倒されたのが悲しくて、泥棒の冤罪をかけられたのが悔しくて……私は納屋の中で膝を抱えて泣いていた。


『助けて……お母様、助けて……ライ……』


泣きながら助けを呼んだ。





『迎えに来たよ、アリッサお嬢様』






執事見習いの男の子が、父が無くした万年筆を見つけ出してくれたのだ。


彼は住み込みの使用人の息子で、名前はライ。


金色の髪にサファイアの瞳の可愛い男の子だった。


ライと私は同い年。


母が彼の両親を気に入っていたので私とライは兄弟のように育った。


ライは私が父に冤罪をかけられ納屋に閉じ込められていることを、グラウン公爵家にいる母に伝えてくれた。


事情を知った母はすぐにエーベルト侯爵家に帰って来てくれた。


そして私は無事に納屋から出ることが出来たのだ。





『困ったことがあったらいつでもわたくしを呼んでください。

 お嬢様がどこにいても駆けつけますから』





四年前、冒険者になると言って家を出たライ。


彼が旅立つ前に私に言った言葉が忘れられない。


納屋に閉じ込められたときのように、ライの名前を呼んだら……彼は助けに来てくれるのかな?


ライ、助けて……私をここから連れ出して……。





「助けて……ライ」





涙とともに弱音が溢れ落ちた。







ドッゴーーーーーン!!







下の方から何かが爆発するような音が聞こえ、私は慌ててベッドから飛び起きた。


「何事?!」


爆発の振動で塔がぐらりと揺れる。


フンベアト殿下は塔ごと壊して私を処刑する気なのかしら?!


私はネガティブな考えに捕らわれ、オロオロと部屋の中を徘徊した。


数分後、紫のジュストコールに身を包んだ一人の青年が現れた。


青年が剣をひとふりすると、鉄で作られた柵がすっぱりと切れた。







「お迎えに上がりました。アリッサお嬢様」






そう言って彼は優雅にほほ笑み、塔に閉じ込められていた私に手を差し伸べた。


金色サラサラした髪、サファイアブルーの瞳、目鼻立ちの整った顔……あの頃より身長が伸びて、体格がしっかりしたけど、間違いない! 彼はライだ!


「ライ……!」


斬られて役目を果たさなくなった鉄の柵を乗り越え、ライが私の元に近づいてくる。


私はライの胸に飛び込んだ。


「ライがどうしてここに?

 冒険者になって世界中を旅しているんじゃなかったの?」


「なりましたよ。Sランク冒険者に」


「Sランク冒険者?! 凄い!」


Sランク冒険者になるには十年も二十年もかかるって聞いたことがあるわ。


それをたった四年でSランク冒険者になるなんて素敵ね! 素晴らしいわ!


「Sランク冒険者になってエーベルト侯爵家にお嬢様を迎えに行ったのですが、お嬢様は侯爵家にはいらっしゃいませんでした」


「私を迎えに来てくれたの?

 なんで?」


「お忘れですかお嬢様? 

 Sランク冒険者になったら結婚してくださる約束でしたよね?」


「えっ……? そんな約束したかな?」


「しました!

 お嬢様と結婚することを心の支えに、辛い旅にも耐えてきました!

 なのにわたくしのいない間に王子と婚約していたなんて……あんまりです!」


「ごめんなさい。

 王命だから断れなかったの……」


私だって好きでわがままで癇癪持ちの第一王子と婚約したわけじゃない。


四年前母が亡くなり、一カ月もせずに父が再婚した。


父が母と結婚する前から付き合っていたという女性(世間では愛人という)と、父の間には娘がいた。


私は継母と腹違いの妹と同居することになった。


それからは大変だった。


なんでも私のものを奪っていく妹。


私の顔を見るたびに嫌味を言ってくる継母。


私をいないもののように扱う父。


極めつきは王命による第一王子のフンベアト・ヨナス殿下との婚約。


私とフンベアト殿下との婚約が取り決められた日は散々だった。


フンベアト殿下には初対面で「銀髪に紫の目のガリガリ女が俺の婚約者? 最悪! 全然好みじゃない! 他のと取り替えろ!」と言われ。


帰宅すれば妹に「なんでお姉様が王子様と婚約するのよ! ムカつくわ!」と罵られ、母の形見を壊された。


継母には「お前のような娘が殿下の婚約者に選ばれるなんて! 生意気よ!」と言われ頭から水をかけられた。


そんなわけで、継母と妹は私とフンベアト殿下の婚約を壊すのに躍起になった。


月に一度第一王子が婚約者とのお茶会のためにエーベルト侯爵家に訪ねて来るのだが。


その日は決まって私は自室に閉じ込められた。


そして、私の代わりに妹のミアがフンベアト殿下の相手をするのだ。


そんなことが何度も繰り返され、フンベアト殿下とミアが仲良くなるのに時間はかからなかった。


フンベアト殿下はミアがついた「お姉様に虐められるの……!」という嘘を信じ、私に辛く当たるようになった。


フンベアト殿下から

「妹をいじめるなんてお前は鬼だ! 悪魔だ!」

と罵倒されたことは一度や二度ではない。


そして今日、卒業パーティで皆の前で断罪され、婚約破棄されたのだ。


「ここに来る途中エーベルト侯爵と第一王子を捕まえ半殺しにして……いえ、お二人に丁重に尋ねたら今までのいきさつを話してくださいました」


ライったら、お父様とフンベアト殿下に何したの?


「ついでに聞いてもいないのに、お嬢様の妹を名乗るミアとかいう女が色んなことを話してくれました」


ミアが私のことをライに伝えたの?


ろくなことを話してなさそう。


「ミアはライに何を言ったのかしら?

 私に虐められていたとか、私に物を盗まれたとか、私に物を壊されたとか……そんなことかしら?」 


「そのとおりです。

 よくお分かりになりましたねお嬢様」


「ミアは挨拶代わりに私を貶める噂を流すのが好きなのよ」


『はじめましてエーベルト侯爵家の次女ミアです。

 あたしお姉様に虐められているの』


ミアが初対面の人にそう挨拶したとき、びっくりして声も出なかったわ。


「ライも私が妹を虐めていたって思ってる?」


「まさか!

 わたくしは男と見れば誰にでも媚を売る娼婦のような女の戯言を信じたりしませんよ。

 アバズレ女の言うことを真に受けるのは、間抜けな第一王子ぐらいですよ」


ライの言葉を聞いてホッとした。

 

「お嬢様が馬鹿王子との婚約を破棄していてよかった」


「私から婚約を破棄したんじゃなくて、向こうから破棄されたんだけどね」


「どちらでも同じです。

 今お嬢様は誰のものでもない」


「私の心は四年前からずっとライのものよ」


「わたくしとの約束を忘れていたのに?」


「それはごめんなさい」


「許します。

 あの日お嬢様は号泣していた。

 わたくしの言葉がお嬢様の耳に届いていなかったのでしょう」


確かライが旅に出る前に何かお願いされて「何でもするから必ず帰ってきて!」と言ったような気がする。


「もう一度言います。

 お嬢様、わたくしと結婚してください」


「はい、喜んで」


私は笑顔で答えた。


「私ね、王子から婚約破棄されて、侯爵令嬢の身分も剥奪されて、この国の人には妹を虐めた悪女として認識されてるの。

 ライはそれでもいい?

 こんな私でもお嫁にしてくれる?」


「身分がなくてもお嬢様は素敵なレディです。

 誰に喧嘩を売ってでも絶対に(めと)ります」


「ありがとう、ライ!」


「わたくしの方からも一つだけ。

 わたくしはこの国の王族に喧嘩を売りました。

 お嬢様はそんなわたくしでも受け入れて下さいますか?」


「もちろんよ!

 王族への喧嘩上等!

 ライと一緒なら逃亡生活も楽しそうだもの。

 あっ、でもライが刺客に追われて怪我しちゃったら……」


「その心配は無用ですよ、お嬢様。

 わたくしはSランク冒険者ですから。

 それに……お嬢様、少しの間耳を塞いでいて下さい」


私が耳を塞ぐと、ライが頭上に向け手をかざし魔法弾を放った。


一瞬ののち、天井はきれいに吹き飛ぶ。


塔の外には、満天の星空が広がり、星の明かりに照らされ沢山のドラゴンが空を飛んでいた。


「ワイバーンに、バハムートに、リヴァイアサンに、ウロボロスに、ケツァルコアトルに、ブラックドラゴンに、レッドドラゴンに、イエロードラゴンに、グリーンドラゴンにブルードラゴン……っっ!!

 こっ、こんな数のドラゴンが……どうしてここに?!」


「旅の途中で出会ったわたくしの眷属(けんぞく)たちです」


「ライの眷属(けんぞく)……?!

 こんなにたくさん??」


「一匹のドラゴンを倒して眷属にしたら、次の日から『俺とも勝負しろ!』と言って喧嘩をふっかけてくるドラゴンが、次から次に現れまして……」


「それでこの数のドラゴンが仲間になったの?」


「そういうことです」


一匹見たら五十匹、みたいなことがドラゴンでも起こるのね。


「だからお嬢様、逃げる必要なんてないんです。

 この数のドラゴンを従えるSランク冒険者に喧嘩を売ったらどうなるか、この国の王族と重臣たちに教えてやりましょう」


そう言って、ライはニッコリと笑った。


今ライの後ろに黒いオーラが見えるのだけど、気のせいかしら??


「わたくしがお嬢様を塔から(さら)った証拠が残らないように、この国を焦土に変えてから旅に出ましょうか?」


「だめぇぇえええ!! 

 善良な市民もいるから、市民を巻き込まないで!」


「そうですか、では王宮だけ廃墟に……」


「善良な使用人もいるから止めてっ!」


「それもだめなんですか?

 ではターゲットを第一王子とエーベルト侯爵夫妻とミア、それからお嬢様を虐めた同級生と使用人、お嬢様が第一王子に断罪されるのを傍観していた教師に絞り、塔の上から逆さ吊りにしてやりましょう」


それはちょっと見てみたいかも?


「それとも全員まとめて極寒の地に連れていき、薄く氷のはった湖に放り込んでやりましょうか?」


心臓麻痺起こして死んじゃうやつ!


「それとも活火山の火口に放り込んで……」


「ストップ!

 私は別に復讐したいわけじゃないの!」


本当は父と継母とミアとフンベアト殿下の頬を、思いっきり殴ってやりたい。


卒業パーティで私が断罪されるのを笑って見ていた元同級生と学園の教師に、バケツ一杯分の激辛ハバネロジュースを飲ませてやりたい。


でも、そんなことをしても一時的に気が晴れるだけ。


いつか、一時の感情に任せ報復したことを後悔する。


「ライが私を迎えに来てくれた。

 ライが私の無実を信じてくれた。

 それだけで充分幸せよ」


「お嬢様、なんと心の広い!

 わたくしは感銘を受けました!

 分かりました、復讐はまたの機会にいたしましょう。

 その時まで楽しみはとって置きましょう」


あれ? これはもしかして、私の言いたいことがいまいちライに伝わってないのかな?


「皆様にはお嬢様がお世話になったお礼のお手紙を書いて送付しておきます」


手紙? まあ手紙を送るぐらいならいっか。


「では、参りましょうかお嬢様」


「ねぇライ、お嬢様って呼び方止めよう。

 私たちその……こ、婚約してるんだし」


「そうですね、では今からアリッサお嬢様のことを『アリー』と呼ばせていただきます」


「いっ、いきなり愛称で呼ぶのはずるい!」


私のことを「アリー」と愛称で呼んだのは、亡くなった母ぐらいだ。


父には「お前」、元婚約者には「おい」と呼ばれていた。


「頬を染める()()()も愛らしいです。

 このままわたくしが敬語を使うのをやめたら、()()()はどのようなお顔をなさるのでしょう?

 ねえ、()()()?」


「ちょ、愛称を連呼しないで!

 心臓に悪いわ!」


愛称で連呼されただけでもドキドキしてるのに、タメ口まで使われたら、私の心臓がどうにかなってしまうわ!


「そうですね。

 このままアリーの心臓が止まってしまっては困りますからそれはまた別の機会にいたしましょう」


ライが青い瞳を細めクスリと笑った。


「ライ、昔より意地悪になった?」


「わたくしは子供の頃から変わっていませんよ。

 アリーの前では猫をかぶっていただけです。

 嫌いになりましたか?」


「ううん、大好き」


「そんな可愛いことを言われると、我慢できなくなってしまいます」


ライは私の顎をクイッと上げ、私の唇に自身の唇を重ねた。


口づけは徐々に深くなっていく。


ライが私の後頭部を押さえ角度を変えて、何度もキスをした。


ライの唇が私から離れていったとき、私の心臓が口から飛び出すんじゃないかってぐらいドキドキしていた。


「さっきから下の方が騒がしいね。

 塔を兵士が取り囲んでいるのかな?」


二度も爆発音がしたのだ。


夜中とはいえ城の中は騒然としているだろう。


「逆ですよアリー。

 ドラゴンを見た兵士が逃げ出しているのですよ」


「えっ? 戦いもしないで?」


「この城の兵士は腰抜け揃いなのでしょう」


「ああ、なるほど」


第一王子がへなちょこだと、城を警護する兵士もそれなりなのね。


「参りましょう、アリー。

 アリーを傷つけた者が大勢いる場所にアリーをいつまでもおいておけません」


「うん」


ライは私をお姫様抱っこすると、ブラックドラゴンを一体呼び寄せ背に飛び乗った。


塔の高さは三十メートルはあるから飛び乗るときちょっとだけ怖かった。


でも、これから冒険が始まるんだって思ったら、それ以上にわくわくした。


「ねぇライ、これからどこに向かうの?」


「アリーはどこに行きたいですか?」


「私は海が見たいわ」


「なら、奇麗な海のある国に行きましょう」


「うん!」


「ブラックドラゴン、南方の海に向かって飛べ!」


ライの命令を向けたブラックドラゴンが、咆哮を上げ、翼を羽ばたかせる。


私たちを乗せたブラックドラゴンの後を他のドラゴンさんたちが付いてくる。


城があっという間に遠ざかっていく。


嫌なこともあったけど、お母様や、ライや、ライの両親との楽しい思い出も沢山ある。


でも今日でさよならね。


バイバイ、ヨナス王国。












これはずっと後で知ったことなんだけど、ライはヨナス王国の王族と貴族に

「いつか必ず報復するから首を洗って待っていろ」

という文面の手紙を送ったらしい。


ヨナス王国の王族と貴族は、私が塔から脱獄した日、空を覆い尽くすドラゴンの大群をバッチリ目撃している。


脅迫状の内容にびくついても仕方ない。


ライから脅迫状が届いてからというものヨナス王国の王族と貴族は、夜中に物音がしただけで

「兵士を呼べ! 敵襲だ!」

と騒ぐようになり、昼夜を問わず一人でトイレに行けなくなったらしい。


王族と貴族は目の下に大きなくまを作り生きた屍みたいな顔をしているらしい。


それからヨナス王国では大人用のオムツが売れるんだとか……。


もう、ライったら私に内緒で何やってるのよ。





――終わり――


読んで下さりありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


下記の作品もよろしくお願いします。

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