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自然に還る
還るべき場所に腰かけてみる
べつに何をするでもなく そこに ただ座る
何十年と生きてきた木にもたれ
呼吸するだけでいい
わたしが生きるこの世界
ただひとり、そう──ただひとり
わたしがそこで死んだとして
誰がそれを知るだろう
森の中でひっそりと
雄大な自然の中に
わたしの生まれや生活など
その生命の循環の中では
あらゆるイデオロギーが無価値になる
そこには固有の「わたし」など意味がない
自分だと思っていたもの 思い込んでいたものが
まるで残滓のように 澱のように沈んでいるだけ
わたしの魂は解放され
すべての憂いを捨て去り
小さな世界から 大きな循環の中へと
あるべき場所へと還っていくのだ
そこにあるのは
喜びでも不安でもない
何もかもを置き去りにして
調和の中へと去っていく
思考も 言葉も
そんな低次元なものは 必要ない
そこは世界であり
そこには すべてがある




