198/200
老いの煩い
老人から学ぶ。
寄る年波に 老いぼれは狼狽す
自分の体も 心も 記憶すらも
おのれの身近にあったはずの 確かな感覚すらも
ぼんやりと遠く
日の出も 日の入りも
まるで自分の半身のよう
老いては遠くに見ゆる
陽炎の幻
記憶の底にある
懐かしい思い出の数々
それらはしだいに自分の手を離れて
どこか遠くへ去っていってしまうのだ
年が寄り 若いつもりでいたはずの
おのれの意識にさえ かげりがみえ
自分がときおり わからなくなる
年齢も名前も 家族の顔も
靄がかかって 思い出せない
まぶしい光にめまいを感じ
ふらふらとさまよう
いつしか自分の帰る場所も忘れ去り
山々に響く木霊のように
誰の声かもわからずに
その呼び声について行ってしまう
年老いたおれに
呼びかけるものがあるのなら
それはおれを知るものなのだろう
どこかで落とした
おれの思い出を
もう一度、聞きたいものだ




