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光り人の街  作者: 鳴海 秀一
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童心

 俺達プリズマは人知を超えた能力を持っている。それはあくまで超人の真似事である。そのなかでも、P2だけは超人に勝るとも劣らないレベルの超能力を有しているとP1が以前言っていた。どのような理由があるのか俺は知らない。彼曰くP2は敵ではないという。P1との付き合いは長いが俺は一度もP2と会ったことがないので、彼のいうことが本当かどうかはわからない。P1から自らの出自について聞かされたときには、他の三人のプリズマは行方不明だった。


 俺が針ヶ木劇団を辞めて深海姓になってしばらくしたある日、偶然トモユと再会した。きっと運命のいたずらだったのだと思う。そして俺はトモユから告白を受けた。俺は受け入れた。しかし、その関係は三カ月と続かなかった。傷の舐め合いとかそういうものを嫌ったわけではない。ただ彼女もプリズマだったから、それを選択しただけだ。その代償は大きかった。そして俺の最大の目標もそこで決まることとなった。


 週の真ん中の放課後、俺のクラスは波風のクラスよりも早く放課後になった。ジュンもやる気十分なようで塩浦を呼びに来たのか廊下にジュンの姿があった。中高一貫とはいえ中等部はあまり高等部には来ないのですぐにわかった。

 「ちょっと深海さんを借りるよ」

 目的は俺だった。人気のないところまで連れていかれた。

 「夢で見る未来が変わったんだ。試合は6-7で負けて、その後にエリさんが死んだ。これまでは試合なんてなかったから未来が大きく変わったんだと思う」

 「そういえばまだ説明してなかったな。光り人が宿し人に見せる予知夢はあくまでシミュレーションであって未来を見ているのとは厳密には違う。過信は禁物だぞ」

 ジュンの顔には勢いがない。これはジュンにとってはグッドニュースのはずだ。

 「お前がその調子だとすぐに塩浦に悪影響がでる。不安は伝染するぞ」

 「ユウさんってエスパーかなにかなの?」

 「言葉遊びなら他でやれ」

 「こうでもしないと今すぐにでもダメになっちゃいそうなんだよ、僕は特別な力を持っってるわけじゃないんだよ」

 「お前にしてみれば塩浦が死ぬ夢は悪夢でしかないだろな。だがその悪夢を払えるのはお前だけだ。だが俺はお前に強要しないぞ。さっきも言ったがその予知夢は計算結果でしかない。そんな未来はやってこないかもしれない」

 ジュンは下を向いていた。

 「失ってからでは遅いということはさすがに言わなくてもわかるだろ。人間は誰だって未来が怖いさ。その恐怖に押し潰されないように、大切な人が悲しい思いをしないで済むように、毎日を生きていると俺は思うんだ。今のお前にはそれをやってのけるだけの力があるんだ」

 「エリさんのお母さんとは、僕は数えるほどしか会ったことないんだ。だったらなんで僕を選んだのかな」

 「お前は塩浦エリを守りたいんじゃないのか」

 彼はうなずく。人が人を頼る理由など探せばいくらでもあるのだ。考えるだけ無駄なことだ。

 「ならそれが答えだろう。大丈夫だ。お前はお前が思う以上に強い男だ」

 

 「エリさんは見かけより強い人だよ。風邪ひいたこともただの一度しかないし」

 「その風邪、ジュンが原因だな」

 「僕が口付けて飲んだジュースをそのままエリさんが飲んだら、ね」

 さすがにもう驚かない。塩浦はジュンとの距離感が他のそれとは大きく違う。姉弟と紹介しても9割の人間は信じるだろう。

 「ジュン、俺は君たち二人の関係をとてもいいものだと思っている。塩浦がお前に誘われた上でやる気になっているなら、それはいいことだと俺は思う。ここ最近はあまり一緒じゃなかったんだろう」

 「ここ五年くらいね。僕の家の方が忙しくて。入ってた少年野球のチームも辞めちゃった。エリさんはだいぶ心配してくれてたみたいだけど」

 「それは誰の責任でもないさ。これから取り戻せばいい。そのための試合なんだろ」

 「でも、本当に僕でいいのかなって不安になるんだ。本当はどこにでもいるただの中学三年生なんだよ」

 光り人を宿した人間は総じて身体能力に飛躍的な向上が見られる。彼を「新星」たらしめている強肩もその恩恵だ。

 「それは塩浦も同じことだろ」

 そろそろ教室に戻ってもいい頃合いだろう。あまりジュンを独占していると塩浦にどんな目に合わされるか、わかったものではない。

 「そろそろ戻ろう。塩浦たちが探しに来るぞ」

 「最後に聞いてもいい?」

 ジュンが改まる。

 「ユウさんはなんで試合に出ることにしたの?」

 波風の失った記憶の埋め合わせを少しでもしたかった。罪滅ぼしとしての意味合いが強すぎるかもしれない。しかし、昨日も聞かれた気がする。

 「波風さんに誘われたからというのもあるが、単純に頼まれたから、かな」

 「それだけ?」

 「死んだ父さんの受け売りで、『困っている人がいたら助けてあげろ、いつかその人がまた他の誰かを助けて、いつの日か自分を助けられるから』と教えられた。まあその父さんも受け売りなんだけど」

 初めて波風カナと出会った日にもこのようなことを話した気がした。

 ジュンはなにかが腑に落ちたようだった。

 「初めて二人を見たときから思ってたけどカナ姉さんとユウさんって本当に似てるよね」 ジュンの言っている意味がわからなかった。

 「それって『超越電神ドリルゼノン』の名台詞だよね。カナ姉さんも同じこと言ってた」

 「それいつの話だ!?」

 「昨日だよ。深海さんすぐ帰っちゃったじゃん」

 『超越電神ドリルゼノン』、それは伝説の特撮ドラマであり、その続編も企画が存在するという噂が存在するが、続報はいまだにない。ファンは今でも続編を待ち望んでいるという。語り尽くすには時間も肺活量も足りない。そんな根強いファンを生み出した神作だが、男子人気は理解できても、女子の波風カナが、その他の記憶と同時に失わなかった記憶の一つがそれだとでもいうのだろうか。にわかには信じがたいことだ。

 「波風さんを今すぐに呼び出せるか?」

 「携帯でできるけれどど、どうしたの?」

 「いや、ちょっとな」

 あの「超越電神ドリルゼノン」が波風カナの失われた過去と繋がるとは予想外だった。

 「ところでジュンは『ドリルゼノン』は全話見たのか?」

 「もちろん」

 「一番好きな回は......」

 「「”第3話 孤独の英雄”だよな!!」」

 「お前が話がわかるやつで本当にうれしいぞジュン!!」

 「やっぱ『ドリルゼノン』って言ったらこの回でしょ。当然だよ」

 この日、俺に盟友が誕生したことは言うまでもない。

 

 波風カナは電話には出なかった。メッセージを送ってもらったので返信を二人で待っていた。

 「でも僕はカナ姉さんは『ドリルゼノン』は知らないと思うよ」

 「根拠は?」

 「昨日携帯をカナ姉さんの前で普通に使ってたけど、これになんも反応なかったから」

 ジュンが携帯に取り付けられたストラップを見せる。

 「お前っ、それは超激レアのガチャガチャ商品の、ドリルゼノンのミニストラップじゃないか!!」

 俺も持っていたはずだが最近行方知れずなのは言えなかった。

 「そういうことはもっと先に言えよ」

 「ご、ごめん。さすがに結構古い作品だから知らないと思って」

 「そういうお前はなんで知っているんだ」

 「このストラップ、実は貰い物なんだ。貰った後にこれがなんのキャラクターなのか調べて、そこでようやく『ドリルゼノン』と出会ったんだ。あ、返事来たよ」

 「今どこだって?」

 「それが、『話があるなら練習が終わった後に家にお招きするからそこで』って言ってるよ。どうするの?」


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