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光り人の街  作者: 鳴海 秀一
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挑戦

  「率直に聞く。なぜこの時間へ来たんだ。俺への復讐か?」

 「それもあるけど、半分は事故だよ。

 もう僕がいた時間には、戻れない。戻っても意味ない。誰もいない」

 「誰もいないって......。え、私も、エリちゃんも、ユウも?」

 「誰もいないよ」

 どういうことだ......。

 俺とサクラはそれぞれの望む改編後の世界を、あの”白い世界”で探し続けていた。そのどちらにも、少なくとも共通している事項がある。それが「ハルカが生存し寿命まで何事もなく生きられる世界」である。

 「ちょっと待ってジュンちゃん。エリちゃんも、ユウも、私も......いないの?」

 「いないよ。ハルカ姉さんは一番最初だよ」

 「おい、あんた......!!」男の肩を強く掴みハルカから離す。その一瞬の隙にハルカは”白い世界”から抜け出してしまった。

 「ハルカ......!!」

 「ここから先の話には、彼女はいない方が都合がいい」

 彼は自らがこの時間へと来た目的を俺に告げた。

 「俺を消すか」

 「あんたのせいだからね。ハルカ姉さんはあんたが改編に失敗したせいでいなくなった。それから俺とエリは光り人の研究を始めるようになった。だけど、研究をしていたのは俺達だけじゃなかった」

 「光り人が世間に公表されたのか」

 「まあそんなところだよ。そのあとは僕たちは人目を避けるような生活を強いられた。そしてあの日、武装した集団に襲われて、なんとか逃げようとしたけど」

 「塩浦が倒れた......」

 「奴らの狙いはあんただと俺も思っていたよ。途中までは」

 「違ったのか?」

 「狙いは最初からエリだった」

 なぜエリが狙われる......?

 「せっかくだから教えてあげるよ。エリはね、関係のある人間を光り人に覚醒させることができるんだよ。自分の母親がその一例」

 「それは、ハルカにも当てはまるのか。今のハルカは光り人を遥かに凌ぐ存在だ。それすらも塩浦の影響だと」

 「そんなこと知らないよ。僕のいた時間で光り人かどうかなんてわからなかった」

 「改編で消えたのか」

 「世界規模の改編をしようとしたところまでは大体同じ。でもそのせいでハルカさんは消えた」

 「俺は、人間になったのか?」

 「いいや、ずっとプリズマだったよ」

 「真の光り人に覚醒できたのか」

 「そんなもの初めて聞いたよ。こっちではそんなものは一度も聞かなかった」

 「俺も、いないと言っていたが、俺はどうしたんだ」

 「いなくなったよ。僕一人だけ残して」

 なるほど、そういうことか......。

 「君の言うことは理解した。君の邪魔はできるだけしない。だがもう少しだけ時間をくれないか。そうだな、球技大会が終わるまで」

 「なにがあると?」

 「ジュンの晴れ舞台だ。それに、それまでに満足のいく回答も示そう」

 「今その回答は示せないのか」

 「少し、時間がかかる」

 先ほどハルカが走って消えていった方に視線を向ける。

 「無理だ」

 「俺の頼みだからか」

 「今の僕があんたを信用しきっているのが受け入れられない。

 僕はあんたを今すぐにでも消したいと思っている。それが逆恨みだということも理解している。だけどそれ以上にあんたの改編のせいでハルカさんもエリもいなくなったのは事実だ。

 いつかはいなくなるものだとしても、あんたが最後まで残ったのが駄目なんだ」

 「無理みたいだな......」

 「話してくれてありがとう」

 突然空間が歪み人の形が浮かび上がってきた。ハルカが姿を現した。

 「ここから出ていったように見せていたの。話は全部聞いた」

 もはや俺以上にこの世界に適応していた。

 「ジュンちゃんは、球技大会で優勝して、エリちゃんにちゃんと告白したいんだって。それまでは待ってほしいの。私からもお願い」

 「このままだと、あなたも消えるかもしれないのに?」

 「人の恋路を邪魔する趣味はないよ。ジュンさんも、エリちゃんのことが好きなんでしょ」

 「......わかった」

 あっさりと話は纏まった。


 彼が”白い世界”からいなくなった後も、俺とハルカは留まっていた。 

 「ねえ、ユウが元々やろうとしていたのって、エリちゃんを助けるためじゃないんでしょ?」

 「その通りだ。そんなことになるなんて少しも想像したことがなかった」

 「じゃあなんのために?」

 「......君には関係ない」

 「そう」

 

 説明できるわけがなかった。ただでさえ未来のジュンの方では彼女が改編時に消滅しているというのに。

 そしてこちらでは彼女たちの夢が歪められる。今の状況のまま俺が最後の改編を行った場合、訪れる未来はこうだ。

 俺は改編の際に消滅。そして塩浦、ジュン、ハルカの三人は俺の復活のためにその人生を費やす。

 「君は、医者を目指すのか?」

 「まあやっぱり気づくよね、ユウなら」

 昨夜の医療書で俺は気づいた。

 「一年前、確かに私はユウを助けられなかったかもしれない。この光り人の力に頼るしかなかった。それは私がそれ以外に何も持っていなかったから。力も、知識も。だから」

 「なら、もし俺が改編に失敗して――」

 「失敗して?」

 「いや、なんでもない」

 「失敗しても、私はなにも諦めないよ。ユウも、自分の夢も」

 「えっ」

 「大体は考えてることわかるよ、ここにいるんだし。でも、私は負けないよ」

 ハルカ......。

 「ユウも、一緒に戦ってほしい」 

 どうして、俺なのか。

 「どうしてって、ユウだから。ユウが好きだから」

 「ハルカ......」

 俺の考えていることまで、わかるというのか。 

 「全部は無理だよ」

 「そうか」

 俺は確かに期待していた。いっそのこと俺の考えを全て彼女に閲覧してほしかったのだ。

 「ごめんね」

 微笑は白く消えていった。


 放課後に企画会議が行われ、我が映画研究会の次回作はハルカの案に決定した。少女と猫の別れと再会を描く物語である。主演はハルカで、他にタイトルロゴや看板等の製作まで彼女が請け負う。また必要な箇所では絵コンテまで用意するという。

 俺は脚本の監修、ロケハン。前作から引き続き演技指導も行う。今回は裏方に徹する形となる。

 塩浦は映像編集を主に担当する一方で、小道具や衣装の準備も担当。更に企画全体の指揮まで彼女の任となった。

 ジュンは球技大会が控えているという事情もあるが、どうやら成績があまりよろしくないようで、今回の企画からは外れることになった。当の本人は球技大会も勉学も一切手を抜くつもりはないらしい。


 結果的に以前よりも人員減となった。しかし、最終的に「ガン・デルタ」以上の作業量となった今作は、前作以上の短期間で完成に至る。

 脚本の大筋はすでに決定しており、ハルカは事前に用意していたものに軽微な修正を加えるのみで完成させた。残りのプリプロダクション、撮影、編集、その後の仕上げまで三週間ほどかかった。本当の完成は、外部に公開されるタイミングになるが、球技大会よりも前に、我々が手を加えられる全てを終えていた。

 製作期間中、驚いたことに一番やる気に満ちていたのは塩浦だった。試写後に彼女はたいそう満足気であった。

 「塩浦があそこまで本気とは思わなかった」

 「いや、かなり悔しくてさ。私はこれでも『ガン・デルタ』が一つも賞を貰えなかったのが納得いかなくて」

 「そんなにか?」意外だった。

 「そう。毎回上映後の来てくれた人たちの顔はとてもいい顔だった。そのとき思ったんだよね、私はお母さんと同じなんだって」

 「レミさん?」

 「五月にまた会えた時に話ができて、お母さんはあのホールを、自分の歌を聴きに来た人たち全員を、いい顔にして帰してあげたかった、ってね。来てくれた人はいいと思ってもらえたかもしれないけど、もっともっと、上を目指したい」

 「そうか......」

 「だから今度こそ、私もより多くの人にいい顔になってもらえるようにやりたかったから。お母さんの夢まで、って訳じゃないけど」

 「一緒に乗せてもいいんじゃないか?」

 「ありがとう。あの時も、本当にありがとう」

 「別に今更。俺はああいうことしかできないから」

 「じゃあ、そろそろ塩浦は止めて?」



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