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光り人の街  作者: 鳴海 秀一
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我欲

 そもそもの問題、干渉者は光り人の力によるものなのか判断のしようがない。しかしサクラがそれを認識できるということは、光り人の力を使っていることは疑いようがないのかもしれない。だがそれは認め難くもある。これまでの歴史上、光り人の力に時間に干渉する能力はなかった。しかしそれが可能ということになる。今この時代よりも光り人の力を極めた時空よりの干渉者。


 そのとき、誰かが呼び鈴を鳴らした。

 「こんばんは。お夕飯はまだですか?」ハルカだった。

 「まだだ」

 やはり別に食事を必要としないので、すぐにそれを忘れてしまうのだった。サクラがいなければ人間に擬態することすら止めてしまう。

 「でしたら、家でご一緒しませんか?」

 「いいのか?」

 いろいろと懸念事項がある。向こうがいいというのであれば杞憂だろうが。

 そんなこんなで波風家で夕飯を共にすることとなった。献立はカレーだった。

 「作りすぎちゃったから、遠慮せずにたくさん食べてね」

 「ゆっくりしていってね~」

 

 一杯で終わらせるつもりが三杯はお代わりをしていた。食事をするようになったのではない。単に波風家の味がよく馴染むだけである。決して深い意味などない。

 「気に入っていただけたようで」

 「お見苦しいところを」

 「そんなこと」

 「今日はありがとう。おやすみ」

 「ああ、ちょっとお待ちを」

 どうやら話があって夕飯に呼んだらしい。大体予想はついていたが。ハルカの自室にお通しされる。以前に入ったときから大きな変化は内容だった。ただ本棚の内容が変わっていた。以前よりも医療関係が増えている。

 「今日部活で上がっていた、次回作の件で。実はすでに案があって、それの許可を」

 「許可?」

 話は見えない。ガン・デルタの次回作でもやるというのだろうか。

 「ユウとサクラちゃんの話をやりたいの。出会ってから再開するまでの話を、大枠はそのままにして作品にしたくて」

 そんなこと、会議の際に直接でもいいというのに、なぜこのタイミングなのだろうか?

 「ちなみにサクラちゃんにはもうOKを」

 なんという根回し。

 「私たちもサクラちゃんから手紙を貰っていて。そこで貰ったんだ」

 「そういうことか」

 「それで、ユウの方は?」

 「別に止める理由はない。だが、猫はどうする。サクラがやってくれるわけではないだろう」

 「それなら私ともーちゃんで。もーちゃん天才だから」

 もーちゃん? 

 「前に話してた黒い猫の名前」

 「ちゃんと通じるのか?」

 「抱っこはさせてくれないけど、それ以外は」

 一抹の不安は残るが却下には繋がらない。そのまま了承した。


 話がひと段落したのを空気で感じる。流石に長居は褒められないので頃合いとみて退散する素振りを見せると猛烈に引き留められた。

 「あ、あの。今日呼んだのはもう一つ理由があって......」

 妙にもじもじとしている。

 「ど、どうした」

 「実はその、携帯をどこかに失くしてしまったみたいで。それでユウに探すのを手伝ってほしくて......」

 「変な意図なしに確認するんだが、自分で探せる範囲は探したな?」

 黙って頷いてる。

 「最後に所在を確認した場所、最初に不在を確認した場所は」

 「どちらも部室。今日の放課後のこと」

 「そういえばあのときなにか本を読んでいたよな。そのときに携帯電話は?」

 「何回か使った、調べものに」

 これは余計な質問だった。こちらが怪しまれては元も子もない。これ以上の詮索はしない。

 「探す範囲が学校なら能力を使用しても問題はないだろうが、繰り返すが部室はすでに探したんだろう?」

 「探したよ。エリちゃんにも鳴らしてもらった」

 けれども見つからず、か。

 「部室から出入りしたか?」

 「した」

 聴き取りだけではもう埒が明かない。ここは割り切って能力を使うほかない。


 これは久しぶりのことだった。だがやることは以前と変わらない。範囲を決めてその空間全体に意識を飛ばす感覚。探す対象は携帯電話本体でもよかったのだが、どうにもイメージが定まらない。ここは今でも例の携帯電話に結び付けられているという、ドリルゼノンのストラップを対象にする。探す範囲は一先ず学校全体。

 能力は正常に発動しているはずだった。しかし学校全体に反応はなかった。次に範囲を天乃市全域に拡大する。このレベルはこれまで一度もない。正常に能力を発揮できるのか不安でもあった。しかしハルカに頼られた以上、できませんとは言いたくなかった。見栄を張ったともいう。


 だが俺は選択を誤った。いや、決定的に何かの間違いに繋がったということではないのだが。

 「どう、あった?」

 ハルカに聞かれる。一拍二拍間を空けて問題がない旨を伝える。

 「別になんでもないよ」

 「今日はもう遅い。続きは明日にしよう。それじゃあ」

 「あっ、ユウ」

 「ん?」

 「また明日」

 「うん。また明日な」

 俺はアドリブに弱い。昔からずっと。


  日を改めて俺はハルカからの依頼を達成するべく部室へ向かった。朝のまだ早い時間では、生徒用の昇降口はまだ開錠されていない。たまに職員用の玄関から校舎に入ることがある。今日もそうだった。

 まだ時刻は七時前。校内に生徒はほとんどいない。体育館の方からは運動部の気配がしているが、やはり校内にはそれが少ない。

 それは教員であっても同じ事である。職員室には数名しかいない。そのまま鍵を取り目的の場所へ向かう。

 そしてやはりここにも人はいない。これは非常に都合がいい。一番初めの確認事項を済ませた後、その刻が来るまで椅子に座り目を閉じる。その暗闇の中で回想に入る。


 それは昨晩、桜瀬の屋敷に戻ってからのことだった。俺はある目的のために予め二人を呼び出していた。

 「こんばんは、ユウ」

 「すまなかった。こんな時間に呼び出して」

 「気にしないよ。それで、緊急の話ってなんだい?」

 他でもないことだった。たった一つの提案をするために彼を呼び出した。

 「君を、楽にする方法がある。ナオヤ君」


 テーブルに向かい合って座った二人の間に、淹れたコーヒーが二人分。

 言葉にすれば簡単なことである。非常にシンプルな表現で足りる。だが、だからこそ俺はそれを躊躇する。

 「俺が君を分解、因子を回収する。当然、すでに限界を迎えている君の身体は、因子なしの状態に耐えられなくなり」

 「消えてなくなるんだね」

 「でもこれは君のためを思って言っていることじゃないんだ。君の力が欲しい」

 ナオヤ君の特殊固有能力はすでに知らされていた。俗にサイコメトリーと呼称される能力。この類の能力について俺は多くを知らない。ナオヤ君の実体験によれば、物に込められた様々な人の想いが自身の中に流れ込んでくると言う。

 「出会ったのが、君でよかったと心から思うよ。僕のこの能力に少しでも価値を見出してくれるなら、僕がこの世に生まれて、プリズマになって、この能力を授かったことに意味を」

 「個人的な欲だよ。超個人的な」

 そうだ。俺はいつだって個人的な欲のために力を使ってきたのだ。一年前も、十年前も。そしてそれはこれからも同じ事だ。

 「いいんだ。僕は君のことが好きになったみたいだから」

 結果、彼はその因子を俺に託してくれた。


 誰かが部室に近づく足音で現実に戻される。廊下から聞こえる足音は間違えようもない。俺がこの部室に呼んだ者のものである。

 「おはよう、ユウ」

 「ああ。おはよう、ハルカ」

 「それで、昨日言ってた携帯探しは?」

 「もう終わった」

 昨日「ガン・デルタ」を収納した棚を指さす。

 「君なんだろ、犯人」

 「やっぱりわかってるんだ」

 「でも聞きたいのは、それのことじゃない」

 「えっ?」

 きっと彼女は携帯を自ら隠したことについて、俺に詰問されると予想していたのだろう。そんなことはどうでもいい。それよりももっと重要な問題がある。

 「その携帯電話のドリルゼノンのストラップのことだ。それは、どうやって君の手の中に来た?」

 「そんなこと」とでも言いたげな表情でハルカは俺の向かいに座る。

 「ジュン君に貰ったのよ。正確には返却された、と表現するべきね」

 「そこまでは知っている。返却とはどいう事だと、改めて訊こう。なぜジュンに渡した、それ以前に何故君が持っていた」

 俺は今朝部室に来て真っ先に問題のドリルゼノンのストラップに触れた。ナオヤ君の能力である程度の記憶を遡ることができた。断片的であり、探していた答えの半分ほどしか答えはなかった。

 「それの記憶をすでに見た。君が手にする以前の記憶は見えなかった。そして気がつけばいつの間にか君の携帯電話に付けられている。俺はどうしてもその空白を知りたい」

 「私は気がついたときにはもうこのドリルゼノンは私と共にあった。私が答えられるのはこれだけだよ、ユウ」

 「前に聞いた話と異なる様だが? そのストラップは、初めはジュンが所持していたもので、いつの間にか君の手の中にあった。五月の連休のときにはもう君が持っていた。

 そして君はいつの間にか持っていたと言った。ジュンはストラップを『貰った』と言った。勿論この後にジュンにも問い詰める。だがその前に君の話を聞かせてくれ」

 ハルカとジュン。この二人は四月からの間で光り人の力と強く接触した人物である。となればその記憶の正確性を失う。ほぼ完全にと言っていい。これはもはや推理でも何でもない。想像でしかない。証拠はなにもない。だが、そこに嘘があるのだとしたら、俺はそれを見過ごすわけにはいかない。

 「私が最初に手にした経緯は、今でもわからない。でもジュン君に渡した事は覚えている。五年前、私が記憶を失う寸前、彼がすぐ近くにいて私に駆け寄ってきた。そして渡した。

 なんでそうしたのかも、よくわからない。でもジュン君と再会してからしばらくして、彼が私に返すって言ってきた」

 「じゃあ、なんであいつは今の今までそれを黙ってたんだよ。ハルカの過去に関する重大な情報を」


 謎はさらに増えた。

 いったい何がどうなっているんだ?

 「教えてあげようか」

 開かれた部室の扉にジュンが寄りかかっていた。

 「まだ時間はあるから、手短にだけど」

 「ジュン......。いや、未来からの介入者だな」

 「せーかい。そういう変に賢いところ。ずっと嫌いだったよ、ユウさん」

 予鈴が鳴った。もうすでに八時二十五分だった。

 「ユウ、もう時間が」

 「時間ならあるさ。無限に等しく」

 ”白い世界”へ二人を飛ばす。ただしジュンは介入者から分離してジュンの教室の扉の前で降ろす。そうして介入者の本当の姿が、この”白い世界”に映し出される。

 「やっぱりな。あんたは未来のジュンか。目的は俺が気に入らないから、か」

 「そんな優しいものじゃ、ないけどね」


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