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光り人の街  作者: 鳴海 秀一
59/73

必然

 鈴懸高校にはとある二人の女子生徒がいた。一人は大沢カホコ。もう一人は上灘マイ。誰の目にも二人は特別な関係に映る。お互いの考えていることは言葉なしに通じるという。お互いがお互いにとってその一部を成す存在であった。その関係は三年後に裏切られる。

 二人の卒業式のその日。虹橋製薬という世間を欺くための名前を被ったビフレスト機関が天乃市近隣に構えた第九ラボ。その場所で二人は対峙していた。カホコをマイが奇襲する形になっていたが、別動隊になっていた男が二人。藤井タケシと名乗る前の上灘シュウジロウ。彼は本来この場にいるはずだった棗珠樹の代わりである。もう一人は千治ヒロトという男だった。

 二人は、このときより十五年前に発生した首都消滅の疑似再現を起こそうとしていた。首都消滅は大沢カホコの父親の大沢博士によって研究されていた新人類の能力を再現した特殊爆弾によって起こされた。これをその新人類となった二人が再現しようというのだ。

 結果は不完全なものとなった。シュウジロウは新人類としては失敗作であった。その後にヒロトはカホコの手にかかる。シュウジロウはすぐにその場から撤退。当時まだ一切にもならないユウと名付けられた男を抱えていた。


 俺が藤井さんから聞いた話とこれまで俺が収集した情報を組み合わせるとこうなる。大沢博士は三十年前、藤井さんたちは十五年前に夢見た現実の改編は全て失敗に終わったことになる。当時から十五年が経過した今、再び第九ラボで当時の不良生徒たちは青春を改編しようとする。


 次に気がついたときには自分が今どこにいるのか、全く理解できなかった。身体中の感覚がないことと、身体中が痛むことが同時に認識できていた。とりあえず自分の今の状況が全くわからない。立っているのか倒れているのか。必死に経緯を思い出そうとするもそれも難しい。どうやら記憶喪失になっていることが次第に認識できた。ということは光り人の力を使ったということか。

 俺がそうしなければならない事態はサクラ、いやさばみそと決めていた。マイとカホコの二人を同時に無力化するタイミングだけだった。二人が俺達の計画の賛同者にならないと俺が判断を下せばそれでいい。無力化はいともたやすく完遂される計算だった。十五年前からプリズマであったカホコはすでに有効期間を過ぎていることになる。例えプリズマであろうとなかろうと制圧は容易である。プリズマの因子としての有効性はたった十五年しかない。その十五年の間にカホコは己の計画の全てを完遂しなければならなかったが様々な妨害もあってそれも叶わないことになる。藤井さんはカホコは生前の大沢博士より託された計画があったそうだが、それよりも自身の願いである「上灘マイを人間にする」方を優先したという。十五年前にもそれが叶わないことを嘆いたとか。

 もう一方の上灘マイも俺達の間では大きな脅威と認識していなかった。事実彼女はプリズマでも光り人でもない。ではいったい何者なのか? 

 その解は「予兆」と言うべきだろうか。彼女自身は光り人でもプリズマでもない。ただし彼女の存在はそれらに深く関わっている。彼女のような人間が誕生したとき、それは光り人とプリズマが地上に現れる前兆だという。これは実の父親である上灘ニルスが十五年前より以前から唱えていたものである。というのも彼女がそう運命づけられたのはなにを隠そう大沢博士が全て仕組んだことである。そう、首都消滅は上灘マイを人為的に「予兆」にしたのだ。そのうえ首都消滅そのものは、光り人とプリズマの発生を因果的に決定づけた。この世界は本来今この時代においてプリズマも光り人も本来存在しないらしい。それが一人の男によって一国の首都の犠牲の上に成立してしまった。

 そうまでして一人の男が成し遂げたかったことそれは――。


 やはり理解できてしまうことだった。そして俺自身がそうであってもおかしくはない。もうそうなのかもしれない。こればかりは俺一人で判断はできない。いずれその償いをする日がくるかもしれない。だが、カホコに一つだけ確認したいことがあったことを寸前で思い出す。

「カホコさん、大沢博士の本来の計画について、聞かせてくれない?」

「それが今なんの関係があるの」

「それはカホコのお母さんが原因だ。亡くなったお母さん、大沢博士の妻を生き返らせるために、大沢博士はあれだけのことをしたんだ。もっともカホコはそれを反故にしてマイを人間にしたようだが」

 カホコの表情は酷くなった。図星だと誰でもわかる。それまで大きな変化のなかった顔で、唯一認められたといってもいい。


 やはりどれだけ情報が俺の下にこようと、決断は覆らない。マイよりは、カホコよりはということはない。二人の計画にそれぞれ同意できるものがあるがそれでも二人の行いは見過ごせなかった。

「今から改編を行う」

 そのときだった。爆音とともに頭上に気配を感じた。それは目の前に着地した。そうしてこの空間の主導権を俺から奪った。本来は一切の臭いがなく静止した空間である。しかし不意に苦味と甘味の香りがする。

「やっぱりこうなるんだね」

 それはある程度予測できていた。初めからこの場に不在でありながらもその存在は決して無視できない人物。あかねえだ。

「あかねえ、止めろというんだね」

 今このタイミングでやってきたということは、つまりそういうことだ。

「そう、悪いけど降りてもらうよ。ここから先は私たちの役目だから」

 そう言われてしまっては降りるしかない。

「ユウ、代わりを買って出てくれたんだよな。ありがとう。棗が見えないから」

「流石に趣味が悪いって。止めてくれればよかったのに」

「棗はともかく俺は許されない側だと思っていたから」

 俺が勝手に言っているだけだ。そもそも俺にはそんな資格はない。

「これは正義じゃない。復讐だよ」

「じゃあこれから始めるよ。私たちの改編を」

 そんなことはさせないとばかりにカホコが突っ込んでくる。あかねえは二人の動きを封じていたがそれを破ってきた。

「無駄だよ」

 再び頭上になにかを感じる。頭上というよりは遠いところからだった。この感覚は確かあの野球の試合の日にも感じたものだった。そしてそれはあかねえの開けた天井の穴から入ってきた。

「ヒロト......!!」

「やあ久しぶりだねシュウ。今はタケシだったかな?」

 昨日卒業アルバムで初めて見た顔だった。だがはっきりと彼だとわかった。甘いフェイスは写真で見るよりもずっと人を惹きつけるものがあった。十五年前からなにも変わっていないのであろう。十五年の時間は藤井さんと二人に

「残念だったねカホコ。十五年ぶり二度目の挑戦も失敗だ」

 千治ヒロト。彼は高らかに勝利宣言を行う。カホコを挑発した彼は今度こそ頑丈に動きを止める。カホコは再び自由を失った。

「君がユウだね。僕のプレゼントは気に入ってくれたかな?」

 やはりそうらしい。おかげさまでと答える。ヒロトさんは笑顔で返す。

「なぜだ、なぜお前が」

 これが最大級の呆れだぞ、と言わんばかりのジェスチャーで彼は返す。

「君は本当にプリズマなのかい? 知らなさすぎるだろ、疑うね」

「ヒロトは俺達よりも上の段階に行っただけだ。肉体を捨てたんだよ。光り人と似たようなものだ。いずれ人は肉体から自由に離れられるようになる。ヒロトの場合は緊急避難として肉体から離れた。そして久遠劫の桜の樹を主としていた。それだけだ」

「俺はそこでようやく自分がスタートラインに立ったと感じた。俺達は”あの世界”に辿り着かなければ過去も未来も改編できない」

「あとは君たちに託す。俺達はここまでだ。ユウを早く安全な場所へ」

「早速だがユウ、君にもこれから安全な場所に退避してもらう。すでにあの三人は天乃へ送り返した。痛くはない、一瞬でテレポートさせる」

 気づけばネクストの四人が見当たらない。

「残念だが説明をしている時間はないようだ、あの窓に向かって走れ!!」

 ヒロトさんが指差した窓は開け放たれていた。その方向は矢米川のある方向、ということは飛び込めと......?

 考えている暇はなかった。俺にお構いなしに改編は始まる。三人の因子はすでに限界である。一度始めた改編は途中で止めることができないのか、改編は止まらない。周囲に充満している光り人の力が一点に集まっていくのが視認できる。三人が互いの手を取って円を作っている中心へ集まっていく。

「今はあかねえって呼んだ方がいいのか」

「どっちでもいいよ、先輩。十五年前の借りを返すよ」

「あの頃のままだね二人とも」

 すぐ後には先程の俺のように光を身体から放ち始めた。いよいよプリズマ三人による極大の改編が始まるのだ、そう認識したときには窓際まであと数歩のところまで来ていた。あとは飛ぶだけだ。

「ガン・デルタ、俺は気に入ったぜ」最後にそう聞こえた気がした。


 今日、天乃は再び偉大な人を失う。その事実を俺は飛び出すその瞬間まで受け入れられずにいた。受け入れる前に非常に強い力で弾き飛ばされる。水面が目前に迫るところで俺は意識を失ったのだった。


 藤井さんもヒロトさんもあかねえもいなくなった。そしてその場から俺が弾き出され、そしてここにいる。はて、ここは一体どこなのだろうか。依然として身体中が痛い。第九ラボは矢米川に隣接しているわけではないし、最上階から飛び込んだのだ。無理もない。思考ができるだけマシと言ったところである。徐々に思い出してきた直前の記憶、それらを元に今この場所を言い当てるならば矢米川流域の水際だろうか。機能し始めた感覚も冷たい液体が身体の下の方から上がってきては引いてを繰り返していた。

「気がついたようだね」

 誰かが話しかけてきているのだろうか。声の方に頭を向ける。顔の右半分が地面に埋まっているらしく抵抗があった。やっとのことで見た方には信じがたい光景が広がっている。

「桜......、久遠劫の?」

「その認識は正しいね、天乃市の久遠劫の桜はこれの姉妹のようなものだ。そして、君をずっとここで待っていた」

 声の主は顔がはっきり見えない。やや特徴のある発音が認められる。明るい金色の髪も印象的であった。はっきりとは見えない瞳は黒とは明らかに違っていた。そして声の割には年を取っているように見受けられた。

「名を名乗っておこう、私は上灘ニルス。君が桜瀬ユウだね」

 状況は呑み込めなかった。遂にあの世に来てしまったのだろうか、とそこまで考え始めてから一つの推測にたどり着いた。

「あなたは光り人になったんですか」

 やわらかく、そして艶やかに微笑む。きっとこの事実はさして重要ではないというのか。やはりもう一つの久遠劫の桜こそ主題であるらしい。

 ようやく身体を動かせるようになってきたので膝立ちの形をとる。着ていた制服は水に濡れていていた。背後は海であった。正しくは首都湾。沖合には新首都の人工島が見える。明らかに天乃ではないことは確かだった。

「ここがどこかは、すぐにわかるでしょう。それよりも、もう一人のお客様はどうしますかな?」

「誰か知らないけど、ユウは返してもらうよ。彼は私に必要なの」

 サリヱだった。

「待て、彼の話が聞きたい」

 話を聞きたいのは彼だけではない。サリヱの話も聞きたかった。精一杯の声を絞り出してサリヱを止める。やはり発声にも苦労する。


 ニルスさん。いや、ニルス博士は第九ラボの爆発を認識していた。その日からすでに一日が経過していることを俺達に伝えてくれた。この場所は天乃市の属するS県と同じく首都に隣接するC県のとある場所だという。俺はその情報で確信した。

「姉さんが死んだ場所......」

 必然である。矢米川に落ち流されたとなればこうもなる、のだろうか。偶然にしては不自然である。

「これは必然のこと。君を待っている人がいると言ったはずだよ。彼女が君を呼び寄せた。サリヱを君がここに来たのもまた必然ということだ」

 もうすでに他の道は絶たれていた。全ての情報は一つの答えのみを示していた。

「この久遠劫の桜は、桜瀬ミユキなのか」


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