分光
「『夢想超神ガン・デルタ』、いいタイトルだろ?」
「それより、今日までタイトル未定だったのはなんでよ」
「ガン・デルタは元から決めていたんだが」
「ふーん」
「リスペクト元のドリルゼノンに合わせたんだね」
「『超越電神』と『夢想超神』、我ながら傑作だ。ドリルゼノンとガン・デルタ。二機が並び立つ雄姿が目に浮かぶぜ。ドリルゼノンが近接戦闘向きだからこそのガン・デルタは銃撃戦特化の機体で、もちろんガン・デルタ単体での近接戦闘も問題なし。そのコンセプトはドリルゼノンと共に戦うことだからな。機体は非常に運動性能に優れ、設定上は鈍重とされるドリルゼノンとは全く異なる機動が可能。腰部や、脚部各所ブースターによる浮遊と加速が生み出す三次元的な挙動は、自慢の早打ちと掛け合わさることで無類の強さを誇る。基本武装は両手に持つ二丁の銃。左手が 『ガン・マグナム』、右手が『デルタ・マグナム』。これを前後に接続してライフルモードにすることも可能。これを使用した長距離狙撃もこなせる。必殺技は『ガンデルタ・ホワイト・ストライク』エネルギーを最大限まで溜めて対象に放つ。ドリルゼノンが本編で目立っていた火力不足を補って余りある火力を搭載しているのは、主人公の燈崎弾本人がドリルゼノンの必殺の一撃を放つ以外でのエネルギーの消費をカバーするためにとそういう設定にしていたからであり、あくまでその力は正しくドリルゼノンのサポートのためだけに使われるべきという彼の心情は機械のはずのガン・デルタ自身も理解しているような節がある。これは『超越電神ドリルゼノン』作中でのドリルゼノンのサポートAIのリスペクトである。しかし、ドリルゼノンとは別人格のような描かれ方をしていた『ドリルゼノン』よりも、よりガン・デルタ本人の人格の様な描写となっている。これは」
「ドリルゼノンの幻の続編の断片情報が由来で、別人格であったことに重要な意味があったから」
「そうだ。ドリルゼノンとは異なる現象で巨大化するガン・デルタには、また変わった形が適していると判断したので、ガン・デルタ本人のようにした。巨大化の判断はガン・デルタ本人の意思であるが、その巨大化の原理は」
「それよりも、完成を祝ってパーティーしようよ早く」
「おお、誕生日会も兼ねてるんだよなそれ」
「僕もエリちゃんも今月が誕生日だからね」
早速学校を後にして塩浦家へ行くことになった。だが先程までいたはずのハルカが見えないので俺が探すことになった。その間二人には合宿の撤収をしてもらっていた。
校内を探し回っていると携帯にメッセージが届く。どうやらハルカは入れ違いでジュンたちの元へ戻っていたようだった。続けざまに電話がかかってくる。
「ユウ? 入れ違いになっちゃってごめんね。戻ってきてくれますか?」
「わかったよ。すぐ戻るって言いたいところだけど、ちょっと時間かかるかも。でも、必ず戻るよ」
「約束ね」
俺の目の前にはサリヱが立っていた。
「狡くない、一人だけ先に抜けるなんて。私の作品はまだなんだから、完成まで付き合ってよ」
いつものように人のいない美術室に通される。キャンバスは白いままだった。
「絵というものは、自分一人で描ききるものではないのか」
「描けなんて言ってない。同じ苦しみを味わいなさいよ」
「完成すまで拘束すると」
「人道には配慮するわ」
「お前はプリズマだ。俺がいなくとも」
「そんなことできないよ。私はプリズマの中でも出来損ないなの」
「ならなぜ美術部員であり続ける」
「なんでだろうね。意地かも」
「いいじゃないか。それで」
「ねえ、私はユウのことが好きなの。それを自覚するたびに、この手で触るたびに、私はプリズマとしての能力が開花するの。だから」
「俺を踏み台にするのか。本当にそれでいいのかお前。お前はカホコを裏切り、自分が核になってプリズマを人間に戻すんじゃなかったのか」
「人間に戻すのはユウ一人だけよ。それくらいなら私だけでもできる」
「残念だがそれはできない」
サリヱ一人だけでは到底不可能である。初めからプリズマとして誕生し、今の今までプリズマであり続け、一瞬たりとも人間であったことのない俺が、人間になることはない。プリズマを人間にするのではなく、プリズマになった肉体を人間に戻すことがサリヱにできる精一杯だろう。しかしそれは不可能である。
「今の私にはね。でもこのまま覚醒が進めば......」
やはりこれは、あまりに早すぎる。椅子に座らせた俺に一歩一歩近づくサリヱは俺しか見えていなかった。左手を俺の右頬に当ててサリヱは笑みを浮かべる。
「俺はお前が好きじゃない」
「拒絶しないでよ。それに約束が違うでしょ。作品が完成するまで付き合うって。あの子じゃなくて私の方がユウにふさわしい。同じプリズマなのよ?」
サリヱの言う通りだった。プリズマと人間。俺とハルカには決して埋めることのできない隔絶がある。だが、プリズマであってもそれは同じことだった。
「残念だといったはずだ」
「なにがよ」
「知らないなら教えてやる。俺はお前とは違う。人間として生まれ因子を打ち込まれてプリズマとなったお前とは違う。俺はプリズマとして生まれることを望まれ、プリズマとして生まれた、正真正銘のプリズマだ。お前一人の力では、俺を人間に作り替えることなど到底できん」
「だ、だからなに......。それが、なんだっていうの」
「お前に人間にされるくらいなら、俺は自分の手で人間になるさ」
もっとも、そんなつもりはないが。
「ここからはおれの番だ。サリヱ、俺の力となれ......!!」
サリヱの左腕を掴む。掌に微かな熱を感じ始めた。
「な、なにを」
「プリズマの本当の力の一端を、今から見せてやる」
接触部は次第に光を発し始める。それとほぼ同時に光の粒子が宙へと舞い始めた。
「あっつい、なにこれ」
「プリズマ、即ち分光器。お前を光り人の力に変換している。光り人の力を生の人間から切り離すことができるプリズマの能力の応用だ。お前の身体を分解。その組成を光り人の力に変換している。駒馬やればお前は消える」
「光り人の力に......!? それは、プリズマには作り出せないはずじゃ」
「記憶からの作り方はな。こっちは全く違う。あらゆる物体を光り人の力に換えるこのやり方も、お前には無理だ」
すでに光り人の力を知っているからこそこれができる。知らないものはどうやったって無理である。
「離してよ、ねえこれ離して」
「俺の話が先だ。これができないお前にはどうやったって俺を人間にはできない。そもそも俺は生まれたそのときからプリズマだ。最初は人間だったお前とは違う」
「それが私とユウの違いだっていうの」
「いや、時間があればお前にだってできるかもな。時間があればだが」
分解を止める。ただし腕は掴んだまま離さない。
「時間?」
「知らないのか。プリズマ因子の有効期限は十五年だ。そのときが来ればプリズマは死ぬ。お前にはあと何年残っているんだろうな?」
プリズマの因子は適切に保存していれば問題はない。だが人体へ打ち込む「調整」を行うとその限りではない。因子は体内で隅々まで拡散し定着する。その後複雑な条件のもとに覚醒が行われるとプリズマとして「完成」する。一度「調整」を受けてしまったら最後、平均十五年でその命を終えるとされる。現在確認されているプリズマ因子のうち五つはすでに使用されてから十五年が経過していることになる。時間がないのは我々も同じ事だった。
「じゅ、十五年......?」
「個人差はあるようだが、概ね十五年だ」
「そん、な......」
遂にサリヱはうなだれた。床に落ちた彼女の左腕を解放する。涙を浮かべた彼女は俺が初めて見たサリヱだった。
「サリヱ。この前は騙して済まなかった。だから今度こそ俺の計画の賛同者になれ。今度は本物の協力者だ」
サリヱの涙を拭い、両手を重ねる。サリヱの肉体から生成した分の光り人の力を彼女に返す。
「俺は全てのプリズマを、人間に戻したいんだ」
「わ、私も......?」
「そうだ。協力してくれるか?」
「......うん」
その後、一旦美術室から追い出された。しばらくして荷物をまとめたサリヱが出てくる。
「帰るのか。作品は」
「ちゃんとできたよ。当日まで秘密」
サリヱが角を曲がり階段を駆け下りていくのを耳で聞いていた。いつになく上機嫌なサリヱが脳裏に焼きついていた。




