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義賊事件(5)

「はっ。今のところは直接の被害もないとの証言を得ましたので、軍内では犯行の前に下見をしたのだろうと仮説を立てております」


「ふむ……さっきも言ったが、職人街に住むのは気のいい職工ばかりだ。不正に縁があるとも思えん。気になるな」

「はい。後手に回ってでも、よくよく相手の動きを見るべきかと思います」


「ああ。俺もそうしよう。まず、『義賊宣言』の夜にばら撒かれた金の出所を探る所から始めるべきだ。被害者探しだな」

「そう思います、陛下」

銀行、成り上がり商人、金鉱山そして王城内部。

調べるべき個所は、当分の間は、この四つに絞っても良いだろう。

もし何か事件が起きたと分かれば、そのたびに捜査の網を広げて行けばよい。


「貴族たちには後日、話を聞くんだったよな」

「はい。先入観を捨て、真剣に取り組みます。その際には、陛下のお力添えが欠かせないものと思っておりますが」


「……ふむ」

ケネス一族を始め、自衛軍に数人ある帯剣貴族達とて、決して他の貴族から侮られるような立場ではない。

だが、自衛軍を煙たがる貴族もいることだ。


ましてや──盗賊団に資産を少しでも奪われたとあっては、貴族らにとっては身内の恥である。

“義賊宣言”を経た今は、下手に義賊団から狙われた話などすれば、不正への加担を疑われかねない。

公の場で窃盗の被害を受けたことを堂々と口にするような“まぬけ”は居ないだろう、とアルフレッドも思う。


王は自衛軍の実力を大いに買っているが、ただでさえ自分達に都合の悪いことをなかなか口にしない貴族達が、さらに固く口を閉ざそうとするだろう現状は、リチャード達にとっては任務遂行の妨げになる。


「爵位の高い人間の口利きがあれば、少しはマシか……」

「そう思います」


だが──信用の置けるビジネス・パートナーや、立場を同じくする貴族ならどうだ。

傍仕えの者らや、もっと言えば側室やら愛人やらを目の前にすれば、どうだ?

口を滑らせる程度の事はあるはずだ。


「わかった、俺が何とかしよう。それから……これはちょっと頼みにくいんだが」

「何なりと」


王は親友に背を向けると、書架から分厚い本を取り出した。

『リチャード様ファンクラブ会報集』だ。

かつて王立学校に存在した、身分も性別も問わないミーハー集団の活動と憧れと妄想の集大成。


リチャードの美貌がきっかけで結成されたクラブは彼の卒業と同時に活動を停止し、弟レオンのイケメンぶりを見て再開。


同期生のアルフレッドはレオンのサインを求められたり、一緒に映った写真を譲ってくれとせがまれたりして困惑したものだ。


同じ志のもとに集まった者達は今、それぞれに職や生きがいを見つけて、街に散らばっている。

腕利きの冒険者となった者、貴族の執事・メイドとして仕えている者、郊外の花街で逞しく務めている者も居る。

話を聞くことができれば、正面切っての事情聴取では得られない情報が多く手に入る事だろう。


「この会報集は参加者の名簿も兼ねている。これを手掛かりに、もう一歩踏み込んで話を聞いてみて欲しい」


「承知いたしました。盛り場や花街界隈については不得手な者もおりますが」

「ああ。レオンに手伝ってもらうさ」


「自分達も負けていられませんね」

「存分に励んでくれ」

「はっ。早速、任務に取り掛かります」

自衛軍式の敬礼を見せたリチャードは王に背を向ける。

そして……動かない。


「どうした」


もう一度、王の方に向き直ったリチャード=ケネスは、また眼鏡を外していた。


「……紅茶を飲むのをすっかり忘れておりました」

リチャードは王が机の脇に置いていたカップを手に取ると、上品に口をつける。


「そう言えば、俺もだ。冷めちまったなぁ」

王も親友に倣い、カップを手にする。

飲む音を立てないというマナーだけは守った。


「大丈夫ですか、アル?」

「なにが?」

「仕事の話ばかりになってしまった。……僕はちゃんと、気遣ってもらったのに」

「決めなきゃいけねぇことがいっぱいあったろ。ちゃんと決められたんだし、気にすることじゃない」

「気になるんですよ。捜査方針を決める事が出来たからこそ、気にします。僕はいつでも、アルの親友でありたい」

2021/2/5更新。

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