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プロローグ

黄金。


宝石のように研磨する手間がなく、高品位な偽物を作ることも出来ない。


知られざる宝物は世界にあふれ、人々をとりこにしてやまぬが、これほどに人の欲望を呼び、時に狂わせさえする瑞宝ずいほうはあるまい。


災いを呼び争いを引き起こす妖しい輝きを、それでも求める者は尽きることがない。

主要な産出国の君主ともなれば──理不尽な災難がつきものである。


中央大陸で随一と言われる金鉱山を抱え、商業都市国家として栄えるコルトシュタイン国。

その黄金の冠を引き継いだアルフレッド新国王は、さっそく治世の難しさを知ることになった。


この国の王は代々、商売を原則自由とし、干渉しない方針を採ってきた。

『詳細な世界地図が作られていない』という不思議な事情があっても、黄金と商機の話を聞きつけてやってくる者が多い。

結果として、人口一万人ほどの小さな領土には内外の商売人が溢れている。


人が増えれば商売上のいざこざが増え、お役所の出番も増える。

治安を保たねばならないのに自衛軍の予算は削減を迫られるという、矛盾した状況も悩ましい。

公共工事の話が持ち上がるたびに好き放題な陳情を上げてくる成り上がり貴族達の話なんか、聞き飽きてしまった。

極めつきは酔っ払いのケンカの仲裁まで頼まれる始末である。


「でもまぁ、俺にしちゃ頑張ってる方かね……」

一年も頑張ってようやく慣れてきた執務を、若き王は思いやる。

国事から民事まで頼られる多忙さは、この小さな国の王族の運命だ。


あまり我慢強くないアルフレッド王と違って、前王やその側近たちは愚痴の一つもこぼしたことがなかった。

前国王ウィルフレドは在位中、大胆かつ繊細な政策を打って国民の信頼に応え続け、ひょうきんな『放蕩君主』のまま、四十五歳で早めに退位するまでを過ごした。


実力も実績も父と比べるべくもないことを知ってはいるが、アルフレッドとて己を鍛え上げてきた生粋の王族である。


王立学校で過ごした学生時代から、即位した後の夢を学友たちと語り合って来た。

彼が思っていたよりも、即位は少しばかり早まった。

十八歳で黄金の冠を戴いた、歳若い王である。


議会の信頼を勝ち取ることはまだできていない。

そのことが障害となって、思う通りの政策を打ち出せていないのが、今の彼にとっては最大の問題だ。


とは言え、自分のしたいように振る舞うことは王の務めではない。

できないと言えば国や役所の仕事が半減するわけではない。

疲れたとわめけば誰かが代わってくれるわけでもない。

アルフレッドにも、それは十二分に理解できている。

だから、ままならない思いを抱えつつも、国事にまい進してきた。


議会と自衛軍の間に入って防衛予算を通し、魔物の侵入と襲撃を日常的に退けている。

商工ギルドに重々頼んで平穏に商売ができるよう采配するのも仕事のうちだ。

酒場や宿屋には傭兵か冒険者を必ず常駐させる政令を制定して周知し、楽しく仲良く飲み食いするよう、『王様からのお願い』を発した。

金鉱山の視察も欠かさず行い、労働者と商人・貴族の双方が円満な金取引を行えるよう、過不足のない国政を心がけている。

側近の一人アルフィミィがスケジュールにねじ込んでくれる休日には変装して繁華街に繰り出す。

直接耳にする国民からの評判はなかなか良い。

いわく、カネと人脈と容姿を不足なく備えた理想的なプリンスである、と。


服装をデザイナー任せにしているから、自分では格好の良し悪しの判断がつかないのだが……国民からの人気がないよりは良いや、と王は割り切っている。


ここは人間と魔族が互いを認め合って争いをやめ、万能超人である『勇者』が出現しなくなった世界だ。

各国の君主や都市の首長は、誰もが多忙を極める。


それを知っていて、自分で覚悟を決めた。

敬愛する父から王冠と権力を引き継いだ以上、父や父祖が築いてきた狭くも豊かな国を守り続ける。


それが、コルトシュタイン国王たるアルフレッド=フォン=コルトシュタインの役目なのだ。

2021/2/5再投降。

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