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爆誕、魔法少女ハヤタ★マジカ

 「うっ......」

 シラホシの言う通りに呪文を唱えた隼太を包んだ虹色の輝き。

 発光の元であった隼太自身ですらあまりの眩しさに目を閉じてしまう程の尋常ではない光量が収まった後に起きた変化は、果たして

 「ほう。これは思った以上に似合っているではないか」

 得意気なシラホシの声が隼太の耳に届く。

 「な、なにがおきたんだ」

 そんなシラホシの発言を余所に、状況を飲み込めない隼太は、困惑の声を上げてしまう。

 声変わりしたての隼太のモノとは到底思えない、まるで少女の様な高い声音である。そして何よりも、左胸に当てていた手には柔らかな感触が......

 顔から血の気が引くのが自分でもわかった。きっと今の隼太はとても蒼白な顔色になっているに違いない。

 蒼白になった顔色を見る為ではないが――声の違和感に気付いた隼太は嫌な予感を感じつつも、自室に備え付けられた姿見の前まで即座に移動する。

 そこに映る姿は、コスプレ感が強い衣装に身を包んだ銀髪の少女だった。

 いや、その表現は残念ながら説明不足であろう。

 姿見に映る少女の身長は元の隼太の身長から推測するにおそらく150cm程度だろうか。同年代の女子の中でもやや低めの身長ながら、その身体は決して発育不足を感じさせない。コスプレの様な大量のフリルにあしらわれた衣装に包まれた胸元は、しかしてそこだけが強調する様に開いていており......身長の低い少女に似つかわしく無い双丘が、その存在感を存分に発揮していた。

 フリルにあしらわれたスカートは股下15cm程度だろうか。ふとももの半ばまである純白のニーソックスとスカートの間に生まれた絶対領域には瑞々しい肌がのぞいている。

 そして顔に目を向けてみれば、そこには顔面を蒼白にした少女――真っ白な世界で目にした子猫ではないシラホシにどことなく似た、大きな銀の瞳にセミロングの美しい銀髪を肩口まで伸ばした絶世の美少女がドン引きという表情を浮かべていた。

 「なんだこれ!?」

 なりふり構わず心の底から生まれた叫び声を上げる隼太。

 頭を抱えた隼太、そこで何よりも大切な人体の重要部位を両手で勢いよく抑える。

 「な、ない......」

 あるべき筈のモノが、ない。

 それは、未だ未使用、しかし無限の可能性を秘めた大業物であり、都合三度の転生の際にも常に共にあり続けた隼太にとっては唯一無二の相棒とも呼ぶべき存在。

 正しく自身の分身とも呼ぶべき存在の喪失を目の当たりにした銀髪の美少女は、ただでさえ蒼白だった顔面から一層血の気を引かせ、ついには両膝を屈し地面に床に両手をつく。

 「お終いだ......」

 「何を大仰に絶望しているのだ。私の目から見ても十分すぎる程の美しい姿ではないか。まぁ衣装は私の好きな魔法少女アニメを参考にしているが」

 「そういう問題じゃないんですけど!?」

 大切なモノの喪失を受け、あるいはシラホシとの問答時に近い絶望を感じていた隼太は蒼白な顔にうっすらと涙を浮かべながらシラホシに向かって叫ぶ。

 魔法少女アニメが好きなのよ!と言う叫びは心の中にしまっておいた。

 余談ではあるが、際どい魔法少女衣装に身を包んだ美少女が蒼白な顔に涙を浮かべる姿は大変嗜虐心をそそるというか、見る人によっては大変ストライクな姿だった......と言うのがシラホシの後日談であった。

 「し、仕方ないであろう。私から授けた力を行使するには少女である必要があったのだ。力の行使時にはお前にっとてのif――女性として生誕していた白崎隼太の姿に変身することになるのは――不可抗力というものだ。それに、何も一生その姿という訳ではない」

 余裕を失い必死な隼太の姿に子猫な神様は引き気味といった様子で釈明をする。

 「それに、その姿であれば都合の良い事もある」

 「......都合の良い事って」

 元に戻れると知り、やや心の平穏を取り戻した隼太は、シラホシに聞き返す。

 「まず、その姿であればお前の正体は絶対に誰にもバレない」

 「それは......確かに」

 幾ら近しい人間であろうと、今の隼太の姿を見て白崎隼太と同一人物であるという結論に至る事は間違いなくないだろう。

 そもそも性別が違うのだから当たり前である。

 そこまで考えたところで、隼太自身もある事に気が付く。

 「もしかして、この姿に変身していれば......これから先起こる事件を俺が解決しても世界が破滅に向かうことは無い、そういう事なのか?」

 「察しが良いな。その通りだ。そもそもの話、前世のお前の失敗は間違いなく死んだ事......だが最も問題だったのは、お前が節操なく少女を助けてその度に惚れられて挙句7股にまで至った部分にある」

 「......」

 無言でシラホシの話に耳を傾ける隼太。

 「だが、白崎隼太と言う人間の事は理解した。お前は世界が滅ぶと知ってもきっと同じ選択をとるのだろう。一度は愛した少女達に危機が及ぶと知りながら、助けなければ少女達が深い傷を負うと知りながら、それに見て見ぬふりなど出来ないだろうからな」

 シラホシの言う通りだった。

 世界と少女達を天秤に掛け、その結果として世界を捨てる様な選択だったとしても隼太は同じ状況に陥ればきっと前世と同じ事をするだろうと、誰よりも隼太自身が理解していた。

 「だからこそ、お前はお前のままで世界を救え。私の授けた力とその姿があればお前はお前のままで少女達を助ける事ができるのだから」

 シラホシの言葉が、隼太の胸に響く。

 隼太は隼太のままで良いのだと。

 自分らしくありながら、天秤を傾ける選択ではなくどちらも救えと、聞きようによっては傲慢にも取れてしまいそうな、そんな選択を選べと。

 「当然、中身は白崎隼太であろうと実際に事件を解決するのは端から見れば全くの別人だ。お前は前世の様に愛した少女達と関係を築く事はできないだろう。或いは、お前に向けられた筈の少女達からの愛を他人が享受する姿を、或いは、少女達がお前ではない誰かと結ばれる姿を、間近で見なければならないかもしれない」

 それはきっと、我が身を切り裂かれる様な痛苦を隼太にもたらすことになるのだろう。

 自分に向けられていた少女達の微笑みが、好きだと言ってくれた愛の言葉が、自分ではない誰かに向けられる姿を想像するだけで、隼太の胸はきつく締め付けられる様な痛みを覚えた。

 それで。

 そんな痛みは、シラホシとの問答で少女達の末路を聞かされた時の痛みと絶望に比べればあってないようなものだ。

 たとえ少女達と結ばれるのが自分自身ではなかったとしても、白崎隼太の答えは最初から決まっているのだ。

 「もしシラホシの言う通りだったとしても、俺は皆を助けるよ」

 確かな決意を秘めた銀の瞳でシラホシを見つめる隼太。

 「お前ならそう言うだろうとわかっていたよ、白崎隼太」

 隼太の瞳を真正面から受けた白猫は、満足気に続けた。

 「それではお前の成したいことを成す為の力――神から授けられた力についての話をするとしよう」

 「力......そうか、正体がバレない様に女の子になったわけじゃなかったんだよな」

 「その姿はお前の成すべきことを成す為に都合は良いが、あくまで副産物に過ぎない。本質はまさに神の力、その一端を振るう事にこそあるのだ」

 神の力、その一端。

 隼太には及びもつかないものだ。

 「まずは場所を移動するとしよう。――ムーバ」

 シラホシは言うや否や、前足で軽く床を叩く。

 僅かに銀の光を纏った子猫――シラホシ――が行動を起こすと同時、隼太とシラホシの周囲が色を失っていく。

 「これは......」

 「力を試す段階では何が起きるかわからないからな。少しだけ世界の軸を移動したのだ。外も見てみると良い」

 言われた隼太は、カーテンに覆われていた窓を開ける。

 そこから見える景色は果して、部屋の中と同様の色を失った、灰色の街並みだった。

 土曜日の午前8時30分、晴天の住宅街は洗濯物を干す近所のおばさんや犬の散歩をする人の姿があってしかるべきところ、窓から見える灰色の街並みからは人の気配を全くと言っていいほど感じなかった。

 「もしかして、俺たち以外に誰もいないのか?」

 静寂に包まれた生気のない街並み、それを体感し湧き上がった疑問をそのまま口にする隼太。

 「その通り。私と傍に居たお前だけを指定して移動する神技の一つだな。ここでは時間の流れが外とは違い、おおよそ3000分の1程度になる。つまりはここで1時間過ごしても外では2秒に満たないとうことだな」

 「す、すごいな」

 「それだけでなはいぞ?この世界はお前たちが本来生活する世界を基準としてなりたっていてな。この世界にある物は破壊されても時間の経過に伴って修復するのだ。つまりはお前が力を使いこなす為の訓練を行うには最適の場所と言う事だ。壊れても元に戻るとわかっていれば慣れない力に存分に振るえるだろうからな」

 「壊しても大丈夫っていうか、俺がシラホシに貰った力ってそんなに危ないものなのか?」

 この灰色の世界の常識外れさは何となく理解したものの、シラホシの発言に気になる部分があった。

 シラホシに言われるがままに変身したものの、身体の奥底から力が湧いてきたきたりと言った分かりやすい変化はないのだ。 

 シラホシは凄い力だと言う風に話を進めているが、今の段階では滅茶苦茶可愛い女の子に変身する力という認識しかない隼太にとっては当然の疑問と言えるだろう。

 「お前の疑問も最もだ。百聞は一見に如かずとも言うし、一度外に出て力を行使してみると良い」

 言われるがまま我が家を出て近所の空き地にやってきた隼太とシラホシ。

 ちなみにシラホシは俺の肩に乗って楽をしていた。

 「力の行使って具体的にはどんなことをすればいいんだ?」

 少し嫌な予感を感じる隼太の頬を一筋の汗が流れ落ちる。

 変身する際のこっぱずかしい呪文が脳裏を過る。

 もしかして、またああいう感じなのだろうか――不安に思う隼太の予想を裏切り、隼太の肩から颯爽と飛び降り、語ったシラホシの言う内容は驚く程簡単なモノだった。

 「簡単だ。ただ、頭の中で思い浮かべ念じるだけで良い」

 「頭の中で、思い浮かべる」

 「そうだ。まぁ空を飛ぶとか瞬間移動したりは勝手を掴むまでは難しいだろうから、まずは目の前に火を生み出したりが簡単で良いだろう」

 言われて、隼太は頭の中でイメージを膨らませようとしてみる。

 しかし、思い浮かべてみようとするが、何もない場所に火がある風景をイメージするのは存外難しい事に思い至る。

 「思い浮かべるのが難しいなら、自分の記憶にある物を利用するのが手っ取り早いぞ」

 手こずる隼太を見かねたのか、シラホシがアドバイスをくれた。

 自分の記憶......なるほど、わかりやすい。それならできる気がした。

 シラホシのアドバイスに従い、隼太は自身の記憶を思い起こす。

 火に関する記憶――高校3年の学校祭で見たキャンプファイヤーが隼太の脳内で鮮明に思い出される。

 燃え盛るキャンプファイヤーの炎。夜の暗さの中で煌々と揺らめく炎のイメージが固まったその時、隼太は目の前にソレが現れる様に念じる。 

 すると次の瞬間

 「うおおおお!?」

 「阿呆、最初にしては大きすぎるぞ」

 何もなかった筈の空間隼太の目と鼻の先には、高さ2m程の炎の柱が燃え盛っていた。

 あまりに近くに発生した炎の柱からは、当然というべきか圧倒的な熱量を感じる。

 その熱は、眼前の炎が確かにその場に存在する紛れもない本物であることを隼太に教えてくれていた。

 「これが、神の力......」

 隼太の口から、自然と感嘆のつぶやきが漏れる。

 目の前で現実に起きた現象――更には隼太自身の手によって起きたという事実が、これまで感じた事のないような興奮を覚えさせていた。

 「ところで、最初にしては力を使いすぎた様にも思えたが......身体に疲労感の様なものはあるか?」

 尋ねられ、隼太は自身の身体を動かすなどして確かめてみるがシラホシの言う様な疲労感は一向に感じることは無かった。

 「いや、疲労感とかは全然ないよ」

 「ほう、そうか。いや、なるほどと言うべきか」

 一人納得した様子のシラホシ。

 「なるほどって?」

 シラホシの言葉が気になった隼太はシラホシに尋ねる。

 「本来、私の与えた力はきっかけに過ぎない。きっかけを得て、力を行使する際に必要となるエネルギーの様なものは自身で賄う必要があるのだ。それは生命量とは違う、普通に生きている中では決して消耗することのないエネルギー――それをマナと言う」

 「マナは目に見えないし、本来であれば知覚もできない。が、誰しもが持っているモノだ。人の魂に密接に絡み合った存在でもあるマナは、一種の才能と同様に生まれ持った量も人によって大きく異なる」

 そこまで言って、シラホシは一度言葉を切り、そして続ける。

 「お前はマナが常人よりケタ外れに多いらしい。恐らくは魂の漂白がおこなわれず三度の転生を経た副産物だろう。生まれなおす度に、お前はマナを貯蔵する器が広がったのだ」

 よくわからないが、つまりは3回目の人生だから3人分のマナを持っているという事だろうか。

 「それだけのマナがあれば、恐らくは多くの事が出来るようになるだろう......もちろん訓練が必要となるが」

 怪しく目を光らせながら、子猫の姿の神様は隼太の事を見つめる。

 今度こそ本当に嫌な予感を感じた、隼太は、大きく開いた背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 「ここは時間の流れも外とは違う......つまりは長時間訓練に費やしても問題無いと言う事だ」

 ヒタヒタ

 子猫は言いながら隼太に近づいて来る。

 「まずは10時間、力を使いこなす訓練だ!一日でも早く立派な魔法少女に......コホン」

 「今魔法少女って言った?」

 「良いではないか。私だって魔法少女の師匠になってみたかったのだ!――神の力を使う際のお前は、今日この時から魔法少女ハヤタ★マジカだ!」

 そうして

 地味に自分の夢を叶えて喜ぶ、実はスパルタ気質だった子猫――シラホシ主導による、中身は男な魔法少女――ハヤタ★マジカの訓練が、幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

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