プロローグ-1
初投稿です。宜しくお願い致します。
「今回ばかりは、もうだめかもしれない......」
某県のとある山林、その地下に広がるとある組織の地下施設。
山林は近隣の町から距離もあり、周囲には観光資源もなく......更には広大な山林が持ち主不明となっていることから、当然交通アクセスは整備されていない。そうなると必然というべきか、山林に近寄る人間も殆どいなかった。
周囲から忘れられた、存在しないかの様な山林。
そこは、後ろ暗い背景を持つ者達にとってはこの上ない立地条件と言えるだろう。
そんな曰く付きの山林に築かれた異様な地下施設、その一室で小さな声でぼやくのは、一人の青年であった。
青年の名は白崎隼太。
日本人的な黒髪黒目、やや目つきの悪さが窺えるものの、容姿に特徴的な面は見当たらない。紺色のジーンズに黒のジャケットを身に着ける、一見するば平凡な青年は、額に玉のような汗を浮かべながら真っ赤に染まったインナー――紛れもなく出血する腹部を抑えながら、壁に寄りかかっている。
「油断してたつもりは毛頭無かったけど、この様じゃなぁ......」
また怪我をしたんですか兄さん!なんて、かなで辺りにまた叱られそうだ
愛する妹からお叱りを受ける様子を思い浮かべ、或いはそんな未来は訪れないと薄々気付きながらも隼太は、つい笑みを浮かべてしまう。
『野郎!どこに行きやがった!』
『基地からは出てないはずだ!片っ端から調べて必ず見つけ出せ!』
やや距離はあるものの、粗っぽいしゃべり方をする男達の声と慌ただしい足音が隼太の耳に届く。
本来であれば、丁度人数の減っている時間を狙いすまし行われた隼太の奇襲は予定調和の如く完遂される筈だった。
ところが蓋を開けてみた結果がこれである。
基地内に居た8名を無力化し、研究室に保管されていたウイルスを処理しに向かったところで逆に奇襲を受け、反撃で襲ってきた10名の5名までを無力化し、研究室を離脱し命は繋いだものの、腹部と右大腿部に合わせて3か所の貫通銃創を負っている。
基地内には血眼になって隼太を探す完全武装の兵隊たち。
今この瞬間は奇跡的に生存しているとは言え......この傷では生きて脱出することは到底困難だろう。
血眼になって隼太を探す組織の兵隊達。見つかるのは時間の問題だろう。見つかれば最後、この傷では満足な迎撃はできないだろう。生存は絶望的と言うよりない。
そして何よりも......目的を達成できていない以上、そもそも撤退と言う選択肢は隼太にはなかった。
正攻法での決着は最早望めず、満足に動く事も出来ない身体となった今の隼太に取れる選択肢は殆ど無い。
おもむろに腹部の傷を抑えていた右手で上着の内ポケットを漁る隼太。
ポケットから取り出したのは万が一に備えて施設内の各所に仕掛けた爆薬のスイッチだった。
当初の予定では脱出後に念押しの為に使用する筈だったモノ。
施設内の要所に仕掛けられた爆薬は効率よく施設を破壊し、隼太の処理を免れたウイルスがあったとしても確実に無力化することができる。
保険として用意していた筈のモノが、満身創痍の隼太にとって最後の活路となった。
隼太が一つの覚悟を決めると同時に、地下室の扉が蹴り開けられる。
「こんな所に隠れてやがったのかぁ~惨めだなぁ、おい」
乱雑に扉を蹴り開け入ってきたのは今にも舌なめずりせんばかりの表情を浮かべた完全武装した30歳程度の禿頭の男だった。
手には軍隊が装備しているようなアサルトライフル。
アサルトライフルの銃口を正確に隼太に向けながら、如何にも楽し気に男は言葉を続ける。
「クソ喰らえの王女に命じられて来たんだろうが現実は厳しいよなぁ小僧。上手に命乞いできたら助けてやるかもしれないぜ?」
そんなつもりは毛頭ないだろう事は明らかにも関わらず、男は品性の欠片も感じられない笑みを浮かべながら言い向ける。
「自分の国の王女相手にクソ喰らえなんて平気で口にできる奴とは、命乞いだろうと言葉を交わしたくないな」
「......それが遺言でいいんだな」
直前まで如何にも楽しくて仕方ない、と言う喜色ばんだ笑みを浮かべていた禿頭の男は無表情になり冷然とした瞳を隼太に向けながらアサルトライフルのトリガーに力を込める。
「よく狙えよ、禿げ頭」
隼太が言うや否や、銃口から数度響く銃撃音。
青年は、過たず銃弾で穿たれた身体から鮮血を流しながら、最後の力で右手のスイッチを起動する。
ピーッ
電子音が鳴ると同時。
間を置かず、基地の至る所から爆発音が響き渡る。
「こいつ!まさか爆薬を!」
焦る男の声も、身体に刻まれた傷の痛みも遠く感じながら、隼太の脳裏を駆け巡るのは愛した7人の少女達の姿。
ちゃんとお別れも言えなかったな......
もっと色んな所に行きたかったな......
なによりも、最後まで答えを出せずに逝く事になってしまった。
多くの後悔を抱きながらも、それでも自身の命尽きるまで愛した少女を守る為に生きた青年は20年と言う若さでこの世を去った。
7人の少女達の心に、決して癒えない傷を残して。