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みずき台本置き場  作者: みずき
9/11

『夏波揺籠(なつなみゆりかご)』2:3

夏波揺籠なつなみゆりかご




斎藤和夫♂ 斎藤家のお父さん。


斎藤玲子♀ 斎藤家のお母さん


斎藤風太♂ 斎藤家の息子


斎藤美稀♀ 斎藤家の娘


ヒナ♀ 海で倒れていた謎の少女





夏の海


SE波の音


風太は海を見つめている。思いつめた表情だ。


風太「はぁ……ん?」


倒れている女の子を見つける風太。


ヒナ「……んん……」


風太「だ、大丈夫ですか!?」


ヒナ「……ん……ここは……どこ……?」


風太「あぁ……」


ヒナ「私は……誰?」


風太「えっと……凄いベタなセリフだけど……もしかして……」


ヒナ「あなたは……誰?」


風太「記憶喪失?」


ヒナ「……わからない」


風太「えぇ……」


ヒナ「……」


風太「あぁ……取り敢えず警察……」


SEお腹の鳴る音


ヒナ「……お腹空いた」


風太「え?」


ヒナ「お腹空いた」


風太「えっと……うちに、来る?」


ヒナ「(うなずく)」


風太「……」



斎藤家の食卓。


ヒナ「(ご飯を凄い勢いで食べている)」


美稀「で?お兄ちゃん……この人は?」


風太「さぁ」


美稀「さぁって……」


和夫「まぁ、いいじゃないか!飯は人が多い方が美味いってもんだ!」


美稀「そう言う問題?」


ヒナ「おかわり!!」


美稀「え、これで三杯目だけど……」


玲子「いいじゃない!よく食べる子は良く育つって言いますし」


ヒナ「お~か~わ~り~!」


美稀「はぁ……」


和夫「そう言えば、お嬢ちゃん、名前は?」


ヒナ「名前?」


和夫「そ、名前!ちなみに俺は和夫だ。斎藤家の大黒柱をしている!」


ヒナ「和夫」


風太「俺は風太」


ヒナ「風太」


美稀「……」


風太「おい……」


美稀「……斎藤美稀です」


ヒナ「美稀」


玲子「斎藤玲子です。斎藤家のお母さんですよ~」


ヒナ「えっと……私は……」


考えるが自分の名前を思い出せない。


和夫「自分の名前、思い出せないのか?でも、それだと色々と困るなぁ」


玲子「じゃあ、私達でこの子の名前を考えてあげましょ」


和夫「そうだな……じゃあ、俺達で考えるか!」


美稀「え、この人の名前を?」


風太「俺達が?」


和夫「君らしい名前を考えてやる!」


ヒナ「うん……面白そう!考えて!」


和夫「そうだなぁ……」


風太「う~ん……ちびこ」


ヒナ「却下!」


美稀「めいちゃん……とか」


ヒナ「う~ん」


和夫「エリザベス!!なんてどうだ?」


ヒナ「なんで外国人!?」


風太「パー子……」


美稀「タマちゃん……とか?」


和夫「ジョセフィーヌだ!!」


ヒナ「う~ん……」


玲子「じゃあ……ヒナちゃん、なんてどうかしら?」


ヒナ「ヒナ……ヒナがいい!」


和夫「お、いいじゃねえか!ジョセフィーヌの次にいい!」


美稀「その名前はダメ!!」


ヒナ「……え?」


風太「どうしたんだよ、急に大きな声出して」


美稀「いや……えっと……」


ヒナ「?」


美稀「何でもない……私……お皿洗ってくる!」


風太「おい、美稀!」


和夫「あぁ……悪いな、あいつ難しい年頃なんだよ」


ヒナ「う、うん……」


和夫「気にすんな!さ、もっと食え食え!」


玲子「……」


和夫「あぁ、そう言えば。記憶がないって事は、帰るところも思い出せないって事なんだよな?」


ヒナ「はい……」


和夫「じゃあ、しばらくうちに居ると良い!」


風太「いいのかよ」


和夫「仕方ないだろ?帰る所も分からない女の子をほっぽり出す訳にはいかん!」


玲子「はい!自分のお家のように、くつろいでくださいね!」


ヒナ「いいんですか?」


玲子「はい!」


ヒナ「じゃあ、お言葉に甘えます!」


風太「一応、年頃の男の子もいるんだけど……」


ヒナ「よろしくね!風太!」


風太「お、おう……」



SE波の音


風太が一人で海に来ている。


風太「……はぁ」


海を見つめながらきらきら星を歌う。


風太「きらきらひかる……お空の星よ……まばたきしては……」


ヒナ「ふうたを見てる……きらきらひかる……お空の星よ 」


風太「なんだ……ヒナか……」


ヒナ「風太、よくこの海に来てるね」


風太「……うん。ここに来ると落ち着くんだ」


ヒナ「そっか」


風太「……」


ヒナ「……」


風太「そう言えば、何か思い出せそう?」


ヒナ「う~ん……全く」


風太「そっか」


ヒナ「あ、でも……私も好きなの。きらきら星」


風太「きらきら星?」


ヒナ「さっき歌ってたでしょ?」


風太「あぁ……母さんがさ、よく歌ってくれたんだよ。子守歌」


ヒナ「子守歌」


風太「うん」



ヒナ「そう言えばさ……風太、学校には行かないの?」


風太「え?」


ヒナ「ほら、美稀は毎日学校行ってるのに、風太が学校に行ってるの見た事無いなぁ~って」


風太「ほっとけ……」


ヒナ「まぁ、いいならいいけど」


長めの間


風太「俺さ……死のうと思ってたんだ」


ヒナ「え?」


風太「……俺がいない方が、色々上手く行くんじゃないかって思って」


ヒナ「なんで?」


風太「高校受験……失敗して、行きたい高校に行けなくて……高い授業料払ってさ、私立の高校入って……それだけでも凄い家族に迷惑かけたのに、人間関係で失敗して、今では全く学校に行ってない。毎日毎日、死んだように生きてる……だったらいっそ……死んだ方がいいかなって」


ヒナ「ダメだよ!!」


風太「え?」


ヒナ「死んだらダメだよ……死んだらダメ……絶対にダメなんだから!」


風太「ヒナ?」


ヒナ「私は、風太が生まれてきてくれて凄く嬉しかった……本当に本当に嬉しかった……だから、もう二度と、死にたいとか言わないで」


風太「……」


ヒナM「あれ?なんで私、こんな事言ったんだろ……」


風太「……」


ヒナ「あ……ごめん……」


風太「いや……ありがとう」


ヒナ「うんん……こちらこそ、ありがと?」


風太「何のありがとうだよ」


ヒナ「えっと……生まれてきてくれて……かな?」


風太「ぷっ……(笑う)なんだそれ……そろそろ、家に戻るか」


ヒナ「うん」



斎藤家の食卓。


ヒナ「おかわり!」


美稀「……(ご飯をよそってあげる)」


和夫「沢山食えよ、ヒナ!」


風太「ヒナ、醤油取って」


ヒナ「はい(醤油を渡す)」


風太「さんきゅー」


美稀「……はい(ご飯のお代わりを渡す)」


ヒナ「ありがと、美稀!(ご飯を沢山食べる)」


和夫「いい食いっぷりだな!ヒナ!」


玲子「育ち盛りですもんね」


ヒナ「育ち盛りって言っても、風太と美稀よりは年上だけどね」


風太「ん?……そうなの?」


ヒナ「うん!私18歳だもん」


風太「俺の2個上か……見えない」


ヒナ「チビで悪かったわね!」


和夫「ヒナ、醤油取ってくれ」


ヒナ「はい」


美稀「……」


玲子「美稀ちゃん?どうしたの?」


美稀「……」


和夫「どうしたんだよ」


美稀「お父さんは……何とも思わない訳?」


和夫「ん?何がだよ」


美稀「……」


ヒナ「美稀?」


美稀「馴れ馴れしくしないで」


ヒナ「あぁ……ごめん」


美稀「お父さん、なんで普通な顔してこの子をヒナって呼べるの?それとも、本当に忘れちゃったの?」


和夫「……何のことを言ってるのか、さっぱり分からん」


美稀「……最低!(走って外へ出て行ってしまう)」


風太「美稀!」


玲子「美稀ちゃん!!」


風太「美稀の所、行ってくる」


和夫「あぁ、頼んだ……」


風太、美稀を追いかけて行く。


ヒナ「……ヒナって名前に、何かあるんですか?」


和夫「ヒナは、気にしなくていい」


ヒナ「……」


玲子「和夫さん……」


ヒナ「……(和夫を見る)」


玲子「……」


和夫「…………はぁ……分かった。ヒナ、少し話したい事があるんだが……いいいか?」


ヒナ「……うん」



美稀は海辺で泣いている。


美稀「……(泣いている)」


風太「美稀……」


美稀「お兄ちゃん……こっち来ないで」


風太「んな訳には行かねえだろ……」


美稀「……」


風太「はぁ……ヒナの何が気にくわないんだ?」


美稀「別に……あの子の事が気にくわないんじゃない」


風太「じゃあ、なんなんだよ」


美稀「お兄ちゃん……お母さんの日記、読んだことある?」


風太「は?日記?そんなのあるのかよ……知らなかった」


美稀「この前、偶然読んじゃったの……まだ、お兄ちゃんも生まれて無かった頃の日記」


風太「それで?それとヒナにどんな関係があるんだよ」


美稀「お姉ちゃんの名前……」


風太「は?」


美稀「お姉ちゃんの名前……ヒナって名前は、生まれて来ることが出来なかった……私達のお姉ちゃんの名前なんだよ」


風太「……」



和夫「ヒナって名前は、俺と玲子の間に出来た、初めての子どもの名前なんだ」


ヒナ「……え?」


和夫「美稀はそれを知って、だから、ヒナをヒナと呼ぶことが許せないんだろう」


ヒナ「そんな……和夫さん、玲子さん。私を違う名前で呼んで!私がもし美稀の立場でも、それは怒る……と言うか、今私は怒ってる!なんで私に、そんな名前……今すぐ別の名前で呼んで!」


玲子「それは、出来ません!」


ヒナ「え?」


和夫「そうだな……俺も、ヒナの事はヒナと呼び続ける」


ヒナ「なんで?」


玲子「それが、あなたの名前だから」


ヒナ「私の……名前?」


玲子「そう……あなたの名前」


ヒナ「どう言う……」


玲子「あなたの顔を見て、すぐに分かった……あなたが、ヒナちゃんなんだって」


ヒナ「……っ!?(頭に声が響いて来る)」


玲子M「和夫さん……女の子ですって」


和夫M「おぉ、そうか!じゃあきっと、玲子に似て美人な子なんだろうな!」


玲子M「和夫さんに似て、不器用で優しい女の子ですね」


和夫M「あ、そうだ!名前を考えよう!」


玲子M「そうですね!」


和夫M「エリザベス……ジョセフィーヌ……」


玲子M「真面目に考えてください」


和夫M「いや、俺はいたって真面目だ!」


玲子M「う~ん……ヒナ……ヒナがいいです!」


和夫M「おぉ!いいな、ヒナ!ヒナ~お父さんですよ~」


玲子M「ヒナちゃ~ん、元気に生まれてきてくださいね~」


和夫M「きっと元気に生まれて来るさ!」


玲子M「そうですね……きっと!」


お腹をさすりながらきらきら星を歌う。


玲子M「きらきらひかる……お空の星よ……まばたきしては……ヒナちゃん見てる……きらきらひかる……お空の星よ」



ヒナ「……私が……ヒナ……?」


玲子「そう……あなたはヒナ……」


ヒナ「……私が……ヒナ……」


玲子「そう……あなたがヒナ……私達の」


和夫「俺達の子だ」


ヒナ「……くっ……(涙を流す)お母さん……お父……さん……」


玲子「ヒナちゃん……」


玲子がヒナを抱きしめる。


ヒナ「うぅ……ごめんなさい……私……生まれて来れなくて……いっぱいいっぱい、お母さんとお父さんの事、悲しませた……ごめんなさい……ごめんなさい!!」


玲子「うんん……謝るのは私の方……産んであげられなくて……ごめんね」


ヒナ「(泣く)」


和夫「よしよし……大丈夫だ……大丈夫(二人を優しく抱きしめる)」


まるで産声のようにヒナの泣き声が部屋に響いた。



ヒナは泣き疲れて玲子の膝で眠ってしまった。


ヒナ「……(眠っている)」


玲子「寝ちゃいましたね」


和夫「本当にヒナ……なんだよな」


玲子「ええ……」


和夫「って事は……この子も」


玲子「……はい」


和夫「そっか……」


沈黙。


玲子「和夫さん……」


和夫「ん?」


玲子「私は和夫さんの事……大好きですよ」


和夫「な、なんだよ……急に。照れるじゃねえか」


玲子「この子を見てると……いや、三人の子ども達を見てると、和夫さんと一緒になれて良かったなって思います」


和夫「……俺も、玲子で良かった。ありがとうな」


玲子「ずっと一緒にいましょうね……」


和夫「……」


ヒナ「……」



ヒナM「ゆらゆらゆらゆら……波に揺られながら、思い出す……やり残した事……三つ……私は両親に謝りたかった……弟と妹に伝えたい事があった……お願いです神様……少しでいいです……私に時間をください……ゆらゆらゆらゆら……波の揺れが徐々に小さくなっていく……そして気付いた時、私はあの場所に倒れていた……やり残した事、あと二つ……私にはきっと……時間がない」


次の日。


美稀「お父さん!私、出て行く!」


和夫「は?」


美稀「これ以上この子の事をヒナって呼び続けるつもりなら、私はこの家を出て行く!」


風太「美稀……お前なぁ……」


美稀「私は本気だから!」


和夫「……」


美稀「なんでお父さんは平気な顔して、その子をヒナって呼べるの?大切な名前なんじゃないの?それとも、お父さんにとって、子どもってその程度のものなの?」


和夫「……なに?」


美稀「何よ!だってそうでしょ?死んじゃった私達のお姉ちゃんの名前なんだよ?その名前を、こんな見ず知らずの女の子に……信じられない」


玲子「美稀ちゃん……」


和夫「はぁ……出て行くってんなら好きにしろ……出て行けるもんならな」


玲子「和夫さん!」


美稀は泣きそうな表情を浮かべる。


美稀「……お父さんは……この子をとるんだ……私じゃなくて……」


和夫「……」


美稀「私の事……恨んでるんでしょ?」


和夫「……」


ヒナ「恨む?」


美稀「私のことが憎いんだ……だからお父さんは、私よりこの子をとるんだ!私なんて……生まれてこない方が良かったって、そう思ってるんでしょ!」


和夫「……っ!」


ヒナ「ちょっと、美稀!お父さんがそんな事思ってる訳ないでしょ?」


美稀「うるさい!あんたには関係ない!私達家族の事に首突っ込まないで!だいたい、あんたがここに来たから悪いんだ!」


ヒナ「……」


美稀「嫌い……嫌い嫌い大っ嫌い!みんな大っ嫌い!あんたなんて……あんたなんて死んじゃえばいいんだ!」


和夫「(美稀の頬を叩く)」


美稀「っ!?」


和夫「ヒナに……謝りなさい」


美稀「っ!!(家を飛び出していく)」


ヒナ「美稀!(美稀を追いかけていく)」


和夫「……(自分の掌を見つめる)」


風太「……今のは、父さんも悪い」


和夫「あぁ……分かってる……最低だ」


風太「なんで父さんは……ヒナって呼ぶ事に拘ってるの?」


和夫「あの子が、ヒナだからだ……それ以外の理由は無い」


風太「……」


和夫「……」


風太「父さん、俺達に隠してる事あるでしょ」


和夫「ねえよ……そんなもん」


風太「ねえ、母さん……」


和夫「っ!?」


玲子「ん?なに?ふう君……」


風太「俺、父さんと話があるから、ちょっと席外して貰えるかな?」


玲子「う、うん……分かった」


和夫「……」



ヒナが美稀を追いかけている。


ヒナ「美稀!待って!」


美稀「待たない!ってか、何であんたが追いかけて来るのよ!」


ヒナ「それが私の役目だから!」


美稀「何言ってるのか、さっぱり分かんない!」


ヒナ「つ~か~ま~え~たぁぁぁぁ!!」


ヒナが美稀の手を掴む。


美稀「きゃっ!」


ヒナ「もう逃がさない!」


美稀「離して!」


ヒナ「離さない!」


美稀「離してよ!」


ヒナ「嫌だ!」


美稀「離せ!!」


ヒナ「いや!!」


美稀「離して!!……離してよ……」


ヒナ「……美稀」


美稀「……なんで」


ヒナ「……」


美稀「なんでお父さんは、私の事選んでくれなかったの?やっぱり……私の事……(徐々に涙がこみあげて来る)」


ヒナ「美稀……」


美稀「お父さんは……私の事……」


ヒナ「大好きだよ!」


美稀「え?」


ヒナ「お父さんは、美稀の事、本当に大切にしてる……だから、大丈夫!」


美稀「でも、あんたの事選んだじゃん……」


ヒナ「それは……色々理由があって」


美稀「どんな理由?」


ヒナ「それは……とにかく!お父さんは、美稀の事本当に大切に思ってるから。だから、大丈夫だよ」


美稀「……本当に?」


ヒナ「うん。それに……もうすぐ私はいなくなるから」


美稀「え?」


ヒナ「だから、大丈夫!」


美稀「思い出したの?」


ヒナ「うん……思い出した……全部」


美稀「全部……って事は、名前も?」


ヒナ「……うん。私の名前はヒナ!だから、お父さんが私の事をヒナって呼ぶのは、美稀のお姉ちゃんの名前だからじゃない。私の名前が、ヒナだから」


美稀「……」


ヒナ「って言っても、信じて貰えないかもだけど……でも、もうすぐいなくなるからさ、それまでちょっとだけ我慢して貰えないかな?」


美稀「……分かった。今はそれで納得する」


ヒナ「はぁ……(安堵のため息)」


美稀「でも!お父さんのあの態度は許せない!だから、もう少し家出は続ける」


ヒナ「頑固だなぁ……そう言うところ、お父さんにそっくり……」


美稀「似てない!」


ヒナ「(笑う)あ、そうだ……ついでだから一つ、やり残したこと済ませちゃお……」


美稀「え?何?」


ヒナ「生まれてきてくれて、ありがとね!」


美稀「はい?」


ヒナ「美稀と風太が生まれて来てくれたから……お父さんとお母さんは元気になったんだよ……だから、ありがと!」


美稀「どういう事?何言ってるのか」


ヒナ「分からなくていいよ!今は……さ、家に帰ろ!最後のやり残したこと……やんないといけないから」


美稀「ちょ、ヒナさん!勝手に話し進めないでよ!私はまだ帰んないんだから!!」



ヒナ「ただいま!」


美稀「ただいま……」


玲子「おかえりなさい!」


ヒナ「風太とお父さんは?」


美稀「え?」


玲子「二人はダイニングでお話してます」


ヒナ「そっか……」


美稀「えっと……え?」


戸惑う美稀を他所にダイニングに入っていく。


ヒナ「風太、お父さん!美稀の事、ちゃんと連れて帰って来たよ!」


風太「……」


和夫「あぁ、ご苦労!」


風太「父さん?」


部屋に気まずそうに美稀が入ってくる。


美稀「……お父さん」


和夫「……美稀」


美稀「……」


美稀と和夫が同時に頭を下げる。


和夫「ごめんなさい」


美稀「ごめんなさい」


和夫「あぁ……かぶったな」


美稀「う、うん……」


和夫「ぷっ……(笑い合う)」


美稀「(笑い合う)」


ヒナ「ほんと、似たもの親子だね」


美稀「に、似てない!」


ヒナ「似てるよ~」


美稀「似てないって!」


和夫「似てる似てる!なんたって、俺の子だからな!」


美稀「お父さんまで、辞めてよね!」


風太「……」


ヒナ「風太?どうしたの?」


風太「……」


美稀「お兄ちゃん?どうしたの?……なんか顔色悪いけど」


風太「なぁ、美稀……もしかして、そこに……ヒナいたりする?」


ヒナ「……」


美稀「え?何言ってんの?ヒナさんならここに……」


風太「あぁ、もしかして……美稀もグル?俺をからかってるの?」


美稀「それって、どう言う……」


風太「見えないんだよ!」


美稀「え?」


風太「見えないんだ……ヒナの事……」


美稀「どういう事?」


和夫「風太!……本当に、見えないのか?」


風太「見えない……見えないよ」


和夫「……」


ヒナ「えへへ……意外と早かったなぁ……」


美稀「ヒナさん?」


ヒナ「さっき言ったでしょ?……もうすぐ、居なくなるって」


美稀にもヒナの姿が見えなくなる。


美稀「え……あれ?ヒナさん?お父さん……ヒナさんはどこ?」


和夫「……美稀まで」


風太「どういう事だよ、父さん!なんで見えないんだよ……今朝は見えてたのに……なんで……」


美稀「ヒナさんはどこ行ったの?さっきまでここにいたのに……なんで?お父さんは何か知ってんの?」


和夫「……ヒナ」


ヒナ「もう……時間がないみたい」


和夫「……そう……か」


風太「説明してくれよ!父さん!」


美稀「お父さん……」


和夫「……っ……ヒナは……本来、この世にいるべき存在じゃないんだ……」


風太「……は?」


美稀「何言ってるのか分からないよ」


和夫「この子は……斎藤日奈……俺の娘で……お前達のお姉ちゃんだ」


美稀「……え?でも、お姉ちゃんは……死んだって」


和夫「あぁ、死んだ……でも、確かにここにいる」


風太「幽霊……ってこと?」


和夫「……」


美稀「……っ!?」


ヒナM「あ、そうだ……ついでだから一つ、やり残したこと済ませちゃお……」


美稀M「え?何?」


ヒナM「生まれてきてくれて、ありがとね!」


美稀M「はい?」


ヒナM「美稀と風太が生まれて来てくれたから……お父さんとお母さんは元気になったんだよ……だから、ありがと!」


美稀M「どういう事?何言ってるのか」


ヒナM「分からなくていいよ!今は……」


美稀「さっき言ってた……やり残したことがあるって……ヒナさんはその為に?」


ヒナ「……」


風太「どういう事?」


美稀「さっき、ヒナさんが私に言ったの……やり残した事があるって……生まれて来てくれて、ありがとうって」


風太「え?……あっ……(ヒナの言葉を思い出す)」


ヒナM「私は、風太が生まれてきてくれて凄く嬉しかった……本当に本当に嬉しかった……だから、もう二度と、死にたいとか考えないで」


風太M「……」


ヒナM「あ……ごめん……」


風太M「いや……ありがとう」


ヒナM「うんん……こちらこそ、ありがと?」


風太M「何のありがとうだよ」


ヒナM「えっと……生まれてきてくれて……かな?」


風太M「ぷっ……(笑う)なんだそれ」



風太「俺にも……そんな事言ってた……生まれて来てくれて、ありがとうって」


和夫「ヒナは、お前達に……ありがとうって伝えたかったんだ」


風太「ヒナ……なんで」


美稀「……ヒナさん、最後のやり残したことをやるって言ってた……」


和夫「……」


風太「最後のやり残したこと?」


和夫「……」


ヒナ「お父さん……」


和夫「……」


ヒナ「お父さん……ごめんね」


和夫「(大きな溜息)……分かった」


風太「父さん?」


和夫「玲子、こっちに来てくれ……」


美稀「え?」


風太「……」


玲子が顔を覗かせる。


玲子「……嫌です」


和夫「玲子」


美稀「ちょっと待って……もしかして……お母さん、そこにいるの?」


和夫「あぁ……ずっと、俺の側にいた……ずっと、お前達の側にいたんだ」


玲子「……」


風太「たまに、父さんが独り言を話すから、初めは幻覚でも見てるのかって思ってた……だって母さんは美稀が産まれてすぐ、死んだんだから」


美稀「そう……お母さんは、私を産んですぐに死んだんだよ……身体が弱いのに、私を産んだから……」


和夫「玲子はそこにいるんだ!!」


美稀「っ!?」


ヒナ「……」


和夫「玲子は……そこにいる」


風太「……」


玲子「和夫さん……私……嫌です!和夫さんと離れたくない……美稀ちゃんと……ふう君と離れたくない……離れたくないです!」


ヒナ「……お母さん」


玲子「ふう君は弱くて、誰かが守ってあげないといけません!学校でもイジメられてるんです……私が……守らないと……美稀ちゃんは、私が死んだのは、自分が産まれた所為だと思ってます……私の代わりに、お母さんになろうとしてます……だから、私が……お母さんがいてあげないと!」


和夫「……」


玲子「和夫さん……お願いです……私を……一人にしないでください……お願いします……お願いします」


ヒナ「……」


和夫「ダメだ……」


玲子「和夫さん……」


和夫「ダメだ……玲子、お前は成仏しないといけない」


玲子「嫌です……嫌嫌嫌!」


和夫「ヒナはどうする!!」


玲子「っ!?」


和夫「ヒナも……俺達の子どもだろ」


玲子「……」


ヒナ「……」


和夫「ヒナが成仏したら、誰があの子の側にいてやるんだ……お前しかいないだろ!」


玲子「……ヒナちゃんも……ここにいましょう。そうしたら、家族全員で……一緒にいられます」


ヒナ「……」


和夫「ダメだ……」


玲子「どうして」


和夫「俺にも、もうヒナの姿が見えないんだ……」


玲子「え……」


和夫「だから玲子……ヒナの側にいてやってくれ……ずっと一人だったんだ……だからお前が……あの子の側にいてやってくれ」


玲子「……ヒナ……ちゃん」


ヒナ「お母さん……ごめんね。私、一人で消えようとも思ったんだよ?でも、ダメだった……どうしても、一人は嫌だって思っちゃた……お母さんは、風太と美稀のお母さんだけど……私のお母さんでもあるんだって……そう、思いたかった……」


玲子「ヒナ……ちゃん……私は、ヒナちゃんのお母さんだよ……ごめんね……もう、一人にしないから」


ヒナ「お母さん……お母さん!!」


玲子「ヒナちゃん……」


抱き合う二人。その二人の姿が徐々に見えてくる。


風太「……っ!?ヒナ……かあ……さん?」


美稀「お母さん……?」


玲子「……美稀ちゃん、ふう君……大きく育ったね(涙を拭いながら)」


風太「うん……」


美稀「お母さん……私、お母さんにずっと謝りたかった……私さえ産まなかったら……お母さんはきっと、もっと生きられたのに……私の所為で……本当に……本当にごめんなさい!」


玲子「美稀ちゃん……私が死んだのは美稀ちゃんの所為じゃない……私は美稀ちゃんが産まれて来てくれるなら、死んでもいいって思ったんだよ。それに、美稀ちゃんがこんなに元気に育ってくれて、本当に……本当に嬉しかった」


美稀「……お母さん……」


玲子「ふう君や和夫さんだけだと不安だけど…… 美稀ちゃんがいてくれたら、お母さんが居なくなっても、安心……いつもお母さんの代わりをしてくれて、ありがとう」


美稀「うん!」


風太「……」


玲子「ふう君……辛い時は逃げてもいい。でも、生きることから逃げちゃダメ……生きてたら、何とかなるから、だから生きなさい。お母さんの分まで元気に!」


風太「……心配かけて、ごめん……俺、もっと強くなる。強い人になるから……母さんの分まで元気に生きる!だから……もう心配しなくて大丈夫だよ。俺、頑張るから!」


玲子「うん……美稀ちゃんの事、お願いね。お兄ちゃんなんだから!」


風太「うん!」


玲子「後……和夫さんの事もお願いね。和夫さんは強いように見えて、本当は凄く弱い人だから」


風太「知ってる」


玲子「ヒナちゃんの事を産めなくて……私と和夫さんは凄く落ち込んでた……でも、あなた達が産まれてくれて、あなた達が元気に育ってくれて、私達は救われたのよ……本当にありがとう!ふう君、美稀ちゃん、ヒナちゃん。三人は私の宝物です!」


和夫「……」


玲子「……和夫さん」


和夫「あぁ……ははは、玲子は……世界一の女だ!世界一の男である俺が言うんだから、間違いない!」


玲子「……無理……しないでください(笑顔で)」


和夫「無理なんて……して……ねえよ……くっ……うぅうぅぅ!!」


玲子「よしよし……そんな泣き虫でどうするんですか……ふう君と美稀ちゃんの事、よろしくお願いしますね」


和夫「……(鼻をすする)あぁ!」


玲子「和夫さん……愛しています」


和夫「俺も、愛してる!」


玲子「(にっこり笑う)……ヒナ……そろそろ行こっか」


ヒナ「うん」


美稀「ヒナ……お姉ちゃん!」


ヒナ「え?」


美稀「お母さんの事、お願いね」


風太「うん、頼んだぜ、姉ちゃん!」


ヒナ「……うん……うん!」


ヒナと玲子が光に包まれ成仏する。



和夫「行っちまったか……」


風太「父さん……俺、明日からちゃんと学校行くから」


和夫「……」


風太「……」


和夫「……ふっ、何当たり前のこと言ってんだよ!(頭を軽く小突く)」


風太「痛って!何すんだよ!」


美稀「ほら、馬鹿なことしてないで、ご飯にするよ~」


和夫「おう!」


料理をしながら鼻歌を歌う。


美稀「(鼻歌で、きらきら星を歌う)」



玲子「きらきらひかる……お空の星よ……まばたきしては……みんなを見てる……きらきらひかる……お空の星よ 」


end

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