『たまや〜 幸せのハナビ』2:2:1
『たまや〜 幸せのハナビ』2:2:1
白森篤樹 ♂
25〜35歳の間くらい
宮内花美 ♀
16歳
白森海 ♀
28〜36歳の間くらい
宮内夏弥 ♂
27〜36歳の間くらい
榊祭 不問
年齢も不問だが、それなりの歳だとありがたいです。
昼のお墓。篤樹が退屈そうに立っている。
篤樹「はぁ……退屈だぁ……うーん……」
篤樹「(何かしら歌い出すが、音痴)」
篤樹「(咳払い)喉の調子が……はぁ……今日も暇で暇でたまらないなぁ〜」
篤樹「(何か歌い出す)」
花美がやって来る。
篤樹「わぁあ!なに、いつから居たの?」
花美「あの……ごめんなさい!驚かすつもりはなくて、すみません」
篤樹「いやいやいや、謝らなくて大丈夫!」
花美「あのぉ、こんな所で何してるんですか?」
篤樹「それはこっちのセリフなんだけど……ここお墓だよ?誰かに会いに来たの?」
花美「私は歌が聞こえて。好きなんですよ!その歌!」
篤樹「え!?まじ!?趣味合うじゃん!(歌を歌うが声が出ない)」
篤樹「(咳払い)いや、普段はもっと上手いんだよ?今日はたまたま!」
花美「そ、そうなんですね〜」
篤樹「それにしても初めて俺が見える人に会ったよ」
花美「え?どう言う意味ですか?」
篤樹「いや、普通はさ?見えないから」
花美「見えない?」
篤樹「あ、気付いてない?俺幽霊なんだよ」
花美「あぁ、そう言うことですか〜なるほどなるほど……え!?」
篤樹「おぉ、そんなビビらなくて大丈夫だよ?取って食おうってんじゃないんだから」
花美「流石に冗談ですよね?」
篤樹「ガチだよ?俺嘘つけないから」
花美「ゆ、幽霊って!昼間ですよ?しかもめちゃくちゃハッキリ見えるんですけど?」
篤樹「霊感相当強いんじゃない?」
花美「幽霊なんてはじめて見ましたよ?」
篤樹「そんな事よりさ、名前なんていうの?」
花美「名前?宮内花美です……」
篤樹「花美ちゃんね。俺は篤樹!よろしく!」
花美「篤樹さん……本当に幽霊なんですか?」
篤樹「しつこいなぁ〜じゃあ、俺に触れてみ?」
花美「(恐る恐る触れるが触れない)わっ!本当に触れない!凄っ!え?何これ!」
篤樹「ちょちょちょ、こそばいこそばい!どこ触ってんのよ!!全く……」
花美「あ、すみません、つい……ていうか、篤樹さん以外に幽霊はいないんですか?お墓ですよね?」
篤樹「いやいるよ?ただ、昼だからね〜みんな寝てるんじゃない?ほら?一般企業だと夜勤の人ばっかだし、昼職の人なんて珍しいから。俺は今日はオフ!だから朝更かし(ちょふかし)してんの」
花美「そんな夜更かしみたいに言われても……ってか、幽霊も働いてるんですか?」
篤樹「働いてるよぉ〜写真に写り込んだり、寝てる人に金縛りかけたり意味もなくパキッて音鳴らしたり」
花美「あれって仕事だったんだ」
篤樹「まぁ、仕事っていう名の暇つぶしなんだけどね?」
花美「はあ……あ、そろそろ戻らないと!」
篤樹「え?もう行くの?もっと話そうよ!」
花美「あんまり遅くなるとバイト先の人に怒られちゃう!」
篤樹「えぇ〜折角話せる人と会えたのに」
花美「また来るんで、絶対!約束しますから!じゃ!」
花美走って去っていく。
篤樹「あ、ちょっと!……行っちゃったぁ……まぁ、また来るなら良いかぁ〜はぁ……暇だなぁ」
2
(一年前)
病院。榊祭がゲームをしている。
祭「行け!行け!そこだ!……あぁ〜……」
海「祭先生!大変です!って……何してるんですか?」
祭「海ちゃんか〜いやね?ちょっと一狩りしてて……もうちょっと待って下さい。今いい所なんで」
海「先生、遊んでないで仕事して下さい」
祭「これも仕事の一環ですよ?流行ってるんでしょ?こういうゲーム。若い子の話題について行くのも仕事の内!だからもうちょい……あっ!(ゲームを没収される)」
海「ゲームしてる場合じゃありません。そんな事より、花美ちゃん!また病室を抜け出しました」
祭「おぉ、それは大変だ。でもまぁ、大丈夫でしょ。毎回抜け出してもすぐ帰ってきますし?それに彼女も自分で考えて行動出来る歳なんですから」
海「病人ですよ。それにまだ“高校生”です。もし病院の外に出て何かあったらどうするんですか」
祭「病室に閉じ込められてたら、かえってストレスですし、多少は見逃してあげましょうよ。特に、彼女に関して言えば、出来る限り沢山の経験をさせてあげたい。こんな狭い世界しか知らないなんて、可哀想だとは思いませんか?」
海「……そうかも知れませんが……でも」
祭「それより、ゲーム返して下さいよ」
海「ダメです。ちゃんと仕事して下さい。まったく……今日も午後から診察入ってるんで、お願いしますね、では」
祭「あ、ちょっと、ゲーム……トホホ〜まぁ、仕方ない……漫画でも読むかぁ」
3
深夜の工事現場。篤樹が休憩しており、そこへ夏弥がやって来る。
夏弥「お疲れ〜」
篤樹「お疲れさん!夏弥も休憩?」
夏弥「そ、もう作業終わりだろって所で塗装屋の奴ら休憩入りやがって……早く終わらせて帰りたいってのに」
篤樹「まぁ、向こうには向こうの事情があるんだろ?人通りも車通りも少ないから、警備員の俺らからしたら、楽なもんじゃん?」
夏弥「まあそうかも知んないけど……こっちは昼現場の後に来てんだよ?早く寝てえよ」
篤樹「俺は明日休みだからまだ頑張れるかな〜まぁ、帰っても色々やんないといけない事あるんだけど」
夏弥「そう言えば、姉ちゃんと2人暮らしなんだっけ?」
篤樹「そ!姉ちゃんは昼働いてるから、その間に家事とかはなるべくやっとかないと」
夏弥「お前の姉ちゃん、美人だよな。看護師だっけ?」
篤樹「美人かな?姉弟だからあんまし分からねえや。そう言えば、お前の家の方こそ大変そうじゃん。娘さん、入院してんだっけ?」
夏弥「そ。まだ数回しか会った事ないんだ」
篤樹「え?会いに行ってやれよ」
夏弥「距離感が分からないんだ。実際、まだ父親としてどんな風に接していいのか分からない」
篤樹「親戚の子なんだっけ?両親は2人とも事故で死んで、今となっては1人きりの家族なんだろ?なら、積極的に会いに行った方がいいって。絶対!寂しい思いしてると思うぜ?」
夏弥「分かってるよ……そろそろ休憩終わるんじゃないか?」
篤樹「お、やべ!先に戻るわ!」
夏弥「おう、後一息頑張ろう」
篤樹「寝るなよ?」
夏弥「分かってるよ」
4
夜の自宅。
海「ただいま〜」
篤樹「お、姉ちゃんおかえり〜」
海「篤樹は今から仕事?」
篤樹「おう!」
海「そっか、お疲れさん。ご飯食べた?」
篤樹「コンビニで済ませるよ〜」
海「体に悪い。ちょっと待ってて、軽く作るから」
篤樹「いや、いいよ。疲れてんだろ?休んどけって」
海「どうせ自分の分も作るんだから、ついでついで」
篤樹「そう?じゃあ遠慮なく。仕事どうよ。大変?」
海「そうね〜まぁ、仕事は全部大変なもんよ。でも、患者さんと話すのは楽しいかな?」
篤樹「んで?いい男はいないの?医者とか」
海「いないいない、患者さんはお年寄りが多いし、先生達は何考えてるか分かんないし」
篤樹「へ〜」
海「私はアンタが幸せならそれだけで充分だから」
篤樹「うわ、ブラコン」
海「うるさい、仕方ないじゃない?たった1人の家族なんだから」
篤樹「そりゃそうだ」
海「あんたはいないの?彼女とか」
篤樹「いないいない。俺警備員だよ?おっさんしかいないよ、周りには……どっかに可愛い女の子はいないもんかね」
海「本当にねぇ〜あんたに彼女が出来て、結婚でもしてくれたら、気持ちが楽なのに」
篤樹「いいのかよ?たった1人の家族が、何処の馬の骨かも分からん女に持ってかれんのは」
海「あんたに惚れる女だから、見る目はあるわよ。少なくともお金目当てでも顔目当てでもない」
篤樹「めちゃくちゃ貶してね?」
海「ちゃんと中身を見てくれる女の子を捕獲しなさいよ」
篤樹「捕獲って、動物じゃないんだから……てか、姉ちゃんの方こそ、いい男いたら捕獲しろよ。俺に気なんか使わないでさ」
海「分かってるわよ〜ほら、ご飯出来たよ!」
篤樹「おぉ、美味そう!頂きます!」
海「頂きます!」
5
昼の病院の庭。祭が何かを探している。
祭「この辺か?いや、ここか?」
花美「何してるんですか?先生」
祭「いやね?四葉のクローバー探してて」
花美「四葉のクローバー?」
祭「そぉ、この辺に咲いてそうだなって思って。見つけると幸せになれるんだって」
花美「そう……なんですね」
祭「花美ちゃんも、一緒に探す?」
花美「私も?」
祭「どっちが先に見つけるか競争ね!」
花美「競争?」
祭「よーい、ドン!」
花美「あぁ……えっと……(一緒に四葉のクローバーを探す)」
祭「この辺か?いや、この辺かも……うーん」
花美「……」
祭「絶対あると思ったんだけどなぁ〜うーん……ないなぁ……」
しばらくクローバーを探す。
花美「先生は幸せじゃないんですか?」
祭「ん?」
花美「いや……必死に探してるから……」
祭「君は幸せじゃないの?」
花美「……」
祭「そんな顔してると、幸せは逃げて行っちゃうよ?」
花美「でも幸せだなんて思えません。ずっと病室に閉じ込められてて……先生、私いつ退院出来るんですか?」
祭「……」
花美「先生はいいですよね……自由に行きたいところへ行って、自由にしたいことが出来る。先生は、四葉のクローバーなんて無くても幸せだと思います」
祭「幸せかどうかなんて、他人と比べるもんじゃない。自分で決めちゃえばいい。自分は幸せだって言ってれば、その内幸せの方から近づいて来てくれるもんだよ」
花美「そんな事……」
祭「試しに言ってみ?」
花美「え?」
祭「私は幸せだ!ほら」
花美「わ……私は幸せだ!」
祭「もっと大きな声で!私は幸せだ!」
花美「私は幸せだ!」
祭「私は幸せだ!」
花美「私は幸せだ!!」
海「何叫んでるんですか!?」
祭「げっ……」
海「先生?なにこんな所でサボってるんですか?」
祭「花美ちゃん、後は頼んだ!」
花美「え!?」
祭、全速力で逃げる。
海「コラ逃げるな!……全くもう」
花美「……」
四葉のクローバーを探している。
海「どうしたの?花美ちゃん」
花美「四葉のクローバー……探してるんです」
海「四葉のクローバー?」
花美「私は幸せ……海ちゃん先生!私幸せになるから」
海「花美ちゃん……」
花美「幸せになる!負けないから」
海「……うん!花美ちゃんなら幸せになれるよ!絶対に」
花美「はい!」
海「それじゃあ、私は祭先生を捕まえないとだから、花美ちゃんも早く病室に戻るんだよ?」
花美「はーい」
海が去っていく。
花美「……(クローバーを探している)」
夏弥がやって来る。
夏弥「こんにちわ」
花美「宮内さん……こんにちわ」
夏弥「宮内さんって……君も宮内さんになるんだよ。ごめんな……中々来れなくて。仕事が忙しくて……」
花美「全然大丈夫です……」
夏弥「……」
花美「……」
気まずい間
夏弥「何をしてたの?」
花美「四葉のクローバーを……探してました」
夏弥「そっか……」
気まずい間
夏弥「四葉のクローバーがなんで幸福のシンボルになったか知ってる?」
花美「え?」
夏弥「アメリカでは、四葉のクローバーを十字架に見立ててたらしい……だから、四葉のクローバーは幸福の証なんだとか……」
花美「アメリカに行った事あるんですか?」
夏弥「いや……ない……」
花美「そう……ですか……行ってみたいなぁ……」
夏弥「アメリカに?」
花美「うん」
夏弥「……」
花美「私……病室に戻らないと」
夏弥「うん……あの!」
花美「なんですか?」
夏弥「その……いや、なんでもない。体に気を付けて」
花美「はい……」
花美、去っていく。夏弥はその場に立ち尽くす。
夏弥「……(ため息)」
6
(現在)
昼のお墓。篤樹が退屈そうにしている。
篤樹「……」
花美「篤樹さん?」
篤樹「お?花美ちゃん!来てくれたんだ!」
花美「約束しましたからね。何してたんですか?」
篤樹「いつも通り何もしてないよ〜強いて言えば考え事かな?」
花美「考え事?」
篤樹「なんで俺はここにいんのかな〜って」
花美「病んでるんですか?」
篤樹「幽霊に向かって病んでるとは、中々エッジの効いたジョークだな」
花美「すみません」
篤樹「隣の墓に住んでる爺さんに聞いたら、幽霊ってのは何かしらの未練があるからこの世に留まってるらしい。でも俺さぁ、自慢じゃないけど、凄え楽しい人生を歩めてたと思うんだよ。周りにも恵まれて、そこには何の未練もないと思うんだ」
花美「はい」
篤樹「じゃあなんで俺は成仏出来ずにこんな所にいんのかなってさ。何かしらの未練とか、やり残した事とか、そう言うのがあるんじゃないかって。まぁ、細かい事でやり残した事とかは沢山あるんだろうけど……ツタヤのビデオ返し忘れたとか」
花美「なにか思い当たることはないんですか?」
篤樹「それを考えてた。何だろうな〜」
花美「夢とかは無かったんですか?」
篤樹「夢ねぇ〜花美ちゃんはなんかある?夢とか」
花美「いっぱいありますよ!世界一周旅行行ったり、沢山美味しいもの食べたり!でも近場の夢だと……花火が見たいです」
篤樹「花火?」
花美「私見た事なくて。ずっと病室にいたから。だから、今年は絶対に花火見るって決めてるんです!」
篤樹「名前も花美ちゃんだもんな〜この墓からでも見えるぜ?花火!」
花美「そうなんですか?」
篤樹「おう!毎年7月31日に花火大会やっててさ!穴場なんだよ、ここ!」
花美「じゃあ、初めての花火はここで見ようかな」
篤樹「いいね!良い加減幽霊達と見る花火にも飽きてきたんだよ」
花美「じゃあ、約束ですよ!7月31日にここで一緒に花火を見る」
篤樹「おう!約束な!」
花美「じゃあ、私はバイトがあるんでこれで!」
篤樹「おう!またな!」
間
篤樹「花火大会……かぁ。俺が生きてる時、最後に見た光景も花火だったな……」
7
(一年前)
夕方の病院。診察室。
祭「もって後3ヶ月です」
夏弥「そんな!何とかなりませんか?」
祭「先天性弁膜症……彼女の病気を治すにはドナーを見つけるしかない。ただ、花美ちゃんに合うドナーが見つかるかどうか……」
夏弥「お金なら払います!なのでお願いです……花美を……あの子を助けて下さい」
祭「最善は尽くします」
夏弥「お願いします……」
祭「花美ちゃんに会って行かれますか?」
夏弥「……」
祭「会ってあげて下さい。病気が進行すれば、会えなくなる事も多くなるかもしれない。会える時に会っておいた方がいいですよ」
夏弥「……」
祭「きっと、花美ちゃんもそれを望んでる」
夏弥「そう……ですかね?」
祭「はい」
夏弥「……」
8
夕方の病室。花美は横になっている。
花美「海ちゃん先生ってアメリカ、行った事ある?」
海「アメリカ?無いかなぁ……パスポート持ってないし」
花美「え!?持ってないの?そうなんだ……」
海「行く理由も無いしね〜でも、行ってみたいとは思うよ?」
花美「私も、世界のいろんな所に行って見たい……うんん……国内でもいい……いろんな所に行って、いろんなものを見てみたい」
海「花美ちゃん……」
花美「海ちゃん先生は花火って見た事ある?」
海「花火?見た事あるよ」
花美「私は無いんだよねぇ……お父さんが……あぁ、前のお父さんがね?花火職人だったの。でも一度もお父さんの花火見られなかったなぁ」
海「……」
花美「今年は見られるかな?花火」
海「……」
花美「海ちゃん先生、私、いつ退院できるかな?」
海「……」
花美「私……死ぬまでここにいるのかな?……嫌だなぁ……一回でいいから、花火、見たかったなぁ……」
海「……」
夏弥「見られるさ」
花美「宮内さん」
夏弥「俺が花火を見せてやる」
海「ちょっと宮内さん」
夏弥「俺が必ず……花火を見せてやる」
花美「……ほんとに?」
夏弥「あぁ。約束する」
花美「約束……」
夏弥「……」
花美「約束したから……絶対に花火……見せて下さい」
夏弥「あ、あぁ!」
海「はぁ……」
祭「まぁ、何とかなるさ」
海「いたんですか?というか、どうするんですか?花美ちゃん、その気になっちゃいましたけど……多分外出許可なんて」
祭「何かあったら、全責任は私が負います」
海「まったく……私、どうなっても知りませんよ」
9
深夜の工事現場。
夏弥「ごめん、篤樹!7月31日のシフト代ってくれないか?」
篤樹「どうしたんだ急に、7月31日って花火大会の日だろ?」
夏弥「娘に……花火見せてやりたくて」
篤樹「花火?……娘さん、あんまり良くないのか?」
夏弥「……あぁ」
篤樹「なるほどな……そう言う事なら姉ちゃんに聞いてみるよ。毎年姉ちゃんとしか行く予定ないし、花火なら現場でも見られるしな」
夏弥「本当か?助かる!」
篤樹「娘孝行してやれよ。こっちの事は気にすんな」
夏弥「絶対埋め合わせはするから」
篤樹「ラーメンだろ?どうせ。まぁ、期待せず待ってるよ」
夏弥「あぁ!」
夏弥、去っていく。
篤樹「やっと娘と向き合う気になったんだな。良かった良かった。さて、働くかな」
10
早朝の自宅。海がカードに何やら記入している。
篤樹「ただいま〜って姉ちゃん?何やってんだ?」
海「あぁ、篤樹……おかえり。ドナーの意思表示カード」
篤樹「ドナー?意思表示カード?」
海「自分が死んだ時、健康な臓器を患者さんに提供する事が出来るの。その意思表示する為のカードがこれ」
篤樹「へぇ〜」
海「世界中にドナーを待ってる患者さんが沢山いる……それに、自分が死んでも誰かの助けになるなら、それは素敵な事だと思うから」
篤樹「それ、俺でも出来んの?」
海「保険証とかマイナンバーカードの裏に意思表示欄ってあるでしょ?そこに書き込めば良いだけ」
篤樹「なるほど……あ、そう言えば今年の花火大会、俺行けなくなった」
海「えぇ〜毎年一緒に見に行ってるのに?」
篤樹「いや、同僚がどうしても代ってくれってさ。なんでも、娘さんとどうしても花火大会に行きたいんだと」
海「まぁ、それは仕方ないけど……」
篤樹「だから、姉ちゃんは1人で見にいくか、花火大会までに彼氏でも作るんだな」
海「余計なお世話。でも、あんたが行かないなら私も仕事入れちゃおうかな?」
篤樹「仕事人間。そんなんだから彼氏出来ないんじゃね?」
海「だから余計なお世話!ご飯は食べた?」
篤樹「まだ」
海「作るからちょっと待ってて」
篤樹「いつもいつも、かたじけない!」
海「よきにはからえ」
11
花火大会当日。夕方の病室。
夏弥「体調はどうだ?」
花美「大丈夫!今日は花火大会だから、体調なんて崩してられない。もしかしたら、病気だって治ったかも」
夏弥「無理はするなよ。どっか違和感とかあったらすぐに言うんだぞ」
花美「……」
夏弥「ん?花美ちゃん?どうした?やっぱりどこか悪い?」
花美「そうじゃ無いんです……宮内さん……今までごめんなさい。私、どうしても受け入れられなかった。お父さんもお母さんいなくなって……新しいお父さんだって言われても、イマイチピンと来なくて……宮内さんを避けてた」
夏弥「俺の方こそごめん……仕事が忙しいとか言って、本当は君を避けてた。いきなり娘が出来たって言われても、どう接したら良いのか分からなくて」
花美「私、生きるから」
夏弥「花美ちゃん……」
花美「絶対に生きるから。だから、これからも……ぐっ……」
夏弥「花美ちゃん?」
花美「(心臓を抑え苦しむ)」
夏弥「花美ちゃん!花美ちゃん!!」
海「どうしました?」
夏弥「花美が!花美が!」
海「12号室の患者さんが急変です!すぐ来て下さい!」
夏弥「花美……花美!!」
12
夕方の花火大会会場。人混みが出来ている。
篤樹「流石に花火大会は人が多いなぁ……忙しい……夏弥の奴!絶対ラーメンにチャーシュートッピングしてやる……ん?何だあの車……様子がおかしい……こっちに……え?」
クラクションの音と共に衝撃音が鳴る。
篤樹「あれ……俺……なんで寝てんだ?警備の仕事してて……車が突っ込んで来て……そっから…………うるせぇ……何の音だ……あぁ……花火か……綺麗だなぁ……花火……姉ちゃん、今頃どうしてっかな?あぁ……俺……死ぬのか……姉ちゃん……ごめんな……あぁ……死にたくねえなぁ……」
13
手術室の前の待合室。夏弥が項垂れている。
夏弥「……」
海「宮内さん、大丈夫ですか?」
夏弥「大丈夫に見えますか?」
海「すみません、無神経でした」
夏弥「いや……すみません……」
海「……」
夏弥「……」
海「……」
夏弥「俺は……あの子に何もしてやれてない」
海「そんな事はありませんよ」
夏弥「いや……結局あの子を花火大会に連れて行ってやる事も出来なかった……遅過ぎたんですよ、なにもかも……」
海「花美ちゃん……凄く喜んでましたよ。初めて花火を見られるんだって……宮内さんに連れて行って貰うんだって……だから、それまでは絶対に死ねないんだって」
夏弥「花美……」
海「宮内さんの気持ちが、あの子の生きる力になってたんです。だから、今は信じて待ちましょ」
夏弥「……」
海「それに、遅い事なんてない……まだ花美ちゃんは戦ってるんです。宮内さんが先に諦めてどうするんですか?」
夏弥「……そうですよね……俺がしっかりしないと」
海「そうですよ……お父さんなんですから。あの子が元気に帰って来たら、花美ちゃんの行きたい場所に連れて行ってあげて下さい。したい事をさせてあげて下さい」
夏弥「……はい」
祭がやって来る。深刻な表情を浮かべている。
祭「……」
夏弥「先生!花美は助かりましたか?」
祭「……ドナーが見つかりました」
夏弥「え?」
祭「花美ちゃんが助かる可能性は格段に上がります……」
夏弥「それは……本当ですか?」
海「宮内さん!良かったですね!!」
夏弥「はい!ありがとうございます!ありがとう……ございます!」
祭「ですが、その為には……臓器提供者のご家族の承諾が必要です」
夏弥「家族の承諾……ですか」
祭「白森さん……承諾して頂けますでしょうか」
海「え?」
祭「……」
海「どう言う事ですか?」
祭「先程……白森篤樹さんが、交通事故により運ばれ、心肺停止、死亡が確認されました。手の施しようがありません」
海「そんな……篤樹が……」
夏弥「白森篤樹って……まさか……」
祭「白森篤樹さんの保険証には臓器提供の意思表示がなされていました。後は、ご家族の承諾を待つだけです」
海「ちょ、ちょっと待って下さい……頭が混乱して……何が何やら……」
祭「気持ちは分かります。ですが、時間がない……花美ちゃんを助けられるのは、白森篤樹さんだけなんです」
海「……篤樹……そんな……嘘ですよね?」
祭「……」
海「嘘よ……そんな事……だって、今日の朝だって元気にしてたんですよ?どうして……どうして篤樹が……」
夏弥「……っ!(土下座をする)申し訳ありませんでした!!全部俺の責任です……俺の……俺が篤樹と……」
海「どういう事ですか?」
夏弥「今日、篤樹は俺の代わりに現場へ行ったんです。俺が娘と花火を見に行くからって……」
海「じゃあ……貴方が篤樹の……」
夏弥「俺の責任です……全て、俺の責任です!……本当に申し訳ありませんでした!」
海「……」
夏弥「申し訳……ありませんでした……」
海「…………先生……篤樹の心臓弁で……花美ちゃんは助かるんでしょうか?」
祭「……」
海「篤樹は……花美ちゃんを助けることが出来るんでしょうか……篤樹の死は……無駄にはならないのでしょうか……」
祭「無駄にはしません」
海は我慢出来ずに声を漏らしながら泣く。
海「……っ…………お願いします……臓器提供……承諾します……花美ちゃんを……助けてあげて下さい」
祭「ありがとうございます。絶対に、助けます」
海「……絶対に……花美ちゃんを……花美……ちゃんを……(耐えきれずに声を出して泣く)」
夏弥「……」
14
(現在)
夕方の墓地。篤樹が相変わらず眠そうにしている。
篤樹「ふぁ〜暇だぁ……日も落ちて来たし、今日は誰も来ないかな……ん?」
篤樹の墓の前にスーツを着た男がやって来る。夏弥だ。
夏弥「……篤樹」
篤樹「お!?夏弥じゃん!!久々だなぁ!!」
夏弥「来るのが遅くなった……」
篤樹「ほんとだよ、こちとら暇で暇で仕方なかったんだぞ?」
夏弥「元気か?」
篤樹「もう、超元気!自慢じゃないけど、死んでから一度も病気とかになってないんだぜ?ちなみにこれは幽霊達の間で流行ってるとっておきのギャグな?」
夏弥「……」
篤樹「どうしたんだよ、そんな暗い顔して〜腹でも痛いのか?」
夏弥「何1人で喋ってんだろうな。死人に口なし。返事なんて返って来るわけないのに」
篤樹「……あっ、やっぱ聞こえてねえか」
夏弥「……お前が死んで……丁度1年か」
篤樹「もうそんなになるか」
間
夏弥「ごめんな、篤樹」
篤樹「なんだよ急に」
夏弥「ごめん……」
篤樹「……」
夏弥「……」
そこへ海がやって来る。
海「宮内さん……」
篤樹「姉ちゃん」
海「こんな時間に、篤樹に会いに来てくれたんですか?」
夏弥「……白森さんこそ……いつもこんな時間に来てるんですか?」
海「私は毎年篤樹と花火を一緒に見てたから、今日も、篤樹と一緒に花火を見ようと思って」
夏弥「そう……なんですね」
海「はい……」
気まずい間。
夏弥「失礼します……」
海「待って下さい」
夏弥「……」
海「貴方が……自分を責めるのは分かります。でも、あれは誰も悪くない。ただの事故なんですから」
夏弥「俺は……自分が許せない。もし俺があの時……仕事を代わってなければ……」
海「そしたら、宮内さんが事故に遭ってたかもしれない」
夏弥「それは……」
海「花美ちゃん……元気ですか?」
夏弥「……」
海「貴方がそんなだと、花美ちゃんが傷付きます。それに、篤樹だって……浮かばれない」
夏弥「……」
そこへ花美が来る。
花美「あれ?宮内さんと……海ちゃん先生?何してるんだろ……こんな所で」
海「篤樹の心臓は……花美ちゃんの中で今でも生きてる……篤樹は、花美ちゃんの命を救ったんです」
花美「え……」
篤樹「俺が……花美ちゃんを?」
海「篤樹の思いを、無駄にしないでください!」
花美「今の話……本当?」
海「花美ちゃん」
夏弥「いつからいたんだ?」
花美「私の心臓……臓器提供してくれたのって、海ちゃん先生の弟さんだったの?」
海「……うん……そうよ」
花美「……篤樹さん!」
篤樹「……」
花美「どこにいるんですか?出て来て下さい!」
篤樹「ここにいるよ?」
花美「篤樹さん!」
夏弥「花美ちゃん?どうしたんだ?呼んでも出て来るわけがない。篤樹は死んだんだ」
花美「ここに居る筈なんです!ここに……篤樹さん、篤樹さん!」
篤樹「……」
花美「なんで……出て来てくれないんですか?」
海「花美ちゃん……」
花美「私、貴方に伝えたい事があるんです!だから、出て来て下さい!篤樹さん!」
海「やめて!」
花美「え?」
海「もうやめて……篤樹がここに居るなんて……そんな事あるわけがない……そんな事……あるわけ……」
篤樹「……姉ちゃん」
花美「約束したんです……ここで一緒に花火を見るって……」
海「やめて……」
花美「篤樹さんは、ここにいます!」
海「やめてって言ってるでしょ!」
大きな花火が上がる。
全員「(花火の音に驚く)」
花美「花火……」
夏弥「そうか……もうそんな時間なのか……」
花美「綺麗……こんなに綺麗だったんだ……」
花美、溢れそうな涙を振り払うように。
花美「私は……私は幸せだよ!!(花火に向かって叫ぶ)」
海「花美ちゃん……」
花美「私は幸せだよ!!篤樹さんに貰った心臓で!!幸せに生きてるよ!!」
篤樹「……」
花美「これからも、もっともっと幸せになるから!!絶対無駄にはしないから!!篤樹さんの分まで幸せに生きるから!!だから!!ありがと!!!!!!!」
大きな花火が上がる。その光に照らされるように篤樹が姿を現す。
篤樹「……」
花美「(息を荒げる)……っ!?……篤樹……さん?」
篤樹「っ!?……へへへ……約束したからな?一緒に花火見るって」
海「篤樹?」
夏弥「篤樹……なのか?」
篤樹「なんだよその顔……幽霊でも見たような顔して」
海「篤樹……篤樹!!ばか!こんな所で何やってるのよ!!」
篤樹「姉ちゃん、ごめんな?最愛の弟がいなくなって寂しいだろ?だからあんだけ彼氏作れって言ったのに」
海「篤樹……余計なお世話!それにアンタの方こそ……どうせいなくなるなら、どこかの馬の骨に貰われていく方がまだマシだったわよ!ばか!」
篤樹「それはそうだな!はははは!……でも、俺の願いは今も昔も変わってないぜ?」
海「願い?」
篤樹「俺の事なんて気にせず、いい男見つけて、さっさと結婚して幸せになれよ!じゃないと俺、死んでも死に切れねえ」
海「……そんなの、無理だよ」
篤樹「無理じゃねえ!俺はずっと、これから先もずっと、姉ちゃんの事見守ってっからさ。だから、幸せになれ!」
海「篤樹……」
篤樹「姉ちゃんが幸せなら、俺はそれだけで充分だからさ」
海「シスコン……」
篤樹「うるせー」
夏弥「篤樹……」
篤樹「おう夏弥!しけた顔してんじゃねえよ」
夏弥「でも、俺……」
篤樹「いい娘じゃん!大事にしてやんな!たった1人の家族なんだからさ」
夏弥「俺に……出来るかな?花美を幸せに出来るかな?」
篤樹「誰かを幸せにするにはまず、自分が幸せになる事だ。お前にとっての幸せって何だ?」
夏弥「俺にとっての幸せ……花美が元気でいてくれる事だ」
篤樹「じゃあ、その為にお前が出来る事をしろ!一つアドバイスしてやる……花美ちゃんの夢の一つに、世界一周旅行ってのがある。行きたい所に連れてってやんな!」
夏弥「……篤樹……ありがとう……俺が花美を幸せにする!父親として、あの子をずっと守り続ける」
篤樹「おう!頑張れ、お父さん!」
夏弥「あぁ!」
篤樹「後、ラーメン供えろよ?忘れてねえからな?」
夏弥「あぁ……分かった」
篤樹「チャーシューもトッピングしろよ?」
夏弥「あぁ……食い切れねえ程トッピングしてやる」
篤樹「おう!」
花美「……」
篤樹「花美ちゃん、ありがとな?」
花美「なにが……ですか?」
篤樹「俺、思い出したよ。この世に残した未練」
花美「え?」
篤樹「俺……死にたくなかったんだ。それ自体が未練だった。まだまだ生きてたい。姉ちゃんを置いて死にたくない。楽しい事、やりたい事、全部やってから死にたかった……でもさ、花美ちゃんと出会って、君の命を救えたんだって思ったら……死ぬのも悪くないなって思えた!だから、ありがとな!」
花美「そんな……お礼を言わないといけないのは……私の方だよ。命をくれて、ありがと!」
篤樹「俺は花美ちゃんの中で生きるから、だから、俺の分まで幸せになれよ!」
花美「うん!もっともっと幸せになる!篤樹さんから貰った命だもん!絶対に幸せになってやる!」
篤樹「よく言った!……そろそろ時間だな……花火もフィナーレだ!花火と言えばやっぱり、アレだよな?」
花美「アレ?」
海「アレね……」
夏弥「あぁ……」
篤樹「よっしゃ行くぜ!!せーの!!!」
全員「た〜まや〜!!!」
一際大きな花火と共に篤樹は消えていく。
間
花美「篤樹さん……」
花美は自分の胸に手を当てる。
花美「ありがと」
長めの間
夏弥「花美……」
花美「……」
夏弥「良かったらこれ……(四葉のクローバーを渡す)」
花美「これ……四葉のクローバー?」
夏弥「俺が幸せにするから……絶対に幸せにする」
花美「うん……!」
夏弥「それから……良ければ、一緒に……その……パスポート……取りに行こうか……」
花美「え……パスポート持ってないの?」
夏弥「いや……海外に行く事なんて、今まで無かったから」
花美「(笑う)」
夏弥「ちょ、笑うなよ」
花美「ごめんごめん……しょうがないな〜じゃあ、一緒に取りに行こ!世界旅行の為だし!」
夏弥「あ、あぁ!」
花美「あ、そうだ」
夏弥「ん?なんだ?」
花美「お父さん」
夏弥「……花美……」
花美「遅くなったけど……ここから始めてもいいかな……?」
夏弥「あぁ……あぁ!!」
海「よかったよかった!」
花美「そうだ!海ちゃん先生!」
海「ん?」
花美「一緒に世界旅行行かない?」
海「え!?」
花美「人数は多い方が楽しいよ?」
夏弥「ちょ、花美!?」
花美「えー?ダメ?」
夏弥「いや……ダメじゃ……無いけど……ほら、白森さんも……迷惑かもしれないし?」
海「め、迷惑とかでは無いですけど……い、行きます……でも、その……私もパスポートが……」
花美「じゃあ!みんなで取りに行こう!今日取りに行こう!!」
海「いや、今日は流石に無理じゃ無いかな?」
夏弥「おい!花美!あんまり走ると転ぶぞー!」
花美「分かってるよ〜!」
END