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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
8/76

問題児

「ディートハルト様~!」


 交代の時間となり、プリンセスガードのハンスが嬉々としてかけてくる。


「どうした?」


「えっとですね、ディートハルト様。

 何故、プリンセスガードには女性騎士がいないのでしょう?」


 息を切らしながら、ハンスは問いかけてくる。

 その嬉々とした態度からして、何かを期待しているようだ。


「さあな。俺は人選に関わっていない」


「女性騎士を入れましょう!」


 さも当然の様に言い放つ。

 実に男らしい願いである。


「だから、人選はしていないと……」


「上に掛け合う事くらいはできますでしょう?」


 ハンスは渋るディートハルトに有無を言わせず要求する。


「……まあ。掛け合うくらいならできると思うが」


「ならお願いしますよ」


「しかし……」


 めんどくさそうにするディートハルトに更に畳みかけた。


「いいですか? 姫の母である皇太子妃様は。

 元はといえば、帝国を支えたアーネット騎士団の騎士団長。

 代々を女性が勤め、団長自ら率いるその部隊は、白馬にまたがる女性で構成されており、得物は弓。

 戦場で馬を駆け、矢を射るその姿はそれはもう華やかな部隊だったと聞き及んでおります」


「知ってるよ!」

(それに引き替え、だーくないと率いるエンケルス騎士団は黒い鎧を着て黒い馬に跨り、闇術を放つその姿はそれはもうおぞましい部隊として有名だったからな。

 お陰で、子供の頃、よくクソガキ共に絡まれたよ。

 まあ、尽く返り討ちにしてやったがな。)


 暗い過去を思い出し、イラっとくるディートハルトであったが、ハンスは構わずというかそれに気付かず話を進める。


「その娘である姫の直属の騎士に女性がいないのはおかしくないですか?

 ここはもう女性をいれるべきですよ!」


 ハンスの鼻息は荒い、もっともらしい事を言っているが、どう見ても下心を丸出しなのは明らかであった。


「姫だって成長しますし、同性じゃないと警護できない状況も出てくると思うのです」


「…………。

 あのなあハンス、女と関わりを持ちたいなら、城に若いメイドがいくらでもいるだろう?

 自由時間に好きなだけ口説けばいいじゃないか」


 女性の同僚を求める気持ちが分からないでもなかったが、ディートハルト個人としては女性騎士の配属には否定的であった。

 男女がいれば、面倒くさい揉め事が起こるのは必然。そして、上官はその揉め事の対処に追われるのが常である。


「よく、そんな事がいえますね!」


 ディートハルトの返しは明らかにハンスを怒らせた様だが、ディートハルトには心当たりがない。


「ん?」


「官中のメイド達からは露骨に避けられているんですよ俺達は」


「そうなのか?」


「ええ……

 どこかの誰かさんが、メイドの見ている前で暴力事件起すから……」


 ふてくされ、嫌味っぽくいうハンス。


「…………」

(それは、ひょっとしなくても……)


「おかげさまで、プリンセスガードは暴力団みたいなイメージがあるようで……

 イメージを良くするためにも、女性騎士の投入は必須かと」


「わかったわかった。一応、掛け合うが期待はするなよ?」


「ありがとうございます」


「しかし、現状8人で頭数は足りている。

 よし! もっともだ女性騎士を配属させろ! 

 頭数は増やしたくないから誰か外せ!

 ってなったら、お前が責任取れよ?」


「え!? それはちょっと……」


「じゃ! この話はこれで終わりな」



……――……――……――……――……――……――……


 アグネスの私室に入り、警護をカミルと引き継ぐ。

 基本、警護は二人一組となって行うが、この時は、上官の権限を利用して、単独で警護に当たった。

 上に掛け合う前に、姫の意見を聞いてみたいと思ったからである。


「姫! つかぬ事をお伺いしますが、プリンセスガードに不満のある者はおりますか?」


 この問いは、いざ女性騎士を配属させ、一人除名しろとなったら。

 外す候補を決めるためのものであった。


「不満? 一人を除いて不満はないぞ」


「ああ、カミルですね?」


「お主じゃ!」


「なるほど、ローラントですか、確かに一人だけ、40過ぎたおっさんですからね」


「お主じゃ!」


「テオフィルですか、確かに少女に異常な性癖を抱いているのでは? と疑いたくなるようなところも見受けられますが。

 あ~いうのは逆に、成人すれば無害になって良い護衛になります」


「さっきから、お主じゃと言っておろう!!」


 アグネスは毎度のことながらどなり声を上げる。


「何故私がっ!? いつだって私は姫の事を!」


 負けじとディートハルトも声を荒げて言葉を返す。


「白々しい事を言うでないわ~!

 お主が、一番余の言う事を聞かんではないか~っ!」


「それは姫の今後を思っての行為。断じて面倒くさいからではありません!」


「嘘つくでないわ~!」


「~~」


「~~」


 しばらく二人は言い争いをした後。


「はあっ……はあっ……

 それで、一体どうしてその様な事を聞いたのじゃ?」


「いえ、実は女性騎士を入れたいという要望があり。

 もし、女性騎士を入れるけど、そのかわり、他の誰かを外せとなりましたら。

 その時、誰にするかを決める判断材料にしようかと」


「なんじゃそんな事か……

 よい、女性騎士などいらん、そのよう騎士は入れんでよいぞ」


「はい? 女性騎士いらないんですか?」


「うむっ、その通りじゃ」


 ディートハルトにとって、この答えは意外であった。

 姫は姫で、同性の護衛を欲しがっていてもおかしくはないと考えていたからである。


「まあ、姫が仰られるなら強行するつもりはありませんが、理由を聞かせてもらってもよいですか?」


 アグネスは深い溜め息をついた。


「はあ~~~~っ! 

 お主はそんな事もわからんのか……先が思いやられるのう。

 よいか、ディートハルト。

 プリンセスガードは余の直属騎士であり、戦場では余の号令で戦う部隊長でもあるのだぞ?」


「はあ……」

(何言ってんだこの姫は。

 部隊とか言われても、当方に戦争する気とかはないんですけど……)


「戦場に咲き、気高くそして美しい薔薇は2輪もいらん! (キリッ

 ……そういう事じゃ」


「ハハハ! なるほど、その様な事を心配されておいででしたか。

 しかし、心配ご無用。

 姫は、薔薇というよりもヒマワリにございます。

 戦場に気高く咲くなんちゃらを心配する必要は……」


「お主、死にたいのか~!

 誰がヒマワリじゃ~!?」


「いえいえ、決して、姫を貶めるために言ったのではございません。

 ヒマワリは別名『サンフラワー』、つまり、太陽の花でございます」


「ふむっ……それが?」


「つまりですね、太陽の様に暖かく、そして眩しい女性だと」


「なるほどのう……」


「決して、『夏場の炎天下による暑苦しさの象徴』を『くそやかましい小娘のうざ苦しさの象徴』に重ねてみたワケではございません」


「貴様~~! 余がうざ苦しいと申すか!」


「ですから!

 そういう意味で言ったのではないと弁明しております。

 人の話は最後まで聞いて欲しいモノですな」


「わざとらしく、言うでないわ~!

 そっちが本意であろう!」


「……というか、姫!

 戦場に出るおつもりなんですか?」


「む? 当然じゃ!」


「……何故ゆえ?」


「よいか、ディートハルト!

 領地をただ治めるのは王のする事じゃ!」


「はあ……」


「余は次期皇帝。

 世界に覇を唱えるのが皇帝のする事よ! (キリッ」


(あの老害……

 早く死ねばいいのに。)


……――……――……――……――……――……――……


 女性騎士の話はなくなったものの、ディートハルトは人選について考えていた。

 よくよく考えてみれば、配下の騎士達の素性を殆ど知らないのである。

 いないとは思っても、国家を快く思っていない者達が送りこんでいるかもしれないと思い、エンケルス騎士団に素性調査を依頼していた


(人選か……

 考えた事もなかったな……)


「頼まれていたものだ」


「どうも、ありがとうございます」


 エンケルス騎士団員から、調査を纏めた報告書を受け取り目を通す。


「これは!?」

(くそっ! どうして早く素性に疑問を持たなかった……)


 ディートハルトは、プリンセスガードの面々を招集し緊急会議を開いた。


……――……――……――……――……――……――……


 基本的にアグネスをプリンセスガードが交代でつきっきり警護にあたっているが、全く警護を必要としない時間が、一日に4時間ある。

 それはライナルトによるアグネスの教育時間であり、その時だけは、皇帝直属の近衛騎士団が警護を替わり、プリンセスガードは教育中に立ちいる事は許されない。

 その時間を使って、全体の話し合いを行ったりしている。


「俺は、お前達を信じていた……」


 ディートハルトの口調は重く、そして少しイラついているのが見て取れた。


「あのディートハルト様?」


 いつも気さくに接してきた上官の変わりように戸惑いを隠せないイザーク。

 他の面子にも動揺が走る。

 ディートハルトはそれを余所に、エンケルス騎士団から受け取った報告書を卓上に向って投げた。


「お前らの素性について書かれた報告書だ」


「はあ……」


 それぞれが手にとって自分の項目を読む。

 特に偽りは見受けられない。

 それぞれが、首を傾げていると――


「……これが何か?」


 カミルが疑問を口にした。


「お前ら…… 

 イザークを除いて、成績の悪い、問題児ばかりじゃないか!

 問題ばかり起して、何故、その事を今まで俺に黙っていた?」


「「…………」」


 面々は唖然とした感じで、顔を見合わせると。

 しばらくした後、一斉に笑いだした。


「な? 貴様ら! 何がおかしい!」


 笑う意図がわからず、ディートハルトのイラつきが一層強くなる。


「だって、この中で一番の問題児っていったらディートハルト様ですよね?」


 カミルが腹を抑えながら答える。


「な!?」


「実は俺、ディートハルト様と同じ学校を出ているんですけど。

 お噂というか伝説はかねがね……」


 フロレンツがおずおずと口を開く。


「へぇ~、どんな?」


 テオフィルがその伝説に興味を示す。


「大した話じゃないんですけど、

 聞いた話によると、ディートハルト様は何を思ったのか仲間達と、夜、学校に忍びこんで酒盛りを始めたらしいんですよ。

 それが当直だった教官に見つかって。

 翌日、帝国宰相であらせられるハルトヴィヒ様が、血相変えて学校にやってきて。

『このバカムスコがぁ~~!! 従騎士が酒など飲んでいいとおもっておるのかぁ~~~~!!』

 って叫び声を上げまして。他の従騎士達や教官にまる聞こえだったから。瞬く間に噂となって学校中に広まりました。

 あのダークナイト呼ばれ恐れられたハルトヴィヒ様も一人の父親だったと!」


 笑いが一層強くなる。


「あ…悪夢だ……」


 思わず、額を手で抑える。


「それに、プリンセスガードになってからも

 暴力事件おこして、騎士を二名程、病院送りにしたり、

 姫を独断で城外に連れ出して、一ヶ月程、牢にブチ込まれてましたよね?」


「うっ!」


「いやあ! 

 この様な伝説を地で行く上官を持って幸せですよ~私達」


 カミルはもはやを笑いを堪える事はせず、笑いながら喋っていた。


「そ…そうか……

 それでは会議は終りだ」


 ディートハルトは逃げるように退室した。



……――……――……――……――……――……――……



「問題児か……」


 ディートハルトは宮殿で最も高い所に位置するバルコニーで城下を眺めながらたそがれていた。


「随分と落ち込んでいるね」


「!?

 これは皇太子様」


 背後から皇太子であるヴェルナーに話しかけられ、思わず緊張する。


「固くならなくていいよ。

 それよりどうしたんだい? と言いたい所だが、報告は聞いているよ」


「報告?」


「この際だから、本当の事を言うとね。

 君以下の7人を人選したのは私なんだ」


 ヴェルナーの思いがけぬ告白に戸惑うディートハルト。


「ついでに言うと、君を人選したのもこの私。

 父よりも、猛反対するハルトヴィヒを説き伏せる方が苦労した」


「……どうしてですか?」


「…………。

 その前に聞いておきたいけど。

 正直な所で、彼らをどう思う?」


「……いい奴らですよ。

 妙に気が合いますし、仲間って感じがします」


「では例えば。

 私が良い学校を出たエリートばかり、つまり最初一緒だった二人みたいな者ばかりを人選したらどうなっていたと思う?」


「それは……

 ストレスでしょうね。

 息苦しい毎日が続いたと思います」


「そういう事だよ」


「!」


「私は君に合った、部下を人選したつもりだ。

 確かに、経歴だけ見れば、色々と思うところがあるだろうけど。

 それだけで人を判断するべきではない。

 それは君が一番良く分かっているんじゃないかな?」


「…………」


「帝国では、幼い時から学校で教育され、他人と競い合う事が義務付けられる。

 誰も彼もが、他人を蹴落とす事に必死だ。

 だけどね、競い合う事だけが、良い結果を生むわけじゃない。

 競い合いの末に生まれる天才よりも、それぞれが信頼し協力しあった方が良い結果を生むと思っている。

 まあ、素性なんて気にする事じゃないさ。

 彼らだって、君の過去に行った問題行動だけで君を判断してはいないと思うよ」


「はっ! 醜態をお見せして申し訳ございません」


「うむっ! 今後の働きに期待してるよ」


「はっ!」


 ディートハルトは敬礼し深く頭を下げた。



……――……――……――……――……――……――……


 話を聞いていたシーオドアには疑問が浮かんでいた。


「あの……」


「ん?」


「そのハンスさんが、女性騎士を入れたいって言った時に、自分がその替わりに辞めたいとは思わなかったんですか?」


「いんや」


「ディートハルト様、あんなに辞めたがっていたじゃないですか」


「まあ、給料よかったし……」


「そうなんですか?」


「エンケルス騎士団の末席の給料の約4倍だったからな。

 エンケルスの給料は在籍している事で、別に貰ってたし」


「破格っすね」


「俺も最初はびびったが、よくよく考えてみれば。

 アグネスはただの姫じゃなくて、次期皇帝だし、代りはいない。

 給料ケチって、護衛が買収されたら目も当てられんだろう。

 それに、最初はガキの子守りなんてって思っていたが。

 よくよく考えてみれば、8人で交代して、側につっ立っているだけで破格の給料貰えるわけだからな。

 こんなに楽で、稼げる仕事は他にないと思ったよ」


「そんな事いって~!

 本当はアグネスの側を離れたくなかったんじゃないですか?」


「それはない」


「またまた~!」


「ふん」



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