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DEA 突入

 尾行していた警護団の男が殺された事を、まだ知らない二人は廃墟の廊下を歩いていた。


(しかし、だたっぴろい建物だな……)

 

 テオフィルが心の中で悪態をつく。


(不気味な廃墟だから、取引の場にはもってこいなんだろうけど――)


 その時、フロレンツがテオフィルがこれ以上前に行かないよう手で制した。


「!」


 テオフィルが前方を改めて確認すると、剣を手にした長髪のエルフが立っている。


(エルフ……闇組織の者だろうな……)


 テオフィルもフロレンツも剣を抜いて対峙した。

 長髪の男と睨み合う最中、物陰から別の男が斬りかかる。

 金属音が鳴った。

 不意打ちを仕掛けたが、フロレンツはそれを難なく防いだのだ。


「ちっ!」


 不意打ちを防がれた男も、エルフのようであり耳が長い。


「ウインドカッター!」


 最初に相対した長髪の男が、風の刃を飛ばす。

 風は目に見えないため避けずらい反面、刃物の威力としては微弱である。

 テオフィルは負傷することを厭わず前進した。

 急所を守る事を重点に置いた軽鎧であるため、切り傷を追いながらも間合いを詰める。

 剣による2対2の戦いとなったが、剣の腕では圧倒的にプリンセスガードが有利だった。

 エルフの二人は形勢不利を悟ると、風の魔法を放ち距離を保つと踵を返す。


「追うぞっ!」


 フロレンツは追撃を主張し、二人の後を追った。

 その廃墟には、中央に噴水のある大きな中庭があり、二人の剣士は逃げずに噴水の前で立ち止まっている。

 テオフィルが何故? と思うよりも速く、テオフィルの肩に矢が刺さった。

 もう一人エルフが屋根に潜んでおり弓を射ったのだ。


「ぐっ!」


「3人目か!」


 その時、炎の矢が廃屋の窓から飛んでくる。

 フロレンツとテオフィルは左右に散って、それをかわした。

 改めて、エルフの剣士二人が剣を構える。

 形勢が不利なのは否めない。


「フロレンツ! 逃げろ!」


 負傷したテオフィルは、自分が時間を稼いでフロレンツを逃がす事を提案するが、フロレンツは首を横にふる。


「ふざけた事を言うな、こんな奴らに後れをとってどうする?

 逃げるならお前が逃げろ、俺は一人でも戦う」


 フロレンツは淡々と答えた。

 敵を全員倒す事は彼にとって決定事項だった。


「……そうだな。こんな奴らに後れを取っている場合じゃない」


 テオフィルは誇り高いプリンセスガードの一員という事を思い出し、覚悟を決める。

 肩に刺さった矢を折り剣を構えた。


……――……――……――……――……――……――……


「はあっ……はあっ……」


「なんとかなったな……」


 フロレンツとテオフィルは負傷しながらも、闇組織2人を斬り伏せていた。

 接近戦を担当した二人が倒されると、火術や弓で援護していた二人は敵わぬとみて逃げていった。

 1人は死亡しているが、1人はまだ息がある。

 深手を負っている長髪のエルフの男は、尻をつき手で体を支えていた。

 手当すれば助かるだろう。捜査を円滑にするためにも生け捕りは必須。


「抵抗するなっ! 

 大人しくすれば手当してやる」


 だが、例え手当されても、その後待ちうけるのは、尋問と極刑だろう。

 エルフの男は懐から、革袋を取り出すと、その中身をぶちまけた。


「ウインド!」


 袋の中に入っていたのは白い粉末であり、それを風の魔法で拡散させる。

 危険を感じたフロレンツは、とっさに剣を投げとどめを刺す。


「くっ! しまった」


 白い煙に包まれた二人は咳き込んだ。

 その後、傷ついた体を引きずりながら、なんとか本部へ帰還する。


「……そうか」


 医者から容体を聞き、ディートハルトは安堵と怒りを同時に感じた。

 闇組織との戦闘を終えた二人は、薬物を吸引してしまい、しばらくはヤク抜きの治療を受けることとなったからだ。

 プリンセスガードの負傷者がちらほらと出始めており、状況は良いとはいえない。

 ディートハルトを含めて、8人しかいないため、完全に手が足りないのだ。


「ぬうぅ~~! 余のプリンセスガードを!」


 アグネスがわなわなと震え、怒りを露わにするが、この怒りは闇組織対してだけではなかった。


「あの警護団の連中、全く役に立っておらんではないかっ!」


「確かにそうなのですが……」

(投降してくる者いると期待したが甘かったか……)


 怪しい者を選定して尾行して、闇組織とコンタクトを取っている場に踏み込むことがなんどかあったが、大した情報は得られなかった。

 闇組織は、警護団を完全に信用していないため、重要な情報を与える真似はしていなかったのである。


「あやつらあれでは、ただの烏合の衆ではないか~っ!

 国のよさんを無駄遣いしおって~~っ!」


(警護団の浄化は期待できないか……しかし、これでは人手が足りん)


「む~っ! 寛大な処置にしたのが、まずかったのかの~……

 やはり爺上のように厳格にやるべきということか」


 アグネスとしては、これ以上、自分の護衛が傷つくのは見たくない。

 街の闇に潜む組織の者達を少人数で見つけ出す事は困難なのはアグネスにも理解できていた。

 それだけに、実質何の役にも立っていない警護団に強い憤りを感じ始めている。


(不味いな……姫がこのままでは厳格路線になってしまう。

 奴らを説得するにしても、もう少し時間がいるだろう。姫の堪忍袋はそれまで持たないだろうな……)


「ディートハルト! この先どうするつもりなのじゃ?」


「無論、私一人でもあいつらは一人残らず斬り捨てます」


「それでこそ、余の騎士じゃっ!」


「ですが……」


 ディートハルトの表情がより真剣なものに変わる。


「む?」


「これより先はさらなる犠牲を伴います。

 捜査と闇組織の撲滅は私が引き継ぎますので、姫は宮廷に戻られては――」

(『使えん奴はしゅくせいするのじゃ~~っ!』とか言い出す前に――)


「お主! いきなり何を申すのじゃっ!

 余は次期皇帝! あくとー共に背中を見せるわけにはいかんのじゃ!

 退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! 余に後退は無いといつもいっておるではないか~~~っ!!!


 アグネスは熱い漢のように叫んだ。


(いつも言ってないし、ちょっと意味が違うような気もするが……まあいいか)

「わかりました。では共に悪と戦いましょう」


「うむっ! それでよい!」


 アグネスは満足したように椅子に踏ん反りかえった。

 その時、部屋の扉がノックされる。


「誰だ?」


「警護団のテッドと申します」


「入れ」


「はっ!」


 扉が開くと、緊張した面持ちの中年の男性が入ってきた。

 格好は、警護団の制服で茶髪である。


「用件は?」


「実はその――」


 テッドは初めての投降者だった。


……――……――……――……――……――……――……


 テッドが投降してからというもの捜査は大きく進展を見せ、投降者も一人、また一人と増えていった。

 闇の組織と戦う事を決めた者は30人近くにとなる。


「やはり人手があると、捜査も捗るな」


 ディートハルトは、市街の地図を壁に貼り、集められた情報を元に、取引や、やり取りが行われた場所へチェックをつけていく。

 警護団の情報によると、闇の組織は全部で50人~70人くらいのグループと推定されている。

 その内の20人程がどうやらエルフであり、100年以上も前に中原に棲み付き、麻薬の製造方法を伝えた者達と言われている。


「リーダー」


 本部に二人の男が入ってきた。

 以前、薬物を吸引し、治療を受けていたテオフィルとフロレンツである。


「おう、もう大丈夫なのか?」


「はい、ご迷惑をおかけしました」


 二人は揃って頭を下げる。


「気にするな」


「はっ! 今後の働きで遅れた分を取り返します」


「うむっ!」


 ディートハルトは、チェックをつけ終え、改めて地図を見直した。

 チェックポイントは円を描くようにつけられている


「やはり、この中心に何かあるのだろうな……」


 ディートハルトはプリンセスガード全員で念入りな捜査を行うのであった。


……――……――……――……――……――……――……


 割り出した区域にいくつか大きめの廃墟があった。

 相手に勘付かれないよう、捜査を進め、遂に敵のアジトを割り出すことに成功する。

 ディートハルトは、アグネス、侍女7人、プリンセスガード全員、新たに誓いを立てた警護団30名を連れ、そのアジトの包囲を敢行した。

 本部でお留守番が多く、色々と不満が溜まっていたアグネスであったが、遂に敵の本拠に辿りつき号令を下すことができる。


「突入!」


 アグネスの指示で警護団とプリンセスガードが建物に入り込んでいく。

 ディートハルトはアグネスの傍らに、その周囲に侍女達が待機した。

 突入組の指揮はローラントが執る。

 建物の中から、剣を交えた金属音や、魔法の爆発音などが聞こえてくる。


「ぬぬぬ……戦況は一体どうなっておるのじゃ」


 まだ、突入してから5分も過ぎていないが、アグネスの表情は険しかった。

 建物の中で何が起きているのかはわからないため、アグネスは気が気でない。


「大丈夫ですよ姫」


 優しい言葉で語りかける。


「何で、大丈夫と言い切れるのじゃ」


 少しムッとした感じで返した。


「プリンセスガードに闇組織の者達に後れをとるような奴は一人もおりません。

 それに警護団の者達も最初会った時と今では面構えが違います。

 ご安心を!」


「し…心配などしとらんわ……」


 アグネスは内心不安でしょうがなかったが、ディートハルトの言葉はとても心強く何処か照れくさかった。

 突入後、プリンセスガードは多少の犠牲を払いながらも、闇組織の者達を斬り捨てていった。

 相手も捕まれば死刑のため、降伏する事はなく死ぬまで戦い、現場は凄惨なものとなる。

 イザークが廃墟から、戦況の報告をするために姿を見せる。


「――は以上です」


「そうか……」


 ディートハルトの表情は暗い。

 戦況自体は有利に運んでいるというか、既に大局は決しているらしい。

 ではあるものの、アグネスは悪を駆逐後、そのアジトを検分したいと思っている。

 だが、幼女に見せるような場所では決してない。

 場所によっては部屋の床一面が真っ赤に染まっているのだ。


(う~む……流血は見せれんな……

 だが、姫の気性からして、ここで検分せずに帰ると進言すれば、怒りだすだろうし……)


 どう宥めたものかと思案していると、闇の組織のものが4名程姿を現す。

 何とか逃げようとして、外に出たのだろうか。

 アグネスの周囲に待機している侍女や警護団数名にはその場に離れないように指示を出すと、ディートハルトは剣を抜いて前にでた。、


(生け捕りにできればいいが……)


 ディートハルトは地を蹴ると、瞬く間に急所を外して斬り捨てた。

 一人が斬りかかるが。剣を難なくかわし鳩尾に一発入れる。

 最後の一人は武器を捨ててひざまづいた。

 ディートハルトが近付くと、隠し持ったナイフで不意をつこうとする。


「悪いが予想どおりだ」


 ナイフをかわし、男を取り押さえた。


「では、姫! この者達を取調べましょう。

 イザーク! ローラントに後は任せたと伝えておけ!」


「あ。はい」


 警護団の者達に組織の者を縛らせると、歩かせ本部に連行する。


「む~っ……まあよいか」


 少し不満そうにしていたが、アグネスも帰還を決めた。


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