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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
7/76

怪談

「これもイマイチ……」

「う~む……」


 プリンセスガードの詰所で、ディートハルトは大量の本を持ち込み片っ端から斜め読みしては投げていた。


「何してるんですか? ディートハルト様?」


 ディートハルトの行動を疑問に思ったイザークが問う。


「ん? いや、『水戸黄門』が有害図書になったから、次に読む本を探していてな……」


「…………。

 えーと、本を読んであげたいんですか?」


「まあな……」


「風邪でも引きました?

 いつもは姫様に読んでとせがまれても基本的には断わっていますよね?」


「ハハハ! 中々鋭いな!」


「お体というかお頭をお大事に……」


「おい! そうじゃない。

 俺が姫に読んであげたいのは……」


 ディートハルトは積み上げている本を一冊手にとって、イザークに向かって投げる。


「ん?」


 受け取った本には『流血の墓場』と書かれていた。


「まさか……

 姫様に、怖い話を聞かせるおつもりで?」


「うむっ! その通りだ。

 今、夏だろ?」


「姫様を怯えさせてどうするんですか!

 皇帝陛下が知ったら、即刻死刑になりますよ。

 冗談抜きで!」


「大丈夫だって! 

 それでな、何がいいかなと色々と読み漁っているんだが、中々いいのがなくてな……」


「そんな事よりも仕事してくださいよ! リーダー!」


「仕事? だからこうやって姫の相手をしようとしているだろ!

 そもそも、プリンセスガードに仕事らしい仕事がないのがいけない。

 一日中、どうやって退屈を過ごすのかを考える日々……」


「だからって、姫様をからかうのは感心しないですよ?

 この前の舞台劇で、皇帝陛下の怒りを買ったのは明らかなんですから」


「全くお前は堅いな……」


(この人は……)


「しかし……

 どれもオチが読めるし、子供騙しなんだよな~」


「子供騙しでいいじゃないですか、文字通り子供なんですから」


「ん?

 まあ、そうだがな、どうせなら俺が読んでて楽しいものがいい」


「そういうもんですかね」


「それに、怖すぎるモノは駄目だな、ほんのり怖いくらいがいい。

 おお泣きされても困る。

 やはり……話の長いものや、凝った設定のあるものより、シンプルに『クネクネ』や『雪山』あたりが無難かな」


「まあ、やるなら、独断でディートハルト様一人の責任でやってくださいよ?

 私まで死刑にしないでくださいね?」


「わかったわかった」


「本当にわかりました?」


「さっきもいったが、大丈夫だ。

 万が一、姫が泣き出したら『暴れん坊将軍』で宥めるプランはできている」


「そ…そうですか……」

(その本もそう遠くないうちに有害図書指定になるんだろうな……)


 ディートハルトは交代の時間になると、『雪山』を手に取り、カミルと共にアグネスの部屋へと向かった。


……――……――……――……――……――……――……


「退屈じゃのう……

 まさか、書庫で火事が起きて『水戸黄門』が消失してしまうとは……」


 アグネスには、有害図書指定となった事実は伏せられ、厳戒な口止めが行われていた。

 アグネスに本当の事を話せば、即死刑である。


「姫!」


「何じゃ? 何をニヤついておる?」


「退屈そうな姫の為に、このディートハルト! 本を一冊もってまいりましたぞ」


「…………。

 よい! そのような本は読まんでよいぞ!」


 アグネスはディートハルトの予想に反し、朗読を拒否した。


「えっと、どうしてですか?」


「お主のそのニヤついた顔は悪巧みをしている時の顔じゃ!

 余がそれに気づかずとでも思ったか!」


「…………。

 左様ですか……

 それではこの本はイザークや侍女達にでも聞かせるとしましょう」


「む!?」


「ああ。

 イザーク達の喜ぶ顔が目に浮かんできますよ~」


「む~!

 やっぱり、余に聞かせるのじゃ~!」


「畏まりました!」


 ディートハルトは得意気に本を開く。

 本の内容は、五人の登山家が冬山に登り、吹雪に遭遇し一人死亡。

 なんとか山小屋に辿り着く。

 しかし、燃やすものも特にないため、風は凌げても体温低下でこのままだと死亡してしまう。

 体温を暖めるために、暗い中でもできる運動として、部屋の角にそれぞれが立ち、

 一人が壁に沿って進み、二人目にタッチする。そしたら二人目が三人目に向かって進みタッチをし、そしたら3人目が4人目へ向かってタッチ。

 4人目は一人目に向かってタッチし、それをエンドレスで部屋をグルグル回り、一種のリレーの様な運動をするというものである。

 4人は夜をそれで過ごし、無事助かる。

 しかし、考えてみるとおかしい事に気づく。

 4人で回転させる事はできないからだ。一人目は二人目の所へ移動しているため、4人目が一人目の居たところに言っても誰もおらず。

 このリレーは成立しない。

 要は死んだはずの人間が一緒になってリレーをしていたという事になる。


 この話の怖い所は、話を聞いているだけでは、一人足りないと気づかないところにあり。

 真相を明かされてから、なんともいえない寒気を感じるという内容である。


 ディートハルトがこの話を選んだのにはいくつか理由があった。

 それはまず、子供にもわかりやすいシンプルな内容であるという事、また、指を指して『お前だ!』と驚かすタイプの話はアグネスが大泣きしてしまう恐れがあり、そうなってしまうと、冗談では済まず厳罰を受ける可能性があった。


「この物語は5人の登山家が冬のバルティア山に登ることから始まるのですが……」


「ふははは! バカよのう! 冬の山に登るとは、吹雪が吹いたら危ないではないか!」


 アグネスはディートハルトの言葉を遮って喋り始めた。


「爺上が言っておったわ!

 然しものの余も、冬には勝てんと!

 爺上が勝てぬものに、凡人登山家が5人で挑んだところで勝てるわけないわー!」


「姫!」


「なんじゃ?」


「この物語は勝ち負けの話ではございません」


「む? そうか……続けよ!」


「はっ! では気を取り直して……」

(あのじじー。余計な事を教えやがって……)


 そしてディートハルトが登山家が一人死ぬところまで話すと……


「それみたことか! 余の言った通りではないか!

 冬の山に登る事がいかに愚かなことかよくわかる事例じゃのう!

 爺上が言っておったわ!

 他国を攻める時は越冬してから行えと!」


(あの老害は他国に攻め入るとか! 子供になんて事を教えてんだ!)


 ディートハルトが難航しながら朗読している様を、必死に笑いを堪えながら見守るカミル。


(姫様は、既に本の内容に対して、突っ込む気マンマンで聞いているな……)


「ディートハルト!

 これでは登場人物がバカ過ぎて先が思いやられてしまうぞ?」


「姫! お願いですから、話を最後まで聞いてください」


「仕方がないのう。余は寛大じゃ、サービスじゃぞ!」


「コホン、では……」

(……気が変わった。

 姫がどんなに怖がっても『暴れん坊将軍』はなしだ。)


 そして、四方に散り、リレーをしながら夜を過ごすというところまで話すと……


「おかしいではないか!

 何じゃその話は! それでは一人足りんではないか!」


「あっ!」


 思わず声を出してしまうカミル。

 アグネスが核心に気づいてしまい、怖い話としては成立しなくなってしまったからである。


「全く、登場人物がバカなら、書き手もバカじゃのう。

 ついでに読み手もじゃ!」


 ディートハルトはそっと本を閉じた。


「む? どうした?」


「カミル。後は任した」


 ディートハルトはそれだけいうと、アグネスには何も言わず黙って退室した。


「なんじゃ! あの態度は~!」


「姫様落ち着いてください」


 カミルがアグネスを宥める。


「おかしいであろう!

 確かにつまらん話じゃったが、途中で朗読を放棄するとは」


「姫様は、ディートハルト様の誇りを傷つけてしまったのですよ」


「誇り?」


「左様……

 いや~! あの方はああ見えて繊細といいますか……

 子供っぽいといいますか……」


 バタン

 カミルの言葉を遮るかの様に扉が開く。

 ディートハルトの手には、別の本『蘇生と黒魔術』が握られている。


「むっ!?」


(あれは、大人でも怖いと有名な……

 って、ガチで怖い話をもってきた?

 幾らなんでも大人気ないですよディートハルト様。)


 ディートハルトは何も言わずに朗読を始めた。

 言葉を返さず、唐突に淡々と朗読を始めたため、アグネスは気圧されてしまい。

 黙って聞き入る他なく、読み終える頃にはアグネスは涙目となっていた。

 読み終えた後、沈黙が続く。


「ディートハルト……」


「はっ!」


「……ひょっとして、お主は余を怖がらせたいのか?」


「そ…それは……」


 アグネスの神妙で震えながらの問いに、大人気ない行動をとったことを恥じ入るディートハルト。


「ディートハルト……

 お主は余に何があっても守ってくれるのか?」


「はっ! 何があってもお守りします」


「なら、その様な話は余にとって無意味じゃ!

 どんなモノからも守ってくれる護衛がいるなら、余に怖いもんなんかあるわけないではないか~!」


 アグネスは叫ぶように言うと泣き始めた。


「はっ! 失礼をしました」


 ディートハルトは膝をつき、頭を下げて謝罪した。


「ディートハルト!

 今日は一日中、余の傍を離れるでないぞ!」


「はっ! 仰せのままに」


「……では、何か他に面白い話はないのか?」


「そうですね……

 それでは、とっておきがあります」


「それは怖いのか? いや、余に怖いものなどないが……」


「姫様好みの話です。必ずやお喜びいただけるかと……」


「そうか……それは楽しみじゃ」


 翌日からアグネスは、会う人、会う人に『その方、余の顔を見忘れたか!』といいようになり城の者たちを困らせた。


……――……――……――……――……――……――……


「……ったく、まだ小さい女の子を泣かすなんて、本当に大人げないっすね~!」


 話を聞き終えたシーオドアは、悪態をついた。


「若気の至りだ! 今は流石にその様な事はせん」


「どうだか……」


「ふん……話すんじゃなかったな。

 それに、余計な事を教える冠老が悪い」


「まあ、そうっすね。

 6歳児に、戦争とか……」


「自分が果たせなかった夢を孫に託したかったんだろうな……

 託される側はいい迷惑だがな」


「でも、本人は、帝国が滅んだ今でも、天下を夢見ていますよね」


「…………。

 これが血筋なのか……」


「ん? どうしました?」


「いや……冠老さん曰く、アグネスには支配者としての才能があるそうだ」


「アグネスが生まれたとき既に70くらいでしたよね? 年寄りの妄言じゃないっすか?」


「俺もそうは思うが……」



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