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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
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病床

「爺上~、早く元気になるのじゃ~、これではいつまで経っても公演できんではないか~」


ライナルトの寝室で祖父の手を握って喋るアグネス。


「ほっほっほっ……すまんのうアグネス。

 今しばらくの辛抱じゃ」


 先日、急に容態が悪化したライナルトは地面に倒れ、コンサートの公演は無期延期となった。

 しばらく、アグネスとライナルトは会話をしていたが、やがて話すこともなくなり、アグネスは退室した。


「爺上……余は戻るのじゃ。

 明日はもっと元気になるのじゃぞ?」


「うむっ。では明日じゃ!」


……――……――……――……――……――……――……


「おそらく瘴気と呼ばれる力だ……」


「瘴気?」


 ディートハルトは、自身が身を置く、エンケルス騎士団の長、ハルトヴィヒに呼び出されていた。

 先日の決闘で、ディートハルトは黒い炎を放ち、形勢を逆転させ見事決闘に勝利した。

 ハルトヴィヒが最も驚いたのは、形勢を逆転された事よりも、ディートハルトの放った黒い炎であり、その炎の様なものを見るのは生涯で2度目であった。


「魔族が使う力……」


「魔族……まさか?」


「人にも、生命の力というか『気』と呼ばれる力が宿っているとされる。

 気功と呼ばれたり、物語などでは闘気などと表記されたりもする。

 優れた使い手ならならそれを体外に放出したり、高める事で治癒能力を活性化させることができるという」


 ハルトヴィヒの表情は何処か暗い。


「気功ねえ、話には聞きますが……そんものが、本当に実在するとでも?」


「光の魔法は、魔力をその気の力に変えるものであり、実在は証明されている。

 魔力を介さず使う事ができる使い手がいるかどうかはわからんが」


「それで……それが先程の瘴気とどんな関係が?」


「魔族にも、当然『気』はあるのだが、魔族の場合、その体質からなのか『瘴気』と呼ばれるものに変質し、精神に作用する働きがある。

 お前には幼い頃から、闇術を覚えさせようと色々教育を施したからな。

 魔法の才能が開花する代わりに体の方が、魔の影響を受けたのかもしれん」


「……それで俺の放った黒い炎が瘴気だったらなんなんです?」


「あまり、使わない方がいい……

 現時点では、実際に受けた感じだと、精神に作用するような力はないだろうが、力をつけていけばどうなるかわからん」


「精神に作用する程強いと具体的にどうなるんですか?」


「その剣を受けた者は、早い話錯乱してしまう。

 パニックを起こす様な感じだな……周囲全てが敵のように感じてしまい取り乱してしまう」


「随分と便利な力ですね。

 その話が本当なら、その力を伸ばせば、サシではまず負けないのでは?」


 実際、相手と打ち合うだけで、瘴気の影響を受け、相手が精神を取り乱すのであれば、

 同程度の剣技の相手ならまず負けなくなるだろう。


「気楽でいいな……

 自身に作用するかもしれんだろ、人間が『瘴気』を操ったというのは前例がないからな……」


「今のところ

 凄く疲れる以外に特に変わったところはありませんがね……

 というよりも、随分詳しいというか……

 実際に見たんですか? その『瘴気』とやらを?」


「……古い話だ」


 ハルトヴィヒは思い出していた。

 自身の受けた屈辱を――


……――……――……――……――……――……――……


『はあ……はあ……』


 膝をつくハルトヴィヒとそれを嘲笑する二人の女悪魔。


『クク……

 これが今、飛ぶ鳥を落とす勢いだという帝国を支える騎士団長か? 話にならんな……

 これでよく大陸を統一しようという気になったものだ。

 それでここへは何をしに? 観光か?』


『それは言い過ぎというモノですよ。

 彼の真骨頂は魔法にあります。

 剣の勝負で圧倒したからといって、勝ち誇るのはまだ早いですよ?』


『ほう? 魔法があれば、私に勝てると?』


『それはわかりませんが、先程と同じとは思わないことですね……』


『面白い! ……と言いたいところだが』


『あら? どうしました?』


『お前の下らん、悪趣味に付き合う気はない』


『それはどういう……』


『そいつの魔法の腕が如何程か知らんが、お前よりは下なんだろう?

 お前のことだから、魔法に希望を見出させておいて、最後は絶対的な魔法の差を見せつけて絶望の淵に落とす。

 その悪趣味に付き合う気はないということだ』


『……それは残念。

 まあ、危ない事は避けるに限りますよね』


『フン……

 おい! 逃げた様に思われるのも癪だから、貴様が決めろ!

 私と再戦する気があるかどうか!』


 そういうと、女悪魔の持つ赤い剣は黒い炎の様なものに包まれた。

 次は本気で殺しにくることが伺えた。


(魔法を放つ前に殺られる……

 だろうな)


 ハルトヴィヒが承諾すれば、女悪魔は即座に間合いを詰め、一刀の元に切り伏せるだろう。

 あえて見せた黒い炎からも本気の一撃を叩き込んでくるのが伺える。

 喰らえば命はない。


『参りました……』


『フン……』


『……残念。

 気を取り直してハルトヴィヒ様。

 引き続き魔王殿をご案内させていただきます。

 どうぞこちらへ……』


(上には上がいるということか……)


……――……――……――……――……――……――……


「親父?」


「……すまん、昔を思い出していた。

 自分にどんな悪影響があるかわからんし、瘴気は精神に作用する。

 闇堕ちするかもしれんから、使用は極力控えろ」


「……わかったよ」

(敵がこちらの状況を汲み取って手加減してくれるわけでもなし……

 大切なのは力を見極める事だな)


 ディートハルトは自身の詰め所へと戻っていった。

 詰め所に戻るやいなや、待っていたのかアグネスが駆け寄ってくる。


「ディートハルト~、爺上の体調が思った以上に思わしくないのじゃ~!」


「……はい」

(歳からすれば、むしろ元気なくらいだと思うが。

 それを姫に言うわけにもいかんな)


 アグネスの気持ちを考えて余計な事は言わない。

 しかし、アグネスはディートハルトが答えたくないことばかり聞いてくる。


「どうすれば? 爺上は元気になると思う? お主の考えを申してみよ」


「安静にしているのが一番でしょうね」


「そんな当たり前の事を聞きたいわけじゃないのじゃ!

 何処かにどんな病をも治す薬とかはないのか?」


「……まあ、その様な代物がありましたら。

 とっくに国は総出でその薬を追っているでしょうね……」


「む~! お主に聞いたのが間違いじゃった!」


 アグネスはその後、部屋を飛び出し、城にいる者達に片っ端からライナルトの体調が良くなる方法を聞いて回ったがまともに答えられるものはいなかった。


「ディートハルト~!!」


 アグネスの怒号が再び飛び交う。


「どうしました? いつになくお怒りですね」


「城の者達は爺上が倒れたと言うのに、お主を含めどいつもこいつも、他人事というか心配そうな顔をしておらん!

 これは一体どういうことじゃ~~!!」


 アグネスの目は涙ぐんでいた。

 自身の祖父が倒れたというのに、周囲の何処か冷たい空気を感じとったからである。


「……それは」

(日頃の行いが悪いからとしか言いようがないが……)


「姫! 皆、心配そうな顔をしてしまっては不安が伝染するというか城内が暗い空気に満ちてしまいます。

 敵国の間者も紛れ込んでいるかもしれません。

 なので、気丈に耐え、何もなかったかのように振る舞っているのです。

 これも他国が付け入る隙を与えないため、どうかご理解ください」


「む~……」


 アグネスは何処かまだ納得していないようであったが、自分に言い聞かせるようにして怒りを沈めた。


(俺だけじゃなかったのか……内心嫌っているのは。

 しかし、自業自得とはいえ、こうなってくると流石に哀れだな……)


 ライナルトは気分屋で、何か気に入らない者がいれば、言いがかりをつけ、直ぐに重い厳罰を言い渡す事が度々あった。

 気に食わない貴族の財布を空にするという目的で、どうでもいい公共事業を押しつけたりすることもあり、領民や家臣から好かれるような事は基本的にしない君主である。


(しかし……

 冗談抜きで、陛下の死は近い……)


 ディートハルトはライナルトと剣を交え、そして折られた事を、そして先日のハルトヴィヒの決闘を思い出す。


(陛下の剣は、オリハルコンで作られた業物……

 それに、瘴気を最大にして使えば、鉄の剣じゃ耐えられない……

 もっと強度の強い武器がいる。

 探すか……クロムに言われた古文書を)


 ディートハルトは一つの決心をした。


……――……――……――……――……――……――……


「ホラーツ!! 貴様何故この事をワシに伏せておった!」


「陛下! 落ち着いてください。血圧が上がります」


 寝室で怒鳴り声を上げるライナルト。

 副宰相のホラーツは頭を下げ、存続の光術師であるゲレオンはライナルトを宥める。


「申し訳ございません。しかし敢えて報告する必要もないかと。

 検体が逃げ出してしまったことで、研究は中止となり、研究所も破棄しましたので……」


 ライナルトの怒りの原因は、リザードマンを捕らえるために、湿原に送った捕獲部隊が帰国中、リザードマンに襲われ船員数名を残して皆殺しにされた事件の詳細を伏せていたことである。

 ホラーツとしては、研究の廃棄が決まった以上、ライナルトを激昂させかねない事件の事など黙っておくに限ると判断した。

 しかし、病に伏せてしまったライナルトは普段以上に外の情報を気にするようになってしまい、色々と周囲の情報を集めようとした結果、メソガエアで血だらけの船が帰船したという噂を嗅ぎつけてしまい、事の真相を知ってしまったのである。

 当然、その事件の詳細は、ライナルトにとって人生最大の屈辱を思い出させた。


「下がれ!」


「はっ!」


 ホラーツは一礼して退室する。


「……リザードマンめ。

 我が恨み、必ず……」


……――……――……――……――……――……――……


 翌日。

 ライナルトは、寝室で授業を行うため、アグネスを呼び寄せた。

 寝室までの護衛を担当したディートハルトは、部屋の外で、門番の用にして扉の前に立っている。


「爺上、もう大丈夫なのか? あまり無理するでないぞ?」


「ほっほっほっ……

 大丈夫じゃ、あまり休んでばかりもいられんのでのう」


「左様か~、久しぶりのう、爺上の学習時間は……

 それで今日の授業は一体何の授業をするのじゃ?」


「『歴史』について教えよう。

 皇族には、宿命というか成すべき事があるのじゃ……」


「む~?」


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