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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
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アイドルマスター 前編

「どぉ~~んぐ~りぃいころころ どぉ~~んぐりこぉ~~♪

 おいけにはぁまぁあってぇさ~あ たいへぇ~~~ん♪

 どぉおお~じょお~~がぁ~ でぇてぇきてぇ~え~~ こーんにち~わ~~~~♪

 ぼぉっちゃん いっしょにぃ あ~~そ~び~~ま~しょ~~~♪」


 某時代劇主題歌のメロディでどんぐりころころを熱唱するアグネス。

 ライナルトはそれを微笑ましく観賞し、ディートハルトは仏頂面で眺めていた。

 歌い終えると、ディートハルトの方を得意気に見る。


「どうじゃディートハルト? 余の『どんぐりころころ』は?

 渋いじゃろう?」


(どんぐりころころに渋さとかいらないから!

 それにどんぐりころころ『どんぐりこ』じゃなくて、どんぐりころころ『ドンブリコ』だから!)


 歌詞の間違いと方向性にツッコミを入れたくてしょうがないディートハルトであるが、上機嫌のライナルトを前に口を閉じている。


「ほっほっほっ~~~。流石は余の孫アグネスじゃ!

 国民も大いに喜ぶであろう!」


「ふっふっふっ! 当然じゃ!」


(正気か? このじじーは……

 お世辞にも上手いとは言えない『渋い童謡』を無理やり聞かされる民衆の身にもなれよ)


 アグネスの歌は、並の人間の年相応の歌唱力しかなく、とても国民の前で披露できるものではなかった。

 しかし、ライナルトはお触れを出して王都の国民を掻き集め、帝国最大の劇場で披露させるつもりである。

 ちなみに、アグネスのバックには6人の侍女達を踊らせる予定であり、戦力外通告されたコレットはこの即席ユニットのマネージャーの役割を担わせていた。

 侍女たちは、数日前から、アグネスの見えないところで過酷なトレーニングをやらされている。


「陛下! 姫に劇場で歌を披露させるのは危険にございます」

(色々な意味で!)


 皇帝の性格からして今更中止などありえないが、それでもできる限りの事をしようと思うディートハルト。


「何を言うておる? お主がおるではないか」


 アグネスは呆れた様に言葉を返す。アグネスからすれば、危険はプリンセスガードが祓うのは当たり前であった。


「アグネスの言うとおりじゃ! 

 ディートハルトよ、アグネスの警護はお主の役目であろう?

 次、自分の職務を否定するような事を申せば、即解任となるぞ?」


「…………。はっ」


「爺上! ディートハルトはちょっと言ってみただけじゃ」


「わかっておる。ワシもちょっと言ってみただけじゃ」


(このじじーは、どこまで耄碌すれば気が済むのやら……)


 しばらくすると、交代のためローラントとハンスが玉座の間に訪れる。

 ディートハルトは警護を代わり、練習を最後まで見届ける事なく玉座を出ていった。


……――……――……――……――……――……――……


「ないてはどじょうをこまらせた♪」


 歌い終え、アグネスに盛大な拍手を送るライナルト。

 ローラントとハンスも空気を読んで拍手を送る。


「爺上~! 何故、公演は一ヶ月も先の話なのじゃ? 待ちきれんのじゃ!

 それに民衆も余の歌声を一日も早く聞きたいはずじゃ」


「それはその通りじゃが、バックダンサーである侍女達がまだまだでのう。

 今、急ピッチで特訓をしておる。今しばしの辛抱じゃ」


「む~左様か~……

 まあ、仕方あるまい、余はありあまる才能を持って生まれたが皆はそうではないからのう」


(陛下じゃなくリーダーがこの場にいたら

『姫が一番足を引っ張ってますよ! 足じゃなくて頭かもしれませんが』っていうんだろうな……』)


 心のなかで突っ込むハンス。

 歌の練習を終えたアグネスはプリンセスガード二人を連れて玉座を出る。


「部屋に戻られますか?」


 アグネスの行き先を聞くローラント。


「何を言うておる。ディートハルトの部屋へ直行するに決まっておろう!

 あやつめ、いくら交代の時間になったとはいえ、余の練習を最後まで見ていかないとは一体どういうつもりなのじゃ!」


 アグネスは、『私用があります故』とだけ言って、一足先に玉座を退室したディートハルトの行動に苛立っていた。


……――……――……――……――……――……――……


「ディートハルト~! 仮病を使うのもいい加減にするのじゃ~!」


 ディートハルトの部屋の前に行き、扉を左右の手で交互に叩く、しかし返事はない。


「本当にいないようですな」


 気配を全く感じないので、居留守ではないと判断するローラント。


「む~! 私用と言っておったが、お主らは何か知っておるのか?」


「いえ……」


「同じく」


「使えん奴らじゃ!」


 一層苛立つアグネスであったが、怒鳴り散らすのはこらえ、ディートハルトの居場所を知ってそうな人物を必死に思案する。


「そうじゃ! カミルを呼んで参るのじゃ!」


 ハンスはカミルの部屋まで向かい、カミルを連れてきた。


「カミルこちらに」


「うむ、お主はディートハルトの居場所を知っておるか?」


 カミルはしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。


「確証はありませんが、心当たりはあります」


「案内するのじゃ!」


「はっ!」


「一体に何処に?」


 ローラントが疑問を口にする。

 ここ最近のディートハルトは仕事が終わると、すぐに外出する事が多く、プリンセスガードの面々も疑問を感じていた。


「エンケルス騎士団の詰め所ですね。

 以前、廊下ですれ違っただけですが……向かう方角でリーダーの縁のあるところと考えれば」


「うむ、じっとしていてもつまらん」


 カミルを含めた4人はエンケルス騎士団の詰め所へと向かう。

 入口近くまでくると、カミルの証言を裏付けるかのように、鋭い金属音が中から聞こえてきた。

 中で、決闘の様な事が行われているだろう。

 一同は顔を見合わせた後に中へと入った。


 中では、エンケルス騎士団の騎士の一人とディートハルトが決闘を行っていた。

 ハルトヴィヒを始め、エンケルス騎士団の重鎮も立ち会い、互いに刃の無い剣と防具を着込み、軍医と光術士をその場に待機させていることから、人命に配慮しつつも、お遊びや訓練ではない本気の決闘であることが伺える。

 

「なんと!」


 アグネスはまさかの凄まじい闘いに圧倒されていた。

 アグネス達に気づいた団員がすぐさま駆け寄り決闘の邪魔をしないようにローラントに注意事項を伝える。

 内容は見せ物ではないため、野次及び声援を送ってはならないというもの。


「姫様、お聞きになられましたね? この勝負に対し、決して声援を送るような真似をしてはなりませんぞ?」


「何故じゃ?」


 声を荒げるアグネス。

 ローラントはアグネスが怒鳴ったり、暴れ出すことを懸念し、有無を言わさずアグネスを抱え詰め所を出た。


「ローラント! 貴様、自分が何をしたかわかっておるのかー!」


「姫様、申し訳ございません」


 地面に膝を付き、頭を下げる。

 アグネスを強引に抱きかかえて部屋から出すという行為は、死罪にされても文句は言えない。


「しかし、こればっかりは……

 姫様といえど……

 許せぬというなら、このまま私をお斬りください」


 ローラントは自分の剣を差し出す様にしてアグネスの前に置く。

 例え死罪になっても構わないという覚悟を感じ取り、アグネスはクールダウンした。


「……わかったのじゃ。

 中で決して大声は出さん。だから案内するのじゃ」


「はっ!」


 ローラントは再びアグネスを連れて中に入った。


(あの方は……まさか猛将と言われたランドルフ殿?)


 ローラントが対戦相手が誰なのかに気づく。

 ランドルフとは、エンケルス騎士団きっての猛将と言われた人物であり、帝国でその名を馳せていた。

 つまり、ディートハルトはエンケル騎士団で一番強いと目されている男と決闘しているのである。

 闘いは長かったが、息を詰まらせる攻防ゆえに退屈することはなく、やがてディートハルトがランドルフの剣を弾き飛ばし、軍配はディートハルトに上がった。


「参った。私の負けだ。

 強くなったな、ディートハルト」


 潔く負けを認めるランドルフ。

 ディートハルトが幼少の頃から、何かと剣の稽古をつけ、相手をしてきた。


「決闘を受けてくださり、ありがとうございました」


 ディートハルトは死力を尽くして戦った相手に頭を下げる。


「見事だ! ディートハルトよ。

 まさか、ランドルフまで下されるとは思っておらんかったぞ」


 ハルトヴィヒからも称賛の声が上がる。

 ディートハルトは、2ヶ月前から、2週間おきにエンケルス騎士団の名だたる武将達に決闘を挑み、勝ち続けていた。


「これでお前の決闘も終わりか。

 ランドルフを下したからといって、決して慢心することなく精進するがよい」


「いや、まだ一人残っている」


「ん?」


 ディートハルトは切っ先をハルトヴィヒに向けた。

 団員達がざわめく。


「団長とディートハルトが?」


「フッ……バカムスコがっ!

 まあ、良いだろう、二週間後、ここで決闘を行う」


「ありがたき幸せ」


 ざわめきが一層大きくなる。

 団長のハルトヴィヒは、決闘を申し込まれても突っぱねる性格であり、どんなに挑発、侮辱されても決して相手にしないからだ。

 実際、ディートハルトが過去に何度か決闘を申し込ん事自体はあったが、全て断っている。


「何だお前ら来ていたのか」


 ディートハルトが戻ろうとした時、はじめてアグネス達がいることに気がついた。


「お主、余の目を盗んで一体何をしておるのじゃ!」


「人聞きの悪い……

 武人の本分といいますか、単に、エンケルスの猛将達に決闘を挑んでただけですよ」


「余に何故 黙っていたのじゃ」


「私用ですし、伝えなきゃいけないって事もないかと」


「む~!」


 アグネスは何か言いたそうであったが、怒鳴り散らす前にローラントが話を切り替えた。


「それで、次はハルトヴィヒ様と?」


「ああ……これで最後だな。

 まあ、クリセにも強い奴はいるかもしれんが……」


 ディートハルトの表情は何処か暗い。


「来てくれたところ悪いが、鍛錬に入るからこれで失礼する」


 ディートハルトは詰め所を出て、訓練場へと向かった。


「なんじゃあの態度は~!」


 自身の相手をせずに、次の場所に向かった事を不満に思うアグネス。


「リーダーも色々と大変なんですよ」


 ローラントがアグネスを宥めた。

 理由はわからないが、エンケルスきって猛将を下したということは、エンケルス騎士団で最強になったとも言える。

 しかし、全く嬉しそうにしないところを見ると、何か事情があることを察した。


……――……――……――……――……――……――……


(これじゃ、駄目だ!)


 訓練場で、一人で、ひたすら剣を振るうディートハルト。

 表情には全く余裕はなく、危機迫るものがあった。


(あの黒装束がリザードマンではなく、姫を狙っていたら果たして俺は守れただろうか?)


 下水で戦った黒装束のリザードマンを思い出す。

 戦いといっても牽制しあっただけの様なものであったが、はっきりとした実力の差を感じ取った。

 ランドルフを下した事に全く喜びは感じない、むしろ、未だ実力差があったほうが安心できる。

 しかし、エンケルスの中に刺客を倒せる者はおらず、そして、刺客を雇った人間が皇帝側の中にいる。

 もし、そいつがアグネスを暗殺の命を下せば守れる自信はない。

 自分が刺客よりも強くなる他なかったのである。


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